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SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》
341/361

仲間と共に《Bet my soul》1

「何とか……間に合ったか……ッ」


 どちらかが死ぬ前に何とか戻ってくることができたことへ俺は安堵を洩らす。

 とはいえ、決して気が抜ける状態でもなかった。

 戦艦を真っ二つにしかねない相棒(セイナ)の一撃を(すんで)のところで小太刀で受け止め、そしてオスカーが魔術を振るおうとしていた右腕を、銃を持った右腕で押さえつけているこの状況下。

 いくら両眼の魔眼を解放しているとはいえ、相棒に微笑むぐらいしか今の俺には余裕が無かった。


「貴様……ッ!」


「よぉオスカー、数分振りか?」


 交錯させた腕の隙間から覗く余裕の無い表情へニヒルに返答する。


「確かに貴様の存在は塵も残さず消し去ったはず……一体何をした?」


「別に俺は何も、ただ……運よくこの()殿()に助けられただけさ」


神殿(ヴァルハラ)にだと?まさか貴様……ッ!?」


 流石にこの戦艦の主なだけあって()()()よりも詳しいらしい。

 看破したオスカーに肯定の種明かしをしようとしたところで、攻撃を受け止めていた左腕に力が込められた。

 こっちを向けと言わんばかりに……


「フォルテ……ッ」


 呼ばれて振り向いた先、感動の再会を期待していた俺の前に居たのは、疑心に満ちたブルーサファイア。

 まるで幽霊でも見るかのように、訝る表情は影を濃くする。


「いや、アンタ誰……?」


「おいおいお前の相棒だろ。忘れたのか?って……ッ」


 (おど)けて見せようとしたところに力が籠められる。

 周囲に舞う雪吹雪と同じように白く華奢な肢体からは想像もつかない剛腕。

 ちょっとでも気を抜けば一瞬で持ってかれそうだ。


「なんで力を抜かないセイナ……ッ。俺は敵じゃ────」


「うるさいッ!!」


 俺の声を遮る金切り声。

 存在そのものを否定する叫びは、ようやく収まった天蓋崩落後によく響いた。


「何が相棒よ、ふざけるのも大概にしろ。アタシの相棒はアタシの目の前で死んだ。それもさっき!幾ら未熟とはいえ、一度死んだ人間が生き返るほど現実が甘くないことくらい理解しているつもり。それをどこの誰か知らないけど、アイツの姿形を真似てアタシの前に現れるなんて……まさかアンタは────」


「バーカ、彩芽じゃねーよ、俺は……正真正銘のフォルテ。フォルテ・S・エルフィーだ」


「ならどうしてアタシを阻むの?それに────」


 猜疑心に満ちた瞳が見たのは鍔迫り合う獲物の下。

 柄を握る指先はいつもの銀色(ぎしゅ)ではない、血の通った()()()()()が存在していた。


「それはもうフォルテには無いはずの代物よ」


 確かに左腕(それ)に関しては何と言えばいいのやら。

 つい説明に口籠る俺を見て、相棒は完全に偽物だと断定したらしい。

 全く、泣きじゃくっていた跡がまだ眼元に残っているというのに、まるでそれを感じさせない戦士の気概。

 でもそうだよな。

 俺だってかつての相棒を失った時は同じように憤ったものだ。

 相手を思えば然り、そしてその信念は幸か不幸か絶対に曲がることがない。

 生半可な方法(せっとく)ではやっぱり無理か。


「分かったよ……お前に俺が本物であることを認めさせる」


 それを聞いて疑心が更に色濃く細められた。

 ホント……なんて眼をしているんだセイナ。

 そんな悲壮に満ちた顔なんて、本当のお前には似合わない。

 警戒心に満ちた相棒はこちらの出方を伺っている。

 隙なんてありはしない。

 例え蟻の一匹でも反撃する素振(そぶ)りを見せようものなら、瞬きする間もなく命を刈り取ってしまうほどの殺気。

 セイナという少女が今纏っているのはそういった『力』だ。

 何人たりとも反抗を赦さない絶対的な力。

 しかしそれは有り体に言えば刃向かう者のみへ向けられたことであり、それ以外には決して当てはまることがない。

 前しか見えていない者の出鼻を挫くには、ちょっとばかり想像外のことをしてやれば後は勝手におのれの力に振り回されるのみ……

 絶対的力を前に俺は力で押し返すのではなく、左腕の抵抗をスッと緩めた。


「……ッ!」


 歯止め(リミッター)を失ったことで動き出したセイナの斬撃は、そのまま神殿上部へと振り下ろされた。

 幸いなことに思いっきり振りかぶるものではなく、腰よりやや上部から落としただけの中段。

 それでも神の剛腕は神殿上部を形成する石の地面を叩き割った。


「クッ……」


 飛び散る破片に俺ではなくオスカーが背後へと飛び退る。

 だが、今の彼女の敵は実の父ではなくこの俺だ。

 逃げる敵に追撃する意思はなく、あくまで立ち塞がる相棒の幻影へと向けて返す刃を振り上げようとする。


「おっと……!」


 斬り上げられた一撃を振るわれるよりも先にセイナの腰と後頭部を優しく()(かか)える。

 攻撃するわけでもなく俺の身体で包み込むようにされ、彼女は一瞬眼を丸くした。

 見た目通りのちっこい身体はどれだけの力を内包していようと柔らかく、魔眼無しでも軽々と持てそうなほど線が細い。

 いつもの香水と発汗から漂う彼女の甘い匂いが合わさったもので鼻腔を埋め尽くされ、思わず貪りたくなる衝動をグッと堪えながら、そのまま神殿下部へと飛び降りた。


「この……ッ!放せッ!」


 いつもなら抱き抱えてやるだけで落ち着く彼女だが、流石に今回は状況が状況なだけあって興奮が収まらず、滑空する最中でも俺から逃げようとして暴れるセイナ。

 幸い上手く懐に入りこめたおかげですぐに刺されることこそ無かったが、神殿入口付近へ着地後に解放した途端、セイナはこちらを睨み付けるように臨戦態勢に入る。

 マズいな……

 本当ならこれで気付いてもらえる算段だったが……どうやら浅はかな希望に過ぎなかったらしい。


「彼をバカにするのなら、例え彼であっても赦さない……ッ」


 相棒に向けられた混じり気の無い純粋無垢な殺気、怒気。

 とてもじゃないが生半可な方法で回避することは不可能だろう。


「分かった……俺も覚悟を決めるよ」


 持っていた銃と小太刀を無造作に放り捨てる。

 警戒心を解かせるためと、殺気立つ注意を向けさせるために。


「なにを────んっっっ!?」


 通常考えられない行動に問いかけようとしたセイナの瞳が見開かれる。

 墜ちる武器に眼を取られた一瞬の隙に距離を詰めた俺が、その艶やかな薄紅の唇にキスをしたのだ。


「~~~っっっ!!!!」


 電流が駆け巡ったかのようにビクリッと身体を震わせ、後退りしようとするセイナ。

 だが、あらかじめその行動を先読みしていた俺は腰回りと後頭部に腕を回し、片足も添わせることで退路を塞いでいた。


「んんっ……はぁっ……うっ……んっ……!」


 逃げ場を失い、唇を合わせるしかなくなったセイナを、俺は一切休ませる間も与えることなく深いキスを続ける。


「んっ……ちゅっ……あぁ……ちゅる、ちゅぅぅっっ……」


 初めこそ抵抗していたセイナだったが、最後は向こうから求めてくるようにこちらの唇を貪ってくる。

 比類なき柔らかな感触、後ろ手に回したサラサラとした長髪、鼻腔を埋め尽くす甘酸っぱい少女の匂い、俺と同じように心拍数を上げる鼓動全てが、俺の身体全体を埋め尽くしていく。

 ずっとそうすることを求めていただけあってそこから歯止めが効かなくなり、俺達は瞳を閉じたまま互いの唇をただひたすらに合わせ、その存在を確かめ合っていく。


「ちゅっ……はぁ、はぁ、はぁ」


 ようやく唇を離してくれたセイナの頬は桃色に紅潮しており、ブルーサファイアの瞳が名残惜しそうに俺の顔を覗き込む。


「はぁ、はぁ、これはあの時────」


 俺の中に欠片ほど残った理性が言葉を紡いでいく。

 娘からの凄まじい攻撃を間一髪で躱したオスカーは未だ神殿上部より顔を見せていなかったが、ここが二人だけの空間じゃなくて良かった。

 もしそうだったらこのまま押し倒してあとは────なんて、本音と建前が入り混じりつつある心中で何とかその言葉を捻り出した。


「あの時、あの夏祭りの夜。お前とすることが出来なかった分だ……これじゃあ足りないかもしれないけど……」


「……足りないわよ、ばか……っ」


 僅かに不貞腐れるような態度を取ったあと、セイナは勢いよく俺の胸に抱き着いた。


「ばか、ばかぁ……ホントに死んだと思ったんだから……」


 ようやく俺が(フォルテ)だと理解してくれたのか、大粒の涙と共に胸元で泣き喚くセイナ。

 気付けば彼女の周りに張り付いていた怒涛の殺気も消え去っていた。


「あー、いや。その」


 収まりそうにない少女の慟哭に歯切れ悪くなってしまう。

 落ち着くまで背中や頭をなで続けてやりたいところだが、生憎とここは戦場だ。

 さっきのように気を抜けば、また気付かぬうちに殺されてしまうかもしれない。


「いいかセイナ、落ち着いて聞いてくれ」


 幾らその()()()()を聞いたとはいえ、流石に二度も同じ奇跡を望むほど俺も浅はかではない。

 俺の切り出しにセイナはキョトンと眉を(ひそ)めた。


「どういうことなの?フォルテはフォルテなんでしょ?」


 なんか、哲学みたいになってきたな。


「まぁ、そうなんだが……大体なんでお前は俺が俺だってわかったんだ?」


「ちょっ!?それをアタシの口から言わせる気?!」


 急に動揺を見せて白い柔肌を再び紅潮させるセイナ。

 まるで目まぐるしく移り変わる信号機のようだ。


「それはだってその……そ、そ、そっちこそ!なんでキ、キキキ……キス……してきたの、よ……?」


 ヤカンが沸騰するかの如く頭から蒸気を吹き、グルグルと眼が四方を回るという慌てようの中、なんとかその問いを口にするセイナ。

 なんかその、そういうものに耐性が無いところはいつも通りで逆に安心感すら覚えてしまう。


「愛してる相手にキスする理由なんて必要か?」


「あ、ああ!?ああ、あぁああ……あ、あ、あ、あ」


 耳の先から手足の先まで器用にセイナは真っ赤となる。

 一文字目以降を何度も言おうとしてはつっかえてしまうあたり、さっきのような緊迫した場面ではないシラフ状態の彼女には、ちょっとばかり刺激が強すぎたようだ。


「おいおい、何をいまさら動揺してんだ?()()()お互いに言ってただろ?好きだって」


 フリーズしかけていたセイナがそこでようやくハッと我に返る。


()()()……?てことは魔術で身体が消失する直前まで記憶があったってこと?」


 彼女の指摘に俺は首肯する。

 灰となって消えゆく間際まで俺の意識はあり、同時に今の身体には最期の瞬間までの記憶がしっかりと受け継がれていた。

 おかげで死ぬほどの痛みと引き換えに、セイナからの告白も一語一句忘れずいられたというわけだ。


「結果としてそれが良かったんだ。下手に身体の一部が残らずに灰となったことがな」


「どういうこと?」


 イマイチピンと来ていないセイナ。

 まぁ無理もない。

 俺自身もまさかこんな偶然の産物があるなんて思いもしなかったのだから────

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