誰か俺に、いわゆるギャル語が載った辞書を渡してくれ。
その遺跡は、朽ち果てているかのように柱が倒れたり、蔦が生えたりと、
遺跡としての役割をはたしていなかった。
その遺跡の石畳に歩み始めた少女は値踏みするように、こちらをじっと見る。
「……アンタ、タイガでしょ?最近話題になってる」
「あ~、そいつはどうも。わざわざ知っていただいてるとはな」
「いいねぇ。テンアゲ。割と有名な奴とバトれるなんて」
来る……俺は長剣を構えた。
「{天地一閃}!」
ドゴン!
「!?」
大剣を振り下ろすと同時に、強力な衝撃波が地面をえぐりながらこちらに迫る。
「{シャドウレーザー}!」
SPがきついなど、言っていられない。
俺はシャドウレーザーを打ち込むと、目の前の衝撃波と激突し、
大爆発。
砂埃が舞い、互いに後ずさり。
「ふっ!」
勢いをつけブーメラン。
「{パワーシールド}!」
それを見越していた、少女が大剣を地面に突き刺すと同時に、透明な壁が現れ……
「!?」
ブーメランは跳ね返された。すかさず手に取る。
「くそ……大剣はやはり防御性能が高いな」
「ふっふっふ~。ウチを侮るなんてありえんてぃーだよ。
ま、侮ってくれたほうが、ウチとしてはゲロ楽だけど」
「……」
が、少女の実力よりも……
「……なぁ、お前……日本語喋ってんだよな?」
「は~?」
「いや、その、ゲロがどうこうとか、ショッキング……うんぬんかんぬんとか、
はっきり言って、意味が分からないん……だがっ!?」
大きく横に薙ぎ払い。俺は軽く跳んで避ける。
「ウチはディアナ!混じりっけなしの100万パー日本人だし!
あとショッキングピーポーマックス!
めっちゃショックだったってこと!」
「じゃあそう言えよ最初から!」
ディアナと名乗った女は、更に大剣を力任せに振り回す。
「ほれほれ!よけてみなよイキリメガネ君!」
「誰がイキリメガネだ!確かにさっきの気を悪くしたなら謝るけど!
最初にタイガって呼んだからタイガって呼べ!」
しかしとんでもないキレのよさ。
一撃でも食らえば、致命傷になりかねない。
「案外粘るね。割と好きかも、そう言うの」
「嬉しか……ねぇわ!」
槍に持ち替え、ディアナの腹を狙う。
しかしディアナはそれを読んだのか、大剣を構えなおし、槍を受け止め……
「なしよりのありってとこかな?」
大剣に雷がほとばしり始める。
「……!」
「てことで、決めさせてもらう系ね。{秘剣・オオイカズチ}!」
そのまま大剣を振り下ろすと同時に……
ガァン!ズド~~~ン!
「……」
真っ黒な剣閃が、地面に残っていた。
とてつもないパワーの雷が地面に落ちた。と言うことだろう。
「……ほーん……さりげ、すごくね?」
と、つぶやくディアナ。
「な……何が{さりげ}だ……新しい味噌汁の種類かよ」
寸前のところで、俺は回避していた。
・
・
・
「{秘剣・オオイカズチ}!」
唸りを上げ、下りてくる大剣。
「(くそ、あぶねぇがやるしかねぇ……)」
俺はその前に、長剣を構える。
「{デストレイル}!」
そして長剣に黒い闇が集まり……
剣を振り上げ、二つの武器が激突すると同時に、大きな衝撃が走った。
そして、その衝撃に乗り……俺は後ろに跳んだ。
・
・
・
結果的にHPは減ったが、それでもデストレイルの分だけで済む。
あれだけの破壊力だ。直撃すればよくて瀕死だろう。
「あんだけ秒で考えが浮かぶとか、アンタ相当頭切れるね。エモいわ」
「相変わらずお前が何言ってるかはわかんねぇが……褒めてるってことでいいんだな?」
「めっちゃ褒めてるよ。まあなんつーかあれだね」
そのまま走り寄ってくる。
「そろそろケリつけたい系だから!」
「あぁ、そうかよ」
しかし、デストレイルによりかなりの体力を消耗している。
長期戦になればなるほど不利になるのは俺の方だ。
「{ダーククラック}!」
「そんな秒で解けるデパフかけてどうする感じなの?」
「こうする感じだ」
俺はブーメランを、見当違いの場所に投げ込んだ。
「なっ何を……」
直後にディアナにかけていたダーククラックが解ける。
「{シャドウレーザー}!」
「!{パワーシールド}!」
シャドウレーザーをパワーシールドで防ぐディアナ。
「……(いや、違う……シャドウレーザーは囮……?てことは)」
手元に戻ってくる分のブーメランによる攻撃がディアナに命中。
その直後に、俺が槍でディアナを刺す。
「うぐっ……!」
多少は効いているようだが……
「この……!」
薙ぎ払い。
再び俺は距離を取り、ブーメランを投げる。
「二回も同じ手は通用しないって!」
「あぁ、{本当に同じ手}ならな」
「えっ?」
両手を伸ばし、そのままじっと直立。
「な、何をしたの……?」
「さぁ、何をしただろうな。当ててみろ」
「でも、今更変わらないっしょ!次で決めるよ!{秘剣・オオイカ……」
その時だ。
「……!(ちょっと待って、いきなりこいつ、攻撃をやめたりする……?)」
違和感に、武器を振るスピードが落ちる。
(てか、武器すら持ってない、その余裕って一体何……?)」
辺りを見回す。
(あ、あれ?あそこにあった倒れてた柱……まさか!?)
その、まさかだ。
ディアナの頭上に、大きな影が迫る……!
「!?」
「{グラビティアップ}!」
ズウン……!
「……芸がないな。我ながら」
先ほどの槍使いの女に使った手法と同じだ。
ブーメランを投げた直後に、倒れていた柱に手を触れて……
グラビティダウン、アップの順番でかけて、相手側に落とす。
グラビティダウン、アップを使うとどうしても単調になってしまうな……
だが……
「!?」
直後、縦に落ち、地面に突き刺さった柱を、ディアナが大剣で力任せに引き裂いた。
まるで紙切れでもハサミで切るかのように、簡単に真っ二つ。
「てっきりウチに落としてくると思ったら、見当違いな場所に落とすとか……
マジ意味不なんだけど、もしかして、ウチをなめてんの?」
徐々に砂ぼこりが晴れる。
「なめてねぇから、こうしたんだろ?」
長剣に黒い闇が集い始める。
「は!?アンタさっきデストレイル使ってHPがないはずじゃ……!?」
「だから、回復したんだよ」
俺の足元にポーションの空き瓶が落ちていたのに、ようやくディアナは気付いた。
「ちゃけば……いつ回復したの……!?」
「今だよ。お前の言葉を使えば、{秒で}」
「!?」
「{デストレイル}!」
剣が閃く。
同時に、俺は膝から崩れ落ちた。
同じくまともに受けたディアナもくずおれ、尻餅をつくように座り込む。
「ぐっ……短時間で2回も使うもんじゃねぇな……これ……!」
「無茶しすぎっしょ……力使い果たしてどうすんの……ときとば考えなよ……
まぁ、でも……」
立ち上がるディアナ。
「そういうガッツ野郎、ありよりのありだけどね。ウチとしては」
……まずい。いよいよ俺としても、なすすべなしだ。
かと、思いきや……
「ほれ、メダル」
チャリン!と2回、軽い音が鳴る。
「お前……!?」
「アンタなら、あの仮面の奴に勝てるかも知れないし。
ウチはこれでゲームオーバーだけど、アンタと戦えてバイブス上がったし、
別にいいかな~って」
「……」
と、その時だ。
「……あれ?何やってんの?タイガに……ディアナも」
背後から声。……ポラリスだ。
「ん?ポラっちゃんじゃん。どした?」
「その呼び方はやめてって、何回も言ってるじゃないか」
「……は?」
そして二人の顔を見比べる……
「てか二人とも、ひどいケガじゃないか!?
とりあえずタイガには{サンライトキュア}かけとくね!?」
「あぁ、悪い……」
ついでにエーテルもわけてもらった。
「あ~、ウチはいいよ。こうなったのウチのせいだしね」
「え?タイガ、ディアナと戦ったの!?」
驚いた様子のポラリスに、俺はこくりとうなずいた。
「そ、そうだったんだ……」
「つ~か、ポラっちゃんタイガとBFだったはずっしょ?
ウチ、ポラっちゃんとタイガがケンカ別れでもしたかなと思って、タイガとバトったんだけど」
「そ、それは……」
言いにくい様子のポラリス。
「あ~、またゲコに追いかけられたとか」
黙るポラリス。うん、大当たり。
「そういうことだったらウチのHGTみたい。ごめん、タイガ」
HGTが何かはわからないが、頭を下げるディアナに、『別に構わない』と声をかける。
「あ~、H(早)G(合)T(点)ね」
ポラリスはなぜかわかったようだが……
「やっぱ、ウチのメダル1枚でもいいからタイガが持ってってよ。めんごの印」
「そう言われてももらえねぇよ。仮に1枚受け取ったとしても……
次やられたらゲームオーバーになっちまうんだぞ」
「え?どういうこと?」
「なるほど……要は仮面をつけた奴にボコボコにされて、ここで身を隠してたんだね」
「ま~、そういうとこ、軽く病み入ってた」
しかしどうして、ポラリスはディアナがしゃべる言葉を理解できるんだ……?
「そいつの特徴、何かある?」
「う~ん……確か……」
次の言葉に、俺たちは確信を持った。
「黒いコート着てて、装具使いみたいな奴だった。仮面の上の穴からポニテ生えてて、
体つき的な意味で女だと思う」
「その人、どこで出会ったの!?」
「ん~、南の森ん中。ウケるくらいマジ強すぎて歯がたたなかった」
「タイガ……」
……そう、その女はおそらくツバキ。
やはりツバキは、プレイヤーとしては強いようだ。
だが……なんだろうか。この違和感。
イベントが始まる前にツバキを目撃してから、ずっと付きまとう違和感。
「……とりま、アンタたちはまだイベント続いてんでしょ?ほら、頑張んなよ」
そう、ディアナが言った時……
「!?」
突然石畳が沈み始めた。
「な、何!?」
「ちょっ聞いてないって!マジビックリなんですけど!?」
そのまま石畳は沈み続け……
ガゴォン!
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天地一閃 大剣 消費SP:25
【大剣の上級スキル。地面をたたき斬ると同時に、巨大な衝撃波を走らせる。
隆起する地盤により範囲も広い。クールタイム:50秒】
パワーシールド 大剣 消費SP:40
【大剣を地面に突き刺し、一度だけあらゆる攻撃を無効化する裂帛を発生させる。
レベルアップで防げる範囲が増え、他の仲間も防げる。クールタイム:3分】
秘剣・オオイカズチ 大剣(雷) 消費SP:50
【ミカヅチ武者専用スキル。大剣に雷を走らせ、斬ると同時に雷を落とす。
非常に威力が高いが、範囲が狭く斬撃が当たらないと雷が発生しない。クールタイム:1分】
ミカヅチ武者
【大剣と雷得意。そして槍をサブ武器として装備できる上級職。
大剣の斬撃スキルを数多く覚えられる】
大剣使いギャル、ディアナ。
しかしディアナちゃんがしゃべってるような言葉、今も使われてるかはわかりません(汗




