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SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》
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解き放たれた猛獣

 人混みの中に消えていくフォルテの背中を二人で見送りながらロナが返してもらった自分のスマートフォンに呟いた。

「ジェイク、こっちでもうちの職員一人が裏切って、例の神器を盗んで逃げていった」

『裏切りだと?だが今回は君が信用できるメンバーを選出したはず、一体誰が裏切った?』

牧師(パスター)だよ。コードネーム牧師(パスター)

『なんだと……!?派遣したチームのリーダーじゃないか……!あの牧師(パスター)……ニコラス・マッケイが本当に裏切ったのか……?私の中では君と同じくらい信頼を置いている人物だぞ……!?』

「うん、チームメンバーからの報告と合わせてロナもこの目で確認した。今それをフォルテが単独で追いかけている」

『なんということだ……』

 スマートフォンからCIA長官の落胆する声が響いた。

 電話の内容から察するにどうやら裏切った人物、コードネーム牧師(パスター)ことニコラス・マッケイは、ここにいるロナ、もといCIA副長官と同じくらい高いクラスの幹部らしい。

 そんな人物がこんな簡単に裏返ることなんてあるのかしら……?

 ジェイクの声が周りの一般人の逃げ惑う足音や怒号、怯え声に掻き消えていく中、ロナはあくまで冷静に呟いた。

「でも、明らかに都合が良すぎるとロナは思う……火事場泥棒にしては如何せんタイミングが良すぎるよ。犯行速度から明らかに()()()()()()()()()()()()()()()()としか思えない……」

「ミサイル攻撃は神器を盗むための布石に過ぎないってこと?」

 アタシがそう言うとロナは頷いた。

「うん、セイナは知らないだろうけど牧師(パスター)はCIA中では結構古株で、裏切る可能性は極めて低いとロナは思っている。もしかしたら例のケンブリッジ大学の時の話しのように誰かに操られているのかもしれない。そしてこのミサイル攻撃も例のヨルムンガンドって組織の仕業なのかも……」

『なるほど、確かに断定はできないが、そういう話だと確かに辻褄(つじつま)が合わなくもないな……だがもしそれが本当の話しだとしたら……』

「ロナ達が相手にしているヨルムンガンドという組織は、国家クラスの装備を所持しているということになるね……」

「そんな……」

 ロナの見解を聞いてアタシは思わずそう声を漏らした。

 ありえない────!

 仮に今回の件がヨルムンガンドが関与していたとして、ただの組織ごときが核弾頭を保有しているなどと聞いて一体誰が信じるというの……!

 大体、こちらを狙っているというそのミサイルの場所が特定できないというのも気になる。

 CIA長官のジェイクは新手のステルスミサイルとも言っていたが、もし本当にそうならミサイル警報システムとやらに引っかかるようなことがあるのだろうか?撃った場所が特定できないということは何処の国が発射したミサイルか特定することはできないのだから、本当に攻撃することが目的ならシステムに察知されるよりも先にミサイルを撃てばいい……

 ロシアか極東の国々からでも発射すれば僅か30分でアメリカを火の海にすることができるのだから。

 それをただ撃たずにずっと狙っているという情報だけをアメリカに与えているということはやはりヨルムンガンドの陽動という線が強くなる。

 だが、そうするとそのヨルムンガンドが一体どこから狙っているのかが全く予測できない。

 アタシ達の想像を遥かに超える場所から狙っているのか、それともそもそもミサイルなどは存在せず、ただミサイル警報システムを誤魔化す何かをしているのか────それくらいしかアタシの頭では考えることができなかった。

 そもそもどこの先進国も持っていないようなそんな超最先端ミサイルを誰かが持っていることすらおかしい────

 と思った時ふと、誰かが背後から引っ張ってくるような感覚に襲われて思わずアタシは振り返った。

 背後には誰も立っていなかった────

 視界の先には、未だ混乱する一般人が逃げ惑う姿や、乱雑に乗り捨てられた車などが入り乱れた様子が映っているだけだった。

『とりあえず、逃げた職員はフォルテに任せて君たちだけでも早く────』

「Mr.ジェイク。ちょっと待って……」

『……なんだね?セイナ君』

 スマートフォンから聞こえてきたCIA長官ジェイク声を遮り、アタシは自分の背後に広がる光景のさらにそのずっと先を見つめた。

 ────呼んでいる────

 何かに引き寄せられるような感覚、強力な磁石が遠くの金属を吸い寄せるようとしているようなそんな感覚に襲われたアタシは思わずその方向に向かって一歩足が出た。

「……どうしたのセイナ?」

 異変気づいたロナが顔を斜めに傾け、アタシの顔を覗き込んできた。

「ロナ……ごめん、先にホワイトハウスに戻っておいて」

「戻ってって……セイナはどうするの?」

 アタシの言葉にロナは首を傾げた。

「アタシちょっと気になることがあるのッ!多分そんなに時間は掛からないから────!」

「て、ちょっとッ!?」

 そう言いながらフォルテとは逆方向に走り出したアタシにロナは慌てたように声を掛けてきたが、アタシは振り返らずに人混みの中を駆けていく。

「別に行くのは良いけど……セイナ道分かるのかな~」

『どうした?なにがあった?』

 ぼやくロナにジェイクが尋ねた。

「なんかセイナ、気になることがあるって、街の西側に向かって走ってっちゃったんだよね……」

『なにッ!?呼び戻すことは────』

「できないよ……どこに向かったかもわからないし、この人混みの中を探すのは結構面倒くさいよ……」

『……まあ仕方ない……元々彼らに我々を手伝う義務は無いから無理に引き止めることはできない……』

「うん、とりあえずスミソニアン博物館の職員と合流してそっちに帰るよ……」

 小さい唸り声の後にそう言ったジェイクにロナがそう答えた瞬間────


 チャキッ────


「ッ!」

 いつも聞きなれた金属音、見ていなくても分かる────銃をこちらに向ける音。

 瞬時に危機的状況を全身で察知したロナの中で、何かがカチリッ────と切り替わるような音がした。

 その瞬間、普段と全く違う俊敏な動きで腰のショットガンホルスターから愛銃のベネリM4を掴み、振り向きながらセーフティーを解除して、その銃口を背後の人物へと向けた。

「……ッ!お前は……!」

 スミソニアン博物館の塀から出て、背後から銃を向けてきた人物を見たロナ────いや、()()はそう言ってからショットガンの銃口を下げた。

「副……長官……」

 さっき逃走した牧師(パスター)と同じCIA職員で、白人の金髪坊主のその男、コードネーム聖杯(チャリス)は、銃口をゆっくり下げながら弱弱しくそう言った。

 というのも、着ていたスーツはボロボロ、体中傷だらけの状態で血の雫を地面に滴らしながら肩で荒く息をしている状態だった。

「大丈夫か……?誰にやられた……?」

 ロアは倒れそうになった聖杯(チャリス)をスミソニアン博物館の塀にゆっくりと座らせながら顔を覗き込んだ。

 ただでさえ白い顔が、出血多量の貧血でさらに真っ白な生気のないような顔をしながらも、聖杯(チャリス)はゆっくりと話し始めた。

「さっきの……牧師(パスター)が裏切った後……ゴホッ!ゴホッ!」

「落ち着けッ……!ゆっくり話せ……」

 咳き込む聖杯(チャリス)の背中を摩りながらロアはそう言った。

「別の襲撃者が……我々を……まだ中に……奴が……ゴホッ!ゴホッ!」

「分かった……もうしゃべるな……医療班はもう呼んであるからここで大人しくしてろ……」

 聖杯(チャリス)の容態を見た感じ、多少の出血はあるが、傷自体はそこまで深くないので死ぬことはないだろうと思ってロアがそう言うと、聖杯(チャリス)はゆっくり頷いてから安心したように気を失った。

 それを見てから、ロアはショットガンを構える時に地面に落としたスマートフォンを拾い上げた。

「おい、ジェイク聞こえるか……!」

『────その喋り方はロナではなくロアか?今度は何があった?』

 口調が荒く、声質が低い声に変わっていることから直ぐに人格が入れ替わったことを察したジェイクがそう尋ねてきた。

「どうやらまだ博物館の中にお客さんがいるらしい……うちの職員も何人かお世話になったらしいからよ……ちょっと挨拶してくるよ……」

『ま、待て……!一人では行くのは危険だ……!大統領が戦況指令室に来れば私も現場に行ける!せめてそれまで待て────!』

「ジェイク、アンタを待っている間に中に残った仲間が襲撃者に皆殺しにされる可能性もあるんだぞ。大丈夫だって、私は()()()みたいなヘマはやらかさないから」

『これは明確な命令違反だぞロア……!分かっているのか……!』

 ロアの言葉にジェイクが険しい声でそう言い放った。

 それに対しロアは、少し俯いてから口角を吊り上げ、肩と一緒に銀色のツインテールを小さく揺らしながら静かに笑った。

「昨日の件でアンタには少し苛ついてたところがあるんだ……それを踏まえれば私だってたまには命令違反したくはなるさ。安心しろ、襲撃者も貴重な情報源として殺さないし、フォルテやあの気に入らないセイナも()()殺そうとしたりしないからよ……成果さえ出せばアンタも文句は言えないだろ?」

『そういう話じゃない、ロア、君には────』

 通話を切ったロアは、スマートフォンを羽織っていたICコートの内ポケットにしまってから、ショットガンを構えてゆっくりとスミソニアン博物館の入り口に歩いていく。

 これは傷つけられた部下や貴重な情報源を確保するための行動でもあったが、正直ロアからしたらそんなのは建前のようなものだった。

 一人でも十分強いうちCIA職員をあそこまで痛めつけた人物が一体どんな奴なのか……

 それを想像するだけで高鳴ってしまう自分の鼓動をロアは全身で楽しんでいた。

 その時ロアは気づいていなかった。

 自分がさっきからずっといやらしくほくそ笑んでいたことに────

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