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SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
月下の鬼人(ワールドエネミー)下
235/361

at gunpoint (セブントリガー)17

「う、動くなぁッ!!」


 倒れたオオカミを掴み上げた俺が、その巨躯生かすように盾にする。

 弾の入っていない銃で脅す俺を見て、職員達が躊躇いを見せた。


「おいおいフォルテ……」


「……言うな」


 俺の所業にジト目を向けるアキラ。

 あと、お前も俺の後ろにちゃっかり移動していたくせに、なんで俺だけ悪い奴みたいな顔してるの?お前も同罪だろうがッ!


「クソッ!なんて卑劣な……!」


「この悪魔め……!」


 悪の権化を前にして悪態をつく職員達。

 お、俺をそんな目で見るんじゃねえ!

 つーか、ジリジリとこっちに寄せてきているそこの職員二人ならいざ知らず、何でオオカミ、てめーまで俺のことを憐憫に満ちた表情で見てやがるんだ!?

 それでもオオカミは抵抗することなく身体の言うことを利かせてくれるので、後ろ手に拘束して盾にしつつ、職員達が入ってきた扉とは真反対の出口へ後退していく。

 俺だって本当はこんなことしたくはない。

 したくはないがここは仕方無い。

 オオカミには因果応報と思って、このまま部屋の外まで盾に────


 スタッスタッスタッ……


 ゆっくりとした革靴の音を響かせて、部屋にもう一人の職員が入ってくる。

 二人なら上手く牽制しつつ射線を防げるが、流石に三人になると正面、右、左、と振られて隙が大きくなってしまう。

 だが、あともう少しで部屋の外に出られそうだ……

 アキラを背に、出口のある壁際まで近づいたその時────


 ヅダダダダッ!!!!!


「なっ!?」


 撃ちやがった!?

 最後に入ってきた職員が、持っていたアサルトライフルを俺達に向けて躊躇いなく。

 それも単発(セミオート)のような精密射撃ではなく、連射(フルオート)による制圧射撃。

 意表を突かれた全員が、その陽日に煌めく無差別の銃弾を前に反応が遅れる。


「ガハッ……!」


 三十発(ワンマガジン)の銃弾の雨を受けたオオカミが片膝を着き、タイルカーペットへ血反吐を吐いた。

 盾にしていただけあって俺とアキラに被弾こそしなかったが、さっきオオカミが被弾した.45ACP弾とは比にならないライフル弾は、羽織っていたスーツに数カ所の風穴を開け、染料のように朱いスーツを鮮紅色に染めていく。

 おいおい、これじゃあまるで……


「貴様ッ!何故撃ったぁ!?」


 左右に展開しつつあった職員の一人が叫ぶ。

 しかし、そんな言葉は毛ほども聞こえていない様子で、最後にやってきた職員は弾切れになった銃のマガジンを落としてリロードしていた。

 オオカミが倒れたことで露わになったその表情に迷いは一片もない。

 仲間、それも上司を撃ったということなど、微塵も責任を感じていないといった出で立ちで再び銃を構えた。


「もはや用済み……ということか……」


 銃弾を掠めた頭部から血の雫と玉のような汗を滴らせ、自らの末路を悟って独り言ちたオオカミ。

 裏切り。

 FBIのやり方に疑念を抱きつつも任務を遂行していたオオカミ。

 立場的にも個々の能力としても力を持ち合わせていた彼が裏切ることを恐れて、このどさくさに紛れて始末しようといった具合か?

 組織内でNo.2とも言えるこの男を目の敵する人物など、たった一人しかいない。

 再装填を終えた職員が、まだ、前の射撃熱で煙を立ち昇らせる銃身をこちらへ向けた。


「よせぇ!!」


 職員二人がそれに飛び掛かった。

 彼らはオオカミ派閥であるらしく、その忠誠心を示すかの如く、俺に撃たれることも顧みずに必死にその職員を抑え込もうとしていた。


「隊長、今のうちに行くぞ……って、何やってんだよ?」


 訪れた好機に急いで離脱しようとしていたアキラが、その場から一歩も動かない俺へと振り返る。

 今の状況はこれ以上ない好機であり、アキラの行動は正しい。

 だが、本当にそれでいいのだろうか?


「奴らの内輪揉めに俺達が付き合う必要なんてない。ましてやそいつは俺達を殺そうとした集団の親玉なんだぞ!」


 アキラが俺の迷いや考えを見透かして叫ぶ。

 その手は既に出口のドアへと掛けられている。

 見捨てることは簡単だ。

 このまま背を向けて扉を出れば、あとはこいつらの自業自得。

 どっちが死のうが俺達には関係ない。

 でも……


「貴様……何を……?」


 重傷で動けなくなっていたオオカミが掠れた声で驚愕を露わにした。

 隣では、つい数分前まで殺し合っていた敵である俺が、彼の腕を肩に抱いていた。


「いいからとっとと立ち上がれ!アンタのその肉体、見掛け倒しって訳じゃねえだろ?」


 お、重い……

 一瞬その巨躯に押し潰されそうになった足を何とか踏ん張らせ、火事場の馬鹿力を振るうように無理矢理オオカミを立ち上がらせる。

 扉までは五メートルほど。

 手の届きそうなその範囲だが、疲れ切った今の身体には絶望の距離と感じた。


「何故……だ?私は……君達のことを……」


「さあな……自分でもよく分らねえ。ただ……アンタはここで死なせてはいけない人間だって気がしただけだ……」


 支える身体から熱を奪うように、生暖かい血の感触が両肩を伝う。


「俺達はこの国を良くしようと努めてきた。結果としてアンタのやり方は間違っていたが、そのたった一度の失敗で死んでいいほど人の命は安くない。アンタが犯罪者と罵った俺達の部隊だって、皆、犯した過ちを糧にして今日までやってきたんだ────ッ!?」


 足まで滴ってた血が潤滑油となり、その場でスリップした。

 バランスを崩した身体が大きくよろめく、


「全く、隊長も物好きだな!」


 いつの間に駆け寄っていたアキラが、反対側の肩を持つようにして態勢を立て直す。

 先に逃げていれば良いものを、物好きはどっちだ。

 だが、二人で支えるおかげで多少スピードが上がり、もう少しで会議室の外へと逃げられそうだ。


 ヅダダダダッ!!!!!


 銃声と二人の悲鳴が背後で鳴り響いた。

 裏切った職員は、なりふり構わない様子で仲間を撃ち、再びこちらへと銃口を定める。

 あと……もう少し……

 ようやく俺は会議室の扉に手が届いた。


 ヅダダダダッ!!!!!


 死をもたらす鐘が背後で鳴り響く。

 が、俺もアキラも被弾はしなかった。


「グッ……ぅ……」


 俺達を庇って身体を張ったオオカミが、声にならない悲鳴を漏らした。

 射撃の直前、オオカミはその巨躯を生かして俺とアキラを抱え、身を呈して守ってくれた。


「バカ野郎……ッ!」


 力を失くしてぐったりとした身体を引きずるようにして、会議室の外へとようやく辿り着いた。

 しかし、幾ら二人といえ重体の人間をこれ以上は運ぶことは厳しい。

 だが、ここに置いていくにしても、部屋の薄壁程度ではライフル弾を防ぐのに役不足なのも確かだ。


「……行け、私の部屋に……彼の武器が……」


 逡巡を断ち切るために、オオカミは虫の息でそう告げた。


「ここまで来て諦めるな!」


 ぐったりと扉横に倒れた巨躯を持ち上げようとするが、岩石のように重くなったそれを動かすことはできない。

 会議室の方から空になったマガジンが落ちてカラカラと音を立てた。


「これ以上は無理だ隊長!」


 アキラに肩を掴まれて引きはがされかけ、掴んでいたオオカミの手ごと床に倒れた。


 ヅダダダダッ!!!!!


 放たれた銃弾が、オオカミの身体のあった壁面に無数の空洞を作る。

 クソッ……ここまでか……

 断腸の思いで手を放しかけた刹那。


「なッ!?うああああああああ!!!!」


 職員の断末魔が会議室から溢れ出し、途端に銃撃が止む。

 一体何が……?

 俺とアキラが顔を見合わせ、恐る恐る部屋を覗いたその先には。


「あれは……」


 薄明の紗に赤茶の毛並みを輝かせる巨躯。

 裏切り者である職員を気絶させ、その丸太のように太く、どこかしなやか四足で押さえつけていたのは、いつか見たアメリカアカオオカミだ。


 アイツは……


 そうか……あの夜のこともそういうことだったのか……


「行こう」


 なんでこんなところに本物のオオカミが……?と眼を眇めていたアキラに俺が告げる。


「いいのか?」


 このまま重体のオオカミを放っておいて、という含みを持った言葉に俺は首肯する。

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