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SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
月下の鬼人(ワールドエネミー)下
241/361

断罪の銃弾(コンティニューザフューチャー)3

 それから二日……いや、三日か?

 部下達が新たな門出を迎えている中、俺は一人、傷の手当てでホワイトハウスの一室にいた。

 療養のため……そう言えば聞こえは良いかもしれないが、正確に表すなら、それを理由に部屋に閉じこもっていると言うべきか……

 部下達は皆、それぞれがやりたことをすぐに見つけた。

 対して俺は、これと言ってやるべきことも、夢や目標といったものも何もない。

 なら、何かやりたいことはないのか……?

 ベアードにそう提案されて、ベッドの中でこうして考えてはいたが、あまりいい案は思い浮かばない。

 それもこれも、窓の外が原因ではないのかと我ながら思っている。

 二階であるこの部屋のカーテンの隙間から外を覗くと、ホワイトハウスを囲む塀の一角に、カメラや看板を引っ提げ、連日ヤジを飛ばしている人の群が目に付く。

 マスコミと極左派閥によるデモ隊だ。

 流石に数日空けば真偽は置いておいて、色々と情報が出回りだす頃合いだ。

 それを嗅ぎ付けた連中が、ここぞとばかりにデモ活動を起こしており、俺の思考どころか安眠まで妨げる始末だ。

 とはいえ、それもこれも全ては作戦を遂行できなかった俺自身の責任であり、FBIのことも含めて複雑な立場ながら、それでも矢面に立ってくれているベアードには頭が上がらないという言葉だけでは到底足りない。


「コーヒーの一つでも入れてやるか……痛っつつ……ッ」


 ようやく起こせるまで回復したが、それでも鉛ののように重い身体を持ち上げてはそう呟いてみる。気怠い身体から漏れ出た溜息だけで、魂が死んでいくような気がした。

 あーあ……こんな時、近くのカフェにでも行ければ、もう少しまともな思考で考え事ができそうなんだが……

 何気なく、デスクワークが捗らない時によくやっていた癖を思い返していた時だった。

 今の自分がやりたいと思うことが少し、ほんの少しだけ見えた気がした。






 それから更に数日後。


「本当に行くのか?」


「……あぁ……」


 ワシントン・ダレス国際空港。正午。ターミナルの一角。

 まもなく出立する飛行機の搭乗口に向かう道すがら、俺の見送りに来ていた二人のうちの一人、珍しくキッチリとしたグレーのダブルスーツを身に纏ったレクスがそう告げる。

 弟子のことを気に掛けて貰っていることから、ベアードのためにお堅い国防総省(ペンタゴン)の職についたレクスであったが、元の素材が良いこともあって、不思議とその格好は様になっている。


「ねぇ……本当にダーリンが、フォルテがそこまで背負う必要が本当にあるのかな……?」


 見送りに来ていたもう一人の人物、こちらは表に出ない諜報機関(CIA)の職ということもあって、いつも通りのキャミソールにショートパンツというラフな私服姿のロナ。

 だがその表情は、新たな門出を祝うにしては、やや俯き加減で暗いものだった。

 俺が頼んだこの後のことに、まだ少なからず抵抗があるらしい。

 ロナは孤児院やアノニマス。部隊を抜けても様々な事柄を抱えている彼女は、最近ややサボり癖が身についていて俺としては少々心配だった。だが、それが杞憂であったかのように、ロナは二つ返事でベアードが用意したCIA副長官という大役を引き受けてくれた。

 もしかすると、アキラのことが多少なりとも影響しているのかもしれない。

 また、副長官と同じく、とある事件で長らく不在だった長官の目途も立ったと聞いたが、果たしてそれが誰であるかまでは聞いていなかった。


「別に一生背負うって訳じゃないんだ。アキラとミチェル。二人を探し出すまでの短い辛抱さ……それにな」


 俺は背を向けていた二人へと振り返る。

 しばらくこの国を出て、一人で生活するには少なすぎるボストンバック。

 そして、私服の上から肩に引っ掛けただけの八咫烏(ヤタガラス)を靡かせながら、小さく微笑んで見せる。


「部下達が皆、新しい道に進もうとしているのに、俺一人いつまでもウジウジしていても仕方ないだろ」


 眼の前の二人が新しい職場に就いたように、勲章(シルバースター)を持ち帰った功績から、祖国で貴族の席を勝ち取ったリズや、自分自身を見つめ直すために世界中へと旅立ったベル、新たに果たすべき使命を見つけてか、忽然と姿を消したシャドー。

 俺も、皆に後れを取ってはいられない。

 行きかう人々で溢れるターミナルの外、いま飛び立った飛行機が、春の麗らかな大空へと消えていく。

 もう一年前や、この左眼左腕を失った時とは違う、どんな逆境や辛い出来事があっても、それを糧にして俺は……前を向いていく。


「フォルテッ!」


 堪えきれなくなった感情を爆発させるようにして、急にロナが抱き着いてきた。

 以前彼女にプレゼントした、アメジスト色の髪留めリボンが、ウサギの耳のように俺の顔を撫でる。


「ロナ達をここまで導いてくれてありがとう……向こうに行っても元気でね」


 胸の位置から見上げてきたハニーイエローの瞳は、零れそうな涙を必死にこらえながらも微笑んでいる。

 ロナが一人でやっていけるのか不安だったが、どうやらその心配はいらないようだ。

 もう謝ることを止めた彼女は、俺が付き添わずとも、きっと自分で道を切り開いていけるだろう。


「あぁ……お前も不摂生ばかりして、あんまり身体を鈍らせないように気を付けろよ」


「むー、ロナちゃんはそう簡単に太らないから大丈夫ですー。ダーリンが留守にしている間に、ロナちゃんは成長期生かしてもっとナイスバディを手に入れてやるんだから……だから、たまにはこっちに帰ってきてね……」


「そうだな……また会う時を楽しみにしてるよ」


 むくれ面になっていたロナの銀髪を撫でながら、バカップルを見るような呆れ顔をしていたレクスへと目配せする。


『ロナのことを頼む』


 男同士の別れに、余計な言葉は不要だ。

 俺の考えを読み取ったレクスは、小さく首肯した。


「さて、そろそろ行かないと……荷物準備してくれてありがとな、ロナ」


 新しいパスポートやらスマホやらの入ったボストンバックを引っ提げた俺は、短い別れの言葉と共に今度こそ搭乗口へ。

 それを追うように、数歩ばかり踏み出したロナをレクスが優しく止める。


 飛行機に乗り込んで見たターミナルには、残された二人がじっと俺の乗る機体を見つめていた。その姿が空の彼方へと消えるまで。


 それから数時間後。

 ベアード大統領の緊急記者会見と共に、俺はFBI長官暗殺計画の主犯として、世界中の敵である国際指名手配犯に仕立て上げられるのだった。






SEVEN(セブン) TRIGGER(トリガー)


 それは大統領が極秘裏に編成した特殊部隊であり、隊員達はそれぞれ得意な火器を要する。

 時に銃弾を曲げ、強力な火砲を生み出し、彼方より標的を打ち抜くその部隊は、大統領の命の下、各国で様々な戦争因子を取り除くことに尽力してきた。

 だが、隊長であった「フォルテ・S・エルフィー」は、今のFBIのやり方が危険であると個人的に判断した上で、部下達を脅したうえで長官暗殺を決行。しかし、流石に数千もの職員相手には作戦を遂行すること敵わず、象徴であるEdgar(エドガー) Hoover(フーヴァー) building(ビル)を破壊することしか敵わなかった。

 これを受けて大統領は、SEVEN TRIGGERの解散を発表。

 それと同時にFBIは、フォルテ・S・エルフィーを国際指名手配犯として正式に公表した。

 現在は各国に応援を呼びかけてはいるものの、ここ最近のFBIの過激さからか、あまり良い返事は返ってきてないらしい。

 そんな中、FBI長官は今も治療に専念しているため────


「五十セント」


 米国から輸入された新聞紙を立ち読みしていた俺に、タバコ屋の老婆は告げる。

 少しの情報でもキッチリ金を要求するあたり、元スパイである彼女らしい。


「タバコはいらないのかい?」


 への字口で、欧米化が進むこの港町で使える五十セント硬貨(ハーフダラー)を指で弾く俺に、老婆はラッキーストライクを差し出す。


「もうタバコはもう止めたんだバーバラ」


 俺は片手でそれを断り、店を後にした。

 日本にある港街。

 俺はここで、小さな珈琲店を営みつつ、世界情勢に眼を光らせている。

 少しでも何か動きがあれば、いつでも対応できるように。

 ロナが情報を操作し、マスメディアを上手く操ってくれたおかげで、部隊やベアードに降りかかっていた世間のヘイト全てを、俺に集結するようなってはいたが、アメリカ東海岸から遠く離れたこの特殊な情勢下渦巻く街のおかげで、店経営しながら案外普通に過ごせているのは、運に恵まれているとつくづく実感するばかりだ。

 ベアードが俺達の作戦記録を全て公表したことにより、その付近で悪事を働いていたFBI全ては手を引かざる得なくなった。

 連中からしたら気分が悪いだろう。

 お前達の悪事はいつでも公表できるんだぞ、と、遠回しに言われているようで下手に大統領の気持ちを無下にできず、表面ばかりの仮面夫婦を演じなければならないのだからな。

 今回の件を踏まえて一部やり方についていけなくなったFBI職員達もアメリカ政府側に付いたようだが、それでなんとか平静を保っていられるのは、俺という落としどころをベアードが作ってくれたからに他ならない。

 それでも、揺さぶりをかけるために、長官が治療中なんて誤情報を流しているようだが……気にするほどのことではない。

 にしても、自分自身の提案ながら、想像していた以上に事が綺麗に収まってくれて本当に良かった。


「さて……」


 お店ように購入した新聞を片手に、俺は自身が経営するカフェ『Black Cat』へと足を向けるのだった。






 それから更に一年が過ぎ、再び春の季節が訪れた頃だった。

 すっかり慣れた生活のゆとりが生んだのは、余裕でもあり、油断でもあった。

 何気なく休日を謳歌しようしてた俺に(もたら)されたのは────


 ターンッ……!!


 遥か彼方のビルから放たれた一撃。

 額に向けて放たれた銃弾に俺は────


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