at gunpoint (セブントリガー)7
雑に整備されたギリギリ道と呼べる道を、闘牛のような獰猛さでバイクが駆ける。
フロスロットル入れっぱなしのエンジンが唸り続け、林道に適さないオーバースピードを生み出していた。
それでも何とか走れているのは、自宅の帰路として使っていたこの道をよく知っているからだろう。
少しでも気を取られれば一瞬でクラッシュするスピードだ。
それが理解できていても、俺は右手のスロットルを戻さない。戻せない。
仲間のあんな表情見ちまったらな……
トリガー3。
アイツは多分……隊長に恋をしている。
鈍感な俺でも、あそこまであからさまだと嫌でも勘付いちまう。
性格が半年前から激変したのも、元はといえば隊長がよく異性の中ではベルと気さくに話していることが多いところからだ。
見た目やファッションセンスは、貴族育ちのリズから。
彼女はそれらを真似たのだろう。
別にお前はお前なんだから……そう思っていたが、彼女自身はそう思っていないらしく、一歩でも半歩でも隊長に近づきたいという意思が成す、努力の表れなのだろう。
おかげで、実はそっちのけがあるトリガー5が煮え湯を飲まされていることは置いておくとして……
そんなトリガー3が怯えていた。
ここ半年、隊長の前では絶対に外さなかったその虚勢が見る影も無かった。
それくらい今回の件は、俺が思っている以上にヤバいのだろう。
他の連中も表に出していないだけで、内心では相当不安を募らせていたはずだ。
あの状況で、フォルテが抜けるのは得策ではない。
気づけば俺の身体は勝手に動いていた。
最近少しづつ使えるようになっていた、ある魔術まで使って。
「一分でも、一秒でも早く、ベアードのところに行かねえと……」
この情報を大統領に伝え、副隊長として皆が安心する知らせを持ち帰る。
焦燥に駆られた俺の心はそれしか考えることができなかった。
ノーフォークの街中へと続く、最後のカーブへと差し掛かる。
時間帯的にもこのままいけば、僅か二時間でホワイトハウスに着けるかもしれない。
土石を彼方へと蹴散らし、街に入る直線をヘッドライトが示した瞬間。
俺の僅かな油断が形となって姿を見せた。
ガガンッ!!
「えっ?」
前輪が急停止し、つんのめるように前へと傾いたバイクから、俺は投げ出された。
まるで、闘牛士が吹っ飛ばされるたのと同じように夜闇を舞う。
一体何が起きたのか……?
それを考えるよりも先に、身体が勝手に受け身の姿勢へと入っていた。
「……っ」
反転した世界で重力に叩きつけられる。
幸い背にはオートクレールがあって多少のクッション代わりになってくれた。
とはいえ、生身の人間が百キロメートル近い速度から放り出されれば、良くて大怪我、悪くて死だ。
バルンンンンン!!!!ドゴンッ!!!ブロロロロ……
身軽な俺から遅れて、巨躯のバイクが回転しながら俺の微かに左側を通り過ぎて行った。
あと数十センチずれていたらと考えるとゾッとする。
ダメージが抜けきらない俺の眼前でバイクが跳ね、最後はスピンするように横転した車体を回転させつつ停止。
なんとか軽症で済んだのは、日ごろの努力もあったが運も関与していた。
なんで倒れたかはさておき、咎人である俺のことを神様はまだ見捨てていなかったらしい。
全身が軋むように痛む。
それでも、普段の鍛錬に比べれば……
苦悶の表情を浮かべながらも、俺はひんやりとした地面に手を付いて身を起こした。
数メートル先に転がったバイク。
よく見ると、そのスポークホイールの前輪に棒状の何かが突出していた。
「かた……な……?」
タイヤの回転を妨げる形で一振りの刀が挿入されていた。
あれはうちの隊員達の物ではない。
と、するならば……!
軽い脳震盪でクラクラする頭を軽く振り、即座に戦闘態勢に入ろうとするも……
「がはッ……!?」
意識を断つ一撃が延髄へと走り────視界が暗闇へと吸い込まれていく。
ただでさえ気絶寸前だった俺に、それを耐えるほどの力は残されておらず、
「く…そ……が……」
漏らした悪態と一緒に身体から力が抜け落ちた。
最後に視界に映ったのは、紅い革靴と白い獣脚。
無様な姿でバイクに伸ばした自分の指先だけが微かに映っていた。
結局俺は、走っていたバイクの前輪に刀を投げ入れられたことも、誰がそんなことをしたのかも知ることの無いまま、意識を完全に失った。