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SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
紫電の王《バイオレットブリッツ》
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決着

 万事休すか……

 いや、まだだ……

 こんなところで諦めてたまるかッ!

 俺は魔眼の力を限界の10倍から12倍まで上げて最後の悪あがきをした。

 例え可能性がコンマ幾つ、いやゼロだったとしても最後まで諦めない。

 ここで諦めてしまったら、それは今まで俺の為に犠牲になった人たち全てに対する冒涜(ぼうとく)だ。

 そしてそれは同時に、俺が助けようとしているそこの少女に対しての裏切りでもある。

 だから絶対に諦めないッ!

 限界を超えた俺は、顔面に突き出された鉤爪(かぎづめ)(かわ)そうと首を(ひね)る。

 だが。

 クソッ!避け切れない…!

 スローの世界で段々と俺の顔にベルゼの鉤爪(かぎづめ)が近づいてくる。

 やっぱりダメか……

 と俺が思った瞬間、ベルゼの鉤爪(かぎづめ)が少しだけ軌道を変えたのだ。

 空中でバラバラになった飛散していた義手の外側を構成している特殊な金属の残骸が奇跡的にベルゼの鉤爪(かぎづめ)に当たったのだ。

 左腕の鉤爪(かぎづめ)が少しだけ俺の右側にズレていく。

「ぐあッ!!」

 鉤爪(かぎづめ)の刃のうちの一本が俺の右肩を貫通した。

 血が溢れ出し、刺された場所がだんだん熱くなってくる。

 刃に刺されると傷口が熱い感覚に襲われるがこれはいつもと違う。

 熱を帯びた刃で刺されたため本当に熱いのだ。

 現に刺された傷口からは砂埃(すなぼこり)ではない煙が立ち上り、ジュウッ…という肉が焼けるような音と臭いがした。

「運の良い奴めッ!」

 ベルゼはそう吐き捨ててから義手を吹き飛ばした右腕を戻して再び振るおうとしたところで違和感に気づいた。

 その邪悪な紫の眼が何かを探して動き回っている。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「お前、刀を何処にやった!?」

 ベルゼは攻撃する手を一瞬だけ止めて俺の方を見た。

 そんなことしないでさっさと攻撃すればよかったのに……

 コイツの言う通り、俺は()()()()()()()()()

 俺はベルゼの質問には答えずに、左腕(義手)を皮膚との接触部付近に内蔵された超小型ガスジェットを使い、シュッ!と短い空気音鳴らしながら腕を地面にパージした。

 左腕(義手)の半分から先が無くなってしまったため正常に動くか心配だったが……

 良かった、しっかり作動してくれた。

 左腕の無くなった八咫烏(ヤタガラス)の裾の先をヒラヒラとはためかせながら、中から煙がもくもく溢れ出した。

 そして、その左腕を真上の何もない空間に掲げた。

 この間約一秒弱。

「嘘だろ…!?」

 相手が反応するよりも先に一連の動作を一瞬で済ませた俺を見たベルゼが目を丸くした。

 それは俺の動作が速すぎて見えなかったからとかそういった理由ではない。

 ベルゼに五ノ型「皐月(さつき)」を弾かれた時に空中に放り投げていた村正改を()()()()()()()()()()()()()()()


 義手とは違う透明感のあるその青い左腕が。


月影(つきかげ)一刀流奥義ッ!!」

「クッ!!」

 俺は義手とは別の新しく生えたその透明感のある青い左腕で空中にあった村正改を逆手で掴んだ。

 なにが起こっているのか分かっていないベルゼは、自分が左腕の鉤爪(かぎづめ)で俺の肩を突き刺し、優位に立っていることなど忘れたかのように乱暴に右腕の鉤爪(かぎづめ)を斬り払おうとしていた。

 もうそれも無意味なんだけどな……

 俺は自分とベルゼの間にある何もない空間を横なぎに切り裂いた。

 刃は直接届いていなかったが、ベルゼがその瞬間ピタッと動きを止めた。

 音が全く聞こえなくなり、ベルゼはおろか、廃工場内のすべての動きが止まった。

 俺の視界もベルゼ以外が真っ白に染まって見える中、止まってしまった歯車を回すようにその技を呟いた。

長月(ながつき)

 真っ白に染まっていた景色が元に戻っていく。

 その戻りゆく世界にまるで吸い込まれていくかのように、胸を切り裂かれたベルゼが吹き飛んでいった。

 悲鳴や呻き声は一切上げずに廃工場の壁際にあった木材の廃材に背中から突っ込んだベルゼに向けて俺は呟いた。

「俺の…勝ちだ……」

 俺は青い左腕で村正改を持ったまま、さっき貫かれた右肩の傷口を抑えた。突き刺さっていた鉤爪(かぎづめ)はベルゼが吹き飛んでいったときに抜けていた。

 全身傷だらけでその中でも右の肩と脇腹からの出血が酷い。

 血が滝のようにあふれ出し、貧血でブラックアウトした視界はもうほとんど見えていなかった。

 本来だったら多分まだ生きているベルゼのところに言って情報を色々と聞き出したいところだが、10m以上吹き飛んだアイツのところに向かっている最中に多分俺は倒れてしまうだろう。

 今はそれよりも……

 俺は廃工場の中心に建てられた鉄の十字架の方を見た。

 見たけどその視界はほとんどが真っ暗で十字架の根本部分しか見えていなかった。

 それでも俺は歩く。そこに縛られているはずの少女を目指して。

 右半身の感覚はほとんどない。流れ出ている血や汗の温度や感覚も、足が地面についているのかも定かではない。魔眼の力が無ければ確実に動けなかっただろう。

 蒼き月の瞳(ブルームーンアイ)は月の光を触媒に身体の動きを補佐する魔眼なのだが、ただ身体をサポートするだけではなく、その力を身体とは別の部分や武器に(まと)わせて使うことができる。

 それがこの青い左腕とさっきのベルゼを倒した月影(つきかげ)一刀流奥義「長月(ながつき)」だ。

 まず左腕の方は蒼き月の瞳(ブルームーンアイ)を開眼している時だけ生やすことのできるもので、義手を外したのは生やすのに邪魔だったからだ。そしてこの半透明に透き通った青い腕は()()()()()。こちらの意思で掴もうとしたものや(さわ)ろうと意識したものには()れることができるが、他者の意識のみで触れることは基本出来ない。簡単に言うと幻影に近いかな。自分の心で想像したものを形にできる魔眼、失う前の左腕を模した幻影の左腕だ。

 そいつで掴んだ村正改で放った奥義が「長月(ながつき)」だ。

 月影(つきかげ)一刀流は八つの型と四つの奥義のある剣術だ。

 八つの型は通常の状態で使えるのだが、奥義は魔眼を使用することでしか使えない。月影(つきかげ)一刀流とは蒼き月の瞳(ブルームーンアイ)を使用することを前提とした剣術なのだ。

 俺は八つの型はギリギリ使えるのだが、奥義は一つしか使えない。それが「長月(ながつき)」だ。

 長月(ながつき)は刃に魔眼の力を(まと)わせることで切り裂ける範囲を広げる、つまり斬撃の間合いを広げる奥義だ。

 さっきベルゼを斬ったのは村正改の刃ではなく、あれは刃に(まと)わせた蒼き月の瞳(ブルームーンアイ)の魔力ということだ。今の俺はせいぜい1m位までが限界だが、それでもあの近距離ならそれで十分だ。

 血をぼたぼたと廃工場の地面に垂らしながらなんとか手が届く距離まで鉄の十字架の根元まで来ることができた。

「フォルテ……」

 俺は何とか自分の名前を呼んだ少女の声を聞き取ることができて顔を上げたが、その表所は見えなかった。

 満月の光を背にして立つ悪魔、日本で言うところの鬼の瞳をした今の俺は、「月下の鬼人(げっかのきじん)」と呼ばれるに相応しい姿だろう。

 そんな俺の姿を見たこの少女がどう思っているかは知らない…

 それでも俺は最後の力を振り絞って左手の村正改を振るった。

 ガシャンッ!!と音を立てながら鎖が地面にバラバラになって砕けて少女はようやく鉄の十字架から解放された。

 それを確認した俺は────

 ドサッ!

「フォルテッ!?」

 その場に(くずお)れた。

 もう、流石に限界だった。全身が寒い、血を流しすぎた。

 両目の魔眼を維持することができなくなり、アドレナリンと合わせて抑え込んでいた様々な痛みが全身を襲った。だが、もう痛さに(うめ)く声すら上げるのも辛い。

 そんな俺にセイナは駆け寄ってきて身体を支えてくれた。

 廃工場の光を遮るようにして天使が俺に舞い降りたのではないか本気で錯覚した。

 フランダースの犬の主人公ネロにでもなったような気分だった。

 だが、その天使の表情はフランダースの犬に出てくるような穏やかなものではなく、焦りと悲しみが入り混じったような表情をしていた。

「出血が酷すぎる…いま応急処置をするから!!しっかりしなさい!!」

 両手で支えられた俺にセイナは傷に響かないよう優しく身体を揺すりながら大声で呼びかけた。

 これじゃあどっちが助けに来たのか分かんねえな。

 蒼き月の瞳(ブルームーンアイ)が切れて左腕の青い腕の無くなったことにより地面に落としていた村正改をセイナは素早く拾い上げ、自分の体に巻き付けてあった包帯を外してから血の付いた部分だけを切り落とした。そして、残りの綺麗な部分だけを使って応急処置をしてくれていた。

 黒のワンピースやその透き通るような乳白色の白い肌を俺の血で(けが)してしまう。

 折角の可愛らしい姿が俺のせいで台無しだな……

「セ…イナ…」

 俺は一本の糸のようにギリギリ繋がっていた意識の中でぼんやりとその光景を眺めていたが、セイナに言わなきゃいけないことを思い出して口を開いた。

「しゃべらないで!傷に響くわ!」

「……めん」

「聞こえなかったの!今はしゃべら────」

「ご…めん…」

 セイナは一瞬手を止めてこちらを見た。

「俺…が…悪…かった…」

「フォルテ……」

「ご…めん…」

「分かった、分かったからもうしゃべらないで…」

 セイナは優しくそう言ってから俺の胸の辺りを右手で()でるように軽く触れた。

 まるで赤ん坊を寝かしつけるように。

「アタシも悪かったわ……ごめんなさい……」

 どうやら、俺が天使だと思っていた存在は天使ではなく女神だったらしい。

 気高き戦の女神、北欧神話でいうところのValkyria(ヴァルキュリア)と言ったところかな。

 とセイナにそんな印象を感じていた俺はそこで糸が完全に途切れてしまった。

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