表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
月下の鬼人(ワールドエネミー)下
213/361

maintenance(クロッシング・アンビション)16

「……ねぇ……ほんとに良かったの……?」


 背中に担がれたままのリズが自宅の前で呟く。


「何が?」


「あのオオカミのことよ……放っておいてほんとに良かったの?」


 襲撃してきたアメリカアカオオカミ。

 どうしようかと悩んだが、結局気絶させたままあそこに放置してある。


「……こっちは殺す気はなかった。それに……これ以上絶滅危惧種に(I)片足突っ込んでいる(A)ような連中()に手出ししようもなら、アメリカ動物(ASP)防止虐待協会(CA)に何言われるか分かったもんじゃないしな……」


 レクスがもしかしたら遭遇するかもしれないが、最近ではもう近接格闘でリズに関節技(サブミッション)で泣かされるようなこともない。あの程度なら素手でも切り抜けられるだろう。

 リズを背から下ろして明かりの付いていない自宅の扉を開ける。

 随分と刺激的(スリリング)な家路だったな……


「ただいま……」


 返事はない。

 時刻は午前三時、みんなもう寝ているのだろう。

 俺もさっさと自室のベットに……いや、その前にシャワーを────


 くいっ……


「……?」


 何かに服を引っ張られるような感覚がして振り返ると……


「……」


 俯いたリズが俺の服の袖を掴んでいた。


「リズ?」


 呼びかけるも、視線を前髪に隠したまま視線を合わせようとしない。


「どうした?離してくれないと部屋に帰れないんだが?」


 まだアルコールが回っているのか、リズの頬はピンク色に染まっている。

 ただでさえこんなところを他の隊員にでも見られたら、俺が未成年に飲ましたと勘違いされてしまいかねない。

 それだけはなんとしても避けなければならない。

 かといって酔っている少女を強引に引きはがすわけにもいかず、どうするかと渋っていると、


「……フォルテ……」


 ようやくリズが口を開いた。

 普段のガミガミと文句を連ねる彼女からは想像もつかない、夜の静寂に溶け込むような声。

 心なしか、妖艶な嬌声のようにも聞こえてしまう。


「こっち……来て……」


「お、おいッ……」


 普段とのギャップに不意を突かれ、問答無用でリズが引っ張っていった先、玄関入ってすぐのリビングへの入り口だった。

 少し乱暴に扉を開けたリズが俺を部屋へと押し込む。


「……一体なんだよ……?」


 照明を切ってあるリビングで、少し強引なリズに俺がぼやいていると────


 バッ……!!


「なッ!?」


 風切り音と一緒に世界が斜めに傾く。

 それだけじゃない、地面の感覚も消え失せていた。


 ババッ……!!


 平衡感覚を失った身体に横から何かが飛びついた!

 俺は為す術のないまま、近くのL字ソファーへと仰向けに押し倒された。

 視界の先には、俺の腰に跨るリズの姿がそこにあった。


「……リ、リズッ!?何してんだお前?」


 どうやら俺は部屋に入った瞬間リズに足払いを食らい、さらにタックルでここに押し倒されたらしい。


「……はぁ……ッはぁ……ッ」


 問いには答えず、顔を紅潮させて荒々し気な吐息を漏らすリズ。

 何が何だかよく分らんが……逃げ出そうにも、がっつり両太腿とソファーの間に固定された俺の身体は、完全にマウントポジションが決まった状態。

 う、動けねぇ……


「フォルテッ……」


 それどころか、さらには胸板や肩に覆いかぶさり、タコのように細い肢体を絡めてくるリズ。

 いつの間にか、全身の自由を奪われていた。


「今日の……埋め合わせをさせて欲しいの……」


 吐息が耳に吹きかかる。

 ほっぺ同士がくっつくくらい密着したリズから、桃のようなフレッシュで甘い香りが鼻腔を埋め尽くす。


「お、おい……っ」


 そういうことに疎い俺ですら、今の状況がよろしくないことは理解できる。

 酒に酔った勢いで……とはよく聞く話だが、それが部隊の部下と上司となれば周囲にも示しがつかない。

 そしてなによりリズが酔いから醒めた時、俺とそんなことをしてしまったなんて分かったら……男嫌いの彼女は激怒を通り越して病んでしまい、拳銃自殺も辞さないだろう。

 しかし何とかして動こうにも、完全にホールドは決まった今の状態では、顔くらいしか可動域が残っていなかった。


「リズよせ……ッ!い、幾ら何でも俺とお前は歳が離れすぎている!そ、それにお前はまだ未成年だッ……こういうのはな、本当に好きな相手にすることであって、お前は────」


 細く繊細な指先が、言葉の続きを遮った。

 最後に残った口の抵抗すらも、リズの指に優しく抑えられてしまう。


「いいの……私はフォルテのこと好きだから。それに、こんな機会滅多にないんだから……」


「……ッ」


 恍惚に満ちた表情の美少女にそんなこと言われて、我慢できる男がはたして何人いるのだろうか?

 いいんじゃないか?たまには流れに身を任せても……

 心の中の悪魔がそんなことを呟きだしていることに気づき、ブルブルと頭を振る。

 な、何を考えているんだ俺は……ッ!?


「でも……あんまり期待しないでよね?わたしこういう経験あんまりないから……どうやればいいのかまだちゃんと分かってなくて……」


 あぁ……だめだ。


「……フォルテの方が経験豊富そうだし……いっぱい私に教えて……?」


 そんな小悪魔みたいな表情で言われたら……我慢なんてできるわけねえじゃねーか。

 リズが俺の頬を両手で抑える姿に、ごくりと生唾を飲み込む。


「じゃあ……いくよ」


「……あぁ……」


 ゆっくりと彼女の顔が近づいてくる姿に、俺は瞳を閉じた。

 まさか……こんなことになるとはな……

 ぼんやりとそんなことを考えながら、全てを受け入れる覚悟で唇を軽く突き出した。

 程なくして俺の唇に触れたのは……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ