戦闘は計画的に。と言っても、誰も聞かないよなぁ。
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「たぁっ!」
一方こちらは、南の高地地帯。
目の前で蛇腹剣が、本当に生きている蛇のように波打つ。
それをリエータが、槍を使って弾く。
「ふっ!」
槍と蛇腹剣のつばぜり合い。
「わかるよ。昂ってるよね。アキラ」
「これほどまでに実力のある君との一騎打ちだ。
それで舌が躍らないほうが……おかしいだろう?」
すでに打ち合って30分が経過。
互いの乱れた呼吸音が、剣戟の音に交じる。
……なぜ、こうなったのかと言うと、時は1時間前にさかのぼる。
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・
・
「余裕だね。こんなところで眠っているなんて」
「ん……」
目を覚ますリエータ。そこにはアキラが立っていた。
その両隣には、ヴァルガとホムラもいる。
「いけない……本当に寝てたんだ……」
「ふっ。今日がイベント最終日なのに、呑気なものだ」
「うん、我ながらそう思う」
するとリエータは、地面に置いている槍を手に取った。
「それで?キミの目的はわかるよ。これでしょ?」
そのまま槍の切っ先を、アキラに向ける。
「……よくわかっているじゃないか。初日の約束、覚えていたんだね」
「ま、本当はいつに来るか怖がってただけだけどね」
槍を納刀する。
「あ、でも、ちょっと待って」
あまりに無警戒に背を向けるリエータ。
「……」
しかしアキラは攻撃しない。
その間にリエータは、懐からツバキから奪った写真を、石を重りにして置き、
そして洞穴を出ようとする時、背後に小さな火種を飛ばした。
火種は燃え上がり、まるで洞穴の入り口を隠すかのように燃え上がる。
「……この間に、攻撃すればいいのに」
リエータがいたずらっぽく言うと、
「そのような形で得た勝利などに、意味はない」
「堅苦しいなぁ」
そして、道中でリエータはタイガにメッセージを送った。
「……」
メッセージを打っているリエータを横目にして、ヴァルガが耳打ち。
「いいのかよ、アキラ。きっとあの洞穴の中に誰かいたぞ」
「みすみすスコアやメダルを無駄にしている状態でござる。いかに?」
少し考えた後、アキラはこう語りだした。
「さぁ。気付かなかった」
「……下手な嘘だなおい」
・
・
・
汗が飛び交い、それも風景の一つとして消えていく。
「だからこそっ!」
ついに槍を弾き飛ばすアキラ。
「はぁっ!」
「ふんっ!」
すかさず斧を振り上げ、アキラを攻撃しようとする。
しかしアキラは後方に少し跳びつつ、蛇腹剣を伸ばす。
「っ!」
「僕は君を超えたい」
蛇腹剣は正確に、振り上げたリエータの斧に巻き付いた。
ギチギチと、武器がこすれ合う音が鳴る。
「……」
「(武器を離さない……?){サンダー」
サンダーボルトを詠唱しようとした時、
「よっと!」
「!」
突然武器を手放し、右手に何かを持つ。
「やぁっ!」
その武器から何かを放出すると、斧は回転しながら飛び、
蛇腹剣を振りほどいた。
「……なるほど。随分プレイヤーキルポイントが少ないと思ったら……」
「そういうこと」
右手には、銃が握られていた。
「魔導銃。君はどんどん厄介になっていくな」
魔導銃ホルス
【例外武器の一つの魔導銃。魔力を弾として放出する。
ダメージは知力に依存する。超覚醒可能】
「……嫌い?」
「なんの、それを乗り越えてこそだ」
「本当、戦闘狂だね」
リエータは銃をしまうと、再び槍を取り、駆け出した。
……それからさらに、10分が経過した。
「……」「……」
スタミナがないのか、互いに構えたまま動かない。
……一転、心臓の鼓動が聞こえてきそうなほどの異常な静寂に包まれていた。
「……」
その、静寂を引き裂くかのように……
「その首、もらったあああぁぁぁ!」
と、黒いローブを着た男……ダークリゾルブの一員が、大剣を構えて飛んでくる。
「うおおおお!!」
リエータの背後からは、長剣を持った男。
「……」
「……まったく」
「「興が冷めるね」」
一瞬だけ赤と、黄色の閃光がきらめく。
次の瞬間、ダークリゾルブの二人は、その場から消滅していた。
「なぁっ!?」
改めて周りを見ると、すでに囲まれている。
「……さしづめ、あたしたちが消耗したところを狙おうとしてたんだろうね」
「あぁ、卑怯な手段を思いつきそうな奴らがやることだ」
「かかれ~~~!」
男が号令すると、一斉に弓を構える。
その数、50人ほどだろうか。
「ぬからないでよ。アキラちゃん」
「ふ……そのまま返すよ」
二人共左手を掲げると、リエータには炎が、アキラには雷が集まりだす。
「{レッドドラグーン}!」
「{ライコウ}!」
そして、その手から赤い竜が飛び出すのと、
上空から白い剣をかたどった雷が降ってきて……
「……やれやれ」
「やりたい放題、でござるな」
物陰で隠れていたヴァルガとホムラが飛び出してきた。
辺り一面は真っ黒に焼け焦げ……
炎による熱気と、雷による通電がいたるところで起きている。
「……」
リエータは余裕からか、槍を納刀した。
「いい判断だ。大技を使った後で3人がかりはさすがにきついだろうからな」
それにつられ、ヴァルガとホムラも斧と装具を直す。
「しかし、アキラ殿、惜しかった場面も多かったでござるな」
「惜しかった?惜しいなんてことはない。どの道僕は彼女を倒せなかった。
また僕は、君に勝てなかったんだ」
「でも負けなかった。そうでしょ?」
腰に手を当てる。
「……安心してくれ。このイベントではタイガやポラリスに手を出す気はない。
すでに彼らが及ばないほどポイントは稼げる見込みがある。
君が何故彼らにそこまで力を貸すかはわからないが、それでいいだろう?」
「……ありがとう」
「変わっているとは思っていたが、自らではなく……
彼らを守るために僕に挑むとはね。
それに礼を言う。ますますよくわからないね」
呆れたように言うアキラに、リエータはこう言った。
「だって……」
「……なるほど」
アキラは冷静に、腕を組みながら言う。
「そっか……そうだったのか……」
「確かに、顔はよく似ていると思っておったが……」
意外と驚いているのはヴァルガとホムラ。
「あ、えっと……このことはあの二人には」
「大丈夫だ。それほど口は軽くない」
ヴァルガとホムラもうなずく。
「さて、イベントが終わるまで残り時間も少ない。
ほかのプレイヤーも狙いに来るはず。
まだ油断してくれるなよ。リエータ」
「そっちこそ、ね」
そのまま二人は、背を向けて歩き出した。
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「{マグナムブレード}!」
「{スパローキラー}!」
北西の海岸。俺たちはスキルを乱発していた。
……正直、北に向かったことを後悔した。
とにかくプレイヤーの密度が多く、戦闘に次ぐ戦闘。
SPが湯水のごとくなくなっていく。
しかも下位のランクの相手を倒しても、それほどポイントを奪えなくなっている。
まるでこちらだけに損があるような状態だ。
「ぜぇっ……ぜぇっ……」
「タイガ!大丈夫?」
「あぁ、なんとかな」
しかしそこへ、
「君たちを倒して、ポイントを奪うぞ~!」
矢が飛んでくる。
「くっ……!」
ブーメランを投げ飛ばす。
弧を描くように飛び、矢を落としたブーメランは、こちらに戻ってくる。
「アンタのスコア、いただくぜ!」
「!?」
その隙に背後から、別のパーティの男が斧を振り下ろしてくる。
「{大木割り}!」
「{パワースラッシュ}!」
何とか対応する。だが……
「なんの!タイガは私が倒す!{プロミネンス}!」
執拗に俺ばかりを狙ってくる他のプレイヤー。
HPが高く、光属性得意なポラリスより、俺を狙ったほうが確かに効率はいい。
俺にとっては、極めて面倒な『効率の良さ』なのだが。
「くっ……逃げよう、タイガ!」
「逃げるっつったって、どこに逃げんだよ!」
「そ、それは……」
もはやほとんど詰みのような状態だった。
そうしているうちにも、俺たちの周りには8人ほどプレイヤーが集まっている。
これほど多くのプレイヤー相手となると……
さすがにシャドウレーザー、ダークネスビットがあっても厳しい。
そいつらが口々に言うのは……
「タイガを狙うぞ!」
「属性が通りやすいタイガを狙え!」
「ポラリスは打たれ強いから、先にタイガを」
俺に対する敵意。
「……」
上等だ。
みすみす俺も、ただでやられてやる気はない。
ポラリスより俺を選んだことを、後悔させてやる。
「行くぞ!」
一斉にプレイヤーが俺の方に走ってきた……瞬間だった。
「ん?」
「なっ……!?」
俺が上空を見上げると、巨大な星が落ちてきていた。
「{テインクルスター}……?」
そして気付くポラリス。
「!?{ホーリーシールド}!」
俺に対しホーリーシールドを使うと、直後に白い光が辺りを包んだ。
……めまいがするほどのまばゆさだった。
「……今の、ポラリスが?」
そして俺の周囲にいた6人のプレイヤーは、全員消え失せている。
「いや、ボクが使ったならタイガにホーリーシールド使ってないよ」
「じゃあ誰が……?」
とにかく助かった……の、だろうか。
いや、これで助かったとは思えない。
マップを見ると、近くに5位のカインとシルビアがいると言う。
時計の時刻はすでに、10時を過ぎている。
と言っても、あと2時間も時間をつぶす必要がある。
そうこうしているうちに……
「わたくしの光魔法、いかがだったでしょうか?」
「!?」
目の前に、白色のストレートロングヘア、
まるでメイド服のような防具を着ている女の姿が。
「な、なんだ……?」
「あなたは……シルビアさん?」
ポラリスが恐る恐る聞くと、
「えぇ、わたくしの名前はシルビア。以後、お見知り置きを。そして……」
シルビアが両腕を広げる。
「{スピアアサルト}!」
「!?」
俺は長剣を振り上げ、間一髪ではじき返した。
「ほぉ~?{神速}と呼ばれたワシの攻撃を受け止めるんかい。
噂にゃ聞いとったが……やるやないか」
「そいつはどうも」
黒い軽そうな全身鎧。青いトゲトゲした髪。
そして手にした槍は、赤い色の西洋槍だった。
「坊ちゃま。名乗り口上を挟んでの登場ではなかったのですか?」
「う、うっさいシルビア。余計なお世話や」
と、言われたからか、坊ちゃまと呼ばれた男はポーズを取り始める。
「ええか!耳ん穴カッポじってよぉ~く聞きぃや!ワシの」
「あ~、あんまり長いのは苦手だから」
ポラリスが(無慈悲にも)弓を構える。
「アホ!まだ10分の1も言ってへんわ!」
「坊ちゃま、これが10分の1なら相当長くなると思われます」
「{なると思われます}ちゃうわい!あれせなワシのテンション上がらんねや!」
……な、なんだ、この……
RPGで序盤から出てくる、敵で出てくると強いが、味方になるとそうでもない、
ズッコケ二人組みたいな。
「……タイガ、この二人……」
「あぁ。……アホだ」
「確かにそうだけどそうじゃなくて」
ポラリスのツッコミ。……アホなところは認めるのか。
「……強いよ。飄々としてるけど、何だか見るからに強そうな気がする。
なんというか……何か強い力を宿してる、と言うか」
「タイガと違って女やのに目の付け所あるやないけ」
「ボクは男だ」「坊ちゃま、彼は男です」
ポラリスと同時に突っ込むシルビア。……なんか仲いいな。属性か?
「……ま、まぁ、とりあえずやな」
カインは、俺の方を見ると……
「見るにアンタら、ランク4位やそうやないか」
「……あぁ、そうだが?」
「ワシはな。ちょっとでも上のランクに行きたいんや。
前回大会でもパッとせん順位やったのに、今回大会、
前回1位のリエータ、3位のアキラはともかく、今回ぽっと出のタイガ……
特にアンタに負けたら、{黒き悪魔たち}のメンツに面目が立たんからのう」
そしてランスを構え、こちらに向ける。
「ちゅ~こって。わかるな?」
「……」
俺は、首を横に傾けた。
「なんでわからへんねや!確かに小学校の頃通信簿に
{もっと感情表現を頑張りましょう}とか言われたけどやで!?
割と槍向けた時点で何とかわかって欲しかったわ!」
いや、まぁ冗談なんだが。
「では、無能な坊ちゃんに変わり、わたくしから代弁を。
坊ちゃまは、あなた様方と戦いたくて戦いたくてしょうがないそうです」
「……なんか癪に障るけど、まぁそういうこっちゃ」
カインのその言葉を聞いた俺は……
「{嫌だ}と言ったら?」
「無理やで、ワシらに出会ったっちゅうこと……それすなわち」
切っ先をこちらに向ける。シルビアも、杖を構えた。
「{運の尽き}っちゅう奴やからな!」
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テインクルスター 光 消費SP:60
【巨大な星を前方に召喚し、敵を押しつぶした後爆発させる。
光属性の中ではダメージは大きい方だが、扱いが難しい。クールタイム:3分】
スピアアサルト 槍 消費SP:20
【上空から急襲し、槍で突き刺す技。
当たると強いが、外すと隙だらけでリスクが高い。クールタイム:1分】
次回、カイン&シルビア戦。
ズッコケ二人組とまで言われた彼らの実力とは?




