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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界に召還された人達の話

悪逆非道の誘拐犯

作者: 宇和マチカ

お読み頂き有難う御座います。

異世界転移したお疲れ気味のOLの話です。

拙作 『異世界人に惚れたので』https://ncode.syosetu.com/n6177fs/の謎の異世界転移者若葉さんサイドのお話です。


 私、何処にでもいる、替えの利くポイ捨て上等末端歯車の木之崎若葉。

 まあ何だ、この卑屈な自己紹介からメンタルブラックだとお察しだろう。

 そう、……ブラック企業に雇われ中のお疲れ三十路。


 朝からコピー機はぶっ潰れ、何時から積みあがったのか分からない備品に躓きながら、今日も嘗ての同僚のクレームの嵐に巻き込まれ、メンタルはズタボロ。

 大わらわの部署を纏める上司は営業へと逃げ、誰も頼れない。

 ……だけど、逃げた同僚を怨めない。

 彼も積み重なった業務の前で、絶望の眼差しをしていたから。

 明日は我が身だ。

 ……逃走犯は私だったかも。


 だけど、この前更新したばっかのアパートの契約更新料に、ストレスでバカ食いたり買い物した分割払いに、同級生の結婚祝い金が私を待っている。

 それは凄く待たなくていい。

 未だに着ていない、素敵なピンクのフィッシュテールスカートは紙袋の中。


 ……どっか行きたい。

 ああ……富豪になりたい。


「つっかれた……」


 帰り道のコンビニのビールや新作スイーツに惹かれる心をぐっと我慢して……炭酸水のみを買い、後ろ髪を引かれつつ後にする。

 この頃の心の慰める手立て、それは実家から送って来た杏や梅を漬けた自家製果実酒っぽいものの炭酸割……。

 TVやお店のオシャンティーな代物ではもちろんない。

 100均のグラスなんざ買って来たその日に割ったから、入れ物はマグカップか湯飲みだ!

 虚しい!でも好き!!味は変わらない!虚しい!


「富豪になりたいなあ……」


 ……いや、実際なれる訳はないんだけど。

 て言うか富豪って何したら富豪になれるんだろうな。

 一山当てた人は一体どうやって一山当てるんだろう。

 そういう変なハウツー本買いそう。ヤバい。


 そんなくだらない考えも纏まらないままボケっと歩いてたら、電柱にぶつかりそうになって、足を止めたその時……。


 ん?電柱にツタが絡まっている。いや、ツタ?にしては……何だかメタリックだな。

 ……クリスマスのなごり?

 ……今、5月なのに。

 何で電柱に飾るの……。コレ、公共物だから勝手に飾ったりしたら違反じゃん。

 毟ってやろうとして、ふと手を止める。


 ……でもなあ、変な輩に絡まれたらどうしよう。

 最近自分のやってることを棚に上げてキレて来る奴のニュースも多い。

 やっぱりやめといた方がいいかなあ。


 私がメタリックなツタから手を放そうとした、その時……私の周りが一変した。

 目の前には……何て言うか、石の柱……外国っぽい景色が広がっていて……。

 そんな景色に目を奪われるよりも、違和感が有った。

 それは不似合いにも程が有る、ジャラジャラジャラ、とけたたましい音が鳴り響いていたのと。




「……やった!!成功だ!!やったぞ!!我々の金蔓を召喚した!!」

「は?」



 非常識な格好の、非常識な事を抜かす集団が、私を囲っていたからだ。





 ……後で聞いた所によると、こいつらによって私は誘拐されたらしい。

 くっそふざけんな!!

 後、ジャラジャラ煩いんだけど何だこれ!!金属製の球が転がるような音……パチ屋か!?

 あの音は本当に不愉快だった!!

 おかしいだろ!!人をお呼びするならもっと素敵で静かな環境を整えろ!!



「お前の祝福は何だ?ああ、楽しみだ!!我々へ幸せを齎す者よ!!」

「ふざっけんな、お前、極悪非道の誘拐犯かああああ!?」



 いやもう恐怖したね。訳分かんなくて。

 だーれも私の話聞かないから王子を叩いたし。

 そんなチャンチャラおっかしい召喚劇がつい2年前。

 ……あー、戻りたいけど戻れねえ。怠け心も育ってきたよ。


「若葉!若葉!!異世界産の体を調べさせて!!」

「煩い断る」

「どうして、私は貴女に興味が有るから、貴女に不誠実な真似は決してしない。尊厳は守るし、嘘も吐かない」


 この頃、綺麗な顔をしたガキンチョが私に纏わりついて来る。

 コイツは第二王子で、名前はフィアメルアンジュ。

 私を召喚した第一王子の弟だ。歳は18らしい。

 異世界っぽく、輝かしい銀色の髪に南国の海みたいな緑がかった青い目をしている。

 まあ、元の世界ではお目に掛かれない位の、信じられない位のイケメンだ。

 私と同じくらいの背丈のチビで研究マニアのド変人だけど。

 出会ったのはつい最近。

 何でも他の国に留学してたらしいけど、この間帰って来たらしい。

 第一王子に紹介されたら、次の日からストーカーされた。

 解せぬ。寄るな。見せもんじゃない。暇か。

 語彙を振り絞って脚力を振り絞っても引き剥がせない。

 若さが憎い。

 後、顔が良いから腹が立つ。

 ……まあ、確かに一応誠実な人柄で、嘘は吐かないんだけど。


「私は君の異世界人の特別な祝福はどうでもいいんだ。

 君自身に興味がある。君が育った異世界に限りない興味が湧いてくるのを感じる」

「だからー、私はド底辺の庶民なの。技術者でも何でも無いし、お得な情報は持ってないの。

 いい加減理解しろフィアメルアンジュ!!」

「その呼び方、女みたいだから呼ばないでって初対面から言ってるのに呼び続ける嫌がらせにも慣れて来たよ」

「知らねえわ!此処に居る時点で罰ゲームなのに!!」

「そうだよねえ、私は極悪非道の誘拐犯の家族だものねえ」


 全く意に介してない感じで付いてくるのも……最早、厭きたわ。

 ほわっとしてんだよなあ。

 馬鹿野郎の第一王子と違って。


「そう言えば兄上が呼んでいたね」

「ああ、どうでもいい」

「辛辣だね。兄上は若葉を妃に迎えたいらしいよ」

「『財布に蛙』がほしいだけでしょーに」


 第一王子の名前はどうでもいい。金蔓王子としか呼んでないし覚える気も無い。

 因みに、『財布に蛙』とは、私の異世界人としての祝福?スキル?らしい。

 あのお土産屋さんで売ってる陶器の蛙かよと突っ込んだのは記憶に古い。

 誰にも分って貰えなかったけど!!


 スキルの内容は何でも、近くに居る人に小銭を齎すんだとか。

 ……ショボい。

 何かこう、ショボすぎる。いや、お金に困らないのはいい事だけど、今の私、財布持ってないし。

 虜囚生活だし。

 好きでも何でもない奴から無駄に与えられるだけだし。慰謝料じゃ無いから貰うもんは貰うけど。


 ……四ツ谷サツキくんの『経験値二倍』の方が良かったなー。

 彼も転移者らしいんだけど、話すチャンスが全く無かったので文通中。

 彼からファンタジー系の知識を得ていると言っても過言ではない。

 しかも彼は小学生でこっちに引き込まれて、滅茶苦茶苦労人だ。

 未だ若いのに、苦労したのか見た目も中身も滅茶苦茶歳以上に落ち着いている。

 ブーブー言いながら肥やされている私とは物凄い違いだ。

 反省してます。

 此処から出たら生き延びられるスキルがねえ……!!


 因みに、サツキくんの『経験値二倍』だけど、適性の無いものは経験しても全く無意味らしい。

 伸びしろが少ないんですよって書いてあったけど……。

 おねえさん、その歳で騎士になる子は伸びしろしかないと思うよ。

 て言うか、保護した奴が気付けや。

 その子、子供だから!ちょっと老け……大人びてるけど!!


「若葉、聞いてる?」

「あー?」

「異世界に帰りたく無いの?」


 帰れんの?私のスキルが蛙だけに?

 ……面白く無いな。

 じゃなくて、初めて聞いたぞ!?

 ちょ、ちょっとびっくりし過ぎてフィアメルアンジュの腕を握ってしまった。


「大胆だね、若葉」

「煩い!!か、帰りたいけど帰れないんじゃないの」

「それが出来るらしいよ。こっちの人間の血で魔法陣を書けばいいらしい」

「グロッ!!」

「?そう?別に若葉は願ってもいいんじゃないの?」


 そう?って言い出すフィアメルアンジュが怖すぎる。

 いや、普通帰りたいから血なんかで魔法陣書いてーとか言わない!!


「お人よしだね、若葉」

「いや、目の前で人に死んでほしい訳じゃないし」

「悪逆非道の誘拐犯なのに?」


 ……2年前の召喚劇は意外と広まってるな。

 それにしても距離が近い。

 この頃と言うか、彼氏いない歴云々かんぬんな三十路にイケメンは近寄らんでほしい。

 イケメンに貼り付かれていたらウッカリ恋に堕ちそうで嫌だし。


「簡単だよ。私を人質にして、兄上に血を流させればいい。そして目の前で私ごと消えてやれば、君の復讐になるよ」

「……」


 うん、前言撤回。恋には……微妙だ。

 私は確かにあの第一王子は気に入らない。

 だけど……アホだけど、悪い奴では無いんだよなあ。

 頭叩いたら謝られたし。


 そして、悲しい事に……向こうにそんなに……寧ろ2年も失踪して大丈夫か色々ってのが。

 気が重い。

 社畜嫌だ。

 でも帰りたい。家族は向こうに居る。

 もし帰れたら田舎に戻ろうか。

 田舎が嫌で都会に出たのに。でも社畜より田舎の方が良かった?

 ……社畜と田舎……。今なら田舎だな……。

 今なら、街灯殆ど無くて田んぼに落ちそうな道で、あの可愛いスカート履いてる方がテンション上がる。

 ……見せる奴も居ないけど。

 ……フィアメルアンジュは何て言うかなあ。コイツと出会う前からずっと男の格好しかしてないし。


「フィアメルアンジュ」

「フィジュで良いってば」

「フィズ、私は」

「おお、訛ってる……。フィアメルアンジュは言えるのに、何故……」

「煩いな!!カタカナに弱いんだよ!!」

「カタカナって何!?」


 ああ、またフィアメルアンジュが変な知的好奇心を起こしてしまった。

 頭痛がするわ……。

 と頭を抱えていたら、けたたましすぎる声が鳴り響いた。

 ……この国は煩いのがデフォなのか。嫌すぎる。


「ウィアカヴァ様あああ!!」


 誰やねんそれは。関西人でも無いのに関西弁で突っ込みたくなるぞ。

 私の名前及びサツキくんの名前って、言い辛いらしい。

 けたたましい声に視線を向けると、何かド派手な令嬢?女の人が近寄って来た。

 ……睫毛凄いな。これもどっかの転移者の……もしやギャルでもいたのかな。

 いや、ギャルじゃ開発は出来ないな。付け睫毛メーカーの人が頑張っちゃった?

 マニアックで変な英知ばっか齎されてんなあ……。



「ま!第二王子殿下も!本当に仲が宜しくていらっしゃるのね!殿方同士の友情、素敵ですわ!」


 誰が殿方同士だ。

 私はドレスを着たら即座に躓いたから仕方なくパンツスタイルなだけだ。

 後、ロン毛は笑えるほど似合わないから伸ばしてないだけだ。

 似合うなら私もユメカワ女子したかったわボケ。三十路でも中身は夢見る乙女だボケ。


「……このクソ失礼なの、何者?」

「またまたご冗談を!!愛しい私を御揶揄いでいらっしゃるのね!?」


 いや、ホントに分からんのだけど、ホント誰?

 何時何処で誰が愛しいって?

 首を傾げていたらフィアメルアンジュが耳打ちしてきた。


「……サツキくんの元嫁だよ。最近離婚した」

「……あー。サツキくんを犬猫扱いしてた酷い女……」

「誤解ですわウィワカヴァ様!!あの者は本当に酷い態度で……」

「ゴカイもムカデも無いわ。端金と娘を渡して放逐したってちゃんと聞いてるんだからな」

「もう、誤解ですって!大体私は名門ヤーカラ家の出ですのよ?あんな貧乏貴族の年寄り騎士は」


 何だこのムカムカする人は!!

 大体誰が年寄りだ。サツキくんが年寄りなら私はババアか!?


「サツキくんの価値を全く理解してないって事は分かった。彼は、年寄りなんかじゃない。19だ」

「は?」

「異世界人だからかな、若葉も歳相応じゃないし……まあ、君は素敵なレディだけど」

「……は?」


 愕然としてるわあ。

 うーん、見れば見る程……この人目つき悪いな。陰険さが滲み出てるって言うか。

 フィアメルアンジュが私の手を取って口づけて来た。

 ……何しとんじゃこいつは、ドサクサに!肩まで抱いて来たよ!!

 しかし如何せん事を荒立てるのを良しとしない日本人社畜!

 咄嗟に騒ぎ立てる事が出来ない!!召喚時?アレは何となく出ただけ!


「え、ウィワカヴァ様が女?あの騎士が……異世界人!?19歳!?」

「うんうん、何も知らずに当たりを引き当てたのに、ご愁傷様だねえ」

「……う、嘘。え、ええ!?」

「驚き序に、君のヤーカラ家、色々素敵な仕業が一杯らしいね」



 知らない間に、騎士達が私を……このサツキくんの元嫁を取り囲んでいる。

 何時の間に湧いて出た。

 横を見ると、全く動じてない。いや、もしかして……最初から?


「……な、何の事でしょう。大体、ザッツとは行き違いで、探しておりますの。私達は想いあっておりますのよ」

「ああそう、さっき若葉に擦り寄っていたのはどんな理由が有ろうとも許せないね」

「……肩が痛いんだけどフィアメルアンジュ」

「チッ、折角愛称で呼んでくれたのに……」


 舌打ちかよ!!ぽやっとした王子様はどうした!?閉店か!?

 後なんだか表情がとっても怖いぞ!!



「ヤーカラ家の次女、貴女には逮捕状が出てるんだ」

「……な!?」

「前夫の殺害、子供の虐待、異世界人虐待、王族への不敬。後、他の家への嫌がらせ、他の家への経済封鎖……微罪は他にも色々有るけど」

「ご、誤解ですわ!!私は何にもしておりません!!」

「何でもしております、の間違いだね。取り敢えず極刑間違いなしなんだけど、どうしようかな」



 ……目の前で捕物劇を見たの、初めてだな。

 て言うかこの人、サツキくんと子供を虐待してたの!?前の旦那さん、殺されたの!?

 ……ええ……何このゴカイ女。引くわ。



「誤解ですのよウィワカヴァ様!!」

「若葉、コレでいいと思いません?」

「は?」

「どんな悪人にも血は流れているので。うん、これにしましょう」



 え、素敵な笑顔で何言ってんの?

 何を納得しているのか理解が出来ない。

 目の前の事が理解できない。

 え?何?どゆこと?


 あ、向うに私を拐った第一王子が居る。

 え、何してくれてんだって?

 そんなもんアンタの弟様に聞いてくれ。



「待て!!コレは復讐なのか!?お前を拐ったから、弟を拐い返すのか!?」

「え?」



 ど、どう言う事?


「兄上、さよなら」

「待てフィアメルアンジュ!!」

「何どういう事!?グロ画像は御免なんだけど!?」

「あ、そう?」


 そう言ったら、意外と大きい手で目を塞がれて……。

 口に感触が……。

 え!?ナニコレ、キス!?

 何私の意志も確認せずキスしやがってんだこの野郎!!


 と、罵ろうと思ったら、案外口が離れなくて……。


 意識が遠のいた、と思ったら……。

 体に、覚えのある感触が巻き付いた。

 …蔦?

 あの、異世界に召喚された時の……メタリックなツタの感触が。



 冗談でしょ、今帰るの?

 フィアメルアンジュは!?


 ちょ、実はちょっと……言いたいことが有ったのに!!

 2年間腹立つことだらけだったけど、アンタの存在で癒されて、そんで……ちょっと好きだったかもって。

 嘘でしょ。告白も出来なくて、返されるの?




 やばい、意識が……。



 そして、私は……。




「……マジなの?」


 ここ、通勤路だ。

 服はどこぞのヨーロッパの昔のお洋服ですか的な恰好で。

 うん、立派なThe不審者が通勤路に御光臨だ。


 深夜で良かったあああああ!!

 ああ!!見覚えのある電柱!!そして転がってる私の炭酸水!!

 ……タイムラグは無かった!!神よ!!

 でも明日仕事が有るって事だよな!!酷いよ神よ!!



 帰って来ちゃったのか。

 あれやこれやと残して……。

 ひとりで……フィアメルアンジュは。


「成程、此処が異世界」



 いや、うん?……聞き覚えのある声が……。

 ああ、やったら綺麗な……ここでは身元不明人(18)!!


「オイオイオイオイオイオイ!!何でお前迄一緒に来てんだフィズ!!」

「私が召喚の陣の中に若葉と居たからだけど?」

「居たからだけどじゃねーよ!!アンタ、向うの世界帰れんの!?」

「うーん。こっちで合法的に、召喚陣が満足するくらい異世界人の血が手に入ったら戻れるかも」


 合法的な異世界人の血って何だよ!!無いわ!!


「入る訳有るかああああああ!!

 て言うか召喚陣の満足って何!?あの魔法陣みたいなの生きてるの!?怖い!!」

「意志は疎通出来ないけど、要望は伝えて来るよ」

「キモイ!!」

「キモイって……可哀想だなあ。じゃあ無理だね、帰れない」


 柄?に要望が有る事態が納得できない!!

 いやそれよりも!!


「帰れないってどう言う事!?」

「うん、やっぱり私が向こうに帰るのは無理だ」



 しれっと銀髪を掻き上げるのが様になってて、イラッとするなあ。



「だ、大体何でついて来たのよ!?」

「酷いなあ、私に未練が有ったから拐ったんでしょ?」

「……はあ!?」


 未練!?

 未練だと!?

 そりゃ、そりゃ有ったけど……。



「どういうこと」

「異世界人の血で送還できるのは、異世界人だけ。基本は同じ世界の人間は送れない。ひとつの手段を除いては」

「しししし知らないよ!!」


 そうそっぽを向くと、むに、と頬を抓られた。痛い。


「私に心が有るから惜しんでくれたんだろう、若葉」

「……」

「貴女の為に書いた召喚陣だ。貴女に手心を加えてくれたんだろう」

「模様が!?」

「だから、私は嬉しいよ、若葉。貴女が私を望んでくれたんだものね。望まなきゃ此処には居ないから」



 ……し、信じられない。

 だけど、フィアメルアンジュは、嘘を吐いたこと無いんだ。

 ……だけど、それじゃ……。



 わ、私がフィアメルアンジュを好きでこっちに引き込んだって事!?

 無意識のうちに!?


「嘘じゃないよ、若葉。貴女には誠実に接したいと思っている」

「わ、私は……えと」

「大丈夫、私が異世界に来られたのはちょっと驚いたけど。君は悪逆非道の誘拐犯ではないよ」

「……おい」



 ……ちょっと待て。

 よく考えると、そうなの?

 確かに、召喚陣を用意したのはフィアメルアンジュ。

 だけど、だけど……見方を変えれば……あの場に居た、第一王子やその他の人から見れば……。



「向うでは若葉が悪逆非道の誘拐犯扱いになってるだろうけど、気にしないで此処で共に生きて行こう」

「うわああああああ!!」

「取り敢えず、若葉の家に行こうか。大丈夫、私他国に留学してた時苦労してるから部屋が狭くてもホントに平気」

「いや何狭いって決めつけてんの!?」

「それから、ぶらっく企業?でしたっけ。若葉を痛めつけるような雇用主と戦う方法を調べなきゃ。一応売れそうな装飾品は付けて来たけど……」

「はあ!?ちょっとフィズ!!一緒に来るなんて吃驚したみたいなリアクション取ってたけど!?」

「未来は分からないし、いいじゃない細かい事は」


 綺麗な青緑色の目が細められて、私の顔に近づく。


「私を選んでくれてありがとう、若葉。仲良くしようね?」


 私は星空の下、ぽかんと彼の唇を受け入れるのだった。




 ……こうして、私は……。

 異世界なのにあっという間に現状把握し、身元不明人として戸籍を習得する方法まで調べ上げ、戸籍取得を家裁に申し立て……。

 ……。

 いやホントにどうやったんだ、お前と何度訪ねた事か。


「いやあ、農業もいいね、若葉」

「本当にフィズ君が若葉の婿になってくれて良かったねえ」


 気が付くと、母親とフィアメルアンジュが、にこやかに柿もいでるのをぼんやり聞いていた。

 この、私の大きくなったお腹が未だに信じられない。


 ……嘘みたいですが、私、異世界の王子様を拐って結婚したみたいです。


「サツキくんは、どうしているのか……」

「サツキくんとブランシュ?家に亀と蜥蜴と犬が居るらしいよ」


 夫に納まった王子様は、相変わらず訳が分からないけど……。

拙作をお読み頂いた全ての方に感謝を。良しなに。

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― 新着の感想 ―
[一言] キーワードにストーカーがないのが解せぬ。
[一言] 続編(?)の執筆ありがとうございました。 サツキ君の心温まる結末と見事に対比させた様な ワカバさんのドタバタ劇。 彼女は何処かの喪女王女様を彷彿させてくれますが、一足お先にゴールイン(でき婚…
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