自分が知らないうちに、いろんなことが起きる。こんな風に。
気付けばこの小説も20話を突破しました。
ご愛読ありがとうございます!
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一方その頃、北東の山岳地帯エリアでは……
「ぐおわ!」「ごはっ!」「ぎゃあああ!」
響き渡る断末魔。
仮面をつけた『それ』は、ただ無心で周囲にいる敵をなぎ倒していく。
鋭く、重い、そして無慈悲な一撃。
次から次へと、プレイヤーに襲い掛かる。
「く、来るな!来るなぁ!」
と、弓で遠距離から攻撃しようとしても……
「ひい!?」
まるで一陣の風が吹くかのごとく、素早い動き。
そして鉄砲で撃たれたかのような、激しい衝撃が襲い掛かり……
弓使いは、跡形もなく消滅した。
「……」
「う……う……!?」
背後の気配に気付いたのか、『それ』は背後へ跳び……
「うわあああああぁぁぁ!」
「……」
その男のメダルを手にする少女。
3回手を打つ音が聞こえる。
「はっはっはっは、さすが、お前は{使える}な」
その少女は、フルフェイスのマスクを付け、黒いロングコート。
手足には赤い装具を付けている。
そして声のする方向へ、正座をして頭を下げた。
「あの{出来損ない}と違って、な」
月明かりが男の姿を照らし出す。……レックスだ。
「……」
「なんならこれからもあいつの代わりとなっていいぞ?」
レックスは大きく高笑いした。
同時刻。北の草原エリア。
タイガとポラリスが、最初に降り立ったエリアだ。
「……や、やっぱ……つえぇ……!」
長剣使いの男がひざまずいている。
その男の背後には、無数のプレイヤーが満身創痍となっていた。
「……もう終わりなの?」
リエータだ。
数えて30人ほどいるだろうか。全員がボロボロになっている。
その光景に対しリエータは、傷ひとつついておらず、息もあがっていない。
「なら、メダルを置いて帰ってくれると嬉しいな。
キミたちとしても、プレイヤーキルを受けるよりはポイントの減少が低いし、
悪い話じゃないと思うけど」
「こ、これだけ寄ってたかっても、敵わねぇのかよ……ふざけんな……!」
男が立ち上がると同時に、他のプレイヤーも立ち上がる。
「お前を倒せば一躍オレたちも有名人なんだ……こんなとこで退けるかよ!」
「……そっか」
するとリエータは、左手を掲げた。
「!?」
「……出来れば、倒したくなかったんだけど……しょうがないよね。
でも、聞く気はないと思うけど言っておくね」
そして左手に集まった炎は、巨大な竜を形作り……
「中途半端な自信は、自分を追い詰めちゃうよ?」
「ひ、怯むな!いけぇ~!」
男の声と同時に、一斉に走り寄る。
次の瞬間、焦げ臭いにおいが少ししたと思えば……
あれだけいたプレイヤーは、すべて消え去っていた。
「はぁ……」
リエータが両手を伸ばすと、メダルが31枚収まる。
「なんか弱い者いじめしちゃったみたいで、やだな」
…………
「いるのはわかってるんだよ?出てきて!」
「ひ、ひぃ……!」
杖を背中に帯刀した魔導士……エルだ。
「……キミもあたしに勝負を挑むの?」
「え、えっと……あ、あの……あの……!」
戸惑うエルに、リエータは表情を緩める。
「なんて、冗談。エルちゃんだよね?」
「え?」
名前を呼ばれたことに驚くエル。
「ど、どうしてわたしの名前を……」
「あ~、まぁ。嘘でもトッププレイヤーって呼ばれてるし、他の人の名前くらい覚えてるよ」
「す、すごい……!」
({掲示板で豹変する魔導士で話題になってる}って、言いにくいしなぁ……)
リエータは、少しだけ申し訳なくなった。
「で、何があったの?いつもお兄さんと一緒にいるんじゃない?」
「あ、いや、あの……じ、実は……」
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「ふう~!空気がマジおいしい!あげぽよだわ~!」
ようやく戦士の墓場の外に出たディアナ。その背後で……
「……だ、大丈夫……?タイガ……」
「……」
俺は(リアルな体力的な意味で)軽く死んでいた。
あの後結局、冥府神の加護は俺が、白夜はポラリスが使うことにした。
「も~、タイちゃんゲロ体力ないじゃん。そんなのでイベント戦っていけるの?」
「だ、だから……ゲロってなんだよ……?」
空を見上げると、満天の星空が広がっていた。
まるで俺たちを軸にして、プラネタリウムが展開されているかのようだ。
「……あのさ、タイちゃん。ポラっちゃん」
「ん?」
ディアナは丁寧に、深々と頭を下げたあと、顔を上げて、
「色々ありがとう。本当に。それで、ごめん。本当に。
ウチがタイちゃんに戦いを挑まなかったら、こんな事にならなかったはずなのに」
それを聞いた俺は、首を横に振った後、
「お前のおかげで、俺としてもメダルをゲットできたし、スキルも入手できた。
それに、戦いを挑むのはイベントとして当然のことだし、気にしなくていい」
「以下同文。って感じだね。ディアナ」
俺たちの言葉を聞くと、ディアナは安堵した様子だ。
「……本当、やさしいね。神対応あざまーす!ってとこ」
「相変わらず何言ってるかはわかんねぇけどな」
「神対応くらい知っとこうよタイガ……」
3人で笑い合う。
「……それで、お前はどうすんだ?これから」
「イベ中のパーティ結成は無理だし、ウチはウチで、適当に過ごそうかなって。
タイちゃんもポラっちゃんも、ワッショイで頑張んなよ」
「お、おう……(ワッショイ……?)」
歩き始めるポラリス。
「またどこかで会えるといいね二人とも!ジャネバーイ!」
「おう、またな」
手を振りながら考えるが、
……ダメだ、何言ってるかわかんねぇ……
「さて、タイガ……ボクたちも少し休もう」
「そうだな……でも休んでる時に敵に襲われたらどうするよ」
「ん~、その時はその時かな。でも疲労しながら戦闘するよりよほどいいと思う」
本人は隠そうとしているが、ポラリスも肩で息をしている。
「わかった。とりあえず近くに洞穴があるならそこで休むとするか」
ちょうど森の中に洞穴があったので、そこに入る。
「はぁ……疲れた」
「本当にな……と言うか、寝るのもこうやって野宿なのか」
「町に戻れない以上、こうなっちゃうね」
その場に座り込む。
時計を見ると、すでに時刻は11時30分になっていた。
「しかしまぁ……今日はあんまりプレイヤーキルできなかったな」
「うん……しかも結構ポーションやエーテルも使ってしまったし。
明日はあまり、動き回らないほうがいいかもしれない」
「3日目に勝負をかけるとか、そういう感じか?」
と、俺が聞くと……
「すぅ~……すぅ~……」
「おっおい……」
よほど疲れていたのか、ポラリスはすぐに深い眠りに落ちてしまった。
しかも、俺によりかかって。
「……」
まずい。
ポラリスが女なら、恋に落ちること待ったなしだ。
「……」
あまり動いても悪い。
俺もそのまま眠ることにした。
…………………………
翌日……
「んっ……」
目を覚ます。
「……」「……」
「へ?」
そして目の前に飛び込んでくる、エルとアレン。
「し、失礼しました!」
「ごゆっくり……」
「ま、待て!そういうのじゃないから!そういうのじゃないからぁ!」
と、言う騒ぎの中でようやく、
「ん……?」
ポラリス、起床。
「お、おはよう、タイガ」
「あ、いや、ポラリス……!」
「ん?」
「まず、本当にごめんタイガ」
「ははは……いいってことよ……」
危ない危ない。エルとアレンが冷静でよかった。
「た、タイガさんとポラリスさん、仲がいいから本当にそういう仲なのかなと……」
「エル、忘れるんだ。いいな」
自分で言っておいて、自分で顔を真っ赤にするエル。
「それで……どうしてこんな場所に?」
「それは僕から」
アレンは静かに話し出した。
「実は昨日の夜、僕はとあるプレイヤーにやられてしまって……
それで、エルと一度、離れ離れになってしまったんです」
「わ、わたしがもっと強かったら……お兄ちゃんを守れたかもしれないのに……」
「エルは何とかそのプレイヤーから逃げおおせることが出来たようですが、
仮にエルがそのプレイヤーに出会ってしまったら、勝ち目がなさそうで……
僕たちはイベントが終わるまで、身を隠そうと思っていたんです」
「そ、そしたらそこにタイガさんとポラリスさんがいたってことで……」
……初心者によくありがちな、挫折にぶち当たってしまったところか。
まぁこのゲームにおいては俺も初心者だが。
「あの装具使い、相当強かったですね……」
「く、黒い服と顔全部を隠した仮面と、赤い装具で……名前は確か、ツバキ……」
「「!?」」
俺とポラリスは目を丸くした。
――黒いコート着てて、装具使いみたいな奴だった
――仮面の上の穴からポニテ生えてて、体つき的な意味で女だと思う
「ポラリス……」
「うん。多分ディアナを襲った奴と同じ。
ディアナはステータスを確認する暇もなくやられちゃったんだろうね」
「え?どういう……」
俺は昨日、ディアナが襲われていた話をエルとアレンにした。
「つまり、そのツバキってプレイヤーは、相次いでプレイヤーキルを起こしていると?」
「おそらくね。じゃなかったら、こんなイベント順位あり得ないよ」
ポラリスが端末を見せる。
1位:レックス&ツバキ
2位:リエータ
3位:アキラ&ヴァルガ&ホムラ
4位:カイン&シルビア
5位:タイガ&ポラリス
「今の順位はこうなってる。特にレックスとツバキ、この二人のプレイヤーキル率が異常だ」
2位のリエータがプレイヤーキル33に対し、1位のこの二人はプレイヤーキル102。
……いや、パーティを組んでいないリエータがここまで順位伸ばしてるのもおかしいが。
3位のアキラたちですら、プレイヤーキルは12。
おそらくプレイヤー以外の敵を倒した数が多いのだろう。
4位のカインとシルビアと言うプレイヤーは会ったことがない。
そして5位はタイガとポラリス。この二人も……
「……」
タイガと……ポラリス……
……俺たちじゃねぇか!!
「な、なんでボクたちがこんなに順位高いの!?」
「し、知らなかったんですか!?」
考えられるのはふたつ。
昨日の戦士の墓場で、かなりレベルが上がったことと、タナトスを倒したことだ。
そして今まで、プレイヤーキルを一度も受けていないのもあるだろう。
改めてステータスを確認すると、俺はレベル27まで上がり、
シャドウレーザーのレベルがMAXになりました
クールタイムが減少しました
消費SPが減少しました
攻撃力が上昇しました
ダークナイトのレベルが3に上がりました
スキル『ホワイトキラー』を取得しました
ホワイトキラー 自動スキル
【光属性得意な相手に対し、与ダメージも被ダメージも増える。
レベルアップで与ダメージが上昇し、被ダメージ割合が減少。
光属性得意な相手を一定数撃破することでレベルが上がる】
「やべぇ……確認忘れてた」
「昨日は疲れてばかりだったからね。ちなみにボクもトリックスターが4まで上がった」
「何かスキルを……て、悪い。お前たちもいるのにな」
エルもアレンも、『気にしないで』と開いた手を伸ばす。
「まぁスキルは何も覚えなかったんだけど。次にスキルを覚えるのはランク5だしね」
話を戻す。
「で、そのツバキにアレンがやられて、その後どうしたんだ?」
「じ、実は……」
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「あ……お兄ちゃん!」
「エル!無事だったの……か……!」
リエータが、エルを背負って歩いていた。
リエータは背負ったエルを降ろすと、両手を軽く挙げる。
敵意がないことを示しているようだ。
「り、リエータさん……ですよね?」
「うん。さっき草原の方で会ったから、キミを一緒に探していたの。
結構時間がかかっちゃったけど、合流出来てよかったわ。
あ、貸しとかはいいから。あたしが勝手にやっただけだからね」
「え、でも……」
何かお返しがしたい、そう言った動きを見せるアレンに、
「じゃあ……キミを倒したっていうプレイヤーの特徴を教えてくれる?」
「え?それでいいんですか?」
「うん。それでいいよ」
「では……」
それを聞いたリエータは、少し顔がキッと鋭くなった。
「顔を隠してた。ね……」
「間違いありません。名前も」
「……」
少し考えているようだった。
「わかったわ。ありがとう。キミたちももう遅いから、今日は体を休めたほうがいいよ」
「はい。どうもありがとうございました」
「あ、ありがとう、ございました!」
二人とも深々とリエータに頭を下げた。
「……ま、まさか、生リエータを見られるなんて……」
「お兄ちゃん……」
「しかしうらやましいな、エル。リエータにおぶってもらったなんて。
僕も性別が女だったら、リエータにおぶってもらえたのに」
「……」
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((あ~、多分エルが腕力極振りで足遅いからおぶったんだろうな))
と、俺とポラリスは同時に思った。
「しかしリエータも、お人好しだよね。お節介を焼きたがるって言うのかな」
「でも、そのお節介のおかげで僕もエルも助かったんです。
これほど嬉しいことはありません。
何よりリエータさん、すっごくいいにおいがした気がします」
「するだけかよ」
しかし話を聞くに、リエータもツバキの所業に気付いている。
今日あまり動いては、他プレイヤーとの戦いに巻き込まれる。
おそらくツバキも、イベントで5位に上がってきた俺たちを狙ってくるだろう。
消耗した時にもし、ツバキと出会ってしまったら。
ツバキだけではない。アキラたちもそうだし、4位のカインたちも、
そしてリエータも、俺たちを狙ってくるかもしれない。
「……なぁ、ポラリス」
「うん。そのほうがいいと思う」
「「?」」
そこで俺たちは、今日1日はあまり動かないことにした。
エルやアレンも、ここで俺たちと離れた時にまたツバキに襲われてはたまらないだろう。
それにこのような話をしている二人が、俺たちを襲うとも思えない。
「なぁ、エル、アレン」
「な、なんですか?」
「僕たちに出来ることなら、なんでも」
そして俺は、こう言い放った。
「今から、ちょっと付き合ってもらうぞ」
……………………
「た、タイガさんさえよければ……」
顔を真っ赤にして、もじもじするエル。
「まさかタイガさん……両刀だったんですね……」
呆れた顔をするアレン。
「た、タイガ……」
何故かドン引きしているポラリス。
「お前ら何の話してるんだ!?」
ま、まぁ、語弊があったのも確かだろう。さっきポラリスとあんなシーン見せたし。
俺たちは洞穴から出て、南側へと向かった。




