イベント開幕、それと同時にあちらこちらで戦闘祭り。
……目を開けると、そこは草原のど真ん中だった。
「ここが……」
「みたいだね」
ポラリスは、マップを開いた。
「……うん。どうやら」
そのマップを見ると、赤い点が記されている。
「ここがボクたちが今いる場所。島の北側……だね」
島全体が雪の結晶のような形になっていて、俺たちは北にいる。
「どうするの?タイガ。ここから動くか、動かないか」
「動かないほうがいいだろうな、とりあえず」
「……理由を聞かせて」
「もし下手に動き回って、敵と出会う度戦闘になってみろ。
俺はともかく、ポラリスはSPがそこまで高くない。
お前は優秀なスキルを多く持つから、あまり浪費は避けたいところだからな」
「つまり、1日に動く時間を限らせる……と言うことだね」
こくりとうなずく。
「……とりあえずここは見晴らしがよすぎるな。他のプレイヤーの格好の的だ」
「南に森があるね。行ってみようか。そこなら多少身を隠す場所はあるはず」
森に入ると……
「おや、君たちもここに来たんだね?」
「?」
いかにもおぼっちゃまと言った見た目の、弓使いの男が立っていた。
「あぁ、注目を集める僕のオーラが、時に憎いよ!」
気障なポーズをとりながら……
キラーン!
「狙った獲物は逃がさない!その弓は百発百中!」
ズビッ!
「僕に出会ったその瞬間、君の命は僕の手の中!」
ズバッ!
「風属性の弓使い、吹き荒れさせるぞオーラの嵐!」
シャキーン!
「人呼んで、神弓の」
あ。ポラリス、弓射っちゃった。
「……えっ……名乗ってる間に攻撃するのは……卑怯……」
「君の敗因はただ一つだよ」
ポラリスは弓を下ろし、こう言った。
「色々長い」
あ~、ポラリス、一度見た変身ヒロインものの変身シーン早送りするタイプだな……
男がいた場所に、メダルが落ちてくる。
「ゲット。だね」
「お、おう……」
と、更にそこへ……
「そのメダル、もらったぁ!」
「!?」
斧を持った女が、俺に向かって斧を振り回す。
「{大木割り}!」
寸前のところでそれをよける。
女が横に振った斧は、大きな木をなぎ倒していた。
「なるほど、パワーは強いみたいだ……」
「次は外さん!」
と、女が斧を振り上げた。
「はっ!」
「ぐ……!」
その隙を逃さず、槍を女に突き刺す。
……正直、女に手をあげるのは気が進まないが……そうも言っていられない。
なにせこれはプレイヤー同士の戦争なのだから。
しかし1撃では倒せない。あまり腕力を上げていなかったからなぁ。
「貴様ぁ!よくも姉さんを!」
「姉さん!おのれ!メガネの分際で!」
背後から二人の男女が武器を構えながら突撃してくる。
「メガネの分際は……余計な一言だよ!」
勢いをつけてブーメランを投擲。3人に斬撃がヒットし、ブーメランを掴む。
「ポラリス!」
「{アローストライク}!」
ポラリスの矢が閃いた。その矢はまっすぐに男を貫き……
その男は消滅した。
まず一人撃破。
「弟!」
「悪いな。俺も必死なもんで」
「!?」
「{パワースラッシュ}!」
重い一撃を女に浴びせると、女も消滅。
「ひ、ひぃ~……!」
残った槍を持った女は森の中を逃げる。
「待て!」
俺は追いかける。
……その際、左手であることをしながら。
「よしっかかったわね!」
「……?」
女は背後にある川に飛び込み……
「さぁ、水属性得意の私を捕まえてみなさい!」
その川を泳ぎ始めた。
「ほらほらどうしたの!早くかかってきなさ……い……?」
女を追わず、左手を挙げる俺。
「……な、なんで武器をしまって……」
その時、女の頭上で大きな音が鳴った。
その音は唸りを上げ、徐々に大きくなっていく。
「{捕まえてみろ}って?わかった。やってやるよ」
俺は左手を振り下ろした。
「{グラビティアップ}!」
先ほど斧の女が倒していた大木を、女が泳いでいた川の下流に沈める。
その勢いで大きな水しぶきが立ち……
「{アップトリップ}!」
その水しぶきが晴れると同時に、ポラリスが女の頭上へ移動し、弓を構える。
「い、いや……!」
「ごめんね」
「いやああああああ!」
正確に女を射抜いた。
一気に3枚ゲットだ。
「……幸先がいいな」
「うん。でも驚いた。まさか相手が倒した大木を、そのまま利用するなんて……」
「我ながら割と無茶したとは思う」
追いかける前に、武器をしまって倒木を触る。
こうすることによって、グラビティダウンをかけられる。
川へは走って10秒ほど。正直ギリギリだったが、レベル4になっていたので間に合った。
……4枚メダルを集め現在は8枚。とはいえ、当初の予定よりも多くSPを使ってしまった。
「こんな感じの戦闘が、ずっと3日間続くわけだな」
「むしろこれは、留まるより動き回っていたほうがいいかもね。
今の水しぶき、結構高いところまで上がっていたから、目印になるかも知れないし」
「そうだな。とりあえずここは離れよう」
森を抜けると、そこは丘陵地帯のような場所だった。
「ここも割と、見晴らしがいいね」
「敵に会ったらその時だろ?その時に考えればいいんだ。
それにこの辺りの敵は、それほど強くはなさそう……」
と、その時だ。
「!?」
「グゴォ!」
【ばくはつガエル レベル22】
「なんだ、カエルか」
「ひぃっ!」
……『ひぃっ!』?
「ど、どうしたんだよポラリス。ただのカエ」
「その先を言わないでえええええ!」
何故か弓を俺に構えるポラリス。
「わ、わかったから、俺に向かって弓構えるな!」
「グゴッゴォ!」
するとばくはつガエルの腹が膨らみ始める。
「と、とりあえず倒すぞ!ポラリス!」
………………シーン。
「ポラリス……?」
振り返ると、頭を抱えながらぶるぶると震えるポラリスの姿が。
「あの、ポラリスさん。戦闘なんですが」
「……タイガ、逃げよう?ね?」
「なんで?だからカエ」
「ぎゃああああああああ!」
ポラリスは、脱兎のごとく逃げ出した。
「お、おい!?」
俺もそれを追いかける。……てか、上級職になってから本当足速くなったよな、ポラリス。
「はぁっはぁっはぁっはぁっ」
「お、お前……鎧着てる……奴に走らせんなよ……」
「ご、ごめん、タイガ……」
しかしすごい狼狽の仕方だったな……
「あのさ、ポラリス。なんでお前あのカ……」
「……」
今にも泣きそうな目をこちらに向ける。
「……両生類、苦手なんだよ」
慌てて言い直す。
「な、なんでって……と、トラウマ……だし……」
「トラウマって……あんな奴が?」
「あんな奴だからだよ!ぬめぬめして気持ち悪いし!しかも油断したら跳んでくるし!
何より胃袋口から吐き出すんだよ!?あんな生き物好きな人この世の中にいると思う!?」
珍しく取り乱しているポラリス。これ以上突っ込まないでおくか。
「あ~、わかった。つまり口に出さないようにすりゃいいんだな」
「う、うん……」
まだブルブルと震えているポラリスと共に、俺は丘陵地帯を抜けることにした。
と、その時だ。
ガキィン!
「ん?」
剣戟の音が聞こえた。
「誰かいる。身を隠そう」
物陰からその様子を見ていると……
「!?」
「……」「……」
リエータとアキラが戦っている。
「はぁっ!」
リエータの突きを長剣でいなし、
「ふっ!」
すぐさま持ち替えた蛇腹剣を、リエータに伸ばす。
「やあっ!」
しかしそれを読んでいたリエータは、斧に持ち替えて振り上げ、蛇腹剣を跳ね返す。
アキラは蛇腹剣をすぐに引き戻し、今度は大剣に持ち替えて振り下ろす。
「っ!」
リエータはその一撃をかわし、今度は槍に持ち替えて、
「{ドラグーンバイト}!」
その槍を、前方に投げつけた。
「{ジンライ}!」
が、それを読んでいたのか、すぐさま長剣に持ち替えたアキラが前方に稲妻をほとばしらせる。
重々しい音が鳴ると同時に、リエータの槍が宙を舞う。
「はああぁぁぁ!」
「!」
それと同時にリエータが斧を振り回す。
同じように宙を舞う、アキラの長剣。
「……」
そして互いに意識を集中させ……
「{プロミネンス}!」
「{サンダーボルト}!」
二人で同時に炎と雷の魔法を使い、
チュド~~~ン!!
……砂ぼこりが晴れると、辺りに焦げ臭いにおいが立ち込める。
「……」「……」
しかし互いに無傷だった。
……当たらなかったのではなく、確実に技と技をぶつけ合い……
まるで、互いの力を試しているかのような感覚だった。
互いに抜刀しながらにらみ合い、空気が張り詰めている。
「……」
「……ふっ」
するとアキラは、手に持った蛇腹剣を納刀した。
それに合わせるように、リエータも地面に刺さった槍を引き抜き、納刀する。
「今はまだ、君とは本気で戦わないさ」
「うん。その方が、あたしとしても助かるよ」
顔を流れる汗を腕で拭い、笑みを浮かべるリエータ。
「あぁ、このイベントは3日ある。後にもし互いに余力があるなら……」
「その時はお手柔らかに、ね」
そして二人とも、背を向けて歩き去っていった。
「……すごい」
ポラリスは思わず声を漏らした。
「あぁ、すごい」
リエータは前回イベント1位、アキラは前回イベント3位。
トッププレイヤー同士の戦いは、これほどまでに目を奪われるものなのか。
俺とポラリスは、その場の余韻に酔いしれていた。
「……って、いけないね。ここにアキラが」
「{来るかもしれない}か?」
「あぁ、その可能性は……」
背後を見る。
「「……」」
もう一度、背後を見る。
「「アキラ!?」」
あまりの驚きに、少しだけ跳んだ。
「安心してくれ、今リエータと戦ったばかりだ。君たちと戦う気はない」
「そういうこった。お二人さん」
「まったく、見ていてヒヤヒヤしたでござる。{剣帝}のアキラ殿が敗れるのでは、と」
ヴァルガとホムラもいた。
……どうやら、俺たちがここに来て、アキラとリエータの戦いを見ていたことを悟られていたようだ。
「にしても、お前も戦闘狂が過ぎねぇか?いくら何でもパーティのオレたちに、
{手を出すな}はねえだろ?」
「ふっ。なら聞くが、風得意のヴァルガならリエータを止められるのか?」
「あ、そりゃ、確かに……」
こちらに視線を戻すアキラ。
「……見るに。君たちもすでに何枚かメダルを得ているようだね」
「あ、はい。一応」
「その調子でメダルを集めていくといい。僕たちのようなプレイヤー以外にも……
モンスターや宝箱の中にも、メダルが入っていることがある。よく探すことだ」
それだけを言うと、アキラは歩き始めた。
「ま、頑張りなよ、お二人さん」
「うむ、また縁があるならば、お会いしよう」
続いて、ヴァルガとホムラも。
「……ねぇ、タイガ」
「……」
「もし、ボクたちが強かったら、アキラはボクたちも……」
「かも知れないな」
今はリエータに感謝しよう。
しかし、リエータと戦ったばかりとは言っても『君たちと戦う気はない』。
まるで『俺たちでは相手にもならない』と言われているような感じがする。
……まぁ、事実なんだが……
「と、ぼんやりしている暇はなさそうだ」
「うん。そうだね。じゃあ次に……」
と、その時だ。
「ゲロォ!」
「ん?」
先ほど逃げたばくはつガエルが、どうやらこちらを追ってきたようだ。
「……結局は倒すしかねぇってことか……?」
俺は剣を構えた。そしてポラリスは……
「ぎゃああああああああ!」
また大声を上げて逃げだした。
「なっ!?待てよポラリス!ポラリス~~~!」
俺もかけ始めた。
「ゲロ?」
首をかしげているばくはつガエルなんか、目にも留めなかった。
ある程度走ってきたところで、遺跡のような場所にたどり着いて、
「ぜぇっ……ぜぇっ……ぽ、ぽ、ポラリス……どこ行った……?」
完全に見失ってしまった。
「くそっ……」
フレンドワープを使おうとするが、
「……使えないか」
まぁ、フレンドが参加していない場合、フレンドワープを使うとバグにつながりかねない。
当然と言えば当然だろう。
「ん?」
と、柱の陰に女性の影が見える。
「ここに来たってことは、ウチに用があるってことよね?」
その女性は、黄色のパイナップルヘア。そして褐色の肌をしていた。
甲冑のような鎧を着ており、背中には、身の丈ほどの大剣を背負っている。
「いや、さっきここに、マフラーをつけた男の子来ませんでしたか?」
「……」
にこりと少女は笑う。そして……
「!?」
その身の丈ほどある大剣を抜刀し、右肩に鍔の部分を乗せ、こう言った。
「ウチをシカトしてそんな質問されて、{それはですね}とか言うわけないじゃん?
マジウケんですけど。
ちょうど仮面のヤツにやられて{ショッキングピーポーマックス}してたとこだし、
アンタ、ちょっと相手になってもらおっか」
「……」
戦闘の意思があるようだ。
……だが、俺の頭はこんな考えに行きついた。
『ショッキングピーポーマックス』ってなんだ……!?
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大木割り 斧 消費SP:5
【斧の基本スキル。レベル3で{天蓋割り}に強化。
レベルMAXで{次元両断}を編み出し可能。クールタイム:10秒】
ドラグーンバイト 槍(炎) 消費SP:30
【ドラゴンライダー専用スキル。相手に向かって槍を投げつける。
槍が命中した相手には一定時間、炎ダメージを与え続ける。クールタイム:1分】
剣帝
【長剣と雷得意。サブ武器として、大剣が装備できる上級職。
強力な剣スキルを多数覚える】
ジンライ 長剣(雷) 消費SP:30
【剣帝専用スキル。斬ると同時に雷をほとばしらせ、敵をスタン状態にする。
レベルMAXで{ライジンイッセン}に強化。クールタイム:50秒】
サンダーボルト 雷 消費SP:25
【雷属性の上級スキル。激しい雷を放つ。
魔法の速度が速く、威力が高い。クールタイム:50秒】
ポラリスは闇とカエル弱点。
ちなみにカエルが胃袋を吐き出すのは、異物を飲み込んだ時や嘔吐する時らしいです。




