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SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》
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仲間と共に《Bet my soul》15

 対抗する形でセイナも銃を構えようとしたが、俺はそれを左手で制す。

 どうして?と訴えるブルーサファイアの瞳。

 それに対し俺は『大丈夫』と(かぶり)を振った。


「っ…………」


 カチカチカチカチ。

 何の変哲もない9mmハンドガンが小刻みに震える。

 それでも銃口は俺の額から大きく外れてはいない。

 あとはその引き金に指を掛けることさえできれば、彼女の悲願は達成することができるだろう。

 銃口を下げたセイナはそれを固唾を飲んで見守っていた。

 相棒であるこの俺の意志を尊重し、反論も喚くこともせずただじっと事の成り行きを見定めている。


 カチカチカチカチ。

 肉体面、精神面共に苛まれる少女の震えは一向に収まらない。

 まるで数十キロの鉄塊でも持っているかのように、少女の腕に重圧が伸し掛る。

 それでも最後はそのか細い指先をトリガーに掛けた。


「────」


 人差し指に力が込められる瞬間、全ての空間がゆっくりと流れ出す。

 向けられた銃口は奇跡的に俺の額を指し示している。

 けれど、俺は一切逃げることも避けることもしない。

 セイナや他の仲間達と同じように、彩芽のことを信用したからだ。

 アキラの姉弟である彼女が、復讐に飲まれないことに。


「…………っ」


 ガチャリッ。

 狙いを定めていた銃口が地面へと落ちる。

 結局彩芽は、人差し指に掛けた引き金を引き切ることができなかった。


「どうしてよ……」


 神の奴隷としてでは無く、彩芽という意志が表出した心の叫び。

 震える喉で呟くその声音には感情が宿っていた。


「どうして殺された相手にそんな顔ができるのよ……っ」


 銃を落とした右手で顔を覆い、人目をはばからず慟哭をあげる少女。

 乾ききったはずの両眼からは涙が溢れている。


「アキラと同じそんな真っ直ぐな視線で見られたら、撃てるわけないじゃない……」


 世界に混沌を齎そうとしていた道化師は一頻(ひとしき)り泣く

 引き金を引けなかったことへの悔しさ、目的を果たせんかった()瀬無(せな)さ、それら全てに対して彼女は泣いた。

 でもその涙は、自らの敗北を受け入れた純度百パーセント彩芽自身の意志によるものだった。


「一度殺された相手に心を許すなんて、ホント無茶するわよ」


 ずっと押し黙っていたセイナが安堵の溜め息を漏らす。

 その心労は、たとえどんな結果になろうと覚悟を決めていた俺などよりも余っ程キツかったに違いない。


「こうしなければ彩芽を復讐から解放することは出来なかった。同じ境遇の俺が彼女を受け入れなければ……」


 同じ痛みを知っている者同士だからこそわかることもある。

 復讐によって人生をねじ曲げられた俺達にしか。

 けれど、俺と彩芽では唯一決定的に違うことがあった。

 それは今も隣に連れ添ってくれている相棒や、信頼出来る仲間達の存在。

 もちろん彩芽にだってそうした人々が居たはずだが、彼女は一人で全てを抱え込んでしまった。

 加えてそのことに気づかせてくれる存在からも繋がりを絶ってしまったことこそ、彼女の非情な意志の強さであり、同時に唯一無二の弱点でもあったんだ。

 だからこそ俺はそこに掛けてみた。

 まだ彩芽に人としての意思が残っているのならば、一度殺した相手の、そして同じ復讐に囚われていた人物からの訴えに対し、彼女が敗北を受け入れてくれる可能性に。


「でもそういうセイナだって俺のことを信じてくれたじゃないか。お前の言う無茶な相棒の考えに」


「それはそうでしょ、アンタは……アタシの相棒なんだから。信じて当然じゃない」


 少しだけ気恥ずかしそうに赤らんだ顔を背け髪を遊ばせるセイナ。

 もっと怒られると覚悟していたが、今はこうして彼女の反応をこの眼を通じて感じれることが素直に嬉しい。


「なんでそんなにやついてんのよ?」


「別に、お前が可愛いって思っただけだよ」


「は?!きゃ、きゃわっ!?」


 赤らんだ顔が空から差し込む暁よりも朱に染まる。

 あまりに唐突で予期していなかった俺の言葉に、セイナの瞳はグルグルと渦巻いていた。


「な、ななななななにバカなこと言って────」


「ありがとうな、セイナ」


 そんなセイナを一度抱きしめる。

 立っているのもやっとだったということもあったが、何より今の彼女を抱きしめたかった。


「セイナを救うために乗り込んできたのに、結局またお前に助けられちまった」


 取り戻した少女の身体は小さく、力いっぱい抱きしめたら壊れてしまいそうなほどだ。

 けれど、その暖かさだけは何物にも勝ることないほど全身を包み込んでくれる。


「バカ、それはアタシのセリフよ。助けに来てくれてありがとう……フォルテ」


 離れることを惜しむようにセイナが俺の顔を覗き込み、そしてクシャッと表情を破願させる。

 それはあの夏祭りの日に見た、俺の取り戻したかった彼女の笑顔だった。

 二転三転、紆余曲折、色々あったがこれでようやく全て終わった。

 一度は死んだものの、何はともあれ無事に任務を終えることができたのは、今や昔の仲間達が集まってくれたおかげだ。

 戦闘を終えて集まりつつあった皆に賛辞を贈るべく、インカムに触れたその時だった。



 ────ズダンッッ!!!!



 聞き慣れた硝煙の弾ける音。

 大団円を崩壊させるその嘶きが鳴り響いたのは、無骨な魔科学弾頭が聳える黒曜の壁の方からだった。

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