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SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》
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スミソニアン博物館

 ガタガタッ

「ッ……!」

 何かの物音で俺は反射的に目を覚ました。

 咄嗟に近くにあった自分の銃を手にして辺りを見渡すと、床で仰向けになったセイナと目が合った。

 白いネグリジュから、動きやすい紺色のスポーツジャージに着替えているところを見る限り、どうやら朝食前にトレーニングしていたらしい。

「ごめん……起こしちゃった?」

 トレーニングのインターバル中だったのか、少しだけ呼吸を荒くしながら汗を拭い、ソファーに座っていた俺に上目遣いでそう聞いてくる姿が普段の可愛らしい感じとはまた違った色っぽさのようなものがあり、そのギャップに俺は眠気が覚めるほど胸をドキドキさせた。

 暴力的な態度のせいでいつも忘れるけど、やっぱセイナもホント可愛いよな────

 あと、この絶妙に鼻腔の奥を刺激してくるこのスイレンの香り。ロナの汚部屋とはまた違ったセイナの香りが寝起きで冴えない俺の頭をさらにマヒさせていく。

「……ッ!」

 その無防備な彼女の魅力を前に、ついつい甘い花の蜜に惹かれた蜂のように引き込まれてしまいそうになっていた俺は、邪念を振り払うように顔をブルブルと振るわせた。

「どうしたの……?顔色あんまり優れないようだけど……時差ボケで眠れなかったの……?」

 そう言ってセイナは身体を起こしてさらに俺に顔を近づけてきた。

 純粋無垢なブルーサファイアの瞳をパチパチさせる。

 桜の花びらのような薄いピンクの唇。

 真っ白いシミ一つないきめ細かな肌。

 どこをとっても可愛いその少女を前に俺は触ってないの心臓の音が高鳴るのを感じながらも、さっきから何度か頭に響いた悪魔の囁きをなんとか無視してからぎこちなくセイナに返事した。

「あ、あぁ……ちょっと眠りが浅かっただけで別に問題ない……」

「そう……?」

 様子がおかしいことに何となく気づいたのかセイナは「ん……?」と首を傾げながらそう答えた。

 俺は気まずくなって時計を探す仕草で顔を背けながら時刻を確認する。

 時計の針は7時28分。朝食は八時に届く予定だったから少しだけ早く起きてしまったらしい。

「お、俺はロナを起こしに行ってくるからその間に汗でも流しておいてくれ……あとできたら部屋の換気もしておいて欲しいな……」

「ごめん、アタシそんなに臭う……?」

 俺の言い方が悪くセイナにはそう聞こえてしまったらしい。

「ち、違う……!むしろいい香り────じゃなくて!ずっと閉めっぱなしの部屋だとなんかこう……その……あんまり気分良くないだろ……?セイナじゃなくて俺の問題だから!」

 朝食を食べないと頭が回らない俺は、自分でも何を言っているのかよく分かってなかったが、セイナはどうやら理解してくれたらしく「分かったわ……」と訝し気な表情を浮かべたままシャワールームの方に向かっていった。

「ふぅ……」

 俺はセイナに聞こえない声でため息をついた。

 全く、ヘロインや薬物系魔術よりも恐ろしいドラッグがこの世に存在したとは……

 内心でそう思いつつ部屋を出て、その恐怖から解放された俺は二つのことに気づいた。

 一つは、昨日あんなに嫌がっていたセイナが俺に普通に接してくれていたことだ。

 いつもだったら機嫌が悪いとムスッとしてロクに話しを聞いてくれないのに、セイナから話しかけてきたのだ。

 さらに自分で引いた不可侵領域から出ていたし、そのあと俺と数十センチの距離までセイナは近づいてきた。特に嫌そうな様子もなく。

 一体どういう心境の変化なのだろうか……

 それともう一つは、あんな近い距離でトレーニングしていたセイナに対して俺が全く気づかなかったことだ。眠りが浅かったのにも関わず……

 久々のホワイトハウスで安心していたのか?それともセイナが静かにトレーニングしてくれていたのか?理由かよく分かっていないが、とにかく俺の気が少し緩んでいたのかもしれない……

 パンパンッ!と軽く頬を叩いてから気を入れ直した俺はロナの部屋へと向かって通路を歩いて行った。



「ふぁぁぁぁ……」

 セダンを運転していたロナが大きな欠伸をした。

「そんなに眠いなら運転変わろうか……?」

 助手席に座った俺がそう声を掛けるとロナは前を向いたまま首を小さく横に振った。

「いいよ、寧ろ運転してないとロナ寝ちゃうよ……」

 そう言ってエナジードリンクのレッドブルとモンスターエナジーを混ぜ合わせた中身の入ったボトル缶を片手で飲みながら道を左折するためにハンドルを切っていく。

 すごく体に悪そう......てか美味いのかそれ?

「昨日寝なかったの?」

 後部座席に座ったセイナがそうロナに声をかけた。

「大丈夫、一時間は寝たから……ふぁぁ……全然大丈夫……」

「全然そうは聞こえないんだけど……」

 目元にはクマ、目尻に涙を浮かべたロナに対してセイナがジト目でそう言った。

 セイナをシャワールームに勧めたあと俺がロナを起こしに行くと、散らかった部屋の中心でロナがPCの薄暗い画面の前で死んだ顔をしながら仕事していた。

「あれ、もうそんな時間?」

 そう言ってからふらふらと立ち上がったロナを連れ、シャワーを浴びたセイナと三人で朝食を食べたあと私服に着替え、最低限の装備をした俺達はホワイトハウスから数キロしか離れていないスミソニアン博物館に行くため、昨日使ったセダンに乗り込んでワシントンの街を移動していた。

 私服と言ってもセイナは相変わらずの防弾性の小さな赤いリボンのついた白いブラウスと黒のプリーツスカートと同色のニーソックス。俺も同じく防弾性のジーパンとTシャツ。ロナも恐らく防弾性の黒の短い丈のキャミソールに白いショートパンツと同色のニーソックスを履いていた。

 別にわざわざ防弾系の衣服を着る必要はないのだが、アメリカは銃大国だし用心に越したことはないだろう。

「ロナ、仕事が大変なのは分かるが、睡眠はしっかり取ったほうがいいぞ?」

「いや、それフォルテも言えないから……アンタも半月前はそんな生活してたでしょ?」

 俺の言葉にセイナがそう突っ込んできた。

 確かに、言われてみればそうだったかもしれない……

「あ、見えてきたよースミソニアン博物館」

 テンション低めの声でロナが呟いた。

 今は国際スパイ博物館になっている旧CIA本部の横を通り過ぎた先、左側に赤レンガ色のホワイトハウスよりも一回り小さい建物、スミソニアン博物館が見えてきた。科学、産業、技術、芸術など色んな分野を研究しているスミソニアン学術協会の運営しているこの博物館は、大小様々な動物や飛行機といった人工物などがお目にかかれる場所だ。さながら映画ナイトミュージアムのような博物館と言った感じだ。まあ、あれのホントのモデルはニューヨークにあるアメリカ自然史博物館なんだけどな。

 ロナの話では研究所とやらが地下にあるらしく、そこで雷神トールの神器、ヤールングレイプルを調査しているらしい。

「神器はすぐに見れるのか……?」

「うん、昨日連絡したから大丈夫、一回盗まれてるから警備も最初に比べてかなり厳重にしてあるから心配ないよ……」

 俺の質問に眠そうな声でそう言ったロナ。

 何故だろう……その言葉に妙な不安を感じる。

「本当に大丈夫なんでしょうね……?」

 セイナも何となくそれを感じたのか念を押すようにロナに尋ねた。

「前は細かい編成を考えずに運ばせたから襲撃された際に盗まれたけど、今回はしっかり警護の編成をして、さらにロナの部下のCIAの職員も研究員や客の中に数名混ぜてあるから心配ないって……金庫も厳重だから外部から盗むことは不可能だし。仮に職員が裏切ってもすぐに対処できるように常にロナちゃんが見張っているんだから」

 眠い中、俺たち二人に言われて少しイライラ気味にロナがそう返した瞬間────


 バァァァァン!!!!


「「「ッ!?」」」

 俺たち三人の左斜め前、スミソニアン博物館の屋根の部分が爆発した。

 その衝撃で近くの木や電柱に止まっていた鳩がバタバタと飛び立ち、博物館の入り口付近から人が扇状に飛び出してきた。

「研究員に混じったCIAの職員が何か薬品の配合でも間違えたのか……?」

「いや......間違えたのはロナが配置したCIAの職員かもしれない……」

 俺の言葉にロナは真っ青な顔でそう呟いてからアクセル踏み込んだ。

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