at gunpoint (セブントリガー)3
ギャングやテロリストとは訳が違う。俺達と同じ、アメリカのために働く同志の証だ。
いや、これが本物だって証拠はまだ……偽物の可能性だって。
「他の敵兵も調べたけど……皆がこのマークを付けていた……試しにロナが電子デバイスで調べた結果、全員がFBIの殉職リストに該当する人物だって分かったの……」
リズの説明にロナが小さく頷く。
ロナが調べたというなら紛れもない真実なのだろう……
だとしても、趣味の悪い冗談にしか俺は捉えることができなかった。
極秘裏に輸送していたウランを、ギャングやテロリストではなく、国民を守るべき警察が奪おうとしていたなんて……
「一体なぜ?連中はこんなものを……」
ウランなんて使い道は極々限られている。
それも、警察とは無縁の非人道的運用方法だ。
一介の警察である彼らが、果たしてなぜこのような愚行を?
「まさか、核弾頭でも作ろうってことなのかな?」
思い至る答えは同じらしく、ロナがハニーイエローの双眸を険しくした。
それに優等生であるリズが身体を前のめりにさせるようにして反論する。
「そんなバカなこと、あっていいはずが────!」
「でもッ!それくらいしか考えられないよ……!」
生真面目であるが故に汚職を……いや、もうこれは陰謀とも言えるだろう。を信じられないといった様子のリズと、かつて大企業の不祥事を山と言うほど見てきたからこそ、そのような答えも受け入れてしまうロナが互いに声を張り上げた。
双方見つめる瞳は、微かに揺れている。
何が起こっているのかは分からないが、皆が動揺していることだけは確かだ。
知らず知らずのうちに俺達は、何かとんでもない事態に巻き込まれていたらしい。
「落ち着け二人とも……ッ」
俺は二人の間に割って入る。
「仲間同士で言い争っている場合じゃない。それに今はまだ任務の最中だ。このことは、積み荷を届け終えたら俺がベアードに伝える」
俺も動揺が収まったわけではない。
部下にそう声を掛けてやるだけで精一杯だった。
まるでお通夜のような気分だった。
SENTRY CIVILIANの車内、助手席でスマホを耳に当てながらそう思った。
作戦は無事に完了したのに、談笑の声一つ上がらないなんて部隊結成以来初めてのことかもしれない。
それくらい皆がショックを受けていたのだろう。
「やっぱり……思った通りだったよ」
そんな中、座席で器用に胡坐をかき、その上で操作していたPCで何かを調査していたロナが、独りでに呟く。
「最近ロナ達が任務を任された時、やけに敵の装備が潤沢し過ぎてるって、みんな思ってたでしょ?」
各々が肯定の沈黙を貫く。
一番初めの任務では、確かに相手はギャングだのテロリストだのと、大雑把に言ってしまえば戦闘のド素人だった。
今でこそ言えるが俺達も最初はそれらと同格で、個人の性能、武器の熟練度で何とか勝っていたに過ぎない。
それが今では、人種、性別、言語、性格、年齢、全てに関係なく、皆が皆の意志を読み取って動く、一つの生物のように行動することができている。
その甲斐あって……とでも言うべきか。気が付けば俺達は影で最強の部隊と噂されているらしい。
原因は至極全うで簡単。
ベアードの気まぐれで参加させられた、各国の合同特殊部隊合同演習において、トーナメント形式の実践演習で優勝してしまったのだ。図らずも。
というのも、仲間であるベルの見た目をバカにした連中が居たとか、リズの家系で他部隊に配属されていた親族が彼女の出生を嘲笑ったとか……まあ色々と事情はあったのだが、おかげで今では極秘偵察強襲特殊作戦部隊なんて堅苦しい名前ではなく、『SEVEN TRIGGER』なんて通称で呼ばれている。
七つの引き金。
各隊員がそれぞれ一つの得意な銃器を扱う部隊。
それを気に入ってか、今では隊員同士トリガーのコードネームで呼び合う始末。
と、何はともあれ、晴れて優秀な特殊部隊であることが世間様に認められたのだが、そんな俺達ですら最近の相手にはかなり手こずらされていた。
装備、連携、練度、どれをとっても特殊部隊に引けを取らない奴らばかり。
何となく皆が違和感を感じるのは当然だった。
それでもアイツが、大統領の下した任務だ。
誰一人疑りを抱かないのも必然だった。
今日、あの紋章を見るまでは……
「いま、前の任務で襲撃した野戦基地、そこの武器の流通ルートを試しに調べてみたけど、やっぱり裏でFBIが絡んでいるのは間違いなさそうだよ……」
初めて出会った時は捨てられた子猫のような、小汚く控えめな印象だったロナは、今では毛先まで手入れされたセミロングの銀髪をツインテに纏め、ネイルやメイクまでするようになっていた。(代わりに遠慮も無くなっていた)
他の隊員達も内外面問わず、一年前と比べて変化している者が大半だった。
嫌っていたピンク髪を伸ばし始め、性格も少し温和になったリズ。
オジサン臭いと嫌がっていた髭を生やし、振る舞いも年相応のものへと変わりつつあるレクス。
身長が少し伸び、人間的にも仲間への思いやりの面が成長したアキラ。
挙げればきりがないが、一番の変化は部隊内のコミュニケーションだ。
対立やいざこざがあれど、皆が積極的に自分の意見を会話で示すようになっていた。
そんな、よく言えば賑やか、悪く言えば騒々しい部隊の隊員達の会話が面白いくらい弾まない。
フロントガラスから覗く赤焼けの空を映し出していた太陽が、地平線へと消えようとしていた。
ずっしりと重たい空気がそれに輪をかけるように、車内に薄暗い靄を掛ける。
「……だが、理由が全く分からねえ、どうして連中はウランなんか狙ったんだ?」
寂々たる空気の中、口を開いたのは運転手であるレクスだ。
彼の言う通り、今の俺達には断片的な情報だけで、正直まだ何が真実なのか分かっていない。
そもそも何故FBIと敵対する必要があるのか?
錯綜した情報と気持ちの整理に苦労していると、ふと俺の脳裏にベアードのある言葉が再生された。
『愚弟はああ見えて連邦捜査局(FBI)長官だ』
そうだ。FBI長官は確かベアードの弟、ミチェルが勤めていたはずだ。
まさか、その辺の事情が何か関与しているのか?
一人眉を眇めながら、俺が呼び出し中だった電話を強く握りしめた時、後部座席のロナが気になる単語を口にした。