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SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
月下の鬼人(ワールドエネミー)下
215/361

assemble(パストバレット)1

 後日の朝。

 深々としたお辞儀するリズと、呆気に取られるアキラの姿がそこにあった。

 最初こそアキラは眼を丸くしていたが、誠心誠意の籠った彼女の態度を一切笑うことは無かった。

 それを見れただけあって、あの何十杯(?)ものフィッシュアンドチップスを飲んだ甲斐があった。

 ……その代償として、三日間トイレと親友になっていたことは伏せておこう……

 不幸中の幸いで、オオカミとの戦闘で使用した魔眼の後遺症は比較的軽かった。

 これでもう、誤って暴走することも無いだろう。

 あと心配なのは……


「フォルテ」


 リビングで謝罪を終えたリズが、L字ソファーでコーヒーを飲んでいた俺の方に駆け寄ってくる。


「その……前の作戦でテロリストなんて言ってごめんなさい」


 深く頭を下げるリズ。


「いいよ……別に気にしてないから」


 あの日と同じように俺は短くそう告げた。


「ありがとう。それでちょっと聞きたいことがあるんだけど……」


「なんだ?」


 きた。

 俺はあくまで冷静を装いつつ、片眉を吊り上げる。


「金曜日の夜……記憶が曖昧なんだけど、フォルテ、アンタ何か知っている?」


「……いや?俺は外に出てたから知らないな」


 コーヒーを口に運びながら内心でガッツポーズをする。

 どうやらあの日の出来事を彼女はアルコールで忘れているらしい。

 良かった……超開放的だったあの日のリズを見たとして、理不尽に殺される心配は無いらしい。

 あれは……俺の心の中だけに留めておこう。


「ならいいんだけど……あーそうそう」


 リズが俺の耳元へと近づいてきて────


「────もし誰かに言いふらしたら、分かってるわよね……?」


 カップを持っていた手が止まる。

 血の気が引くのと同時に、口に含んだコーヒーの味すら感じなくなる。


「まあいいわ……」


 否定も肯定も無い俺にリズは溜息を漏らしつつ、


「いい?あの日のことは私達だけの内緒だから、もし他の隊員、特にその……ロ、ロナにでも言ってみなさい?今度は料理の代わりに手榴弾(パイナップル)をねじ込むから」


 寧ろその方が嬉しいんだが……という言葉は口の中で噛み殺した。

 つーか、何故そこまでロナにこだわるのだろうか?

 そのことを訊ねるよりも先に、リズは薄ピンクの唇を尖らせたまま、リビングから出て行ってしまう。


「ダーリン居る?頼まれてた資料作ってきたけど……って、どうかしたの?」


 紙束片手にすれ違いで入ってきたロナが、固まったままの俺の姿を見て訝しむ。


「いや……その……何でもない……」


「……?」


 少し事情を話そうとしたら、廊下から射るような殺気を向けられてすぐに口籠った。


「そ、それより……それが例の資料か?」


 下手に長引かせて口を滑らせても困るので、俺は話しを逸らしつつ彼女の手にあった書類束に眼をやる。


「うん……そうだけど、こんなもの使って何するの……?」


 受け取った書類をペラペラとめくる俺にロナが訊ねてくる。

 彼女からしたら、こんなもん何の役にも立たないと思って不思議はない。

 それでもこうやって調べてくれる辺り、彼女の人柄の良さが出ている。


「なーに……ちょっと()()()に聞きたいことがあっただけさ……」






「それで?仕事嫌いの君がわざわざこんな朝早く、定期報告以外で私のところに来るなんて……一体どんな用事だ?」


 ホワイトハウスのオーバルオフィス。

 年季の入った執務机(レゾリュートデスク)で、溜息の出そうな紙束相手に書類仕事をしていたベアード。

 少し離れたアンティークチェアーに腰掛ける俺の方を見ずにそう告げた。

 その様子はまるで、遠回しに「邪魔するな」とでも言いたげな態度だ。


「そう言うなって、俺とお前の仲だろ?」


 ベアードが片眉を吊り上げる。

 普段と違い、俺の物言いが柔らかいことを不審に感じたらしい。

 首輪を付けられてから半年弱が経った今では、文句を幾ら並べたところで自分が疲れるだけと言うのを理解していた(諦めたともいう)

 そしてなによりこの半年で、ベアードが国民のためにどれだけ自分を犠牲にしてきたのかを思い知らされたからだ。

 秒単位でスケジュールをこなすベアードは、休日はおろか満足な睡眠を取っているところを見たことが無い。

 貰った給料も豪遊はせず、八割は恵まれない子供や動物保護団体に寄付している。

 何より恐ろしいのは、彼の口からは一度も「疲れた」という言葉を聞いたことがなかったことだ。

 それだけ自分の仕事に矜持を、信念をもって取り組んでいるのだろう。

 俺には真似できない生き方だ。

 そんな姿を見せられては、尊敬……とまで言いたくはないが、どんなに少なく見積もっても俺と彼の生き方は、比較対象になり得ない程の「差」があることを痛感している。

 だからもう子供みたいに喚くこともしないし、あからさまにぞんざいな態度も取るつもりはなかった。


「それに仕事嫌いなことを否定するつもりはないが、俺はあの日からできる限りアンタの指示を守ってきたつもりだ。たまには話しくらい聞いてくれたっていいだろ?」


「……」


 ベアードは無言のまま、鵞ペン風の万年筆を書類に走らせる。

 否定も肯定も無いということは、別にしゃべっても問題ないと勝手に判断し、俺はロナから貰った書類片手に続ける。


「実はずっと気になっていたことがあってな……初めてアンタが俺と出会った日のことを覚えているか?」


「勿論」


「俺をスカウトした時アンタ言ったよな、俺が優秀だということを知っている、と……」


「言ったな……」


「じゃあ……一体それは誰から聞いたんだ?」

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