かくして頭の良さは、若干役に立ったみたいです。
咆哮と同時に飛び立つアストライオス。
上空を自在に飛び回る美しいその姿は、まさに星の神の名を冠するにふさわしい。
「おそらくあれは光か風属性。ボクが援護するから、ツバキ、お願い」
「俺も援護する。シャドウレーザーなら効果的なはずだ」
「わかりました」
俺たちがしゃべり終えると、即座にツバキは走り出す。
「ビエエエェェェイ!」
それを見たアストライオスは、ツバキに真空刃を飛ばした。
「っ!」
余裕をもって左側へ回避。
「{スパローキラー}!」
矢を射るポラリス。そしてアストライオスに命中。
……と、アストライオスの結晶が剥離し、地面に落ちた。
「?」
「{スラッシュキック}!」
続いてツバキの蹴り。
腹部を狙ったようだが、翼に命中し、再び結晶が落ちる。
「なんだ……?効いているのか……?」
するとアストライオスの剥がれ落ちた結晶の部分が、
「!?」
赤色の結晶に生え変わった。
「よけろ!ツバキ!」
「え?」
そして赤い結晶が煌めくと同時に、アストライオスは……
「くっ……!」
炎を吐き出した。ツバキは後ろに跳び、なんとか避ける。
「炎!?」
「ビアアアアアアア!」
そして生え変わった結晶以外の、残りの結晶を飛ばしてくる。
「{ホーリーシールド}!」
いくつかを跳ね返すが、まるで効いていない……
……どころか、全身が血のような赤色の結晶に生え変わっていた。
そして地面に落ちた結晶は跡形もなく消滅し、何も残らない。
「ガアアアアア!」
そのまま炎を吐き出す。
「むわっ!」
俺狙いだ。俺は間一髪で転ぶように横に跳んで避ける。
「あ、あぶねぇ……!」
「大丈夫?タイガ」
「俺は大丈夫だ。それより……ツバキだ」
ツバキは小さな動きで、アストライオスの攻撃をかわす。
「くっ……ぐうっ……!」
「?」
いや、動きが少し大きくなっている……
「はっ!」
ダッシュした後アッパーカートを放つが、
「!?」
豪快に空振りしてしまった。
「ビエエェェェイ!」
「ぐっ……!」
「{シャドウレーザー}!」
ツバキを庇うように、手からレーザーを放つ。
またポロポロと、翼の先端の結晶が落ちる。
「……」
体力がまるで減らない。が、挑発の役目としては上出来だろう。
「ビアアアアアアア!」
炎を吐こうとするアストライオス。
「{ミルキーウェイ}!」
大量の結晶が落ちる。
赤い結晶が花畑のように、地面に赤く染める。
「{アッパーブレイク}!」
ツバキも結晶の生えている部分を……
いや、おかしい。
「ポラリス……」
近付いてきたポラリスに話しかける。
「うん、タイガの思うとおりだと思う」
そう、ツバキはチートめいた自分の素早さに対応出来ていない。
いや、違う。無理矢理素早さを上げさせられたせいで、対応出来ないというのが正しい。
そしてその素早さを上げさせられている相手は、間違いなくレックス。
「ダメ……効いていません!」
するとアストライオスは、身にまとう結晶をすべて剥がし落とし……
「ガアアアアア!」
今度は群青色の結晶に生え変わった。
「!?」
「グギャアアアアアア!」
そして、鉄砲水のようなブレスをツバキに向かって吐き出す。
……なるほど。
そういうことか。
「くっ……!」
間一髪よけるツバキ。しかし足を滑らせてしまう。
「ツバキ!」
ポラリスがアップトリップを使い、アストライオスの頭上へ向かう。
「グガア!」
しかしそれより早く、アストライオスが身を翻してポラリスを待ち構えた。
「あがっ……!」
巨大な翼で殴打されるポラリス。
「ポラリス!」
「うぅ……大丈夫。多少は痛かったけど……」
再びアストライオスの口の中に水がたまりだす。
「{ホーリー、シールド}!」
寸前のところでホーリーシールドを使うが、やはり跳ね返しは効かない。
「どうします……!?このままだと……!」
「……俺に考えがある」
「お、どういう感じの?」
俺は二人に、作戦を指示した。
「ええぇ!?でもうまくいくかな……?」
「俺の考えが正しかったら、多分行けるはずだ」
「……わかりました。試す価値はあるはずです」
二人とも走り出す。
……その際に、俺はツバキの左肩を触っておいた。
「{シャドウレーザー}!」
空を飛んでいるが、特段素早いというわけではないようだ。
腹部の結晶をシャドウレーザーで狙い撃ち、結晶をはがす。
「{アップトリップ}!」
背後から高く跳ぶポラリス。その際にSP回復のエーテルを使い……
「{ミルキーウェイ}!」
無数の矢を射ち込み、背中の結晶をはがす。
「グギィッ!」
「はあああああ!」
更に少し遅れてジャンプするツバキ。
「{グラビティダウン}!」
そこへ俺がグラビティダウン。ツバキの左肩を触ったのは、これが原因だ。
ツバキの体はふわりと高く浮き上がる。
そしてアストライオスの腹部と背中の結晶が、金色に変わった。
「……ここだ」
グラビティアップを唱える。
ぐうんと、ツバキの体が重くなり…
「{旋風拳}!」
風を纏ったツバキの右腕が、吸い込まれるようにアストライオスの背中へ。
「ぐううううううう……!」
結晶に徐々にヒビが入り…
「うおおおおおお!」
破砕。そのままアストライオスの剥き出しの背中を殴りつける。
「ゲギャアアアアアアア!」
案の定、かなり効いている!
・
・
・
……俺が出した作戦はこうだ。
「こいつは多分、結晶が生え変わるたびにその色にまつわる得意属性に変わるんだ。
だから今は群青色……つまり水得意に変わってる。攻撃方法も鉄砲水だしな。
そしてさっきも翡翠色だと真空刃、赤色だと炎に攻撃パターンが変わった」
「つまり次は雷得意……あっ」
ポラリスが気付いたようだ。
「その通りだ」
「私が風属性得意ですから、私に攻撃をしてほしい、と言うことですね」
「そういうことだ。多分、その考えであってるはず。
俺とポラリスの攻撃であいつの属性を変えるから、お前はその時の攻撃を頼む」
「ええぇ!?でもうまくいくかな……?」
しかしポラリスはまだ疑問。
「俺の考えが正しかったら、多分行けるはずだ」
「……わかりました。試す価値はあるはずです」
そう言ったツバキだったが、少し迷いがあるようだ。
「大丈夫だ」
「え?」
「俺たちを信じてくれ。お前のその素早さを信じられなくても……
今は俺たちを信じてくれ」
それだけを言うと、ツバキは……
「……信じる……はい!」
力強くうなずいた。
・
・
・
「グガアアアアア!」
「きゃあ!」
激しい痛みからか、結晶を纏うのも忘れてツバキを振り落とそうと暴れだす。
「ぐっ……!」
尻尾付近の背中にしがみつき、体重をかけるツバキ。
「ツバキ!」
「……」
しかしツバキは、ただしがみついているだけではなく……
「……切れました!タイガさん!」
「やっぱまだレベル1だと、効果時間が短いな」
ふわりと、上昇しようとするアストライオス。
「悪いが、その状態ですでに詰みだ。{グラビティダウン}!」
俺がグラビティダウンをかけると、
「ガギッ!?」
急にツバキが軽くなり、バランスを大きく崩すアストライオス。
「そういうことだよバケモノ!{スパローキラー}!」
ギュン!
「ふっ……!」
ジャンプしてスパローキラーをかわす。
直後、正確に背中を穿つスパローキラー。
「……大丈夫、至近距離なら外さない!」
グラビティアップをかけなおさずとも、ツバキはほぼ無重力の状態のままでアストライオスの背中へ接近。
「{烈風脚}!」
風を纏った足が、アストライオスの背中を蹴り抜く。
「アギャアッ!」
相当効いたのか、背中を向けたまま地面に向かって真っ逆さま。
「{シャドウレーザー}!」
そして俺が、トドメのシャドウレーザー。
ドゴ〜〜〜ン!!
……砂ぼこりが晴れると、アストライオスは跡形もなく消滅していた。
強大な敵を何とか倒した疲労感よりも、初めて俺のリアルな知力が役に立った気がする。
その嬉しさの方が大きかった。
「わっ」
と同時に、上空からツバキが落ちてくる。
しまった。グラビティダウンの効果が切れた。
「ツバキ!」
さすがにあの高さから落ちてしまうとダメージは大きい。
「{騎士道}……!」
ドスン……!
「あいったたたた……ごめんなさい、油断しました……」
何かに座り込んでいるツバキ。
「……」
そのツバキを見つめるのは、ポラリスのみ。
「あ、あれ?タイガさんは、どこに……?」
「し、し、下だ……」
騎士道で一気に移動したはいいが、ツバキに激突してしまったようだ。
ツバキは俺の背中の上に座り込んでいる……
「ご、ごめんなさい!」
「あ、あぁ……間に合ってよかった」
「……」
その時、ポラリスはこうも思っていた。
(……なんかいい雰囲気……ボクいないほうがよかった……?)
奥に進むと、宝箱があり、さらにその奥には出口と思われる竪穴も見える。
「これは誰が開ける?」
と、ポラリス。
「では、あなたが」
譲るツバキに対し……
「本当にいいのかよ」
「え?」
と、俺の目が光る。
「お前がここに来た目的は……俺たちから奪われる前に、証武具を奪うためじゃなかったのか?」
「……」
「それはそうだろうね。だからこそ、ダークリゾルブの奴も来ていた。
キミがボクたちに加担することがあったら、キミを襲うためにね。
ちょうど{都合よく}状態異常に弱体化した明鏡のリボンを{都合よく}装備してるしね」
それを聞いたツバキは、
「そこまで、読めていたんですね」
と、あきらめに近い口ぶりで答える。
「確かにここでの私の役目は失敗に終わりました。
これから私の身がどうなるかわかりません……
仮にここで私がこれを持って帰っても、タイガさんとポラリスさんが……
ダークリゾルブを倒したのなら、私は帰還したところで処罰されます。
だから、あなた方がもらってください」
「……悪いな。お前がいなかったら、勝てたかどうかわからない奴だったのに」
首を横に振って、俺の言葉を制する。
「タイガさんの頭脳と、ポラリスさんの冷静な弓裁きがあってこそです」
……そういえば、ディグから装具を預かっていた。
「なぁ、ツバキ。お礼って言っちゃ変な話だけどさ」
「え?」
「これ。ディグさんがお前に渡してくれって」
青い装具を渡す。
「……」
しかしツバキは、それを受け取らない。
「……ごめんなさい……」
「え?」
「わかっているんです。私の能力値は、兄に操作されていると。
そして、わかっているんです。私も処罰されるべきだって。
だから……ディグさんも、巻き込めません」
それだけを言うと、ツバキは出口へと歩いていった。
「ツバキ……」
しばらく沈黙が続く。
「とりあえず、開けてみるね」
沈黙に耐えられなくなったポラリスが宝箱を開けると……
天衣フレスベルグ
【幻の結晶鳥を討伐した証。器用さと素早さが15上がり、
相手からの攻撃で命中率を下げられなくなる。超覚醒可能】
まぁ、この防具はわかるが……
「「……なんか、思ってたのと違う……」」
な、武器が……
飛刃オーキュペテー
【例外武器の一種のブーメラン。投げることで遠距離の敵を攻撃可能。
投げる攻撃は器用さ、近接への攻撃は腕力に依存。超覚醒可能】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……」
振り返るツバキ。
「……」
ほんの少しだけ、笑みを浮かべた。
久しぶりに、楽しい。少しだけそう思えたからだ。
そして懐に手を伸ばし……
「……!?」
……ない。
大事にしていた、家族の写真がない。
「どうして……!?」
「どうして?それはオレが聞きたいところなんだが?」
「!?」
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スラッシュキック 装具 消費SP:25
【装具(足)の上級スキル。鎌のように鋭い蹴りで、相手を吹っ飛ばす。
縦蹴りを放つと、威力が上がる。クールタイム:50秒】
アッパーブレイク 装具 消費SP:25
【装具(腕)の上級スキル。鋭いアッパーを放つ。
相手の防御力を確率で下げる。クールタイム:50秒】
旋風拳 装具(風) 消費SP:40
【ツムジニンジャ専用スキル。風を纏った拳で相手を殴りつける。
命中率がやや低いが、威力が高い。クールタイム:1分】
例外武器の仕様は次回解説します。




