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SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》
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犬猫の仲

「申し訳ないな、君も疲れているだろうに付き合わせてしまって」

 俺の横でジェイクがそう告げた。

 大統領との話しを終え、オーヴァルオフィスをあとにした俺とジェイクはある場所に向かうため、ホワイトハウスの廊下を早歩きで進んでいた。

「いや、こっちにも完全に非があるから付き合うのは当然だろ、それよりも急ごう!」

 本当は全力で走っていきたい気持ちを抑えながら廊下を進んでいく。

 通路の向こうから、何かが床に落ちたり、誰かがバタバタと暴れているかのような騒音が耳に入ってくる。

 その音は目的の場所に近づくにつれて次第に大きくなっていき、騒音に混じって聞き覚えのある声同士の罵り合いも耳に届くようになって俺はため息をつき、それにジェイクが苦笑いしてくるうちに目的の部屋の扉の前に着いた。

「……はぁ……」

 かつてこれほどまで開けたくない扉が存在しただろうか……?

 これならまだS.T(セブントリガー)の時の作戦で、重武装した立て籠もり犯の家に突入するために開けた扉の方がまだマシだった。

 どうしてそっちの方がマシだって……?そんなの簡単だ。

 掴んだ木製扉のドアノブが自分の手汗で湿るのを感じながら、俺は意を決して室内に踏み込んでいった。



「離しなさいよ~~このッ~~牛女!!」

「お前こそ~~この泥棒猫め~~!!」



 医療器材や椅子などの家具が散乱した部屋の中央でトラとバイソンがケンカしていた。

 ほらな?立て籠もり犯ならまだ武装していても()()だ。人間だったらいくらでも勝ち目はある。だが()()は訳が違う。猛獣同士がケンカしている檻の中に何も装備していない人間を入れたところで、か弱い人間様に何ができるって言うんだ?

 さっき着た時はどこにでもある普通の医務室だったはずなのに、今はゲリラに襲撃された野戦病院のように変わり果てた姿を見た俺は酷い頭痛を感じて額を右手で抑えた。

 オーヴァルオフィスで俺とベアード大統領が話している最中に電話に出たジェイクは、医務室のスタッフから目を覚ましたロナ(バイソン)が治療のために部屋に来ていたセイナ(トラ)と喧嘩を始めて手を付けられないといった連絡を受け、大統領と話し終えた俺にそれを伝えてきた。

 一応セイナのパートナー兼ロナの元上司と言うこともあって全く気は乗らなかったがその仲裁に来たのだったが……

「イタタタッ!!さっきは良くもアタシの身体をあんなもので縛り上げてくれたわねッ……!おかげでアタシの綺麗な腕にミミズ腫れがついたじゃないッ!!」

 頬をロナに引っ張られた状態でセイナは金髪ポニーテールを逆立てた状態で怒鳴り散らしていた。

 確かに白い半そでブラウスの先、右腕の部分に包帯が巻かれている。

「イダダダッ!!うるさいこの泥棒猫ッ!!ロナだってお前に叩きつけられたせいで膝を擦りむいたわよッ!!傷が残ったらどうするのよ!」

 銀髪のツインテールをセイナに引っ張られながら、アメジスト色の髪を止めたリボンをウサギの耳のように立ててロナが叫んだ。

 会話の感じから今はロアからロナに戻ったらしい。

 ロナは履いていた白いニーソックスの片方をずらした状態の膝と首元に包帯を巻かれていた。

 見た感じどちらも酷い怪我は無かったようで安心したが、あれだけ派手に戦闘した後だというのにこいつらホント元気だな……

 と感心している場合じゃなかった。

 猛獣たちが暴れているせいで、医務室のスタッフさんの善良な皆さんは今も部屋の隅でガタガタと震えているのだ。

 一刻も早くこいつらを説得しないと、この医務室どころかホワイトハウス全てに被害が及ぶ可能性がある……

 俺は猛獣保護のための良いポジィション(位置)(仮に襲われても自分の安全を確保できる場所)に着くために、部屋にそろりそろりと静かに侵入していたその瞬間────

「フォルテッ!!アンタそんなところに突っ立ってないで速くアタシに加勢しなさいッ!!」

 セイナに大声で指摘される。

 げッ!?バレてたッ!?

「フォ、フォルテ!?」

 どうやらロナは気づいてなかったらしく、キョトンとした顔でこちらを見た。

 ま、まずい……

 睨まれた俺は思わず後じさる。

 このまま猛獣二頭に襲われたら丸腰の俺は一溜まりもない。

 ここは戦略的撤退を────

 と思って入ってきた扉に向かおうとして首を後方に向けると、そこにはもうすでに逃げ出そうとしていたジェイクの姿があった。

 そしてその黒人男性はあろうことか俺にこう告げてきた。

「じゃあ、あとはよろしく頼むぞフォルテ」

 部屋の外に出た後、扉を閉められる。

「ちょッ!?ジェイクッ!?」

 俺がすかさずドアノブを掴んで閉じた扉を開けようとしたが、外からがっちり抑え込まれているのかビクともしない。

 こ、この筋肉馬鹿!!土壇場で自分がロナに文句を言われることをめんどくさがって俺を囮にして逃げやがった!!

 普段は紳士だと思ったらこの始末。汚い、流石CIA汚い!

「なんで逃げようとしているのよ……!」

「ヒィッ!?」

 振り返ると戦闘あとからずっとイライラしっぱなしのセイナがガニ股でズカズカと床を踏みしめながらこっちに近寄ってきた。

 逃げ場を失った人間である俺はどうにか活路を見出そうと部屋のあちこちに眼を走らせた。

 そうだッ!さっき部屋の隅にいた医療スタッフに助けを求めれば……

 とトラの向こう側にいるはずの医療スタッフに助けを求めようとしたが、いつの間にか一人もスタッフはいなくなっていた。

 部屋の奥から心地よい風が入ってくる。

 ああ……なるほど、俺を餌にして彼らも部屋の窓から早々に逃げ出したのね……

 俺はその事実に気づいてポンッ!と心の中で手を叩いた。

 いやいやそんなことしている場合じゃない。

 トラだけならまだしも、ここにはバイソンもいるのだ。

 俺がそう思ってロナの方を見ると────

「……」

 ロナは静かに怒っていた────というわけではなく。

 何故かセイナを盾にして俺から隠れていた。

「ちょっと、何してるのよアンタ……?」

 セイナも困惑して背中にしがみ付いてきたロナの方に振り返った。

 ロナは何も言わずにセイナの肩のあたりから顔を覗かせてこっちをちらりと見ていた。

 そのハニーイエローの猫目には怯えの色が映っていた。

 多分、自分が悪いことをしたことで俺に説教されると思っているのだろう……

「フォルテ……怒っているよね……」

 ロナはサッとセイナの後ろに隠れて静かにそう言った。

 その様子に、流石のセイナも空気を察して隠れたロナを見たまま何も言わない。

「ロナはフォルテの言ったことに腹を立てて、感情に任せて殺人鬼の()()()を二人に仕向けた。たまたま二人とも大きな怪我はしなかったけど、ロナのしたことは笑って許せるようなことじゃない……」

 聞こえるか聞こえないくらいのか細い声でロナはそう言った。その姿は17歳である少女と全く変わらなかった。同年代のセイナが見せる普段の姿と全く変わらない様子を見て、俺はその時ロナがまだ子供であったことを再確認した。昔、14歳の時から大人と一緒に行動するロナを見てきたせいで気づかないうちに彼女を大人扱いしてしまったのだろう。俺が世話を焼かなくても彼女なら一人でやっていけると……

 だが、それは俺の勝手な思い込みだったらしい。

「「……」」

「その、ごめんなさい……!ロナはちょっと嫉妬してたんだと思う……隊長と行動を共にできていたセイナのことを……それでちょっとイライラしちゃって……その────」

「はぁ……なんだそんなことか……」

「えっ?」

 俺の言葉にロナはハニーイエローの瞳を見開いてセイナの腕から顔を覗かせた。

「お前がことを引っ掻き回すのには慣れてるさ。そう怯えた顔するな……」

「でも……」

「でももクソもない。俺はもう気にしてないから、セイナにだけはしっかり謝っておけ」

 ロナは盾にしていたセイナから手を放して半歩下がって俯いた。

「そ……その……」

「良いわよ、さっき謝ったしアタシももう気にしてないわ……」

 嘘つけ、さっきまであんな怒ってた癖に……

 と思っていると何故かセイナが一瞬だけこっちに振り返り、閻魔も逃げ出すような殺人眼光でこっちを睨んできた。

 うわこわッ!?てか心読まれた!?

「それよりアタシが勝ったんだからちゃんと協力しなさいよ?」

 とそのセイナの一言に、ロナは顔を上げた。

「えっ?何言っているの?ロナは負けてないけど?」

 言わなくていい余計な一言に再びカーンとゴングの音が聞こえたような気がした。

「ハァ!?完全にアタシの槍の方が先にアンタに届いてたわよ!」

「いーやロナのショットガンの方が先に撃っていました!邪魔されてなければ当たってたよ!それにあの電撃を封殺できる手段ならロナにだって────」

「だからケンカするなって!」

 スタン・ハンセンの入場曲「sunrise(サンライズ)」でも聞こえてきそうなほど、再び取っ組み合いと罵り合いを始めようとした二人の間に俺は割って入り、両手で二人を引きはがした。

「フォルテその腕もしかして……?」

 その時ようやく俺の義手に気づいたらしいロナがそう言って俺の方を見てきた。

「ああ、お前が作ってくれた義手だ。ありがとな」

 俺がそう言うとロナは嬉しそうに「うん」と頷いてから何故か義手に抱きつき、上目遣いの色っぽい仕草でこっちを見つめてきた。

その仕草に俺はドキッとしてしまう。

昔から行動を共にしてきたせいで忘れていたが、コイツもセイナと同様でほんとに可愛いんだよな……

しかも今更だけどその胸、一年前よりもさらに育っているんじゃないか?

俺は左腕の義手をむにゅりと挟み込んできたセイナにはないその巨大な二つのマシュマロにそんな感想を抱いた。

クソッ!触った感覚が伝わってこないからせめて逆の腕に抱き着いて欲しかったぜ……

と、いやいやそんなこと考えている場合じゃなかった。

「そ、それでちょっとこの義手のことで提案があるんだが良いか?」

俺は胸を押し付けられていることに動揺してぎこちなくそう言った。

「なになに?なんでもロナに言って!」

 自分で作った義手を確認するように指でなぞっていたロアが身を乗り出してそう言ってきた。

「コイツの性能検査をしたい。セイナも付き合え」

「性能検査って何?具体的になにするのよ?」

 そこでようやく暴れるのを止めてくれたセイナが俺を見上げながらそう聞いてきた。

「お前らの交流と今後の話しも含めてちょっとな……許可はもう取ってあるから二人ともついてこい」

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