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SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》
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混沌が始まる日2

「ぐぅ……っ」


 手足を拘束されたまま身体を投げ出されアタシは、無様に地面へ転がされる。

 ここは陽の光はおろか、外界から閉ざされたような黒曜の壁で形成された、だだっ広い空間。

 周囲を囲むように悪趣味な銀の燭台へ灯る蒼炎の焔が照らすそこは、サッカーコート程の広さのように思えたが、所々明かりが行き届いていないせいもあってイマイチ全容が掴み切れていない。

 まるで闇の中に放り込まれたようで、燭台の焔(たいまつ)が消えてしまったらそのまま飲み込まれてしまいそうな薄ら寒さを覚える。まだ季節は真夏だというのに。

 そんな不明瞭な場所に連れられた理由を求めるように、アタシは自身をここまで連れてきた人物へと炯眼(けいがん)を向けた。


「おぉーこわい。とてもお嬢様とは思えない殺気だな。拘束していなかったら、思わず逃げ出してしまいそうだよ」


 大袈裟に肩を竦めて(うそぶ)くのは、アタシをここへと連れてきた張本人。彩芽。

 かつて、日本の諜報機関(こうあん)に勤めていたという彼女に担がれた状態で眼が覚めたアタシは、ここであったがなんとやら、攻撃しようと試みた。

 しかし手足は例の魔力の波長を乱す鎖でギチギチに拘束されており、動かすどころか神の加護すら満足に使用することが出来ない状態。下手に刺激してもメリットが無いので、歯噛みする思いの中、アタシは仕方なしに今の状態に陥る前の精査に努めていた。

 そうして思い出したのは、大使館でフォルテの師匠である竜に囚われたのち、竜から何か注射(シリンダー)で薬物を打たれて気を失っていたところだった。

 あの時……死すら覚悟していたアタシだったけど、どうやらただの睡眠薬だったらしく、最近の疲労困憊も重なって随分と深い眠りに堕ちていたのは我ながら何とも情けない話しだわ。

 多分だけど、その隙にアタシは組織の仲間である彩芽に引き渡され、こうしてアジトと思われる場所へと連れられたわけだったけど……幸か不幸か、まさかこうして敵の本陣へと入り込めるとはね。


「ふん、そんな気更々ない癖に、どうせアタシをここに連れてきたのも、()()()()()()に手柄を献上するためなんでしょ?」


 行きついた答えをアタシは彩芽に投げかけた。

 何故か僅かに(うみ)の香りを漂わせる彼女はそれに、わざとらしく肩を竦めて見せた。


「ほぅ、我らリーダーの名を知っているとは、さては竜辺りに聞いたな?」


「…………」


 アタシはそれに無言の肯定を貫く。

 眠らされる前、アタシは彼女と僅かばかり話をした。

 他愛のないやり取りだったが、唯一の収穫としてその名を聞くことができた。

 先導者(コンダクター)。それがヨルムンガンドの長たる者の名前らしく、事の次第によってはアタシをその人物へと引き渡される旨を竜から聞かされていた。

 だから。情報(ぶき)となり得そうなものはそれだけ。

 まるで全てを聞かされたように振る舞い、その実何も知らないアタシは、彩芽からできる限りの情報を集めようと努める。

 可能性はかなり低いけど、ここから抜け出せた時のためにも……


「それで?竜からはコンダクターの正体については聞いた感想は?」


「別に、感想を述べるようなことでもないわ」


 当たり障りのない応えに、何故か彩芽は途端に嗤い出した。


「何が可笑しいの?」


「いや、清廉潔白な王女様に嘘は似合わないと思っただけよ」


 僅かばかり瞳が反応してしまう。

 そんな……こんなに早く気付かれるなんて。

 いや、まだカマをかけた可能性も……


「知りたいか?コンダクターの正体を」


 ボウっ!と蒼炎が燃え広がるようにして、暗闇に溶け込んでいた部屋の全容が明らかになっていく。

 古びた石畳の左右に居並ぶ白石の支柱。

 その先に控えるは、同じく白石で組まれた古き祭壇。


「これは……神殿?」


 まるで時代に取り残されてしまったような寂寞(せきばく)を纏ったその姿は、ここが黒曜の密室でなければもっと煤けて見えていただろう。

 しかし、蒼い炎に寄り添われた異観は、まるでその神殿が生きているとすら錯覚させる。

 火種は最後、石畳みから祭壇へと続く階段を踏破し、その場所に居座る人物を照らし出した。

 玉座を思わせるたった一つの椅子。

 腰掛けるは一人の男性だった。


「そ、そんな……あ、あぁ……っ」


 その人物を認めたアタシは、ここが敵の本拠地と知って尚そのような動揺を振りまいてしまう。彩芽がどうしてアタシの嘘に即座に気づいたのか、その意味が分かってしまったから。

 そんな二人の対面を、彩芽は人知れずほくそ笑んでいた。

 アタシにも、先導者(コンダクター)さえ見えない位置で、この日を待ちわびていた彼女は人知れず……愚かな運命に向けて。

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