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SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》
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必殺の銃弾

 アルシェが詠唱魔法を唱えた瞬間、氷の盾を境に氷結の世界が広がり始める。

 その氷は電車内の壁や天井を這うようにして、つり革や座席を飲み込み、氷漬けにしていく。

 初夏のアメリカでは決してありえない……そして、科学では決して説明のできない奇跡の現象が、俺たち二人を襲い掛かろうとしていた。

 ────だが、見せたな、決定的隙を……!

「ロアッ!」

「おう!!」

 やるなら……ここしかないッ!

 俺の一声で全てを察したように、ロアが持っていたベネリM4を撃つ。

 正確に放たれた銃弾がアルシェの張った氷の盾の中心に突き刺さり、弾頭が壁を突き破ろうとして、激しく回転していた。

「無駄よ!そんな一発じゃ、私のアイスシールドは抜けないわ!」

 杖の先端に灯った青白い光の下で、アルシェが高らかに言った。

 まるで、自分の勝利は決まったかのように────

 それでもロアは、氷の壁の表面で弾頭が暴れているところに一発。さらに一発。

 通常────ショットガンでの精密射撃は不可能とされている。というのも、ショットガンの筒、弾が通る銃身には溝切り(ライフリング)が施されておらず、発射された弾頭にしっかりとしたジャイロ回転を与えることができない。最低限、ロアが今使っているスラッグ弾、ライフルドスラッグ弾には弾頭自身に溝が切られているため、発射時の空気抵抗で多少の回転は得られるがそれでも十分とは言えない。寧ろ変則的な(ランダム)スピンがかかることによって弾が少しブレるのだが────ロアの放った全ての銃弾、計5発は全て同じ場所にヒットしていき、一番初めの弾頭を後ろからグイグイと押し込んでいく……そして────


 バァァァァァァァン!!


「ウソ……!?」

 分厚い氷の盾が貫かれ、電車内に大きな音を立てて砕け散った。

 細氷(さいひょう)が舞い、濁流のように押し寄せていたアルシェの詠唱魔法と共に、肺まで凍りそうな冷気が突風に乗って押し寄せてくる。

 さぁむッ!……半袖Tシャツとロングコートで耐えれる寒さじゃねーぞマジで!

 一か月前のイギリスよりも断然寒い……!

「で、でも……今更アイスシールドを砕いたところでもう遅い!咲き誇れ(ブルーム)奇跡の花(アイスローズ)がお前たちを飲み込むことは確定している!」

 氷の盾を砕かれたことでアルシェが刹那の動揺を見せたが、俺達が反撃する暇などないことを確信したようにそう叫ぶ。

 事実、本当にアルシェの言う通り、押し寄せてくる氷の荒波は電車の壁や天井を這うように突き進みながら、俺達の眼前にまで迫っていた。

「さぁ……!魂まで凍り付いてしまえぇぇ!!」

 アルシェの声に合わせて、地面の氷の荒波がザバァ!と本物の高波のように持ち上がり、頭上から俺達二人を丸呑みにしようとした。

 アルシェと黒髪女の姿を遮るように、目の前が氷の壁一色で染まる。

 いま後ろに下がれば、まだこの氷の荒波からは逃れられるかもしれない……だが、その代わり時速200㎞で走るメトロから飛び降りなければならないので、どちらにしろ死は免れないだろうが……

 いや、そんなことは寧ろどうだっていい……

 ────俺の後ろにはトリガー3がいる。女の前で男が間抜けな姿を見せられないよな!

 俺は着ていたロングコート、八咫烏(ヤタガラス)の左肩に右手を掛ける。

 実際にやったことは皆無────それにくわえ通常の魔法より強力な詠唱魔法……やれるかどうか分からないが……やるしかない!

 俺は身体を右に回転させながら、襲い掛かる氷の荒波に当てるようにして、掴んだコートを脱ぎ捨てながら目の前で大きく広げる。

 八咫烏は特殊な製法によって作られた対魔術用防具、生地に魔術を練り込むことで、防弾防刃の強度を上げるだけでなく、魔術に対しても高い防御性能を持っている。

「はぁッ!!」

 荒波が八咫烏に触れる────だが、飲み込まれた座席やつり革と違い、コートが凍り付くことは一切無かった。

 そのままさっき銃弾を弾いた時と同じ要領で、回転した勢いのまま氷の荒波を右側に押しのけた。

 バァン!と電車の壁に叩きつけられた氷の荒波が強烈な音と共に車体を少し歪ませ、波紋上の綺麗な結晶を作った。

「今だ!!」

 半袖Tシャツ一枚になった俺は、顎がガクガクと震える中叫ぶ。

 俺を頭上すれすれの位置からロアがじゃらッ……と音を立て、最後に残っていた二本のクナイ式ナイフを投擲した。

「あれは────!」

 黒髪女がすぐそれに気づいた。

 投擲された二本のナイフの柄の部分についた()の存在に────

 それが何かアルシェに説明している暇が無いと、すかさず黒髪女がナイフを弾くための銃弾を一発撃つ。

 が、そのタイミングを狙って同時に俺も左腕で銃を抜いて発射。

 狙いは黒髪女────ではなく、そして……彼女の持っていた武器でもない。

 俺の放った.45ACP弾は、黒髪女の放った9mmパラベラム弾と空中で交錯し、短い火花と金属音を響かせる。そして、逸れた俺の銃弾がアルシェの横にあったガラス窓に当たり、黒髪女の銃弾は俺の左腕をかすめていった。

 狙い通り、銃弾を銃弾で弾くことに成功したが……そんな人外でも見るような目で俺を見るのは無しだぜ?黒髪女さんよ。

「このッ!」

 詠唱魔術を回避されたことで、呆気に取られていたアルシェがその間に正気を取り戻すも、避ける暇が無いと悟ったのか杖をかざす。

 再びの青白い光────そして、再び魂を宿したかのように、電車の壁の氷が再び俺達に襲いかかろうとしていた。

「ぅっ!?」

 だが、それよりも早くアルシェを、クナイ式ナイフに繋がっていた鎖が巻き付いて身体を拘束した。

 それと同時に、間一髪で俺達を飲み込もうとしていた氷が、時でも止めたかのように動きをピタッとを止める。

 よく見るとロアは無傷だが、俺の髪の毛一部やTシャツの一部は完璧に凍ってやがる……あっぶねぇ……!

 どうやら……仮説は正しかったらしいな。

「力が……抜ける……この鎖、まさか……!?」

 簀巻き状態でうつ伏せに倒れたアルシェが苦悶の表情でこっちを睨む。

「ああ、神の力を抑え込む、お前たちが開発した鎖だ。正確には魔力の発生を抑えるというのが正しいか?」

「ッ!?」

 ロアの説明にアルシェが目を丸くした。

 以前、セイナがベルゼ・ラングに捕まった時に拘束されていた鎖。今後使えるかもと思った俺が、情報収集のためロナに渡し、解析を依頼していたものだ。

「何故、この鎖の、正確な効力を知っている……!?」

「調べたんだよ……一日かけて、科学の力でな!」

 俺の後ろでドヤ顔しながら、この車内で一番大きな胸を張るロアに、アルシェが唇を噛み締める。

「ま、私は細かい原理については知らないんだけどな!」

 ドテッ!

 なっはっは!と高笑いするロアに思わずズッコケそうになる。

「おいおい────知らないで使ってたのかよ……!」

「考えるのは()()()の仕事だ!私の管轄じゃないからな」

「全く……大した度胸の持ち主だよ……お前は……」

 昨日────ロナが徹夜で調べていたのがこの鎖。

 最初は神の加護を抑えるオカルトチックなものだと思っていたこの代物は、調べてみると八咫烏と似て異なる、魔力を抑える性質を持っていた。というのも八咫烏は魔力を弾くのに対し、この鎖は魔力の発生を抑え込むことができるらしい。そして、神の加護というのは魔術ではないが、根本は魔術のように魔力を使うらしく、鎖を使えば同様に抑え込むことができるとのこと……つまり、神の加護と言うのは突き詰めると、魔術ではあるが、加護しだいで通常は限りのある魔力を無尽蔵に供給してもらえるというチート……とロナは言っていたが、正直この辺からは俺もよく分かっていない。

 確か……昨日のボーリングでセイナが弾を曲げていた現象を突き詰めてたら分かったとかなんとか。ボーリングの弾は本来電気を通さない素材でできている……にもかかわらずセイナはボーリングの弾を電気で曲げていた。これを映像で調べ解析し、セイナが神の加護を使ってボーリングの弾の表面に魔力の膜を付着させ、それを電気に変化させて曲げていたことが分かったところにヒントを得たと────神の加護と言いつつ、それは本当は魔術なんではないかという推論、仮設に行きついたらしい。

 で、それはどうやら正しかったらしく、鎖を巻かれたアルシェは魔術を使えることができず、ただうつ伏せで寝ころんだまま動けなくなっている。


「でも、詰めが甘かったわね────」


 カチャリ────とアルシェの隣にいた黒髪女が俺に銃を向ける。

 奴はアルシェと違って全くの無傷。銃を撃つなど造作もないだろう。

「確かにアルシェの動きは封じたが、貴様も同様に動けず、ロア・バーナードの持つショットガンは弾切れ……いい線までいっていたのに、惜しかったわね」

 逃げようにも、Tシャツの肩の位置が完全に凍り付いているせいですぐには動けない。

 服を脱いでいる間に撃たれる。そして、指摘通りロアの武器は何一つ残っていない────

「本当にそうだと思うか?」

 俺がフッと失笑した。

 これには黒髪女だけでなく、後ろで一瞬焦りの表情をしていたロアも驚いていた。

「なんですって?」

 圧倒的優位のはずの黒髪女が、俺の様子を見て動揺したかのように聞き返してくる。

 冷血でポーカーフェイスな奴と勝手に思っていたが、こう見るとセイナたちよりも少し年上の、普通の女の子のような反応だなと内心で思う。

 だが、それでも容赦はしない────コイツが見た目の綺麗さ以上に、凶悪な人物と知っているからこそ、俺は徹底的に叩く。

「俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それも、特大サイズのをな!!」


 バリンッ────!!


「ッ!?」

「あ、あれは────!?」

 アルシェの横のガラス窓、さっき俺が黒髪女の銃弾を銃弾で弾いた時に傷つけていた部分が割れ、暗闇のトンネルから、一筋の金色の光が飛び込んできた────

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