真意の嬌飾《リアマスク》1
明けましておめでとうございます(激遅)
遅くなり大変申し訳ございません……
ここから六章二部となります。
このような大変なご時世の中、私のような作品を見ていただき有難う御座います。
皆様方に少しでも楽しんでいただければ幸いです……
「グハッ!」
陽だまりの空の下。
無様な悲鳴と共に投げ出される身体。
取り落した真剣が砂利の上で金音を立てる。
「ふぅ……そろそろ一息付けよう」
鯉口に収めた刃鳴りのような声。
地に這いつくばったまま真紅の瞳で見上げた先、弓のように巨大な野太刀を腰にぶら下げていた竜は、瞬きと同時にその蒼い瞳を黒く染める。
「待て師匠、決着がつくまでとさっき言ったじゃないか!」
俺は口に付いた血と砂を拭いつつ叫ぶ。
高ぶる感情に呼応するように、真紅の瞳がさらに深紅へと染まっていく。
「そう言ってこれで何度目だと思っている?十三回だ。君がそうして這いつくばっているのを見るのは」
呆れたように吐息を挟み、懇願する俺へと竜は背を向けた。
孤島で救われたあの日から数年。
俺はこの竜と名乗る少女とずっと旅をしていた。
その目的はもちろん家族を二度も奪ったあの鬼を見つけ出し、復讐をするため。
竜とも因縁があるらしく、満身創痍だった俺を見つけたのも奴を追っている過程でとのことらしい。
真っ赤に染まったこの血眼も、あの時、俺を救うために竜が授けてくれた『悪魔の紅い瞳』という魔眼だ。
世界に七つあるという黙示録の瞳。竜の持つ『蒼き月の瞳』と同じこの瞳は、使用者に無尽蔵な力と不老を授けてくれる。
例えそれが、使用者の肉体を蝕み破滅へ追い込むものだとしても、魔眼というものは望んだ力をそのまま顕在化してしまうものらしい。
そうならないためにも、毎日こうして魔眼の扱いやその戦い方について、竜が俺に稽古をつけているのだが……何千何万と戦ってただの一度も勝てた試しがない。
技術、力、情報、経験、何一つとっても劣っている俺が竜に勝てるはずもないことは、自分自身が一番よく理解しているつもりだが、だからといって納得できるわけではない。
……悔しい。
ギシッと歯噛みした犬歯が音を立てる。
太陽が昇るのことが常識であるように、俺は出会ってからずっと、這いつくばって師匠を見上げていることが当たり前となっていた。
「だからこそ次は────」
「ダメだ」
俺の考えを見透かしたような────いや、本当に見透かしている師匠は、珍しく語彙を強めた。
怒っている。
たった数文字の、それも見た目こそ幼年の少女の言葉に、俺の身体が畏怖や恐懼)といった感情で強張った。
躾けられた犬のように、それだけでこの人に抵抗できなくなってしまう。
「色がいつもより濃くなっている。瞳に力が入り過ぎている証拠だ。全く、その力を感情のみでコントロールするなと、十一年六か月二十七日前からずっと言ってるじゃないか」
「そんなことは分かってる……分かってるけどよ……っ」
何度やっても勝てない自分が、果たして前に進めているのか実感が持てない。
こんなとこで燻っていて本当に奴に勝つことができるのか。
「大丈夫、君は私が思っていた以上の速度で成長している。それに……もうその身体は時間という概念から外れたものだ。そのことを気にする必要はないよ」
瞳に込められていた力が、それを聞いて静かに抜け落ちていく。
血赤で塗りつぶしたような色が元の黒へと戻っていった。
「さぁ、ご飯にしよう。今月は君が当番だろ」
着ていたセーラー服のスカートを靡かせ、振り返った少女は微笑んだ。
決して大きいとは言えないその華奢な体躯からは、さっき見せた凄まじい怒気はすっかり霧散していた。




