ツインスピニングスラッシュ
「クッ!」
アタシは動けなくなったフォルテから離れるように跳躍し、ロアの放った12ゲージ弾を躱す。
ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!
ロアを中心に反時計周りに逃げていたアタシに向かって、ロアは持っていたベネリM4を連射した。
さっきの暴動鎮圧用弾とは違い、通常の弾薬によってセミオートで放たれた雨のような散弾の嵐。耳を劈くようなその一発一発が必殺の一撃を誇るので、かすることさえ許されないアタシは、その殺意の籠った散弾をトレーニングルームを全力で駆け抜けながら躱していく。
「このッ!」
逸れた散弾がトレーニングルームの壁をボロボロにし、バラバラと煙が舞う中、途中足が縺れそうになりながらもアタシは全力で走ったまま状態で左手で持ったコルト・カスタムを水平に構えて引き金を引いた。
バンッ!
走りながらの悪条件で放ったにもかかわらず、その一発は狙い通りロアの左肩目掛けて飛んでいく。
だが────
「よっ!」
右に少しサイドステップされて簡単に躱された。
だが、弾を当てることはできなかった代わりに、銃弾を躱したことによって一瞬だけロアはショットガンの連射を止めた。
ほんの一瞬、1秒弱の隙。
アタシにはその一瞬だけで充分だった。
パッ!
アタシは空中に一発撃ったコルト・カスタムを放り投げた。
くるくると空中で回る銃を見たフォルテが片膝の状態で動けない中、驚きで眼を見開いたのが視界の片隅で見えた。
サイドステップし終えたロアは、そんなこと気にせずに立ち止まっていたアタシ目掛けてショットガンを構えていた。
「はぁ!」
アタシはそのショットガンが放たれるよりも早く右手で持っていたグングニルを分離させ、両手で片槍を持ち、外から内の水平に腕を振るってロアに向けてぶん投げた。
「ツインスピニングスラッシュッ!」
スピニングスラッシュの二個バージョンというだけのシンプルな技(今考えた)。
アタシが投擲した二つの槍は、神の加護の力で高速回転しながら地面を這うようにしてロアの両脇目掛けて飛んでいく。まるで二つのフリスビーのようだった。
「へぇ……!」
その光景を見たロナは口を少し吊り上げながら物珍しそうな声を上げつつも────
ダンッ!ダンッ!
たった二発の正確なショットガン捌きで二つとも弾き落とした。
カラン────!カラン────!
コンクリートの地面に二つに分かれたグングニルが落下し、甲高い金属音がトレーニングルームに響く。
その落下した二つの槍の間をアタシは駆け抜けてながら────
パシッ!
空中から落下してきたコルト・カスタムを右手でキャッチしつつアタシはロアへと肉薄しようとした。
「……ッ!?」
そこでようやくアタシのやろうとしていることの意図にロアは気付いたのか、慌ててショットガンを撃とうとするが弾は出ない。
弾切れだ。
フォルテに一発、フォルテが一発(暴動鎮圧用弾)、逃げるアタシに四発。
アタシはそこまでしっかり数え、そのうえでツインスピニングスラッシュを放ったのだ。
そして、いま槍を撃ち落としたのが二発、計八発。
ロアは慌てた様子は見せつつもそこは流石プロと言うべきか、ショットガンを構えた状態のまま素早く懐から一発の12ゲージ弾を取り出し、それをホールドオープンしたボルトから直接薬室に入れるコンバットリロードをした。
「銃を下ろしなさい……ロア!」
ショットガンをアタシの方に向けようとしていたロアの動きがピタッ!と止まった。
アタシはその銃口から身体を躱しつつロアの左側に回り込み、空中でキャッチした銃をその銀髪ツインテールの根元に構えてから静かにそう言った。
「おっとっと……これは困ったね~」
ロアは大して困ってなさそうな様子でそう呟きながらも、ショットガンを持ったまま両手を上げた。
よく見ると、さっき見せていた焦りの表情も消えていた。
────なにか企んでいる────
直感がそう囁いてくるのを感じながら、アタシはロアからショットガンを取り上げて明後日の方角に放り投げた。
「抵抗は止めてロナを出しなさい」
そもそもどうして模擬戦がこのような殺し合いに発展してしまったのか未だよく分かってなかったので、とりあえず二重人格についてあまり詳しく知らないアタシは、それっぽいことを言ってロアを大人しくさせようとした。
「もし断ったら?」
ロアは黒い指ぬきグローブを付けた両手を胸の位置に上げたまま、アタシの方は見ずに静かに聞いてきた。
「撃つ」
「えー?本当に?私はセイナにとって重要な情報を引き出せる唯一の存在だよ?それを殺すの?」
初対面にしてはロナよりも馴れ馴れしくそう言ってきたロアに、アタシは小さく鼻を鳴らしてからこう告げてやる。
「殺さない、でもその代わり死にたくなるほどの苦痛を与えてあげる。アナタのその余裕そうな表情が苦悶に満ちるくらいのね……それに」
アタシは少し言葉を切り、ロアの向こう側で片膝を着いて膠着しているフォルテの方を一瞬見てから────
「暇さえあれば盛ってくるような淫獣だったり、見境なくショットガンを撃ったりしてくる猛獣だったり、どうやらS.Tって言うのは躾がなってない獣ばかりのようね、この際みんなまとめてアタシが調教してあげるわ……!」
アタシは銃口を向けたまま強気にそう言い放つ。
声を出せないフォルテがアタシをジト目で睨んできているがそんなこと気にしない。だって事実だもん。
ロアは「フォルテは相変わらずみたいだねー」と軽く笑った。
ほら見ろ、やっぱり淫獣で間違いないんじゃない。
「でもセイナにできるのかな~アタシのような猛獣の調教なんて────!」
ロアが喋っていた最中にアタシの視界が一瞬だけ銀一色に染まる。
ロアが首を思いっきり捻ったことでアタシのポニーテールと同じくらいの長さのあるそのツインテールが横なぎに振り払われ、一瞬だけアタシの視界が奪われたのだ。
「あれッ……?ぐぅ……ッ!!」
その瞬間一発の銃声がトレーニングルームに鳴り響き、痛みに表情を歪めたロアがその場で膝を着いた。
アタシがロアの左太腿を撃ったのだ。
一瞬の目隠しでロアがコルト・カスタムの銃口を掴もうとしてきたが、それを読んでいたアタシはバックステップでそれを躱してからロアの白いニーソックスを履いた左太腿に向けて一発撃ったのだ。
アタシの履く黒のニーソックスと一緒で防弾性だったらしく、.45ACP弾はロアそのムチッと張りのある太腿に貫通せず、コンクリートの地面にコロンッ────!と落ちた。
右眼を閉じた苦悶の表情を浮かべて片膝を着いていたロアがアタシを見上げてきた。
「えぇ……いくらでも調教してあげるわよ……まだ抵抗するなら次は右の太腿に……」
アタシはそこまで言って自分の身体の異変に気が付いた。
身体が────動かない────!?