グッバイフォルテ《Dead is equal》10
「─────ぅ……」
どれくらい気を失っていたのだろうか。
蛇の尻尾のようなキリキリという威嚇音が耳元を伝う中でロナは眼を覚ました。
ギジギシ─────ッ
重い瞼を擦ろうとした両の手が何かに阻まれて動かすことが出来ない。
両脚も全く同じだ。
引けば引こうとするほど意に反して自身の四肢がピンと外側に引っ張られる。
「……ッ」
幸いなことに頭は固定されていなかったので、自身のツインテがでんでん太鼓になるほど首を振り、改めて何が起きているのか認識するために両眼を瞬いた。
「なに……これ……触手?」
自分の身体を視て、その身も気もよだつ光景に表情が引き攣った。
全身へと纏わりつくように巻き付いていたのは無数の触手。
動こうとするロナの身体をX字に縛り付け、磔の彫像のような状態にさせられている。
その足元、頭上、四方八方には茨や蔦を思わせる触手群が犇めき合い、まるでロナの身体を吟味しているように先端をくねらせる。
キリキリという鳥肌を誘発する音も、その金属の体表を備えている触手達がこすれ合うことで響く、言うなれば捕らえた獲物を嘲笑う彼らの嗤い声のようなものだった。
「─────ようやく目覚めたようだな」
男にしては甲高い、まるでピエロが喋るような響き。
突き出した胸元の下部、磔にされたロナの身体を真下から覗き込む位置にその人物は居た。
「こんなに長く感じた五分初めてだよ、ロナ」
「チャップこれは─────」
醜き宿敵の姿にロナが声を上げると、チャップは呆れたように片腕を振るった。
バシンッ!!!!
「ぁッ!!うぐ……ッ」
唐突に走った腹部の激痛に呼吸が利かなくなる。
主の指示に促された触手の一つが、鞭のように動けないロナへと強烈な一撃を叩き込んでいた。
「私の名前はボブ・スミスだ。何度も言わせるなよクソガキが」
言葉に苛立ちを滲ませるチャップだけど、その表情は裏腹にほくそ笑んで気味が悪い。
どうやらこうしてロナのことを捕らえられたことが嬉しくて仕方ないらしい。
まるで子供が珍しい虫でも捕まえてきたような奇異と好奇心が綯い交ぜになったような感情。
そしてそれらを自由にできるという権利を得て、ただでさえ醜い姿をさらに歪ませる。
「まぁいい。散々手こずらせてくれたが、もはや貴様は指一本であろうと私の指示以外で動かすことはできない」
その言葉でようやく思い出した。
艦橋でのチャップとの戦闘の末、ロナはあと一歩のところで勝てそうだったのに、追加された触手によってこうして囚われたことを。
意識を失っていたのも、数百本の金属の蔓に全身を貪り尽くされたからだった。
「私の大海原のような善意として呼吸と声だけは奪ってないから好きなだけ使うといい」
「……じゃあ遠慮なく、ロナちゃん誰もが認める天才だから知らない言語ってほぼほぼ無いんだけど、今初めてそれがあることを知ったよ。豚の言葉。流石のロナちゃんも養豚所の言語までは知らないかな」
「じゃあ貴様と同じく大天才のこの私が直々にご教授してやろう。どうやってご主人様に鳴いて媚びるのか。ブタかイヌかネコか。スペシャルサービスで選ばせてやろう」
見せ付けるように舌舐めずりしてから、爛々とした双眸がロナの肢体を下から上へと嬲る。
「どうした、両手に巻き付いた触手がキチキチ鳴っているぞ?」
気持ち悪いその感情に晒され抵抗を試みるも、数十人の手々の海に囚われた状態では指先を動かすだけで精いっぱいだ。
「……何するつもり?」
逃げられないと改めて理解され、せめてもの抵抗とばかりに鋭い眼光を走らせるも、チャップはそれすらも愉悦とばかりに頬を吊り上げる。
「分かっているだろ?貴様が持っている情報を洗いざらい話してもらう。あぁ、でもしゃべらなくて結構。直接貴様の身体にたぁぁぁぷり聞いてやるからなぁ」
ずっとお預けをくらっていた犬の鎖が解き放たれたように、チャップの両手がロナの身体へと伸び、フォルテ以外には一度も触らせたことの無いロナの胸を鷲掴みにした。
「っ……ッッ……」
アンカースーツ用に着用していたパイロットウェアは防護性を高めるために肌に密着した造りとなっているけど、それが返って直に触れているような刺激を与えてくる。
童貞臭い見た目の癖に、優しく先端ばかりを狙い、適度な強弱の波を加えながら感触を確かめていくチャップ。
鼻息を荒くしながらも、こちらの様子を伺いつつロナの弱い部分撫でまわしてくる指先に、思わず反応してしまいそうになる身体を精一杯強張らせ、舌を噛むようにしてロナは耐えていた。
ググッ……!
けれど、逃げようとお腹を引っ込めようとするロナの身体を背部より無数の触手が押し上げてくる。
くの字に曲げようとしてた身体を逆に弓なりに張らされ、まるでロナがチャップに胸を突き出して懇願しているようなポーズを取らされてしまう。
「おやおや、そんなに私の指先が良かったのかな?」
触手に指示を出し、自分でそういうポーズを取らせていることなんて分かっているはずなのに、艶めかしい声でチャップは訊ねてくる。
その間にも、人差し指と中指で胸の先端を挟むように刺激を与えつつ胸を揉みしだかれているロナは、羞恥と怒りの感情を絶対に出さないように下唇を噛む。
コイツの目的は決して情報なんかじゃない。
ただただロナのことを嬲り、その反応を愉しみたいだけなんだ。
だから絶対反応なんて……してやるもんか……っ。
「ほぅ、そうやって声を上げなければ私が楽しめないとでも思っているのか?だが残念。強情な方が犯し甲斐があるってもんだ……ッ」
指先のみならず、散々見せびらかせていた舌先が、ロナの身体を腹部から首筋に掛けてまで念入りに、何度も何度も往復させる。
指の動きも小刻みに焦らして遊ばせながら、断続的な刺激を与え続けていた。
いや……お願いだからやめて。
少女の身体には有り余る辱めに、不本意ながら懇願してしまいそうになる思考をグッと堪える。
幸い、通常の拷問と違って肉体的なダメージはない。
あるのは心の痛みだけ。
好きでもない男に貪り尽くされるアタシの身体は、唾液と指先の愛撫によってみるみるうちに汚されていく。
なんとかその苦渋に耐えられているのも、今もどこかで闘っている仲間達の存在があるからだ。
こんなことで弱音を吐くなんてこと、絶対してやるもんか。
ぎゅっと引き結んだロナの表情を視ていたチャップは、そろそろ頃合いかと言わんばかりに、空いていた左手をすうーと下部へと走らせていく。
何度も往復する舌先から零れた雫の跡をなぞる様に、胸、おへそ、下腹部を通り、終着点であるその場所をサッとひて撫でする、
「っっっ~~~!!!!」
たったそれだけでロナの脳内の思考が一瞬で焼き切れる。
両脚の内に秘められたその場所へ触れられただけなのに、まるで電極でも刺されたように、意に反して身体が跳ね上がる。