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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

マリィの異星界転生は超絶ベリーハードモード

作者: 灰色

 異世界転生ものは好きですが、転生後の世界はひどく転生者に優しすぎると思います。まるで夢の世界のようです。しかしせっかくなら異星界へ転生してみるのはどうでしょう?帰る星はなし、生物なし、大地なし、水なし、大気なし、重力すらまともでない世界で本人たちの希望通りの体が手に入ったなら生き残れるか、そんな甘いわけがない。マリィは無邪気に人間たちの願いを叶えてくれるけど、人間でもない、人間のための神様でもないからけして転生者を救わない、そんなお話。

 最初は童話チックですが、だんだんサイコっぽくなっていきます。スプラッタ描写はありませんが苦手な方は戻ってください。




 マリィは今年で4才になった。

 マリィの友達のお人形はメリィ。


 今日もお家でメリィとおままごとをしていたら、突然メリィがしゃべりだして驚いた。

 さすがに4才になったマリィにだって、お人形がしゃべることなんてありえないって分かってる。


 メリィはおでかけしましょってマリィをお家から連れ出そうとする。

 だめ!私はここでお留守番しなくちゃいけないの。

 マリィは抵抗する。


 メリィはいつまで?って聞いてくる。

 ママが帰ってくるまでよ、とマリィは答える。


 ママは帰ってこないよ、というメリィにマリィは怒る。なんでそんなひどいこと言うの!

 ついてきたら教えてあげる。


 マリィは仕方なくメリィの後をついてお家を出ることにした。

 ママに怒られたらどうしよう。

 でもメリィもいなくなったら困るし。


 マリィはメリィの後をついていきながら周囲を見渡す。


 道を歩く人々はみな顔を地面に向け、口元にマスクをしていて咳をしている。

 マリィの年で道を一人で歩いていたらいつもなら必ず声を掛けられるのに、誰もマリィに気づかない。


 それどころか、お人形であるメリィが一人でに歩いて先を行くのに驚く人が誰もいない。


 マリィは首をかしげながらメリィについて混雑している地下鉄の入り口を下りていく。


 不思議とマリィが乗ろうとしている車体に乗る人は少なく、席はすいている。


 それでも先に座っている母と息子の親子、髪をいじっているお姉さん、ギターを抱えているお兄さん、マスクを互いに外し合っている老夫婦。

 そして、乗り込んだマリィの後ろから駆け込んできたスーツのおじさん。


 プシューっと閉まった入り口に不安になり、こちらを見上げていたメリィを抱き上げてみんなから離れている席に一人でよじ登って座った。


 この先にママがいるの?とマリィが聞くと、メリィはさあね、と答えた。



 ずんずん地下鉄は走っていく。外は真っ暗でどこへ向かっているのか知らないマリィはどんどん不安になっていく。


 何度も時間を確認していたスーツのおじさんがなんだかキョロキョロし始め、隣に繋がるドアを開けようとした。

 しかし開かないドアにしびれを切らして扉を叩き、大声でどなり始めた。


 マリィは大声に驚いて体が竦んでしまった。


 ギターのお兄さんがスーツのおじさんに声をかけ、一緒に扉を開けようとしている。


 もう無駄なのに。


 メリィがマリィの胸の中で囁いた。


 もうこの地下鉄は駅になんて向かわない。私たちは役目を終えて地球から立ち去るの。


 いつの間にかうるさい地下鉄の音が一切聞こえなくなっており、メリィの声が車内によく響いた。


 スーツのおじさんがぎょっとしてこちらを見ては窓の外を確認している。

 親子が恐ろし気にこちらを眺めている。

 老夫婦は何が起きたのか分からずキョロキョロしている。

 髪をいじっていたお姉さんはこちらを見てオロオロしている。

 ギターのお兄さんは閉まっている出入口のドアをこじ開けようと扉にしがみついている。


 母親に抱きかかえられている同じくらいの男の子が、お人形がしゃべった、といった。


 おじさんとお兄さんは協力して扉を強引にこじ開けた。


 おじさんは開いた拍子にバランスを崩して体が外へ投げ出された。

 お兄さんが手を伸ばしたけど、おじさんは真っ暗な外へと落ちていくように消えていった。


 静かな地下鉄の中で、おじさんの叫ぶ声がどんどん小さくなっていくのをみんなで震えて聞いていた。



 あ~あ、一人落ちちゃった、メリィがまたポツリとしゃべった。


 マリィはメリィにおじさんがどうなったのか、この地下鉄はどこに行くのか聞いてみた。


 この地下鉄は地球を離れて次の星に行くんだよ、おじさんはどっか地の底に落ちちゃったんじゃない?

 メリィはあっけらかんと答えた。


 今ならそこから飛び降りれば地球に居残ることも出来るけど、とメリィは乗っている人たちに聞こえるように話しかけた。


 初めてメリィに気づいた人たちもそれを聞いて青ざめ、震え出した。

 お兄さんは怒鳴り始め、お姉さんは悲鳴を上げ始めた。

 親子の母親の方はマリィにかけより、どういうことなのよって問い詰めてきた。

 何が起こったのか分からない老夫婦は手をつなぎながら窓の外を見たり、他の乗客を見たり忙しそうだった。


 マリィはメリィにママはどこにいるの?と聞いてみた。


 マリィにママはいないわよ、とメリィは答えた。

 メリィはマリィの母親は最初からいなかったという。


 そんなはずない、だって、と思い出そうとするが、マリィの思い出の中に絵本を呼んでくれるママの姿も、目の前で息子を抱える母親のように抱きしめてくれたことも思い出せない。

 どういうこと、とマリィは聞く。


 だって、あなたはこの星の人間じゃないからよ、とメリィは答えた。




 真っ暗な世界を走っているのか、動いているのかもよく分からない地下鉄の中で、どれくらいいたのかよく分からない。

 しかし、必死で外を開いたドアから確認していたお兄さんが何か見つけたと叫び始めた。

 

 窓から外を見ると、真っ暗な闇の中に星明りのように浮かび上がる光がぽつぽつと見え始めt。

 それは星座のように闇に浮かび上がる光のレースを垂らした巨大なクラゲのように見えた。


 乗っている地下鉄なんかクラゲの足の一本くらいしかないんじゃないかと思うほど大きなクラゲだった。


 あれはなあに?とメリィい聞くと、あれがあなたの本当のお家よ、とマリィに応えた。

 

 地下鉄は動いている音も、走っている音も聞こえないが確実に巨大な光るクラゲに近づいてきた。


 みんなメリィに質問する。


 地球を去るってどういうこと?

 なんでこんなことをするの?

 あの巨大なものは何?

 このまま俺たちどうなっちまうんだ?

 お願い、ここから下しておうちに返して。


 メリィは一つ一つ答えていった。


 残念、地球はもう住める土地じゃなくなった、だから元気そうな地球人を連れて脱出するの。

 一人落ちちゃったけど。

 今世界中で風邪が流行ってるでしょう?あれは死病だから、かかった人間はみんな死んじゃうの。

 だから地球を逃げ出すんだよ。

 今向かっているのは私たちの船だよ。マリィは人間になり切るために忘れちゃったと思うけど、あれは地球を脱出するための私たちが乗ってきたお舟。マリィの本当のお家だよ。

 お兄さんたちは貴重な地球人のサンプルとしてこのまま次の星に連れて行ってあげる。

 地球にいるよりずっと長生き出来るんだから感謝してよね。

 だから帰りたいならそこのドアから飛び降りなよ。生きて家に帰れるかどうかは知らないけど、地球にとどまることは可能なはずだよ。

 ちなみにこの地下鉄は止まれない。これに乗ったが最後、もう発射シークエンスは始まっているの。

 船に着いたら出発だよ。


 メリィはマリィの膝からおり、お人形なのに笑ったように小首をかしげた。


 地下鉄の中は混乱となった。

 お兄さんはメリィを掴かみあげて何か叫んでいた。


 その間も地下鉄はぐんぐん巨大なクラゲへと近づいていく。


 男の子だけがでっけぇなぁと、目を輝かせながら窓の外を見ていた。


 地下鉄はシャンデリアのように垂れさがるクラゲの足の中、まるで光の中の中心に向かっていった。

 



 地下鉄が到着したようで、一度閉まった扉が再び開いた。


 急に窓の外が明るくなり、真っ白な外の光が車内に差し込んだ。


 お兄さんが恐る恐る外へ体を乗り出すと、掴まれていたメリィが先に降りて行ってしまう。

 マリィは慌ててメリィを追いかけて地下鉄を下りる。


 マリィはメリィの言っていたことの半分も分からなかったが、ここがなんとなく懐かしいような気がするのでメリィの言っていたことは間違っていないと感じていた。



 マリィの目が光に馴染むと、目の前になんだか可愛らしく飾られたマリィの部屋のドアがあった。


 後ろから乗客たちがまぶしそうに地下鉄を下りてくるけど、他にもいろいろな扉が現れたのでマリィは自分の扉を勢いよく開いた。


 そこにはマリィの寝室があった。

 たくさんのお人形に、パッチワークの布団、花柄の壁紙。


 なんだか突然眠くなったマリィは自分の布団に潜り込み、眠りについた。



 『お帰りなさい。』


 なんだか優しくなったメリィの声が聞こえた気がした。




 目を覚ましたら少しだけ私は自分のことを思い出した。


 地球を観察するためにずーっと前に地球に来たこと。

 地球の生物の姿を真似て小さな虫から大きな動物まで、ありとあらゆる生物になって、彼らの視線から見える地球を観察した。


 人間になってから焦って地球から逃げ出すことになったのは、私たちとはまた別の宇宙人が病原菌をばらまいたからだ。

 あれでは地球の生物みんなが死んでしまう。

 なぜばらまいたのか分からないけど、あれでは地球人だけじゃなく私も病気になってしまうから。

 

 他の人間を連れてきたのは本当にサンプルにするため。

 本当だったら私自身が男になったり、母親になったり、老人になったりとたくさん経験するはずだった。


 人間やほかの動物になっている間、私が地球の生物ではないという記憶がないので補助してくれるのがメリィだった。彼女は私の危険をいち早く教えてくれてここへ導いてくれていた。

 メリィの本体はこの船にあるから。


 この船の部品の一つである私がいなくなっては困るから。


 人間たちにはゆっくり休めるように部屋を用意してあげている。


 もうこの船は出発し、足元に地球が見えているけれど。

 人間だった私には、人間だった時の感情が残っている。


 寂しい、と思う気持ち。


 私は眠ったままの人間たちに、地球にお別れができるよう取り計らった。

 みんなの夢を繋いで、私の視界に招待する。


 «うぉっ!なんだここは!»

 «さっきまで自分の部屋に帰れてたのに!なんで!»

 «わぁ足の下の方に地球が見えるよう、ママ!»

 «あなた、どうしましょう、地球がどんどん離れていくわ。»

 «これは夢じゃないの!もういや家に帰してよぉ。»


 私は地球の生物は半分以上死に絶えていることを伝え、それでも帰るならこの船から出るしかないと告げる。


 «いや!死にたくない!でも、こんなところいたくないわ!»

 «すごいすごい!これ宇宙だよ!宇宙人の船の中なんだ!ママ見て!»

 «ああ、そんな、嘘でしょう。»

 «ちくしょう、これは現実なのか、夢なら覚めてくれ。»


 モニターにつないではいるが、彼らにとっては本当に夢の中なので冷めてもらっては困る。

 男の子を覗いて意気消沈する人間たちに私はさらに残酷な現実を告げる。


 あなたたちのデータはもうとれたから、あなたたちに用はありません。


 «うそでしょ!勝手に連れてきといて!»

 «せめて家族のところで死なせてちょうだい。お願いよ。»

 «用が済んだら俺たちを追い出すのかよ。てめぇ何様だ!。»

 «俺たちどうなっちゃうの?»


 私はふむ、と考えて答える。


 仕方ない、連れてきた責任は取りましょう。








 私は船の機能の一つである、私が使っていた転生装置を人間たちに使ってあげることにした。


 まず親子からだ。


「違う星で冒険してみたい!ロボットになって空を飛んだり、強い体で宇宙を探検するんだ!」


 人間の思考を残したまま、人間が考えるようなロボットになりたいという。一応装置に入れるがそれでは転生というより改造、ということになるがまぁ生まれ変わるようなものなのでそっとしておく。


 私は男の子の記憶を維持するために脳を取り出し、この船にあるものでとりあえず最も頑丈な容器に入れた。

 骨格は人間をモデルにした簡素で頑丈なロボットを組み立ててやり、眼の代わりのカメラをつけてやる。

 飛ぶとこは出来ないが、重力の軽い岩石惑星なら跳ねれば高く飛べるだろう。

 最後に新しい体に脳が入った容器を接続してやる。

 話せなくなったので静かでいいがギシギシ手足を動かして嬉しそうにしている。


 母親は新しい息子の姿を見て精神があっさり壊れてしまった。


 一応希望は息子のそばにいることだったので、宇宙で邪魔になる肉体をはぎ取り、精神だけの存在にしてやる。

 そのままではほどけて消えてしまうので、船の技術で精神体ゴーストのままでいられるように固定してあげる。

 精神体のままなら口がなくなってしまった息子の脳と会話が出来るはずだから。


 私はすぐ近くを通った赤い星(火星)に親子を降ろしてやる。


 新しい体の男の子は軽くなった体で跳ねて飛んで赤い星の大地の向こうまで駆けて行ってしまった。

 母親だけがこちらを何度も振り返りつつも、息子についていった。



 私はそれを見送り、船を出発させた。


 «ママ!見てみて!体が軽いよ!僕、空を飛んでる!»

 «すごいわね。»

 «あそこにクレーターがある!あそこまで行ってみよう!»

 «そうね、行ってみましょうか。»


 少年と母親は船が彼らを置いていってしまったことに気づいていない。


 やがて不毛の地である火星で起きた砂嵐に巻き込まれ、粒子の細かい砂がむき出しの関節の間に入り込んだロボットの体は動かなくなった。食事も水も空気も不要の体となったが、動けなくなった少年と寄り添う母親は少年の脳が寿命を迎えて溶液に解けて消え、母親の精神が擦り切れて消えるまで火星の砂の下でたった二人で過ごした。



 置いていかれた先の二人を見ていた老夫婦は、置き去りにされることも考慮して悩んだあげくに石にしてほしいと言ってきた。


「もう意識が残らなくてもいいの、この人と離れずにいられるなら。」

「妻と一緒に死なせてくれ。」


 私は石になりたいという二人の希望を組んで、地球で最も堅い鉱石と言われているダイヤモンドにしてあげることになった。

 しかしそれだけでは少し壊れやすくなっているので船に積んでいる、地球ではロンズデーライトと呼ばれる隕石に含まれる炭素で包んであげることにする。


 近くを通った木星から美しいオーロラが見えると聞いた二人はぜひそこへ下してほしいと言った。

 二人の記憶から新婚旅行でオーロラを見に行った思い出があったので、オーロラの下で眠りたいという願望が理由らしい。

 目もそれを認識する脳もないというのに。

 抱き合う二人の肉体を高密度に圧縮し、大粒のダイヤモンドに変えて堅い岩石で包んでやる。


 私はダイヤモンドとなった二人を木星へと放ってあげた。

 しかしオーロラの下で眠りたいと言ったが、彼らは木星がガス惑星だとちゃんと分かっていたのだろうか。



 お兄さんの希望はずいぶんと厄介な内容だった。


「せめて他の生き物がいる星におろしてくれ。それに俺は音楽がしたい。」


 生物の存在する星は太陽系にはもう存在しない。地球の生物はそろそろ死に絶えたころだろうし。

 お兄さんの願いを叶えるには別の星系へ行くしかない。


 彼が生きているうちにたどり着けるかどうかも少し怪しい。

 そこで私の知っている星へと向かうことを決めた。


 そこの生命体と同じ体にしてやれば星にたどり着くまで寿命も持つことになるだろう。


 

 たどり着いたのは太陽系から何万光年も離れた星系。地球にはこの星の光が届かないため知られていないことだろう。

 硫化水素の海だけで陸のないこの星には、地球ほどではないが多様な生物が存在している。


「お前との宇宙の旅はもう飽き飽きだ。」


 そう捨て台詞を吐いた彼は、ゼリー状の水生生物に似たような生き物となっていた。

 人間の脳も形を崩さず同じゼリー状に変えることが出来たので、人間だったころの記憶や感情も引き継げていることだろう。


 スライムというのが一番近いかもしれない。無限に増殖でき、寿命も長い。

 硫化水素の海が蒸発しない限り彼が死ぬこともないだろう。


 そしてこの生物は歌が歌えるのだ。


 彼は同類に招き寄せられて船から去っていった。



 «おい!俺の歌を聞け!»


 彼がスライム上の体を揺らして作り出す音楽は、体内に持つ核を振動させて同種へと自分の存在を周囲へ知らせるためのものだ。

 しかし周囲の反応は鈍かった。当然だろう。その行為はかなりエネルギーを消費するからだ。


 «反応がねぇな!つまんねぇだろうがよ!»


人間の情緒を知らないスライム相手に、人間の感覚で訴えても答えるなど無茶な話だ。


 その時、巨大な生物による影がスライムたちを覆った。それは頭頂が上空の雲を突き抜けるほど巨大だ。


 仲間たちは彼を置いて逃げていくが、彼は歌うために消耗したせいで動けなかった。


 それは水面から頭を上げた鯨に形が似ていたが、背中に煙を吐く煙突のようなものがいくつも生えていた。

 相手が捕食するような生物ではないと気づいた彼は、地球では拝めない雄大な姿を感心してじっと眺めた。

 それは巨大な口を開くと上空のガスや塵、雲のように浮かんで見えるそれを視界に移る範囲すべてを飲み込んだ。その様子をスライムの体内に持つ球状の目が各の中に一つあり、透明な体を透かして全方位への視覚を持っているがそれは視界に収まらなかった。

 空がすべてその鯨に飲み込まれたように彼の目には映った。


 大きな口を閉じたそいつは体の側面にいくつも持つ大きな鰓から蒸気のようなものを吐き出し、さらに背中からは光る何かが立ち上っていた。


 彼がそれに見惚れていると、その巨体はこちらへとゆっくり傾いてきた。

 大量に物質を取り込んで重くなった体で海に沈みこもうとしていたのだ。


 彼は新しい肉体を得て新しい惑星の、知らない生き物の生態をなめていた。

 当然だ。蒸発しない限り死ぬことのない体を手に入れることが出来たのだから。


 しかし倒れこむ巨体のせいで上がる波は、彼の想像をはるかに超えていた。

 彼はやっと逃げようとしたが、動けなかった。


 そのまま立ち上った水しぶきはなんとはるか上空まで跳ね上がり、彼はそのしぶきの中に巻き込まれることになった。

 地球であれば大気圏よりもさらに上空まで彼は跳ね上げられてしまう。

 上空の気温にさらされた彼のゼリー状の体は凍りついてしまった。

 重さで落ちると考えていた彼だったが、地球とは重力の在り方が違うようで上空に留まってしまった。

 

 彼は再び地上に落ちるまで、自分が生きていくことになった惑星を眺めて生きるしかなくなった。

 彼が歌いたかった歌も、体が凍ってしまったせいで振動できずに歌えず、助けてくれるものもない。また長い寿命のせいで死ぬことも出来ず、彼はただただ深い孤独に落ちていくしか出来なかった。




 最後に残ったお姉さんは珍しいことを言った。


「私、あなたになりたいわ。」


 彼女にはなんでもできる私が全知全能の神様のように思えたらしい。

 そして私の外見から、こんな生意気でわがまま子供が出来ることなら自分にもできる、となぜか思ったらしい。


 自分になりたいと思うような他の存在がいるとは思ってなかった。

 他の連中から見たら故郷を無くし宇宙を漂い、他の惑星の生物に寄生して過ごすしかない生き物だ。


 まぁいいか、と思う。

 そもそも私の本体はこの船の心臓部にあるのだ。


 彼女が私の代わりを務めてくれると言うなら任せてしばらく眠ろうと思う。


 まず、人間の体では私の代わりは荷が重いので大改造しなくては。


「いや、いやよ、そんなの、もう無機物じゃない!いやぁー!」


 当然だ。地球で生物が誕生し微生物から始めて、とてつもない時間をかけてようやくこの人格を作り上げたのだ。もうこれからは人格と呼べるものも不要になるのだからいいではないかと思う。


 人間の脳の容量ではとてもではないが収まらない情報量が蓄積されているので、耐えられるようにまずはそこから改造しなくてはならない。


 作り変えるのは面倒なので、脳となる部分を彼女につなごうと思う。

 間違いなく人間としての精神は壊れるが、別にいらないので気にしない。



 彼女の体を順調に作り変えながら意識を宇宙の外へと向ける。

 次は新しく広がったばかりの宇宙へと行ってみようと思う。

 まだ塵すらないだろうクリーンな世界が広がっているかと思うと楽しみだ。


 そこへ辿り着くまで何千億光年かかるか分からないが、太陽系にいた間に得た情報を整理して眠る時間は十分にあることだろう。

 その間の管理は代わってくれるという彼女に任せよう。


 最悪船を沈めないならどうとでもなる。


「メリィ。彼女をよろしくね。」

「私はもうメリィなどという個体名称を持ちませんが。まぁ見張るだけなら致しましょう。」


 彼女はこの船の頭脳だ。いうなれば私の方がこの船の部品のような扱いなのだが、まぁなんとかなるだろう。


 起きたら地球で培ったこの人格も消えていることだろう。さよならマリィ。


 おやすみなさい。











 私の生態だが、地球の生物に例えるならファイサリアファイリス(カツラノエボシ)に似ているだろうか。

 この船が一つの生き物とすれば、私はそれの手足の一つ。

 各自の器官を担当する個別の個体が存在する。地球の生物を知りたいと思った本体の願いを叶える私は、その一つでしかない。


 さぁ、彼女はどこの部位に組み込まれることになるだろう。


 最初は子供向けの童話を考えていましたが、子供におすすめ出来ない出来になってしまいました。宇宙の彼方、まだ知らない世界へのあこがれは絶えません。夏の夜に背中がぞくりとするようなお話が書いてみたかった。楽しんでくださった方がいれば幸いです。

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