初心者は驚きの行動に出やすいが、この驚きは予想の斜め90度くらい。
海岸地帯にやってきた。
ここはアップデート後に追加されたマップで、俺たちも来るのは初めて。
本当はじっくりと探索をしたかったが……まぁ、乗り掛かった舟だ。
……それにしても、
「はぁっはぁっ」
素早さが1しかないので、ついていくのがやっとのエル。
気弱そうな顔が、疲労によりさらにしょんぼりとした顔になっている。
「エル、本当に大丈夫か?」
素早さが81もあるので、足が速すぎて俺たちですら追いつけないアレン。
「きゅ、究極の、で、デコボコ、コンビだな……」
息を切らせながらなんとかついていく俺と、
「まぁ仲がいいのは結構なことだよ」
相変わらず余裕なポラリス。
「で、集める素材って……なんだ……」
「ん~、コーラルロッドはバブルクラブの甲羅が4つ。青いサンゴが2個。
そして……う~、しまったな。上質な黒鉄が4つ必要だ」
上質な黒鉄……北の洞窟はほぼ入れない。
となると、新しく増えたエリアで掘れるのだろうか。
「今フレンドに調べてもらうよ。とりあえずその間に素材、集めちゃおうか。
このあたりに出る敵も調べておきたいしね」
敵を調べる……多分後で掲示板に書き込む予定なんだろうな。
「手分けして素材を集める?この間みたいに」
「でも、またエキドナみたいな奴が出たらどうすんだ?」
「その場合も、今回は割とボクたち強くなってるし、大丈夫だと思う」
「慢心かよ」
慢心は本来、こういったゲームでは一番してはいけない行為だ。
……だが、ポラリスの言う通りでもある。
何より俺とポラリスが二人揃って手伝っているようでは、この二人はあまり育たないかもしれない。
……え?なら俺が一番依存してるって?あぁそうだよ悪かったな!
「ところで、タイガには妹がいたよね」
「あぁ、そうだが……」
「ボク、ひとりっ子なんだよね」
「うん」
と、言う自然な流れ(?)で、俺がエルと組むことになった。
「ご、ごめんなさい……足を引っ張るかも知れないです……」
「あ~いいっていいって。とにかく俺から離れるなよ?」
「は、はいっ」
可能な限りゆっくりと海に近付く。エルは後ろからゆっくりとついてくる。
ザバン!
「!?」
海から何か飛び出してきた。
「まほうエビ2体、サンダーイール1体……」
いや、なんで海に電気ウナギがいるんだよ。というツッコミはあえてやめておく。
とりあえずサンダーイールは速攻で倒す必要がある。
エルは水得意。雷弱点だ。
まほうエビは今までのシリーズでは水属性を使ってくるはずだ。
俺も弱点を突かれるが、まぁ、エルが突かれるよりはまし……な、はず。
「来るぞ、構えろ」
「は、はい……!」
エルは背中に背負った杖を抜刀した。
「……」
「{シャドウレーザー}!」
手のひらに闇の力を溜め、巨大な光線として撃ち込む。
黒い闇は、ものすごい速さでサンダーイールとまほうエビに迫り…
直後、ものすごい衝撃が走った。
すごい威力だ……!
サンダーイールは1撃で瀕死になり、それに連なったまほうエビは1撃で消えた。
サンダーイールは俺がトドメをさそう。と、思っていた時だ。
「グボボ!」
「!?」
しまった。
もう一方のまほうエビは、エルに向かって跳びかかった。
「そっちに」
と、俺が声を出そうとした時だ。
「ざけんじゃねぇ~~~!」
「「!!??」」
多分まほうエビも、同じリアクションをとったと思う。
改めて顔を見ると、先ほどの気弱そうな顔とは一転。
まるで戦闘を楽しむような顔になっていた。
そう、思っている間にも……
「オラァ~!喰らえやエビ野郎~~~!」
カキ~~~ン!と、言わんばかりの杖フルスイング。
まほうエビは、はじき返された。
……多分、アニメとかでは星になってるだろうな。あのまほうエビ。
「……」
俺、当然の、茫然。
と。いかんいかん。俺はサンダーイールに剣を突き立て、消滅させた。
「……おい」
「は、はい!なんでしょう!?」
エルのドスの利いた声に、何故か敬語になる。
「レベル3まで上がったんだが、何に割り振りゃいいんだ」
「えっええっと……ま、まぁ、振りたいものに振ればいいと思う。
ただ精神は、最初の頃は魔法攻撃を使ってくる敵そんないないし、後回しでいい。
あとは、スキルを多く使いたいなら知力とかに振ってもいいかもな。
腕力はもう余るほどあるから、別に今上げなくてもいいと思う」
「おう、ありがとな!……てことで腕力にっと」
あ~、ダメだこの子。俺の話聞かずに極振りするつもりだ。
そういうタイプね。武器持つと性格が変わるパターンの……
でも杖で性格変わるか普通!?
と、そこへ……
「ギシャ!ギシャ!」
カニのようなモンスター、バブルクラブだ。
1匹だけか。合計数には足りないが、確実に素材を増やせるだろう。
「おっあいつお目当てのカニじゃねぇか?今夜はカニ鍋にするか陰キャメガネ!」
「陰キャメガネ!?俺か!?」
「オメェ以外に誰がいんだよ!それともオメェは陽キャとか言うのか?」
「少なくとも陰キャではねぇわ!」
……いや、十分陰キャか……?
「とにかく行くぞメガネ!」
「だからメガネって呼ぶな!俺にはタイガって名前があんだよ!」
「おうそうかよ!なら行くぜタイガ!」
勝負は一瞬だった。
「どりゃあ!」
まるでどこかの魔王のような声と同時に杖を振り下ろすと、
バブルクラブの甲羅は左右に分かれ、1撃で消滅。
Get!【バブルクラブの甲羅】
「なんだ、戦闘って意外と簡単じゃねぇか!オレ、意外と才能あんのか?」
1人称も「わたし」から「オレ」に変わってるし。
……あれ?
もしやこの子、めんどくさい?
そう考えると、突然海が大きく波打つように見えた。
ん?
{大きく波打つ}……?
「あ?どうしたんだよ」
いや、違う、あれは……
「おい、離れろ!」
「!?」
俺が大声をあげると、
「ブオオオオォォォ!」
海を割り、巨大なクジラのような敵が現れた。
「シーホエール。レベル18……」
レベルは高いが、まだ戦える相手ではある。……俺は。
だが、もう1人……
「で、でけぇ!?これが噂のオーバーソウルって奴かぁ?」
「違う。一応ただのザコだ」
「ちぇ、なんだよそれ。まぁやることは変わりねぇ。ぶっ飛ばすか!」
杖を構えるエル。
「待て!お前ひとりじゃ勝てんぞ!」
「じゃあどうすんだよ!」
「そのための、ボクたちだよ」
背後に、ポラリスとアレンがいた。
「エル、ケガはないか!?」
「兄貴、心配性過ぎんだよオメェはよ。オレはこの通りピンピンしてっぜ?
そういう兄貴こそ大丈夫かよ」
「あ、まぁ……僕は」
手を二回打つポラリス。
「そういう話はこいつを倒してからだよ」
「ブオオオオォォォ!」
口に水がたまり始める。あれは水魔法の{ウォーターボール}だ。
「{ホーリーシールド}!」
光の盾が正確にウォーターボールを跳ね返す。
「……この技は下方修正されなくてよかった」
「へ~、やるじゃねぇかボクっ娘」
「ボクは男だ」
ツッコミまで早くなってんなおい。
「はあああああ!」
アレンが斧を振りかざすが……
「ブオゥ!」
まるで効いてない。……そりゃそうだよな。腕力1だし。
しかしその後のシーホエールのウォーターボールは……
ものすごいスピードで回避する。
さながら回避盾。といったスピードだろうか。
「{シャドウレーザー}!」
さすがの闇属性の威力だ。くせになる。
「オラァ!どけどけぇ!」
……が、その背後からエルが飛び出してきて、シーホエールに突貫。
「お、おい!」
「新しく覚えたスキルを、くらいやがれ!」
「待て、スキルは装備しないと使え……」
「{ハードヒット}!」
思い切りシーホエールを打つハードヒット……杖のスキルだ。
……あれ~?この子俺より説明書ちゃんと読んでませんかぁ?
「ブウオオオ!」
「!?」
しかしそれでもシーホエールは倒れず、頭突きをエルに放とうとする。
「エル!」
アレンが駆け寄る。……が、それより前に……
「{騎士道}」
俺がエルの前に飛び出し、攻撃をかばう。
直後、シーホエールの頭が目の前に。
「あがっ…!」
盾で防いだ上、証装備も装備しているが、それでも結構なダメージはある。
「ばっバカ野郎!勝手に飛び出した奴をかばう奴がいるかよ!」
「いるんだよ、ここに……!」
「……!」
エルは、何故か頬を赤らめていた。
「で、ちょうどいい事を思いついたもんでな……!」
「いい事?」
俺は剣と盾をしまい、エルの体に触れた。
「!?」
唖然として見ているアレン。
「なっ何を……!?」
「なるほど。アレン、キミもお願い」
「え?あ、はい」
エルとアレンはいまいちピンと来ていないが、ポラリスは俺が何をしたいのか分かった様子。
そしてアレンも俺に触られるにくる。
「ブオォォォ!」
妨害しようとするシーホエール。
「やらせないよ。{アップトリップ}!」
上空に飛び上がるポラリス。当然それを見上げるシーホエール。
「{グラビティダウン}!」
「うわっ!?」「なっ……?!」
それと同時に、俺はエルとアレンを浮かせる。
「{ミルキーウェイ}!」
高速で矢を射かけるポラリス。
さながら技名のように、星が降り注ぐようだった。
シーホエールはこれだけでも効いているようだ。
そしてあの二人は、シーホエールの真上にたどり着いた。
「……あ~、そういうこったな?兄貴」
「え?……ど、どうすんだこれ?」
「{グラビティアップ}!」
俺が腕を振り下ろす。
エルとアレンは、強い重力に乗せられ一直線。
「よ、よくわかんないけど、はぁ!」
「オラァ~~~!」
そのまま強い重力が乗った二人の一撃は、シーホエールに命中し……
シーホエールは、跡形もなく消滅した。
Get!【シーホエールの尾ビレ】
「ふう、何とかなったな……」
「お疲れ様、タイガ」
「あぁ。やっぱ鎧が強いと頼もしいが、疲れるな……」
もう鎧や剣に対するグラビティダウンは効かない。
……実は「触れたもの」ということは装備品でも行けるんじゃないか?と思っていたが、
やはりそうは甘くなかったようだ。
視界の先には、喜びながら話し合うエルとアレンの兄妹が見える。
多分、どこのステータスに割り振るか話し合っているのだろう。
「さて、次は上質な黒鉄を……」
と、伸びをしながらフレンドリストを確認しようとするポラリス。
が、その時だ。
「!?」
「?どうしたの?タイガ」
「いや、今何か音が……」
振り返ると、そこには上質な黒鉄が落ちていた。
しかも、都合よく4つも。
「……」「……」
黙って顔を見合わせる俺とポラリス。
落ちてある。ということはもう誰のものでもない。それはつまり、俺たちが使っていいのか?
でも、誰が……?
「なぁ、改めて確認なんだが……」
「……うん。海岸地帯には上質な黒鉄はない。まず間違いないと思う」
「……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はぁっはぁっはぁっはぁっ」
海岸地帯に通じる森林を、走っていく影。
「はぁっはぁっ(早く……戻らないと……!)」
「いい加減素直になったらいいのに」
「!?」
……リエータだ。
リエータは木に寄りかかりながら、「少女」に話しかける。
「本当はレックスの……ダークリゾルブの悪行に手を貸すなんて、嫌なんでしょ?
自分の力で戦いたい。自分の意志でやるべきことをしたい。……違う?」
「……」
「だって、キミの顔を見ればわかるもん」
「黙ってください……!」
握りこぶしを握る。装具の締め付けで、きしむ音が森の中で響き渡る。
「タイガ君やポラリス君の手助けをしたのはどうして?」
「……」
「本当はそうしたいから。じゃないの?」
「……黙ってください!あなたに何がわかるんですか!」
怒りをあらわに。
「最初のイベントで優勝して、トッププレイヤーに躍り出て、このゲームで何も不足なく遊べて、
束縛するものも何もなくて、自分の意見を押し通せて、自分の力でなんだってできる……
そんなあなたに何がわかるんですか!」
「わかんないから言ってるんでしょ!?」
「!?」
「いい加減自分の思いに素直になったらどうなの!?このままキミが彼に尽くしたとこで……
彼はキミの事、きっと何とも思ってないよ!道具にしか思って」
直後に、少女の右足が飛んだ。
「……」
「……話してる途中に蹴りを入れてくるなんて、案外キミも血の気が多いね」
渾身の蹴りを、左にいなす。
「うん。それがキミの答えなら、……付き合うよ」
そしてリエータは槍を手に取った。
「ツバキちゃん」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コーラルロッド
【サンゴを使うことにより、水の力を封じ込めた杖。
水属性スキル発動時にのみ、消費SPを2割減らす】
「色々と、本当にありがとうございました!」
エルは、出来立てのコーラルロッドを背中に帯刀し、深々と頭を下げた。
あの後残りの青サンゴを取るのに少し苦労したが、どうにかコーラルロッドを作成できた。
そして杖を構えていないと元に戻るエル。……豹変っておそろしい。
「僕からも、礼を言わせてください」
「いや、俺たちも一応レベルや職業レベルも上がったし、困った時はお互い様だしな」
「まぁ、そういうことだよ。イベントで会った時は手加減しないかも、だけどね」
笑い合う4人。
「そ、そういえば、イベントもあったんですよね……
わたしはお兄ちゃんと組むんですが、傷つけあうのは嫌なんで……」
「安心しろ。{初心者ボコって高笑いー}なことはしねぇから」
「は……はい……」
……また、頬を赤らめるエル。
どうしたんだろうか?さっきといい……
フレンド登録をした後、エル、アレンの兄妹と別れ、時計を見る。
「おっと……もう夕方の16時半だね」
「悪い。俺妹がそろそろ帰ってきそうだから、先ログアウトしとくわ」
「うん。また明日ね。タイガ」
ポラリスは笑顔で、俺を見送ってくれた。
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ウォーターボール 水 消費SP:10
【水魔法の基本スキル。レベル3で{アクアキャノン}に強化。
レベル5(MAX)で{メイルシュトロム}を編み出し可能。クールタイム:10秒】
ハードヒット 杖 消費SP:5
【杖の基本スキル。レベル3で{スマッシュ}に強化。、
レベル5(MAX)で{ロッドビート}を編み出し可能。クールタイム:10秒】
アップトリップ 光 消費SP:5
【トリックスター専用スキル。相手の頭上に一瞬で移動する。
ただし使用後、一定時間被ダメージが増える。クールタイム:10秒】
ダウントリップ 光 消費SP:5
【トリックスター専用スキル。近くの地面に急速落下し着地する。
範囲内に地面がない場所では使用できない。クールタイム:10秒】
ミルキーウェイ 弓 消費SP:40
【トリックスター専用スキル。大量の矢を一気に射かける。
破壊力も拘束力も高いが、出している間は隙だらけ。クールタイム:50秒】
豹変魔導士エル。全身鎧ですいすい動くアレン。
でこぼこ兄妹はこれからも登場します。




