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SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》
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日米英首脳会合(ビギン カンスペリシィ)4

 靖国神社から南下して国立図書館を通り過ぎた頃。

 ようやく収まったロナが鼻を啜りながらハンドル握る最中、ダッシュボードの大型モニターには今回の会合の一番の眼玉、皇居内でのセレモニーの様子が映し出されていた。

 皇居外苑(こうきょがいえん)、広場の一角で行われるそれは、この地に足を踏み入れる外来客を持て成す儀として戦争終結から今日まで続く伝統だ。

 流れる映像はセキュリティの関連からテレビ局ではなく警備関係者が撮っているものだが、その不鮮明さがよりこの非公開の催しが貴重なことだと物語っている。

 各国の首脳、ベアードや伊部昭三、エリザベスが映る中にはもちろん()()もいる。

 このクソ暑い中、陽の日差しを浴びても汗一滴垂らさず佇む高嶺の一凛花。

 下ろした長髪には昨日渡したプレゼントの姿は無い。

 あんな安物、このような高尚の場で付けることなどできるはずない。

 今の彼女は一国を背負うお姫様なのだから。

 いつも見せる素の姿は影も無く、昨日過ごした時間が幻に感じるほどの非現実的な美しさを誇っていた。

 今朝から薄々感じていたことだが、やはり彼女と俺では住む世界が違い過ぎる。


『一体君が彼女に何をしてやれるというんだ?』


 不意に再生されたその言葉。

 あの時は否定したが、もしかするとその通りなのかもしれない。

 今もこうして間接的に関与はしているが、それでもセイナに直接何かしてあげられているわけでもない。

 国会議事堂を過ぎて六本木通りに入る。

 広幅な道路を覆う巨大な影。ここらじゃ一番大きな高層ビル、文部科学省などのある中央合同庁舎第七館が日差しを遮っている。

 やはり……彼女の居場所はここではないのかもしれない。

 そう思うならセイナを元の鞘に納めてあげればいい。

 真面目に話せばエリザベスも分かってくれるはずだ。

 だが、そうする気にはとてもなれなかった。

 どうしてそう思ったのか、自分でもよく分からない。

 なら、俺自身はどうしたいのか?

 セイナの事情は度外視して、俺自身は彼女に何をしてあげたいのか。

 その疑問に対する明確な答えは今朝からずっと見つかっていない。


「……ん?」


 考え疲れて座席に寄りかかったその眼前、交差点に進入しようとしていた先行車の異変に気づいて俺は声を上げた。

 青信号だったはずなのに、何故か交差点手前で先行車は停車した。

 特に何かが飛び出したわけでも、車が故障したわけでもなく停車した車内で、運転手の男性が困惑したように交差点の方へと視線を向けていた。


「あれ、信号が消えている?」


 運転手であるロナも、その異変の正体に気づいて停車する。

 交差点の信号が明滅すらせず完全に沈黙していた。

 他にも交通状況を知らせる電光掲示板や、歩行者用の横断メロディーも鳴りを潜めている。

 停電とも違う、まるで地上から電源を抜かれたような異様な光景に俺達が顔を見合わせると同時に、ダッシュボードに映っていた映像の中で……


 ────ターンッ……!


 バタッ……


 遠くから直に鼓膜を掠めた銃声と、力が抜けたように崩れ落ちる一人の人物。

 倒れたのはなんと、俺達の護衛対象であるガブリエル・ベアードその人だった。


「ベアード!?」


 遠方より飛来した暁の一発が胸元を貫く。

 見覚えのある長遠距離狙撃(ロングレンジスナイプ)

 血の(あぶく)を吐いて、大統領が膝から崩れ落ちた。

 その姿に、セレモニーに参加していた著名人達と警備員が混乱で入り乱れる。

 現場は瞬きする間に狂気の渦と化した。


 ────ターンッ……!


 二度目の銃声。

 今度はハッキリと捉えることができた。

 皇居(狙撃位置)からやや南南西。

 俺達と皇居を結んだ対角線の延長。

 が、今はその狙撃手の位置よりも、二射目の行方の方が重要だった。

 銃弾が定めた第二の目標は、


『……!』


 イギリス女王のエリザベス三世だった。

 マズルフラッシュが見えたのか、蛇に睨まれたカエルのように、そのブルーサファイアの瞳を見開いたままエリザベスは一歩も動けない。

 周囲に待機していた護衛達も、混乱する人々に押し返されては数舜の遅れを取っていた。


『お母様ッ!』


 そんな彼女に間一髪飛びついたのは、すぐ近くにいたセイナだった。

 持ち前の瞬発力で腰にタックルしてエリザベスの重心を逸らす。

 到来した銃弾はエリザベスの胸があった位置、態勢の逸れた彼女の左腕を掠める。

 何とか直撃は免れたところでようやく護衛の警備員が彼女達首脳陣を取り囲んだ。


「……奴だ」


 眠っていたアイリスが後部座席で独り言ちた。

 極度まで高めた集中力を表す据えた琥珀色(アンバー)の瞳は、彼女が既に戦闘状態にあることを示していた。


「あのスナイパー……父さんの仇ッ……!」


「お、おい!?待てアイリス」


 飛来した暁の銃弾と魔力を纏った銃声に感化され、アイリスが愛銃(リボルビングライフル)を抱えて後部座席から飛び出していく。

 何とか止めようと試みた俺達の横で停車中の車を踏み台に跳躍────魔力で巻き起こした上昇気流に合わせて背負ったパラシュートを展開したアイリスは、ものすごい速度で中央合同庁舎第七館(狙撃スポット)の屋上を目指す。

 アイリスを追いかけている余裕はない。

 遠くで靡くマフラーと甘栗色の三つ編みから視線を戻す。

 感情的になっていたとはいえ、その程度で照準が狂うような彼女ではないことは俺達が一番理解している。

 呼び戻すよりも、今は俺達ができることを探す方が得策だ。


 ────ドガアアアアアァァァァァァン!!!!!


 焦る頭脳で無理矢理状況整理に努める最中、その努力を嘲笑うか如くビル群を通じて衝撃の波が遠来してきた。

 ピリピリと肌に纏わりつくそれらは、まるで地震のように周囲の建造物や車体へと小刻みな震えを伝わせていく。

 一体、何があったというのか。


「フォルテ、これ!」


 その気がかりが具現化したように、運転席のロナがダッシュボードを指さした。

 大画面に映し出されていた映像に揺らぎが生じたかと思うと、画面が一瞬で暗転した。

 破損した様子は無かった。まるでさっき見た信号機と同じような……


『通信管理をしていた東京スカイツリーが爆破────半壊した。それ────と、外部────

 からの強力な────電波────ジャック────』


 インカムに届いた断続的で不透明な声。

 空よりヘリで監視をしていたセバスチャンのものだ。

 イギリス側の警備指揮を執っていた彼の明言した通り、超強力な電波妨害(ジャミング)は非対策の街中にある電子機器全てを沈黙させ、装備していた対電波妨害(アンチジャミング)のインカムですら障害を及ぼしていた。


「こちらフォルテ、セバス聞こえるか?状況はどうなっている?」


『────状況は────』


 ────ターンッ……!


 ザザザ────


 突然耳の中に砂を流し込まれたような、不快な音が鳴り響く。

 三度目の銃声が鳴り響いた先、見上げた空の上で飛翔していたヘリの本体とプロペラが分離した。制御を失った機体は空中で錐揉みしては皇居の方へと墜落していった。


「クソォッ!!」


 怒りでダッシュボードを殴りつけた。

 成すがままに蹂躙される仲間達の姿に、噛み締めた口元が軋む。

 隣にいたロナも隠し切れない動揺を瞳へ宿していた。


 ダァァァァァン!!!!


 反撃の狼煙を上げるが如く、銃声を響かせたのは近くの屋上へと移動していたアイリスだ。

 二射で大まかな方向を、三射目で完全に位置を特定した彼女によるカウンタースナイプ。


『────外された────でも、釘付けにした』


 口数少なくインカム越しに応えたアイリス。

 今もその照準越しに狙いを定めているのだろう。彼女は要点だけを掻い摘んで告げた。


『敵の居場所は東京タワーの特別展望台(トップデッキ)、ボクが釘付けにしているうちに二人で奴を仕留めて』

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