第3話 楽園社会の始まり
プレアデスを解放したオルワンは、その翌日に民に向けて大演説を行っていた。
オルワン「え〜 皆さん! ご存知の通り、プレアデスには、もう支配者はおりません。我々はもう永遠に解放されたのです。もう安心して大丈夫です。長いあいだ、本当にお疲れ様でした。ツラく苦しい生活は、もう過去のものとなります。これからは全ての人たちが手を取り合って新しい世界を作っていきましょう。プレアデスを楽園社会にするまでの間は、私が全責任を持ってこの仕事を引き受けますので、どうぞご安心下さい」
群衆「おおおおお!」
「皇子! 皇子 皇子!」
オルワン「私は、もう皇子ではありません。そして二度と王室制など作らせはしません。権力とは腐敗と、不平等の根源なのは先刻ご承知のはずです。誰も特別扱いをしない世界にしていきましょう」
群衆「おおおおお!」
オルワン「まずは、王室が溜め込んでいた食物や金銀財宝その他全てを、皆さんに配布いたします。全ての人に行き渡る充分な量がありますので、係の者から受け取って下さい」
群衆「おお! それはスゴイ!!!」
オルワン「食物は当分困らないほどの量がありますので、ゆっくり休んで今までの疲れを癒やして下さい。そして年貢も廃止しますので、もう無理して働く必要はありません。自分のための時間や、ご家族や友人と楽しく過ごす時間を存分にとって下さい」
群衆「やった! やった〜!」
オルワン「次は、武器や弾薬などの破壊的な物を全て破棄します。それを農耕やその他の生産的な道具へと作り変えます。採れた作物は均等に配布いたしますので、もう飢えも貧困も永遠に存在しなくなります。どうかお腹いっぱい食べて下さい」
群衆「おおおおお!」
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その後、オルワンの指示のもと、プレアデスは平和と幸福と豊かさに満ちる楽園世界になっていった。
そしてしばらく経った頃、オルワンの提案のもと、評議会システムが作られた。
オルワン「ええ〜 皆さん! 皆さんの努力のお陰で、プレアデスの楽園化は軌道に乗ることが出来ました。もう何の心配も要りません。なので、今度は、その皆さんの夢を叶えることに注力していきたいと思って考えてみました。本日より、評議会システムをスタートさせたいと思います。皆さんのご要望や夢や希望を書いて、そこにある箱に入れて下さい。それら全ては可能な限り評議会が人員や資材などを手配して、実現に向けて実行していきます」
群衆「おお! それは楽しみだ!」
オルワン「皆さんが書いた願いを、誰かが叶えてくれます。そして、誰かが書いた願いを皆さんが叶えてあげればいいのです。得意なものや、やりたいことがあれば、ぜひそれを引き受けてあげて下さい。そのマッチングを行うのが評議会です」
群衆「分かりました〜」
オルワン「1人の夢を、みんなで叶えてあげましょう。そしてあなたの夢は、みんなが叶えてくれるのです。もう夢を諦めなくてもいい社会になります。それが本当の意味で夢のある世界だと私は思います。みんなの夢を形にしたプレアデスにしていきましょう」
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この評議会システムが、絶大なる効果を上げ、民は好きなことをするだけで、誰もが楽しんで暮らせる社会になった。
この時から、プレアデスでは遊びと仕事は同義のものとなった。
楽しむことで、個々人の才能が、フルに発揮され、特にテクノロジーの面が飛躍的に発展し、労働も病気も限りなくゼロに近くなっていった。
……………………
オルワン「ニーナ… オレの今世での仕事は全て終わった… 以前に話しておいた通り、そろそろ元の世界に帰ることになると思う…」
ニーナ「そんな…」
オルワン「あとは、よろしく頼む… トムにも伝えておいてくれ」
その言葉通り、オルワンは翌日に死体となって発見された。
死因は、胸部を槍で突き刺された事による失血死だった。
犯人は元王族で、権力を失ったことへの逆恨みによるものと判明した。
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オルワンの悲報は、その日のうちに星中を駆けめぐった。
プレアデスを救った英雄を失った民たちの悲しみは、計り知れないほど大きかった。
プレアデスの巨星落つ。
誰よりも明るく。
誰よりも高く。
誰よりも強く。
そして、誰よりも優しく温かく輝いていたプレアデスの太陽とも言うべきオルワン皇子の死は、民に大きなショックを与えた。
民たち「皇子は、もういない…」
「我々のヒーロー、オルワン皇子は、もうこの世にはいない…」
「生きる希望を与え、屈しない強さと、諦めない粘り強さと、従わない勇気を教えてくれた、あの皇子はもういないのだ…」
プレアデス中が、悲しみと絶望感に満たされる中、気丈にも親友であるトムと、恋人であるニーナが、民たちに励ましの言葉を掛けてまわった。
そして、葬儀の席で、ニーナはオルワンの遺言を読み上げた。
ニーナ「オルワンの部屋から遺言が見つかりましたので、皆さんにお伝えいたします」
「皆さん! 私を信じてついて来て下さり、誠に感謝しております。皆さんのご助力のお陰で、無事プレアデスは解放されました。この遺言が公開されている時は、すでに私はこの世にはおりません。でも、心はいつも皆さんと共にあります。これからは、皆さんの手で新生プレアデスを作っていって下さい。支配しない、支配させない世界を。従わない、従わせない世界を。搾取しない、搾取させない世界を。永遠に自由で、永遠に豊かで、永遠の楽園を作って下さい。私は、いつか必ず戻って来ます。愛と光に満ち溢れるプレアデスへと」
……………………
トム「ニーナ…」
ニーナ「ああ トム…」
………………
トム「オルワンが死んだなんて、今だに信じられないな…」
ニーナ「ええ… でも私はオルワンから、この日が来るのを何度も聞かされていたの…」
トム「この日?」
ニーナ「ええ… オルワンは自分の運命を知っていたようだったわ…」
トム「…………」
ニーナ「オルワンは、自分が何のために生まれて来たのかも、いつ死ぬのかも知っていたようだった…」
トム「そんなことがあるのか… アイツはいったい何者なのだ?」
ニーナ「オルワンが言うには、腐敗した世界を救う役目を持っているソウルだと言っていたわ…」
トム「たしかに、その通りの仕事はしたよな…」
ニーナ「宇宙のソースの近くに惑星コロブという星があって、その星から転生して来たと言っていたわ…」
トム「惑星コロブ?」
ニーナ「ええ… コロブは戦士の魂を持つ人たちが住む世界で、どこかの星に滅亡の危機が迫ると、それを救いに行くそうよ… それをインディゴソウルというらしいわ…」
トム「インディゴソウル? なるほど… たしかにアイツは戦士の魂そのものだった… 非暴力を貫いて戦い続けた本物の戦士だった…」
ニーナ「私は半信半疑だったけど、今は本当なのかも知れないと思うようになったわ… だから、オルワンは自分の役目を果たし終わったから、コロブに帰って行ったのかなと、今では思っているの…」
トム「アイツがウソを言うはずがない… あんなバカ正直に生きたヤツはいないからな… その話し本当なのかも知れないぞ…」
ニーナ「うん… そして、オレは必ずまたプレアデスに帰って来るとも言っていたわ… 遠い未来になると思うけどって…」
トム「なんで、アイツはそこまで分かるのだ?」
ニーナ「それは分からないけど、きっと未来のプレアデスには、オルワンがいると信じたいわ…」
トム「その時代に、オレも生まれてもう一度アイツに会いたいものだな…」
ニーナ「私も…」
完…