表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/17

I am Just Feeling Alive

 壊れた天井から漏れる光が、柱のようにポツポツと立っている。

 俺は光源を避けつつ、身をかがめながらゆっくりと先へ進む。

 陽の光以外のわずかな光でも、ここでは命取りだ。「私はここにいます。どうぞ掻っさらって下さい」と、言っているようなものだからだ。

 この廃墟と化したショッピングモールは━━非常に矛盾しているのだが━━廃墟でありながら電気がまだ生きている。

 ホコリをかぶったカメラに暗視機能とかがあったら一巻の終わりだが、追っ手が来る気配は今のところない。

 このまま一気にフードエリアへと向かう。

 

 ※

 

 廃墟になる前は全面ガラス張りだったであろう二面の自動ドアは、今やレール部分に残った手の平サイズの金属と、氷柱のように垂れ下がったガラス片だけとなっていて、光があっても注視しなければそこにドアがあったとは誰も気づかないだろう。

 エリア内は一面真っ暗で、天井から漏れる光すらない。

 だが、それ以上に厄介なのが『音』だ。

 耳をすませば服が擦れるような音、細かい破片だか砂利を踏みつぶす音、キーホルダーのようなものが揺れる音など、小さな音がそこかしこで鳴っている。

 俺と同じで食料を取りに来たどこかの人か、あるいは縄張りを巡回しているヤツらか。

 いずれにしても、出くわせば穏便に終わることはない。

 周囲に気を配りつつ、中腰で足早にエリアにある食料を取りに行く。

 初めに出くわしたのは野菜のエリアだった。

 長期保存をしつつ、それでいて新鮮さを失わせない密閉型クーラーの中を見て、暗闇に慣れつつある目が中の野菜が何なのかを認識したら急いで収納だ。

 ポケットからアルミ製の正方形を取り出し、面の真ん中にあるボタンを押せば瞬時に四方に展開して宙に浮き、口だけの収納庫へと変形する。

 そこに野菜、肉、水、栄養加工食と弁当系のもの、詰められるものはとことん詰めていく。

 口の中に入れたものは、個々によって様々だが元の大きさの半分以下まで小さくなっていく。

 性質や成分が崩壊しない程度まで圧縮するプレスカーゴは、経年劣化によるメンテナンスがそろそろ必要な状態になってきている。

 気配と音に気を配りつつ、先に進んで食料をカーゴに入れていく。

 不意に、周りで微かに鳴っていた音がピタと止まり、物を入れていた俺の手も合わせて止まった。

 汗が一滴こめかみから鎖骨まで伝っていくと、突然目の前が真っ白に塗りつぶされた。

 本能的にうつ伏せになると、十人ほどの悪漢どもが取り囲んだ。ここを縄張りにしているヤツらだ。ツイてない。

 

 「やっと見つけたぞネズミ野郎。テメェ誰の許可もらってモノ取ってんだ」

 

 「俺たちのシマから物パクってタダで済むと思ってのか」

 

 目が光に慣れて周りが見えてくると、業務用のドローンライトが俺を照らしていた。

 数が数なだけに、持っているテーザーレールガンとコンバットレイガンでは絶対に敵わない。運が良くて二人道連れにできるか否かといったところだ。

 兎にも角にも絶体絶命の状況下だが、そんな状況にはならないとタカを括って来るほど俺はバカじゃない。

 モノクルを上げるフリをして、外にある車の位置をレンズに映ったデーターモニターで確認すると、素早くポケットの中にあるスマートキーのボタンを押した。

 リーダー格の男が四人の部下を引き連れてこっちに来る。

 全員獲物持ち。対レーザーガン用のボディアーマーを着ていると思われる。

 それを抜きにしたって全員屈強な体つきだ。つまるところ武器でも腕力でも叶わないということだ。

 一歩一歩。前後左右から。ミリタリーシューズがガレキと破片を踏みしめながら、こっちにやって来る。

 獲物を持ち上げながら、俺の頭蓋へと銃口を向ける。

 それを待っていた。

 リーダー格の男がいた奥の方から、俺の愛車『NEXA(ネーザ)』が壁をぶち破りながら猛進して来た。

 不意をつかれた連中は、狙い通り俺か車のどちらを先に撃つかの選択を見誤った。

 リーダー格の男は、逃げ遅れてボールのように跳ね飛ばされた。死んではいないが、ありゃあ腰骨がイったな。

 取り巻きどもが動揺し、混乱しているその一瞬を見逃さず、前方にいるヤツらの胴部分をコンバットレイガンで撃ちながら乗り込んだ。

 手動での運転にシステムを切り替えて、アクセルを目一杯踏み込めば、二秒待たずして時速は百キロ前まで到達し、モールの壁は音を立ててぶっ壊れた。

 後方から弾の弾かれる音が鳴っているが、そんなこと気に留めていられない。

 後方から追っ手は……来ている。俺の愛車より新しい車が三台。しつこい野郎は大嫌いだ。

 だが、ヤツらには無くて俺にはある秘策がある。

 それは、ここの土地勘だ。どこをどう行けばいいのかという知識が一つでも多いだけで、この世界では生死を分ける。

 入り組んだ大通りから一車線の通りへ。

 そこからまた大通りに出て、今度は細道へ。

 そうこうしている間に、連中の影は見えなくなった。

 なんとか、逃げられた。そして、生き残れた。

 一つ盛大に息を吐く。体内のコリに似た重みと力みが、ゆったりと抜けていく。

 ナビシステムに記録してある、俺だけが知る安全地帯をプリセットから選ぶと、ゆっくりと車が動く。

 ようやく俺の朝飯が食えるわけだ。時刻は十六時を迎えようとしているが。

 

 ※

 

 『有毒ガス』という言葉に、多くの人々はアナフィラキシー並みの過敏反応を起こしている。それが根も葉もないうわさ話でもだ。

 今俺がいるこの建物、もとい廃墟はガスのガの字さえ無い安全地帯に建っている。誰かがうわさを流したせいだと思うが。

 他の誰かが拠点にしているわけでもない。俺一人の空間で、盗ってきた食料を車中で頬張る。

 他に比べて日持ちが悪い弁当は、先に食べておくことに損はない。

 窓の無い穴から、夜の黒が夕空を塗りつぶしていっているのが見える。

 早くこの星から出たい。早く両親と弟に会いたい。

 NEXAのナビにあるニュースボタンを開くと、そこにある一つの記事に目が止まった。

 

 【潤沢な資源が見込まれた惑星 現実は不毛の地であることが確定 政府 該当惑星の全プロジェクトの中止・()()処理を発表 兆単位の損失に国際宇宙連盟からの反感必至】

 

 長めの鼻息を吐いた。バカすぎて話にすらならない。

 この星の国民が全員避難を終えていないのに、政府は他惑星への研究と調査の方に熱心だ。長い歴史の中、そういったバカは最後の方で否応なしにツケを払うときが来るってのに、とことん卑しいヤツらだ。

 こんな情報が毎回なものだから、人々はニュースを見なくなった。

 今の世の中に右も左もない。誰もが希望のない日々と、当てようのないストレスに苛まれながら今日を過ごしている。

 空になった容器を外に放り捨てて一息つき、戦利品を確認する。この量なら向こう五日は持つだろう。エンジンをかけて、家路につく。

 すでに夜空が世界を覆っているが、地上は真昼のように明るい。そして喧騒も一段と大きい。

 酒と女。暴力とセックスが当たり前のようにあふれている。

 奴隷を飼っているヤツは、芸を披露させて笑いを取ろうとし、取れなかったらお仕置きを与える。それを見てようやく笑いが取れる、ときもある。

 人権も命の価値もないこの世界で、俺は一体いつまで生きなければならない? それともここが俺の死に場なのか? だとしたらコイツらに弄ばれるのだけは絶対にいやだ。きっと骨になっても遊ばれるだろう。

 じゃあ逃げればいい、と言うヤツもいるだろうが、政府の方に直訴しても意味がない。

 政治家の誰かを人質にしたり、武装して特攻なんかをしても結果は変わらない。それこそ風紀治安会の連中に首を差し出すようなものだ。

 この世界にはもう辟易している。だけど逃げる手段がない。

 窓の外でバカ騒ぎしている連中を尻目に、まもなく家に着こうとした。

 すると、路地の方から少女の叫び声が響いた。

 声に気づいた何人かの野郎どもは、野次馬根性よろしく、こぞって声の方へと向かっていく。

 この世界では別段珍しいことじゃない。きっとドジを踏んだんだろう。

 関われば目をつけられるし、付けられるしでロクなことはない。今までもそうだった。

 そうだっていうのに、俺はその声の主が妙に気にかかって。何を思ったかアクセルを踏んで声のした方へと走らせていた。

 声の主の元へは簡単にたどり着いた。追っている連中の後ろ姿を付けて行けばいいだけ。

 追われている少女の後ろ姿を目にしたが、なんとも華麗なものだった。

 おおよそ太ももまで伸びている薄い桃色の長髪が、サラサラとなびいている。

 その少女を、数にものを言わせて追ってくる連中は徐々に距離を詰めていき、一人が飛び蹴りを背中に当てて少女は倒れ込んだ。

 それを見ただけで、俺には連中をぶっ飛ばすだけの理由ができた。

 年端もいかない子を乱暴するなら、色々後で面倒になるだとか、嵌められただとかはどうでもいい。

 こんなもの見せられて腹が立たないヤツは男じゃない。

 

 ※


 「見ろ、このガキだ間違いない」

 

 「マジだマジだ。見た目はアレだが……身体は最高じゃねぇか」

 

 「政府の連中に言おうぜ。こんなキモいガキなんか価値ねぇって」

 

 「バカかテメェ。政府が関わっているからこそ価値があるんじゃねぇか。アイツらが勘付くまで顔なんか適当に隠せばいい」

 

 「そうだよ。で、コイツホントにいい身体じゃねぇか。ガキだけど元気なガキを産めるんだろうな━━」

 

 怯えた少女とチンピラたちが車内にいる俺の方に振り向いたのは、ほとんど同じタイミングだった。

 しかしそのときにはもう遅い。メーターが百八十度スレスレまで傾いているほどの車が、チンピラの群れもろとも空き家となった店へ流星のごとき勢いで突っ込んだ。

 

 「ごめんよ。サイドブレーキとアクセルを間違えた」

 

 マンガのように吹っ飛んだヤツもいれば、店の壁とサンドイッチになったヤツもいた。生憎だが後者は助からんだろう。

 そんな大事故にさせたにも関わらず、フロント部分から伝わる巨大な衝撃は、車に付けられている衝撃緩和装置によって車内にはほとんど影響がない。

 唐突な奇襲に連中のオツムが追いついていない。棒立ちのカカシになっているところを

さっき手に入れたコンバットレイガンで、残ったヤツの足を撃ちまくる。

 文字通り足を失ったカカシ連中が、これ以上の追跡ができないということが分かれば、後のことはシンプルだ。

 

 「死にたくなかったら、俺についてくるんだ」

 

 ドアを開けて、倒れている少女に手を差し出す。

 彼女は前髪が長く、ぱっと見は口しか見えない。

 少女はどうしようかとためらっていると、俺の後方から騒ぎを聞きつけた増援が向かってきていた。が、その増援は予想していたチンピラじゃなく、武装で身を固めた暴力至上主義の風紀治安会だった。

 

 「あぁこりゃあヤバい。すごくヤバい。君、とにかく来るんだ。でないと俺も君も奴らに殺されるぞ。冗談抜きでな」

 

 風紀治安会なんて体のいい名前をしているが、実際は先に言った通り暴力至上主義な上に、一帯のチンピラたちとズブズブの関係だ。

 有無を言わずに俺と、ついでに少女も有罪判決を受けることになる。そんなのは御免だ。

 殺されると聞いた途端、少女はびくりと震えて、俺の差し出した手を握って車内へと乗り込んだ。

 車体損傷度は十七パーセント。全然余裕だ。

 素早くハンドルを切って、風紀治安会に背を向ける形で加速する。

 連中はどうやら、車を追跡するための装備は持ってきていなかったらしい。

 一息ついて、オートドライブに切り替えて、助手席で堅くなっている少女を安心させるために声をかける。

 

 「撒いたみたいだ。もう安心していいぞ」

 

 少女は何も言わない。

 不安げにチラチラとこっちを見ている。シャイな子なのか?

 しかし、それよりも、体つきがハンパじゃない。

 非常に誤解される感想だが、胸がはち切れんばかりに大きいし、ウエストはしっかり引き締まっていて、肉付きも丁度いいかんじだ。モデルですと言われたって何の違和感もない。

 最近の子供は発育が著しく良いというが、こうまでスゴイと言葉を失ってしまう。

 気を取り直して小さく咳払いをしつつ、穏やかな声色で話しかける。

 

 「もう大丈夫だぞ。えっと……怖いヤツらはもういないし、追ってこない」

 

 無言。未だにうつむきつつ時折チラとこっちを見てくる。

 助けてくれたとは言え、見知らぬ人だから不信感を持っているのは仕方ないかと思ったそんなとき、ハッと思い出した。俺がさっきこの子の前でやらかしたことを。

 

 「そういや、その……さっきはキツいもの見せてしまったな。一つ言い訳をさせてもらえるなら、ああでもしなければ俺には君を助けられなくて」

 

 「……それはいいんです。あんな人たちはどうなっても━━」

 

 声の低さと高さがいい感じにマッチした少女らしい声が耳に届いたとき、角から前触れなく出てきた━━恐らくはさっきの俺と同じ物盗りの━━車が猛スピードで通り抜けていき、コンマ一秒ほど遅れて反応したコンピューターが急ブレーキをかけた。

 未来的な技術を持った車でも、慣性の法則だけは無視できず俺と少女は思い切り前のめりな姿勢になった。

 

 「マナーの悪いヤツだなぁ。君、だいじょう……」

 

 少女が慌てて前髪で顔を隠そうとしていたが、俺は少女の()をしっかりと見てしまった。

 無垢だとか純粋さを感じる、初々しいつぶらな瞳が綺麗だった。

 だけど、たった一つだけ。それでいて他の人とは最も大きな違いがあった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

国際宇宙連盟新聞より


○月□□日△曜日 記

その星はとても特徴的だった。大気の層があまりに厚いことから、地上には光が全く届かない暗黒の星だったからだ。そんな星に豊潤な資源があると分かったのは、当時の最先端の技術を寄せ集めて生み出された惑星探査用カメラの一台が、星を通過する際のスキャンによって発覚した。

政府は我先にと湯水のごとく投資を行ったが、その希望は二ヶ月前の再調査で呆気なく崩された。

星の特異な環境によって、豊潤な資源はあっという間に過去のものとなっていたのだ。辛うじて残っている資源でさえ、すでに研究済みな上に資源としての価値は皆無。政府は壊滅的な大損をこいた。

国際宇宙連盟からは、兆単位の損失に大々的な非難が政府に向けられ、政府はプロジェクトに関わっていた全てのものを破棄、一部売却すると決定したが、焼け石に水なのは間違いない。

研究・開発所に連日足を運ばせていた夢見る子供たちは、一体どういう心境なのだろうか。


記者No.1140721-E-D24

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ