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SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》
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レミニセンス《終わるまでは一瞬で、始まるときもまた唐突だ》

 あれから一か月。

 俺は一人夕暮れ時の港町から自宅までの帰路に就いていた。

 九月初旬とはいえまだ残暑が絶えない山道は、木陰が無かったら汗だくになっていたに違いない。

 あの全世界を巻き込んだテロ()()事件の後にも色々なことがあった。

 騒動を起こした元凶でもある日本やアメリカ政府に非難が殺到したが、彩芽が全世界に流した映像の中には中国やロシア側の武器密輸関連が多数含まれており、寧ろそちらの方が隠蔽していた分悪質であると各国からの手厳しい制裁を受けていた。

 おまけにあの戦艦(ヨトゥンヘイム)の存在をFBIから聞き及んでいた中国政府高官の一部がしっぽを巻いて逃げ出していた事実も後々発覚し、今なお世間の馬鹿なマスコミ達によって賑わいは耐えないらしい。

 そんな擁護派と批判派の論争が激化する最中、三国会合は無事に終了した。

 もちろん(おおやけ)だってあの政策を公開することはなく、ただ粛々とことを進めたベアード達の働きを知るものはほとんどいない。

 しかしその中でも俺達は数少ない表立って評価された人物となった。

 今回の騒動を収め、世界を救った英雄(ヒーロー)として。

 そのせいで街に下りれば色々と声を掛けられるようになってしまったが、ケンブリッジ大学を倒壊させた件は中国側の賠償金で支払ってくれたり、名指しで公表することによりFBIにしつこく付けられていた指名手配まで解消するきっかけまで作ってくれたのだが。


「そういうところはほんと抜かりのない連中だよな……」


 すっかり治った両足で山道踏みしめながらそんなことを呟く。

 感情的に事を成すきらいがある俺には、政治家という職業は務まりそうにないな。

 まぁ、なるつもりなんてサラサラ無いんだが。


「それにしても暑いなぁ……」


 幾ら木陰とはいえ照りつける日差しは容赦なく俺の肌を焦がす。

 見上げた先、戦艦(ヨトゥンヘイム)から見た時よりもずっと遠い太陽からは、まだあの時の夏の香りが混じっている。

 戦艦(ヨトゥンヘイム)

 世界一の飛行戦艦は自ら放出した魔科学弾頭とともに日本海へと沈んでいった。

 その衝撃で中国などの沿岸諸国は津波の被害を受けたそうだが、幸いなことに死人は出なかったらしい。

 戦艦(ヨトゥンヘイム)の乗組員であった祝福者(ブレッシングパーソン)、『ヨルムンガンド』の構成員達も全員救出され、今はオスカーが責任をもって保護しているらしく、ベトナムから出立以降行方不明となっていたレクスの部下達も同じく無事に救出されたそうだ。

 そして海へと散らばった残骸達については、無償でやると豪語していたダブルヘキサグラムの社長(ベッキー)により僅か数週間という短い期間でありのままの姿に戻してしまったとか。

 なんでも「未知の技術の宝庫」と眼を$(ドル)にして励んでいたそうなのだが、その費用は一体どこから湧いてくるのか……

 何か近々回収できるような算段でもあるのだろうか?


「そういえばアイツ……大丈夫かな」


 回想に浸っていた俺はポツリとそう漏らす。

 あの事件を思い出すのなら絶対に忘れてはならない存在。

 首謀者でもありFBIのピエロとして扱われていた彩芽の末路だ。

 彼女は……運よく死ななかった。

 致命傷を負ったことは事実だったが、それ以上にセブントリガーの面々の治療や外部からの助け、なによりテイラー達が素早く戦艦外に運び出してくれたらしくヨトゥンヘイムが沈没する前に皆が助かったそうだ。

 彩芽はそのあと日本政府に身柄を引き渡される形で治療を受け、つい先週ほど意識を取り戻したというのを小川さんからの連絡で知った。

 今回のことで言葉を発せないほど深く落ち込み心を閉ざしているそうだが、命に関わるような傷は完治したとのこと。

 日本にいるよしみだ、落ち着いたら一度顔くらいは出しておこう。

 木陰のトンネルを抜けると丘の上に立つ自宅が見えてくる。

 買い物袋を引っ提げたまま目の前の空き地を突っ切り、無造作に扉を開ける。

 薄暗いリビングには誰の姿もなかった。


「…………」


 ただいまも告げずに無言のまま袋をテーブルの上へと置き、どっかりとソファーへ腰を下ろす。

 慣れというやつは恐ろしいもので、一か月以上もこうして生活しているとあの騒がしかった喧噪が懐かしいとさえ感じてしまう。

 あの事件以来、彼女達は元鞘へと帰っていった。

 当然だ。

 皆がその目的を果たしたのだから。

 父親を見つけたセイナはイギリス王室へと帰っていった。

 王女であることも世間に公表した彼女は、軍の任務と王室の公務に追われる日々を過ごしているようだ。

 ロナはCIA副長官としてアノニマスに戻ったそうだ。

 ロアのことも自らの力でどうにか解決することができた彼女は、一回り大きい存在となって仕事に精を出しているらしい。

 アイリスは父親の復讐を終えて今は家族三人で暮らしているそうだ。

 中国側に保護されたことで生きていた父親と再会した彼女は、致命傷を負った祖父を介護しつつ暮らしているそうだ。

 皆がそれぞれの道を歩み始めている中、俺はただ一人こんなところでだらけ切っていた。

 特段目的がなくなったわけじゃない。

 寧ろ今まで以上に大きな目標ができた。

 他の隊員(セブントリガー)達もそれに向けて準備している期間(ころ)だが、それでも今の俺には動く気力が沸き上がってこなかった。

 この数か月はそれほどに濃厚だったのだ。


「────ただいま……って、何やってんのよ?」


 ここ数十年とは比べ物にならないくらい、俺にとっては充実していて大切な日々。


「おはこんばんにちわダ~リン!!ロナチャン様が華麗に帰ってきたぜブイブイ!」


 それがきれいさっぱり抜け落ちてしまった今、心にぽっかり隙間ができたかのように無気力が続いているんだ。


「おなか、空いた」


 あいつらとの生活は俺の人生にとってたった数舜の出来事だった。

 でもその()()()が思いや価値観を鮮やかに塗り替えていったのだ。


「なんで柄にもなく黄昏てんのよ?……それよりアタシもアイリスと一緒でお腹すいたわ」


「ロナも空いた!久々にダ~リンの手作り料理が食べたいなぁ~アイリスもそう思うでしょ?」


「ボクはなんでもいいよ、フォルテ、なんだか随分疲れているみたいだし」


「あああああうるっさいなぁぁぁぁ!!!!!」


 人が色々思考を巡らせている最中に騒がしいなっ!

 一体どこのどいつだっ……って。


「あれ、お前達……どうしてこんなところに?」


 イライラしつつ天井から視線を前に向けた先に居たのはセイナ達三人の姿だった。

 いつもの様相で佇む少女達を前に俺は大げさに何度も目を擦っては開いてみたが、どうやら幻覚ではないらしい。


「なんでって、家に帰ってきたら何か不味いことでもあったの?」


 こっちの質問の意図が理解できないとばかりに、セイナは黄金の毛並みをふさりと傾けながら怪訝顔を示す。

 まるでここに帰ってくることが当たり前だ、とでも言いたげな瞳は無垢で穢れがなく、その純粋すぎる態度に危うく俺がおかしいのかと勘違いしてしまいそうなほどだった。


「みんな色々と面倒ごとが溜まっているから、集まるのは一か月後にしようって言ってたじゃん。だよねアイリス?」


「あ、そのことボクがフォルテに伝えるの忘れてた」


「犯人はお前かい!」


 ぼんやりしたジト目のまま自白した犯人(アイリス)へと俺は大げさに指を突き立てる。

 なんだこの展開は……

 俺は一人寂しくこの別れを受け入れてたってのに、本当は最初から集まる算段で皆がこの一か月を過ごしていたってのかよ。

 なのに黄昏て回想に浸っているなんて……ダサいにもほどがある。


「なんで揃いも揃って俺の家に集まってんだよ。父親(オスカー)を見つけた以上お前達との契約関連は終わったはずだろ……なのになんで」


「いいや────まだ終わってないでしょ」


 恥ずかしさを隠すように喚いていた俺とは違い、セイナは真剣な眼差しでそう告げていた。


「今回の事件の本当の首謀者、そしてアンタの元パートナーである()()()()2()の行方を追うことが残っているでしょ?」


 開け放っていた窓から心地よい風が吹き込んでくる。

 決意に満ちた三人の眼は全て俺へと向けられていた。


「本気か?ここから先はもう俺の抱える問題だぞ。それにこれ以上連中(FBI)に狙われるような行いをすれば────」


「関係ない。だってアタシ達はアンタのパートナーでしょ?」


 腰かけた俺の前まで来たセイナ。

 そんな彼女が見せる最高の笑みは、俺が一か月前に護った……いや、今まで護り抜いてきた全てに勝る最高の宝物だった。


「────あーいいところ悪いんだけどねダ~リン!」


 持ち前の図々しさで俺達の間に割って入ったロナが突然、俺に何かを差し出した。

 随分と分厚く、そして重いA3封筒だ。


「コレネ。ベッキーから預かってたんダーフォルテ宛てにって」


「なんでちょっと棒読みなんだよ……」


 わざとらしく口笛を吹くロナに訝りつつも俺はみんなの前で封筒を開いた。

 ドサドサと書類の束を机に落としながら、その中でも唯一のペラ紙一枚を摘まむ。

 随分達筆な英文で書かれた手紙のようだが。


「なになに……ダブルヘキサグラム社のベッキー・T・クラウよりフォルテ・S・エルフィー殿へ。この度は弊社の戦術(タクティクス)強襲(アサルト)補助(アンカー)装甲(アーマー)のご利用誠に有難う御座います。大変恐縮では御座いますが、弊社が規定したレンタル料金一か月分を滞納した挙句、パーツすべてを海に捨てたまま回収しやがらなかったため────」


「だんだん本性が露わになっているね……」


 アイリスが渋面で指摘する。

 確かにあのギザ歯のケミカル女の嗤う姿が目に浮んできそうだ。

 しかし、俺は文章を読み上げてく内に嫌な汗を背中にじんわりと滲ませていた。

 この状況が前もどこかで経験したことのあるものと全く同じだったからだ。


「────おまけに金まで返さないときやがる。つきましては規定通り違約金のほうを請求させてもらうからな。悪く思うんじゃねーぞ。金額は一、十、百、千、万、十万、百万、千万………」


「ちょっ!?フォルテ?!」


 卒倒した俺をセイナが抱き留める。

 もう終わりだ。

 世界を救った英雄(ヒーロー)は一夜にして奴隷へと成り下がった。


 やはり、勢い任せの行動は後々響くことを俺は改めて実感する。


 終わるまでは一瞬で、始まるときもまた唐突だ。


 俺にとっての第二の借金生活の幕が始まった。






 ~FIN~

ここまで読んでくださった皆様。

この話をもちましてSEVEN TRIGGERは完結と致します。

一部の人からはまだ話の途中と言われてしまうかもですが、あとのフォルテ達の活躍は皆様のご想像でお任せします……というのは少々強引ですよね……

けれど私が書こうと思ったのは本当にここまでです。


本当はもっと上手くかけたはずなのに、キャラの魅力やストーリーの面白さを引き出し切れていなかったのは私の実力不足です。本当にすみません。

さらには処女作なのに何も考えず物語を始めた愚かな作家でしたが、設定も一部どころか方向性すらあやふやで「なんだこれ(?)」と首を傾げた人もいらっしゃったはずです。

それでもここまで走ってこれたのは評価してくれた皆様のおかげです。


本当はもっと色々思いを伝えたいところですが、あまり多く語らってしまうと今の私はここで満足してしまいそうなのでこのあたりで終わりにしたいと思います。


最後に、この四年近い年月という期間は私にとって激動の期間でした。

この小説を書くために前職を辞め、色々なことを経験させて頂いた貴重な四年間でした。

それは皆様にとっても同じことだと思います。

そんな貴重なお時間を私の作品のために割いてくださった皆様。

本当に感謝してもしきれないです。


次にもし私が作品を披露する機会がありましたら

またご覧になっていただけると幸いです。


それではまた!

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