休もうと思った時に、新たな発見。RPGあるあるである。
南の高地へやってきた。
「……ここなら見晴らしもいいはずだ」
「あ、あの……タイガさん、どうするんですか?」
「何、ちょっとお前たちに活を入れてやろうと思ってな」
すると敵が現れた。
「ガアァ!」
【エアロバード レベル20】
4体も現れるが、特に問題はない相手だろう。
腕力極振りのエルが少し気になるところだが。
あまり動かない、と言っても、それでポイントがガタ落ちすることは避けたい。
エルとアレンも、俺やポラリスと一緒にいるほうが安心できるだろう。
俺たちとしても、戦闘勘が鈍ることだけは避けたい。
と言っても、パーティは組めないのであまりに長く一緒にいることは出来ないが。
「よし、行こう。エル」
「うん、お兄ちゃん……あ、足を引っ張ったらごめんね……」
いや、それはないだろう。なにせ……
「オラァ~~~!」
攻撃が当たりさえすれば、一撃。
「ビイイイイ!」
エアロバードのエアーカッターも……
「落ちろ!カトンボが!」
食らいながらゴリ押し。
「あ、相変わらずすごい豹変ぶりだね……」
「あぁ、それに……」
エアロバードの攻撃を、寸前のところで回避していくアレン。
「{天蓋砕き}!」
そして敵の隙を見て確実にダメージを与えていく。
「アレンもなかなか強いじゃないか」
「うん。無駄なく戦えてる印象だね」
その二人の戦闘を見守っているうちに、
「じゃあ、ボクたちも始めようか」
「あぁ」
俺たちも戦闘をすることに。
「ガオォ!」
【ファイアビースト レベル27】
多少レベルは高いが、単体なら脅威ではない。
「あんまりSPを使いすぎないようにしたいけどね」
「あぁ。{シャドウレーザー}!」
とりあえず1撃ぶっぱなし、大きくダメージを与える。
「たぁっ!」
直後に背後から、ポラリスの弓。
「グアァ!」
『ファイアランス』を撃とうとするファイアビースト。
「これぐらいなら耐えられるはずだ」
俺はあえて食らうように前に出た。
「なるほど、{冥府神の加護}だね」
ボオォ!
「……ま、うまくいかないよな」
……結果、結構食らった。
「タイガ……無茶しすぎだよ。{アローストライク}!」
結果的にアローストライクで、ファイアビーストは消えていった。
「発動すればラッキー、ぐらいで基本的にはよけたり防いだほうがいいな」
「うん。特にタイガは全属性弱点だからね」
「おいおいどうしたよメガネ」
そこにエルとアレンがやってくる。
「だからメガネじゃなくてタイガな」
「どっちでもいいじゃねぇかよ。{ライフドロップ}」
緑色の液体がかかると、傷が回復した。
「あんま心配させんな。兄貴以外にも胃がいてぇ思いすんのはもういいっての」
「あぁ、ありがとう」
「ところでオレも、やっと上級職に進職できるようになったぜ。どこでやればいいんだ?」
確かに魔法使いのランクが10まで上がっている……が……
「あ~、進職には町に戻る必要があるんだ。だからイベント中は無理だな」
「はぁ~?何だよそれ!?やっと兄貴の足引っ張らずに済むって思ったのによ!
そりゃねぇぜおい!」
「ま、まぁまぁ、エル。上級職は逃げないし」
と、その時だ。
「ん?」
歩き出すポラリス。
「おい、どうしたボクっ娘」
「……」
そして、ある場所でしゃがみ込むと……
バシャバシャと、水しぶきを上げ始めた。
ん?水しぶき?
「な、なんだこれ……」
「どうやらここ、ダンジョンになっているみたいだ」
「ダンジョンって……でもここは何の変哲もない高地のはずなのに、水が……?」
「多分視覚トリックで、見つからないようにしてるはず。
このダンジョンには、ちょうど2パーティまで入れるみたいだよ。あとボクは男だ」
よく見ると、周りの何の変哲もない高地の中で、ここだけが波立っている。
「なんだかスーパーマ〇オみたいな仕掛けだなこれ。この先、砂漠にでもなってんのか?」
「なってるわけ」
「あるよ。これを見て」
砂の迷宮
【ここは入るとやられるか、出口にたどり着くまで外に出ることは出来ない。
また、やられてもメダルが余っていればゲームオーバーにならないが、
今日この日、そして一度だけしか挑戦できない】
砂の迷宮と言うだけあって、きっと迷うようなダンジョンなのだろう。
「オーバーソウルはいるんですかね?」
「わからない。ボクたち的にはいないほうが嬉しいけど……」
「でも、オレは行くぞ。なんか楽しそうだしな!」
それだけを言うと、エルは波打つ地面へ飛び込んだ。
「お、おい」
俺も飛び込む。直後に上で、小さな音と大きな音が聞こえた。
「ごふっ!」
中は割と深く、俺は砂の中に頭を突っ込んでしまった。
「お、おい!」
エルの声が辛うじて聞こえる。
「うぐぐぐぐ……!」
どうにか俺を引っ張り出した。
「わ、悪いな、エル……」
「気にすんな。兄貴で慣れてる」
ピロリン!
「ん?」
砂の迷宮 ルール
【中央の扉へ向かい、二つの鍵を使って扉を開ければクリア。
もうひとつの扉の鍵は別パーティが持っている】
「なるほど……つまり兄貴とボクっ娘と合流しねぇと行けねえわけか」
「そういうことだな。……てかポラリス一応男だからな」
と、そこへ……
「グゲロォ!」
「!?」
【サンドフロッグ レベル18】
レベルは多少低めだが、小さなサンドフロッグが6匹もいる。
フロッグ……カエル……あっ。
早く合流しないと(色々)まずいことになりそうだ。
「敵さんおいでなすったぜ。オレの杖の錆にしてやらぁ!」
杖を思い切り振りかざすエル。
「ゲロォ!」
しかし簡単によけられてしまう。
「お、おい!」
ひたすら杖を振り回すエルだが、まるで当たらない……
「こ、この野郎……!ちょこまかちょこまか!」
怒りに身を任せ杖をぶん回す。
「そんな攻撃じゃ、いつまで経っても倒せねぇぞ。{ダーククラック}!」
地面から出た闇の手で、サンドフロッグを拘束。
「悪いなメガネ!オラァ!」
さすが火力は折り紙付きで、一撃でサンドフロッグが消滅。
「メガネって……言うな!」
ブーメランを投げ、他の敵を攻撃。
「目ざわりなんだよ!{スマッシュ}」
フルスイングでもう一匹も倒す。
……いや、普通の攻撃で倒せるならスキル使わなくてもいいだろう……
結果的にブーメランとエルの杖の攻撃を前に、あっという間にサンドフロッグの群れは霧散。
「はっ!時間だけかけさせやがって、クソが」
思い切り悪態をつくエル。まぁ……その一言には同意だ。
砂の迷宮の中は暗く、燭台の光がないと迷いそうだった。
いつ戦闘になってもいいように、俺たちは武器を抜刀しながら歩く。
「たく……どこに居やがるんだ兄貴……」
「……仲がいいんだな」
「あぁ?当たり前だろ。そもそも仲が良くない家族なんていんのかよ?」
それもそうだ。
「……オレはいつも、兄貴に助けられっぱなしでな」
間がもてないのか、エルは話し始める。
「人に気持ちを伝えんのが下手くそで、感情を表に出すこともあんまりできなくて、
小学校の頃、ずっといじめられてたんだよ。その時に、オレは兄貴に助けられた。
何回も、何回もな。でもついには、その矛先が兄貴に向いちまった」
「アレンが今度はいじめの被害にあった……てことか?」
「あぁ。オレがしっかりしてねぇばかりによ……」
帽子のつばで、顔を軽く隠す。
「兄貴がいじめられてる中、オレはそんな兄貴を見て……
{あぁ、よかった。オレじゃなくなって}なんて思っちまった。
オレに矛先を向けさせねぇために、兄貴は犠牲になったってのによ……」
「エル……」
「兄貴もきっと、心ん中でオレに思ってることは結構あるはずなんだ。
それを兄貴は、我慢すんのが得意なんだ。だから、そう考えたら……」
言い終えて、深く溜息をつく。
「ごめんな。お前は関係ないのによ」
「構わねぇぞ」
「え……?」
俺の言葉に、エルは目を丸くした。
「俺も妹がいるから、兄妹の悩みとか、そう言うのよくわかるんだ。
だから、きょうだい関係で悩んでることがあったら、遠慮なく言って欲しい。
って、だとしたらさすがにお節介が過ぎるよな?」
「……」
エルは顔を真っ赤にしていた……
「ん?どうした?エル」
「ばっばかっ!見るな!」
と、帽子を深々とかぶって顔を隠す。
「……でも……ありがとな。タイガ。タイガにはどうでもいい話なのに、聞いてくれて」
「どうでもよくないさ。俺としてはな」
「世話焼き」
そう言いつつ、エルは笑っているように見えた。
「まぁ、出会った縁だよ。縁」
そのまま進むと、巨大な扉の前に来た。
「……ここがゴールか?」
「かもな。まだ兄貴もボクっ娘も来てねぇし、少し待つか」
エルの言うとおりだ。
ここでポラリスとアレンを探しに行って、すれ違いになってしまうと怖い。
二人を信じて、俺はここで待つことにした。
数分後……
「お、来たみたいだぞ」
鎧が歩く音でわかる。その視線の先に……
「エル!タイガさん!」
アレンと……
「……はぁ、やっぱりか……」
ほぼ死んでいるポラリス。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ポラリスさん、大丈夫ですか?」
声をかけるアレン。
「うん、何とか。アレンは大丈夫?」
「僕なら大丈夫。……しかし、エルとタイガさんがいませんね」
通知を見るポラリス。
「どうやらボクたちは、離れ離れになってしまったらしい。
このボクが持ってる鍵と、おそらくタイガかエルが持っている鍵。
ふたつを合わせてゴールにたどり着ければ、扉が開くみたいだよ」
「なるほど」
そして周囲を見るポラリス。その視線に……
「ゲロォ」
……サンドフロッグ。
「……」
「出ましたね、モンスターが。何とかしましょう」
「……」
「ポラリスさん?」
しばしの静寂。そして……
「あああああああああああああ!!」
絶叫しつつ逃走。
「ぽ、ポラリスさん!?」
追いかけるアレン。だが、ポラリスの逃げた先に……
「ゲロゲロ!」
別のサンドフロッグ。
「ぎゃあああああああああ!!」
戦うこともせず、両手を上げて逃げ回る。
「待って!ポラリスさん!」
そして逃げた先にいる……
「グゲッグゲッ」
トドメの、サンドフロッグ。
「……」
「よかった、やっと落ち着いたんです……ね……?」
……ポラリスは、立ったまま気絶している。
「ぽ、ポラリスさ~ん!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そして、今に至ります」
ポラリスの視点は、いまだに虚空を見つめている……
「悪いな……俺んとこのポラリスが……」
「へ~、カエルが苦手なのか」
「メモせんでいい!」
と、そこで……
「……あ、あれ?」
(ようやく)目を覚ましたポラリス。
「あ、タイガ、エル。無事だったんだね」
ものすごく『それはこっちのセリフだ』って言いたい。
「ま、まぁな。とりあえず鍵を開けるぞ」
俺とポラリスがカギ穴に鍵を差し込む。
すると、大きな扉が轟々と音を立てて開いた。
その先にもう一つ、扉がある。その扉を開けようとすると……
「!?」
【この先に強力な敵の気配あり。先に進みますか?】
オーバーソウルの警告メッセージだ……
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エアーカッター 風 消費SP:10
【風属性の基本スキル。レベル3で{エアロスラッシュ}に強化。
レベルMAXで{ラセンウインド}を編み出し可能。クールタイム:10秒】
天蓋砕き 斧 消費SP:25
【斧の上級スキル。斬り上げて相手を鎧ごと切り裂くとされる技。
威力が高いが、高い位置にいる相手以外に当てにくい。クールタイム:50秒】
スマッシュ 杖 消費SP:25
【杖の上級スキル。思い切り杖を振りぬく。
相手をたまにスタン状態にする。クールタイム:50秒】




