極秘偵察強襲特殊作戦部隊
ロナの話しを聞いた後、もう時間が遅いということもあって明日の朝に神器ヤールングレイプルが置いてあるスミソニアン博物館に行こうということで話しが落ちついたアタシ達はボーリング場をあとにし、用意してもらった客室で夕食を取った。
本当は久しぶりに再会したフォルテとその同行者であるアタシの為に大統領直々にディナーの誘いがあったらしいのだが、申し訳ないけどそっちは断らせてもらった。
というのも────
「大統領に身分がバレる可能性がある……?」
ボウリング場の上階にあるという食堂の方に向かうため階段を三人で上っている最中、前を歩いていたフォルテがアタシの言葉に反応して振り返った。
「うん……ベアード大統領は父や母とは会談以外のプライベートでも会うような仲だったから……アタシはほとんど会ったことないけど、妹が……リリーがよく会っていたから瓜二つなアタシが会ったらそれはそれで混乱するかなと思って……」
アタシは少し歯切れ悪くそう言うとロナが「んーどうしよっか?」とフォルテの顔を見上げてそう呟いた。
「そうか……分かった……じゃあそっちは俺が適当に言い包めてくるから気にすんな!」
とフォルテが何とかしてくれたおかげで、実はここに来ると聞いた時からずっとソワソワしていたアタシの心の荷が少しだけ下りたような気がした。
「我儘言ってごめん……」
どこかに向かったフォルテをよそに、先に今日泊めさせてもらう部屋に向かうため、ホワイトハウスの通路をロナと二人で歩いている最中にアタシがそう言うと────
「いいよいいよ、ロナもああいうかしこまった場って性に合わないから……部屋で宅配ピザ食べてる方が好きだしね!」
と片手をパタパタと振って軽く笑った。
そのあとは用意してもらった高級ホテル顔負けの部屋に通してもらったアタシ達はその部屋で振舞われる予定だったコース料理を三人で食べながら話しをしていたのだが────
「ロナは他の元S.Tのメンバーとは連絡取ってるのか……?」
フォルテがコース料理のパンをかじりながらそう尋ねた。
それに対しロナはフォークで自分のサラダを選別し、好きなものだけを口に運びながらこう答えた。
「ほとんど取ってないよ……たまにここに遊びに来る奴や噂を聞いたりすることはあったけどね……」
「へー俺の方は誰も来なかったのに……」
「人望が薄いんだよきっと」
がっくりと項垂れたフォルテにロナがニッシッシ!とサラダをムシャムシャ食べながら笑った。
せめて口の中が見えないよう手で抑えて笑いなさいよ……
「まあ、多分まともなメンバーは仕事をしていて忙しかったんだろうけどね……ロナのところに来たのも仕事の知り合いとそれ以外は何しているのかよく分からない連中だけだしね……あとこれキラーイ」
「パプリカを俺の皿に押し付けんな……!で?誰が来たんだよ……?」
「真面目な国防総省のお偉いさんが直々にここに仕事を持ってきたのと、世界を放浪している猫が暇つぶしにここに訪れたくらい……かな……あーあと、BLACKYが一回だけ大統領に会いに来てたね~相変わらず一言もしゃべらなかったけど」
「なにそれ……?」
ロナの言っていることが理解できず、アタシがコース料理のメインのステーキを切り分けながらそう聞き返すと、ロナではなくフォルテが答えてくれた。
「トリガー5と6と7のことを言っているんだ。スナイパーライフルが得意だったトリガー5は除隊後に国防総省に就職したんだ。その関係でロナとは幾らか顔を合わす機会があったんだろう……」
「大方は設備の扱いが悪いだの書類の納期がどうのこうのって苦情ばっかだったけどね!ついでにロナの私生活まで茶々入れてくるから困っちゃうよ……」
いやいや、あの汚部屋ならそう言われても仕方ないでしょ……
「ランチャーが得意だった重火器専門のトリガー6は除隊後は職に就かづ、のほほーんと世界を放浪しているんだ。それこそ猫のように」
「見た目も猫みたいな奴だったしね~ここに来た時も「途中でバイクが故障したから助けて……」ってボロ雑巾みたいな恰好で尋ねてきたし……」
無職で猫でボロ雑巾……
同じ隊員同士でも随分雰囲気が違うらしい……
そんなので統率がしっかりとれるのかしら……?
「最後がリボルバーが得意だったトリガー7はS.Tに入った時から謎の人物で、6人態勢の部隊だった俺達の前に颯爽と現れ、部隊解散後も風のようにどこかに居なくなってしまった奴だ」
「六人?初めから七人じゃなかったの?」
S.Tと部隊名が付いているのだからてっきり初めから七人態勢の部隊だと思っていたアタシは目を丸くした。
すると今度はフォルテに代わってロナが説明する。
「部隊設立当初は五人しかいなかったんだけど、あとから特例で二人を追加して七人になったんだよ」
「そういえばさっきボウリング場でフォルテがロナのこと、「引き抜いた時はアノニマスの作ったとは知らなかった」って言ってたわね……」
「あぁ……ロナはさっき自分で言ってたが、元々はカリフォルニア州の孤児だったんだけどな、当時コイツが────」
「スト~プ!!フォルテさんストップで……!!」
フォルテが話しているのを遮るように、ツインテールを止めてあるアメジスト色のリボンを逆立てたロナが両手を上げた状態でアタシ達の間に割って入ってくる。
まだ会って数時間だが、その中でも断トツの焦り顔を浮かべたロナはフォルテの耳元に小声で話しかけた。
「ちょっとちょっと……そういうプライベートの話しは個人のプライバシーに反するからちゃんと事務所通してからにして欲しいな~」
「「いやお前がそれを言う?」」
自虐でそう言っているのかと勘違いするくらいのロナの暴論に思わずアタシはフォルテとハモりながらそう言ってしまう。
「別に変なところはないだろ……?」
フォルテが腕を組んで記憶を辿りながらそう答えた。
「あるよあるよ……!大ありだよ!!当時井の中の蛙だったロナがイキってた過去なんて聞いて誰が得するの……!」
「アタシ」
片手を上げてそう答えるとロナは苦虫をすり潰したジュースを2リットル位流し込まれたような渋い顔でアタシを睨んだ後、首を左右に高速に振りながら叫んだ。
「やだやだやだやだ!!絶対嫌……!セイナにそんな恥ずかしいこと知られたらロナちゃんお嫁に行けない……」
誰の嫁よ……
ヤダヤダ期に突入したロナが銀色のツインテールをでんでん太鼓のように振るう姿にフォルテが「どうする?聞くか?」と目配せしてきたので、アタシは「別に言わなくていいよ」と頭を振った。
別に今本人の前で聞かなくても、あとでゆっくり聞けばいいだけのことだから────
フッフッフッフッ────
アタシは柄にもなく、心の中で意地悪い笑みを浮かべながらそう思った。
「とにかく、その話はもう終わり!終わり終わり終わり!それよりロナちゃんさっきの話しの続きが聞きたいな~」
「いや、お前は全部知っているだろう……」
フォルテが「全く……」と呟きながら自分の黒髪の後頭部を右手で掻いてため息をついた。
「はぁ……話しを戻すが、S.Tは本来の名前じゃない。正式名称は極秘偵察強襲特殊作戦部隊。第一次世界大戦の時から存在している大統領直下の部隊で、直接軍や政府に話しを通さずに大統領の意志のみで直ぐに動けるって言うのが特徴の部隊だ。あと部隊に編制されている人物は全てアメリカ人以外っていうのが特徴だな」
「アメリカ人以外……?」
フォルテの言葉にアタシは首を傾げた。
アメリカの特殊部隊なのに編成は全て外国人……普通そんな部隊は考えられない。
だってアメリカの特殊部隊と戦い、その兵士を捕らえたら日本人でしたなんて話────
「まさか……!」
アタシは何となくその意図に気づいてフォルテの方を見た。
「そう、アメリカ人以外に仕事をさせることで、仮に死んで身元を調べられたとしてもそれがアメリカの犯行だということを察知されないようにするためだ。そのおかげで、ネイビーシールズやデルタフォースよりもフットワークが軽く、本来ならアメリカが介入したことが絶対にバレてはいけない作戦でも積極的に行うことができる部隊なんだ」
フォルテは結構簡単に話しているがアタシは言葉を失った。
通常、アタシ達SASも確かにイギリスが介入したことがバレないように作戦を行うケースも確かにある。
湾岸戦争やイラク戦争前のアフガニスタンでもそういった作戦が行われていた。
だが、これら全ての作戦はあくまで兵士がその技能をフルに生かして帰還できることが前提条件の作戦だ。
理由は仮にもし戦闘になって殺され、死体が回収できなかった時に、イギリス人とバレてしまうからだ。
だけど、フォルテの言っているその部隊は死んでも問題ないと言っているのだ。
それはつまり他の特殊部隊よりもより高度で死の可能性のある作戦を行ってきたということだ。
「で、でも……ここにいるロナはアメリカ人じゃないの?」
食事の手を止めながらアタシが質問すると、ロナはフォークを持った手を軽く振った。
「ロナは生まれも親も知らない孤児だったから国籍が無かったんだよね~まあ結果として部隊に入れたから良かったんだけどね……」
そう言って孤児だったことを気にしてないかのように笑うロナの表情に、アタシは少しだけ違和感を感じた。
さっきアタシのスマートフォンを奪って遊んでた時の感じと違い、若干作っているようなその笑みに対してアタシはなんて返したらいいのか迷っていると、返事する前にフォルテが再びしゃべり始めた。
「と、結局七人も集まってしまった部隊に対し、ネイビーシールズやデルタフォースのような部隊の通称を大統領が考えた時、隊員それぞれの得意な銃がバラバラだったことにちなんで「SEVEN TRIGGER」と名付けたのが最初。それが噂になって広まり、解散後に他国の上層部に正式な名前が知れ渡った感じだな」
「ところでフォルテ……」
と腕組をしてウンウン頷きながらそうまとめたフォルテに、横からロナがツンツンとその腕をつついた。
「この話し、アメリカで最上級ランクの国家秘密なんだけど、話して大丈夫だったの……?」
「あっ……」
いまさら思い出しかのような声を上げるフォルテ。
え……アタシ全部聞いちゃったんですけど……
「どうするフォルテ、処す?処す?」
とアタシを始末できる口実ができたことにロナが目をギラギラとさせ、椅子から立ち上がってフォルテにそう尋ねた。
「なによ……!勝手に喋っておいて……!やるって言うなら相手に────!」
「別に気にしなくて大丈夫だろう」
アタシがロナに食ってかかろうとして椅子から立ち上がったタイミングでフォルテがそう呟いた。
「バレたところで別に何ともないだろう。今は活動してない訳だし。それにセイナのことは信用しているから気にすることはないさ」
そう言ってから何事もなかったかのように食事の続きをするフォルテを見たロナが、ため息まじりに椅子に座った。
そして────
「隙ありッ!!」
「あッ!?」
ロナがアタシの皿からまだ食べていたステーキ半分をフォークで突き刺し、一口で全て食べられてしまった。
「何すんのよ……!?」
「ニッシッシ!!」
リスのような口で頬張るロナはさっきアタシが心の中でしていたような意地の悪い笑みを浮かべて笑った。
その笑顔はさっきの作り笑いと違ってごく自然な、とても子供のような無邪気な笑いだった。