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とりあえずリエータがいればなんとかなりつつある。

その後、俺たちは森の中からあまり出ずに、モンスターを相手に戦闘した。

途中2度、プレイヤーが襲い掛かってきたが……

「あの生き物以外なら後れは取らない!」

新しい武器を手にしたポラリスの活躍もあり、容易に退けられた。




そしてその夜。

「今日手に入れたメダルは全部で8枚。

 例の、コロンゾンを倒した分もポイント加算。

 多分これは、順位は落ちることはない……と思うね」

「しかしまぁ、今日は休むつもりが、結構戦っちまったな。結果的に」

「結構戦っちゃったね。結果的に」

コロンゾンを撃破したことにより、俺はレベル28に上がり、

ポラリスはレベル32。トリックスターが5に上がった。

「そういやポラリス、新しい技覚えたんだろ?」

「あ、うん。これだね」


明鏡止水(めいきょうしすい) 自動スキル

【戦闘時間が長引けば長引くほど、弓の命中率と攻撃力があがる。

 レベルアップで効果発動までの時間が短縮。

 オーバーソウル相手以外の戦闘で、2分以上時間をかけて勝利した回数が、

 一定以上でレベルアップ】


「なかなか使いやすそうなスキルだな」

「うん。光属性は闇属性以外に弱点を突かれないし、使いやすいと思う」

のんびりと、洞穴の中から星空を眺める。

「……明日が、最終日だね」

「あぁ。確か……明日の正午までだったか?」

「うん。でもビギニングイベントと一緒なら……」

と、その時だ。

「!?」

「どうした?ポラリス」

「……静かに。何か聞こえる」

遠くから、何かが確かに聞こえてくる……

……断末魔だ。

1人や2人ではない、……10人はいった……だろうか?

「……」

逃げるか、隠れるか。

もし逃げた場合、追いつかれると危険だ。

隠れる場合、見つかるとどうしようもなくなる。

そう、考えているうちに……その影が近付いてくる。

「!?」

その影は、黒いロングコート、赤い装具、フルフェイス。

後頭部の上側からは黒いポニーテール。

「……ツバキ……?」

ディアナ、エル、そしてアレンの言った特徴に共通している。

「……」

ツバキからは、まるで生気を感じない……?

「……」

すると、ツバキはこちらを振り向いた。

そこに俺たちはいなかった。

「……(ダメだよ!もし見つかったらどうするのさ!)」

単純にポラリスの機転で、洞穴の中に入っただけ。

「……」

しかし、ツバキはこちらに歩いてくる。

「……!」

まずい。

こうなったら玉砕覚悟で挑むしか……

「タイ……!」

ポラリスの言葉より先に、俺は外に飛び出して、

「!?」

赤い閃光を前に、立ち止まった。

「……やっと見つけたよ。ツバキちゃん」

そこにいたのは、リエータだった。

「……」

ツバキは場所が悪いと思ったのか、南に向かって走り出す。

「逃がさないよっ!」

それをリエータが追う。

「……タイガ……今のは……」

「……」

追いかけようか迷ったが、もし二人の勝負に巻き込まれた場合、やられない保障はない。

だが仮にここで待機したところで、リエータが俺たちを狙わないという保障もない。

このイベントでは敵対している者同士だ。

初心者のエルとアレンはともかく、現在5位の俺たちには戦闘を挑むかもしれない。

とはいえ、リエータは俺たちの存在に気付いているだろうか……?

「どうする?ポラリス」

「ボクは下手に動かないほうがいいと思う」

「どうして?」

「ん~……」

ポラリスは珍しく、こう言った。

「……勘?」

「おい」

だがポラリスの言うこともわかる。

ツバキかリエータがすぐに引き返してきたら、逃げ切れるわけがない。


……そのまま、10分ほど経った。

下手に動けず、ずっと同じように洞穴の中で待っている。

時刻はすでに夜の11時になっていた。

「……」

と、その時だ。

「やっぱり、そこにいたんだね」

「!?」

反射的に剣を構える。その視線の先にいたのは……

「あ、怯えさせたならごめん」

リエータだ。両手を軽く上げている。……どうやら、戦う気はないようだ。

「り、リエータ?」

「お前、ツバキを追ってたんじゃ……」

「ん?あぁ、さっき倒しておいたよ」

洞穴の中に入りながら喋る。

「……まぁ、偽物に負ける理由もないけどね」

「?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


高地までツバキを追ってくると、ツバキはこの時を待っていたかのように、

「……」

リエータに対して左手をくいくいと手招きした。

「……いいよ。後悔しないでね」

駆け出すリエータ、そして突きを放つが……

「……」

ツバキはものすごい速さで移動し、リエータに対し反撃しようとする。

「ふっ!」

それを槍を薙ぎ払って妨害。

しかしツバキは矢継ぎ早に蹴りを放ってくる。

しゃがんでよけるリエータ。さらに……

「{スティンガー}!」

全力で突進。だがこれを避けられ、跳び蹴りを使おうと構える。

「……」

だが、リエータはその跳び蹴りも読んでいて、背後に炎を飛ばす。

「!?」

突然のことに驚いたツバキだが、再び素早く動く。

「……(攻撃にまるでキレがない……それに、この動きについて来てる……

 まるで、チートめいた足の速さに慣れてる感じ)」

そのまま拳を突き出してくる。

「ねぇ、ちょっと聞いていい?」

「……」

リエータはその攻撃すら、軽くいなしてしまった。

「やっぱりキミ、ツバキって名前であって、{ツバキちゃんじゃない}よね?」

「!?」

ツバキは驚いた様子で回し蹴り。

「やっぱりね」

槍で軽くいなす。

ツバキの攻撃は、目に見えて激しくなる。

『自分がツバキじゃない』などと、バカにされた怒りなのか、

それとも……ただの焦りか。

「……はぁっ!」

火花が散るほどの勢いで装具をこするリエータの槍。

ツバキは大きくバランスを崩し、弾き飛ばされる。

「なるほど、本物のツバキちゃんから武器と防具を取り上げて、

 ツバキちゃんによく似た体つきの人を用意して……

 ツバキちゃんをマネて武器と防具を装備して、何らかの方法でレベル上げ。

 そして自分たちに都合のいいことだけをやって……

 イベントが終わったら、改造疑惑とかを{本物の}ツバキちゃんに押し付ける。

 キミのところのリーダーが考えるのは、そんな感じかな」

「……」

逃げようとする『ツバキ』。

「そういう1人を寄ってたかっていじめるのってさ」

しかしリエータは、高く跳びあがって正面に回り込んだ。

「……大っ嫌いなんだよね。死ぬほど」

「!?」

リエータの顔は、怒りで鬼のように険しくなっていた。

「ひ、ひぃ!」

ようやく声をあげる。

その声を聞く前に、リエータはツバキ……だった者に槍を振り下ろす。

するとパカっと、仮面が割れた。

そこに存在したのは、ツバキとは似ても似つかない顔だった……

「……や、やめ……!やめて!」

「大丈夫大丈夫。これはゲームだから死なないよ」

と、言うリエータの顔は、驚くほどに冷たい顔をしていた。

「最後に教えて?キミがどうしてツバキちゃんのマネをしたのか」

「何が……ツバキはすでに私たちにとって{使えない}存在!

 レックス様はそんなゴミのようなツバキに変わって、私を推挙してくださった!

 ただそれだけの事よ!私はそのご期待に応えたいだけ!

 私と……ましてレックス様のどこに非があるの!?」

そして左手に激しい炎を掲げる。……レッドドラグーンだ。

「{つ・か・え・な・い}?{ゴ・ミ}?」

「あっ……」

そのレッドドラグーンは、今まで見たことがない規模で巨大化している……

「リスボーンしたら、{レックスさま}にこう伝えといてよ」


「このクズ野郎」


「い、いやああああああ!」


キラ~ン……

メダルが1枚落ちる。

「……本当は欲しくないんだけどな。こんな奴から」

リエータはそのメダルをしまうと、再び森に向かって歩き出した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


リエータは先ほど起こったことを、俺たちに話した。

「じゃ、じゃあ……!?」

「うん。多分タイガ君の想像通り。ツバキちゃんはこのイベントに参加してない。

 でも、掲示板で話題になってる{ダークリゾルブ}。

 そいつらに何らかのアプローチは受けてると思う」

アプローチ……

「装備を奪われていること以外で、何のアプローチを受けてると思う?」

「例えば監禁とか」

「あ~、ダークリゾルブとか言う鬼畜ギルドではやりかねないね」

「そう、やりかねない」

端末を開き、掲示板を見ている。

「掲示板でも結構話題だしね。あたしは書き込みしてないけど……

 いろんな人が書き込んでるみたいだし」

「ボクも見てるよ。書き込んだこともあるし。……被害じゃないけど」

しかし、そこまでしてツバキを排除したいのはどうしてだろうか……

いや、どうしてと考える必要もないだろう。


レックスにとって、ツバキが『必要でなくなった』ためだ。


だが今回のイベントではパーティを組む人物が多い。

だからこそ、力……いや、{道具}が必要だ。

自分の手足のように動かせる道具が。

人を道具としか思っていない、他者にもその意識を共有させるような人物だ。

だから自分の行動に違和感を持っている『本物のツバキ』より、


自分の命令を忠実に聞いてくれる『奴ら(どうぐ)』の方がいい。


「……」

「タイガ君。もしかして、ツバキちゃんを助けたいって思ってる?」

「当たり前だ」

怒りを噛み殺すのに必死だった。

だが……

「でも、証拠は?証拠もなく自訴しても、運営は多分動いてくれないよ。

 いわゆるチートも、不正を使ってるのがレックスって証拠がないといけないだろうし」

「そこがうまいよね。レックスは」

ポラリスが続ける。

「ボクたちがいくら自訴しても、多分あいつはツバキに責任を押し付け続けると思う。

 現に、ツバキは自分が改造で強くなったことに気付いているからね。

 多分……ひどい仕打ちをこれ以上受けたくないから、黙認してしまったんだろうね。

 その恐怖から、逃げるようにね」

「じゃあどうすんだよ!ツバキをそのまま何もせず黙って見てろって言うのか!?」

「落ち着いてタイガ君!ポラリス君に言ってもしょうがないでしょ!?」

リエータの言葉に、俺は言葉を噤んだ。

「……悪い」

「……ボクだって許せないよ。実の兄にそこまで追い詰められてるなんて。

 ツバキがあまりに……不憫で」

握りこぶしを作るポラリス。

「……ツバキちゃん本人に、会えればいいんだけどね。本物の」

「……」「……」

静かになる洞穴の中。

重い空気を切り裂くように、リエータが手を打った。

「とりあえず、まだイベントは明日の正午まで続くから、今はこっちに集中しよう?

 イベントが終わるまで、レックスはツバキ関連の事で動かないはずだから。

 そんな色々気にしながら戦っても、何の楽しさもなくなっちゃうよ?」

「……だな」

「うん。ボクも異議なしだ」

リエータの言葉で、不思議と心が落ち着いてきた。

……今は怒りを忘れよう。

本当はレックスをボコボコにしてやりたいが、今挑んでも勝ち目は薄い。

あいつのギルドの人数を見ても、このまま挑むのは玉砕行為だ。

「今は休もうよ、二人とも」

「休むったって……どうやって休むんだ?」

「ここを探り当てられたら、厳しくない……?」

と、言う問いに対し……

「それなら、あたしにいい考えがあるんだ」

「「……?」」


「お、おい」

俺たちのいる洞穴を覗き込む長剣を持ったプレイヤー。

洞穴の中では、リエータが槍を地面に置きながら、目を閉じ下を向いている。

「あそこにリエータがいるぞ」

「……寝てる?今がチャンスじゃねぇのか?」

と、斧を持ったプレイヤーが言うが……

「おい、バカ言うな。こんなとこでリエータが普通に寝てると思うか?

 絶対何かしらの罠があるって」

「それも、そうだな。ここは起きねぇうちにさっさと逃げるか」

二人組はそそくさと去っていった。


「……ね?」

岩陰に隠れていた俺とポラリスは、リエータの言葉にこくりとうなずいた。

「なるほど、{空城の計(くうじょうのけい)}か」

「空城の計……?」

首をひねるポラリス。

「三国時代の(しょく)軍の軍師、諸葛亮(しょかつりょう)と、()軍の軍師、司馬懿(しばい)は知ってるか?」

「名前は聞いたことがあるね」

「蜀の諸葛亮が野戦で魏に敗れた時、蜀軍は魏軍と比べて圧倒的に兵力が少なかった。

 そこで諸葛亮は、城に引きこもって城内を掃除して城門を開いたまんまにして……

 兵士たちを隠して自分は敵に見えるようにして、琴を奏でて敵を招き入れる素振りを見せた。

 でも、魏軍の司馬懿は諸葛亮の奇策を恐れて、あえて兵士に城内に踏み込ませなかったんだ。

 これが空城の計。リエータはそれをマネしたんだろ?」

にこりと笑う。

「過度の警戒心は、時に重要な場面でミスをしちゃうものだからね。

 まぁ……戦闘狂な誰かさんがここに来たらどのみち危ないけど」

多分、アキラのことだろうか?

「にしても本当お……タイガ君は、よく、知ってるよね」

「ん?……あ、あぁ」

とりあえず、リエータに任せれば大丈夫だろうか。

俺はしばらく、体を休めることにした。

ポラリスが、こう思ってるとも知らずに。


(おタイガ君……?)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「やれやれ、それでリスボーンしたってわけか」

「も、申し訳ありません、レックス様!」

頭を下げるツバキのマネをしていた女。

「次は必ず!必ずレックス様の期待に……」

「{次は}ねぇ。お前に{次}があると思うか?」

「!?」

キラ~~~ン……

女は突然、ログアウトしてしまった。

「やれやれ、{使えない}奴が多くてオレの胃に穴が開きそうだな。

 まぁいい。どうせオレの1位はゆるぎないしな」

レックスは背後に振り向くと、そこには大量のダークリゾルブがいた。

「なぁ、そうだろ?」

ついにイベント最終日へ。

果たしてタイガたちの最終順位は?

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