人ってのは十人十色。いろんな悩み持ってるもんだ。
「……」
俺は無言で、奥へ駆け出そうとする。
「ちょっタイガ!ツバキは」
「わかってんだよ!それぐらい!」
「!?」
それでも制止しようとするポラリスの声に、俺は大声を上げた。
「あいつが何をしてるか、どんな奴かくらいわかってる!
でも、だからこそ俺はあいつの行動の真意を知らなきゃいけねぇ気がするんだ!
あいつは俺が初めてログインした時、助けてくれた奴なんだ!
何も知らねぇまま{はいそうですか}って言えるわけねぇんだよ!」
「……」
腰に手を当てながら、俺の方を見つめるポラリス。
「……じゃあ、勝手にしてくれ。ボクはボクで、1人で探しに行くから」
「はぁ!?何言って」
ポラリスは弓を納刀し、俺に背を向けながら奥へ向かう。
「違法プレイヤーとして限りなく真っ黒なツバキをここまでかばうなんて……
正直、見損ないました」
「……」
それだけを、言い残して。
敬語で話していた……ということは『雨宮大河』に対する失望なのだろうか。
「……」
俺は孤独の中、ツバキを探し出すことにした。
とはいえ、1人きりになると当然のごとく戦闘はきつい。
シャドウレーザーをあまり連打していると、すぐにSPが切れてしまう。
そして、鎧が重く体力が奪われる。
「……くそっ!」
戦闘に時間がかかる……
いや、そもそも戦闘する必要もあまりないんじゃないか?
理由?まぁ、なんとなくだ。
なら、やることは簡単だ。
「{ダークフォッグ}」
ひたすら敵から逃げる。
「ツバキ!どこにいるんだ!ツバキ!」
俺が大声を出す。
「……ツバキ!」
と、その時……
「!?」
ツバキが、触手のようなものに捕まえられていた。
「マンドラゴラ レベル16か」
「グガ?」
{セイントニードル}を飛ばしてくるマンドラゴラ。
「{シャドウレーザー}!」
光属性相手ならいける。
一撃でマンドラゴラは消滅し、ツバキは触手から解放された。
「ツバキ!」
「……」
……どうやら、眠っているようだ。
「……?」
おかしい。
今までのシリーズで、マンドラゴラは眠り攻撃など使ってこなかったはず。
とにかく、ここに長居していると、また次の敵が来そうだが……?
「仕方ねぇ」
俺はグラビティダウンをツバキに唱え、背負っていくこととした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……懐かしい。
よく昔は、兄さんにこうやって、おんぶとかしてもらったなぁ。
……でも……
「父さん!母さん!なんでだよ!なんで二人とも……オレとツバキを置いて……
なんでそんな勝手に……死んじゃうんだよ!」
私が高校1年、兄さんが大学3年生の時だった。
まるでレースゲームのような、突然左から曲がり切れなかった車に正面衝突して、
父さんも母さんも、即死だった。
結婚記念日に、おいしい料理を食べて「これから帰るわね」と母さんから連絡があって……
そしてこの……二人との早すぎるお別れ。
有名な資産家である父さんの跡取りには、母さんも亡くなったから、兄さんが選ばれた。
それから……兄さんは……
……変わってしまった。
毎日毎日、自分が出来ないことを私にあたって……
毎日毎日、私が出来ないことはやり玉に挙げて……
そんな折、出会ったのがこのワールドオーダーオンラインだった。
ここにも兄さんは、毒牙を立ててきた。
「いいか、お前はオレの引き立て役だ。お前がオレを引き立てて、オレが1位を取る。
そしてオレの名前を、この世界中に轟かせる。いいな?」
「で、でも……」
「大丈夫だ。お前が戦いやすいよう、すでにハッカーたちに働かせてある。
お前はオレのおかげで強くなれるんだ。嬉しいだろ?」
「そ、そんなことしたら」
その瞬間、
「!?」
首を掴まれた。
「いいんだぞ?お前をこの家から断絶して追い出しても。そうしたらどうなるか、わかるよな?」
「……」
「わ・か・る・よ・なぁ?」
……うなずくしかなかった。それが悔しかった。
「わかればいいんだよ」
そして私にも聞こえるように……
「あ~あ、脳なしを抱えるって大変だなぁ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ん……」
「おう、気が付いたか」
「!?」
逃げようとするツバキ。しかし……
「{ダーククラック}」
「!?」
ガッチリと捕まえる。
「……傷だらけじゃねぇか。早く回復しろよ」
「わかってます……でも……」
ツバキの持ち物を見ると、何も持っていなかった。
しかもSPもすでに使い切っており、ヒールブリーズを唱える分ですらない。
「……お前、どういう」
「あなたには、関係ありません」
「あるだろ……じゃあ俺をブロックした理由だけ教えてくれ。
理由があるならちゃんと謝る。だから」
「……」
目を閉じるツバキ。
「……お前、俺に何か隠してるだろ」
「隠し事なんて、ありません。それに話すこともありません。
これ以上、私に構わないで!」
「……」
SPを回復するエーテルは、俺用に1個しかない。
……なら、やることは当然こっちだ。
残りのエーテルを…ツバキに振りかける。
「!?何をやってるんですか!?」
「何って……お節介?」
「そんなこと、しなくて」
次にハイポーション。
「……どうして」
「どうしてもだ。俺は初めてログインした時とか、魔法が使えない時お前に助けてもらったろ?
だから。それが理由じゃダメか?」
「……」
ツバキは観念した様子で、その場に座り込む。
「でも……ダメなんです」
「え?」
「今、ここで私をかばったら……」
と、その時だ。
「うっ……!」
突然倒れ込むツバキ。
「お、おい」
「やれやれ、こんな場所にいたんですか」
「……!?」
「ご安心を。{スリープブレス}をかけただけです」
全身黒ずくめで、仮面で顔を隠した男。
「ツバキ様を、こちらにお返しいただけませんか?」
「……」
こいつらが……噂のダークリゾルブか。
「……嫌だ、と言ったら?」
「いいえ、あなたに拒否権などありません。なぜなら……{ブラックアウト}!」
……目の前に、黒い闇が下りてくる。
「あなたは何をされているか、わからないままツバキ様を」
「{失うからです}か?」
「!?」
ブン!
「ちっよけられたか……」
「な、何故だ、何故目潰しが効かない!?」
「さぁな。なんでだと思うか当ててみろ」
答えは、ポラリスが作ってくれた砂塵のお守りである。
「ふふふ、しかしあなたはどう頑張っても私は倒せません。{シャドウガン}!」
黒い銃弾が飛ぶ。しかし狙いは適当なのか、狙ってこうなのか。
俺はたやすく避け、反撃しようとするが……
「!?」
剣が空を切る。
「ふっふっふ!{シャドウガン}!」
「このっ……」
何度振っても当たらない。
「アハハハハ!そんなか細い攻撃、当たるはずないでしょう!
ワタシは素早さに極振りしているので、あなたの攻撃は止まって見えますよ!」
「くそっ{シャドウレーザー}!」
ならばこっちだ。と魔法にシフトしても…
「無駄です!無駄なのです!」
シャドウレーザーは、あっさりかわされる。
「さぁ、どうします?ツバキ様を渡せば、あなたの身は助けてあげてもいいですよ?」
「……」
「もっとも、ワタシに勝つことなど不可能です。
素早さ極振りの……ワタシにはねぇ!
さぁ、どこからでも攻撃してみなさい!すべて避けて差し上げましょう!」
高笑いを浮かべる男。
「……つまり、正面以外からの攻撃には弱いよね?」
「え……?ぱげら!?」
背後から何かが命中した。そして男は消滅。
……矢だ。
「……イベント以外でプレイヤーキルは、あんまりしたくないんだけどな」
「ポラリス?」
「……」
するとポラリスは……
「ごめんなさい!」
と、深々と頭を下げた。
「……え?」
「実は、入口でこの男の気配に気付いて、この男の目的もなんとなくわかったんですけど……
だから、ツバキと大河さんを追いかけさせるために、嘘を言ったんです。
結果的に大河さんを利用してしまって、本当に……ごめんなさい!」
「……」
その言葉を聞いた俺は……
「やっぱりな」
「え?」
「嘘が下手だぞポラリス。つくならもっとマシな嘘ついたらどうだ。
お前、俺に嘘をつくのが本当は嫌で急に敬語に戻ってただろ?」
「え、じゃあ大河さん……最初からボクが来るのを知ってて……」
こくりとうなずく。
「……なんだ、よかった……」
ホッとしたような顔を浮かべる。
「にしてもさっきの奴も、ダークフォッグでも使ったんだろうな。
俺を追いかけてくるのが少し早かった。
ポラリスはここの敵はもはや敵じゃねぇみたいだったけどな」
「は……う、うん。光得意の敵が多いけど、弓を使えば何とかなるし」
と、そこで……
「ん……」
目を覚ますツバキ。
「よう、ツバキ」
「……!?」
「おい待て、もう逃げるのはなしだぞ」
「そうだよ。キミのことを知らないボクたちじゃない」
ポラリスがツバキの背中側に立ちふさがる。
「どうして……どうして私を助けるんですか……?」
「さっき言ったとおりだ」
「同じく。タイガの恩人ならボクは助けるよ。
……キミの行ってきたことは、多少なら目を瞑る。だから……
ボクたちを信じてほしい」
ポラリスの静かな口調に、ツバキは……
「……では、このダンジョンを突破するまで、です」
「あぁ、構わないぞ」
「これ以上……私の事にあなた方を巻き込みたくありません」
ダンジョンの中は、比較的一本道だった。
「{ダーククラック}!」
「{アローストライク}!」
手際よく倒していく俺とポラリス。
しかし……
「はぁ~~~!」
……ツバキの機動力は、頭一つ抜けていた。
「ウワ~」
マミーに囲まれても……
「{烈風脚}!」
鮮やかな回し蹴りで、まとめて蹴り飛ばす。
……強い。
「はぁ……」
「すごいね、ツバキ」
ポラリスが声をかけるが、ツバキの顔色はさえない。
「……どうした?」
「……いえ、何も」
そのまま俺たちは奥へと進む。
「……ねぇ、タイガ」
小さな声で、ポラリスが俺に語りかけてくる。
「……あぁ、わかってる」
「うん、ツバキの機動力、何かチートめいた動きに見えるね。
仮に素早さに極振りしたとしても、あれだけの鋭い蹴り技は出せないはず」
「つまり……お前の言うことが正しかったんだな、ポラリス」
こくりとうなずく。
「そしてツバキにチートを使わせている人物はおそらく1人……」
「レックスか」
「うん。……そしてツバキはおそらく、自分がチートを使わされてることに気付いてる」
「じゃ、じゃあ、俺たちを巻き込みたくない理由や、俺をブロックした理由って……」
「おそらく、ボクやタイガを{チート}の共謀犯にしたくないから、だろうね」
……ツバキの行動の真意が、ようやくわかった。
しかし……いや、だからこそ……
「……どうしましたか?」
「いや、何も」
「同じく」
「……」
そうして洞窟を進んでいるうちに、俺はレベル20、ポラリスはレベル30まで上がった。
ピロリン!
ソードファイタ―のレベルが、MAXになりました
上級職に進職が可能になりました
スキル{アトミックソード}を覚えました
スラッシュのレベルが3にあがりました
{パワースラッシュ}に強化が可能です
強化をする場合は、スキルの巻物を購入し、使用してください
アトミックソード 長剣 消費SP:12
【ソードファイタ―専用スキル。渾身の力を込めて剣を振りかざす。
威力は絶大だが、とにかく当てづらい。クールタイム:40秒】
「結構覚えたな。一度に」
「ここからは慎重にいかないとね。セーフティーゾーンの前にやられたらすべて台無しだ」
「そもそもこのダンジョン、セーフティ―ゾーンが」
と、その時だ。
「!?」
「広い場所に出たね……」
そして警告メッセージが出る。
【この先に強力な敵の気配あり。先に進みますか?】
俺たちは3人で頷き合い、一歩踏み出す。
直後、背後の鉄格子が下りた。
「……どうやらここが、最深部のようです」
「何かいるな……」
目の前に、巨大な鳥の石像が。
「……構えて」
「……」
臨戦態勢に入るとその瞬間……
「!?」
強い光が鳥のオブジェの胸にほとばしり、
鳥の石像にひびが入り、そして……
ドゴ~~~ン!
石像の中から、翡翠色の水晶を多数身にまとった、巨大な鳥が現れた。
「ビエェェェェェェイ!!」
【アストライオス レベル40】
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セイントニードル 光 消費SP:10
【光属性の基本スキル。レベル3で{セインフラッシュ}に強化。
レベルMAXで{テインクルスター}を編み出し可能。クールタイム:10秒】
スリープブレス 闇 消費SP:10
【灰色の霧を振りかけ、相手を眠らせる技。
レベルアップで発動確率増加。クールタイム:40秒】
ブラックアウト 闇 消費SP:10
【黒い闇の力で、相手の目蓋を無理矢理下ろさせる。
レベルアップで発動確率増加。クールタイム:30秒】
烈風脚 装具(風) 消費SP:50
【ツムジニンジャ専用スキル。足に風の力を纏い、蹴りぬくと同時に竜巻を発生。
広範囲の敵を一気に蹴散らす。クールタイム:1分】
ツムジニンジャ
【装具と風属性得意。サブ武器として、長剣が装備できる上級職。
装具の足技と、風属性のスキルを多く覚える】
次回、水晶鳥アストライオス戦。
タイガ、ポラリス、ツバキの3人は倒すことが出来るのか?




