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SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
月下の鬼人(ワールドエネミー)下
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maintenance(クロッシング・アンビション)8

 むすっとバツ悪くジト目を逸らしたリズの横で、アキラが場を改めるように咳払いを挟む。


「身体の方は大丈夫なのか?」


「そうだな……誰かさんが俺の無線を無視したおかげで、今も全身死ぬほど痛いし、それにさっき、死を感じるほどの恐怖を味わって精神的にもボロボロで、やらなきゃならない仕事のことも思い出し始めて溜息が出そうなほどには元気だ」


 変に気を遣わせて禍根が残ることを嫌い、俺は冗談交じりに微苦笑を浮かべる。


「ごめん……」


 返ってきたのは謝罪だった。

 いつものアキラなら「気にして損したわ」くらいの軽い返しが来ると踏んでいたのだが……


「おいおいらしくないな、まさかお前までロナと同じようなこと言うんじゃねーよな?」


「……」


 口を噤んだまま、アキラは思い詰めたような表情を変えない。

 静まり返った部屋に時計の秒針が時を刻む音だけが耳に残る。

 その一回一回がやけに長く感じていると……ようやく。


「あの時……焦らずにもっと周りと協力できていれば、こんなことにならなかった。結局俺はいつもいつも自分のことばっかりで……他人に迷惑ばかり」


 どうやら、本気で悪いと思っているらしい。

 お調子者のあのアキラが。

 真面目は良い傾向だが、なんか……やんちゃ坊主が急に大人になったみたいでちょっと歯がゆいな。

 気難しい年頃の少年に、なんと声を掛けたらいいのだろうか。

 視線をアキラから外し、自室の天井を見上げる。


「お前はロナを守るために最善の判断をした。それにこれは、力の加減をミスった俺の自業自得だ。別に誰が悪いとかはない」


 嘘は一つも言ってない。

 あの場面、戦局の激しい中では、瞬時の判断力が生死を分ける。

 もしあの時、アキラが俺の指示に迷いを見せていたら、二人どころか部隊全員あそこでコンクリートの染みになっていたかもしれない。

 例え指示を無視しても、アキラは己を信じ、あの行動を取った。

 結果論になってしまうが、そのおかげで俺達は誰一人も殺すことなく、死ぬこともなかった。

 何よりどんな形であれ、任務を完遂することができた。

 だからこそ、時としては一人や二人、命令無視できる奴がいてもいいと俺は思う。

 いや、そう思うようになっていた……


「……あの時見せた力……あれは一体何なんだ……?」


 アキラの問いに、隊員達の視線が一気に俺へと集まる。

 まあ、皆が疑問に感じるのは無理ないか。

 手の内を隠すためにずっと黙っていたが────そろそろ限界らしい。

 痛む身体に鞭打つように、俺はベッドから身体を起こす。


「フォルテ、まだ安静にしてないと……!」


「平気だロナ、こうでもしないと格好がつかないだろ」


 片手でロナを制しつつ、隊員達の顔を見渡す。

 右眼について他人に話すのは、何十年振りだろうか……

 不意に、鼓動が早くなっているのを感じた。

 まさか、緊張しているのか?

 俺のことをこいつらに打ち明けることに。

 軽い深呼吸を心の中で済ませてから、俺は意を決して口を開いた。



 魔眼のこと、年齢のこと。

 話し終えた頃には皆が呆気にとられた様子で、開いた口が塞がらない者もいた。


「実はな……俺はこの部隊で隊長を務めるのが初めてじゃないんだ」


 窓外に広がる赤焼けの空に俺は眼を細めた。

 ずっと遠く、遥か昔の景色を呼び覚ますように……

 当時の隊員達の顔は、今でも鮮明に覚えている。

 ウィリアムス、ルーズベルト、ヨハネ、バーバラ。

 昔のことなんて思い出したせいで、つい胸ポケットから煙草を探るように右手を伸ばし、今は喫煙者ではないことを思い出して手を引っ込める。


「俺は訳あって八十年以上前すでに、今お前達が所属する「極秘偵察強襲特殊作戦部隊」で指揮を執っていた。それも。第二次世界大戦という過酷な現場でな」


「う、嘘だろフォルテ。アンタのその風貌で、俺どころか大統領よりもずっと年上だなんて……しかも第二次世界大戦って、俺のおじいちゃんが参加していたような戦争だぞ!?」


 皆が固唾を呑んで耳を傾けている中で、ようやくレクスが口を開いた。

 自分よりも年下だと思って接していた人間が、まさか三倍近く年上だったなんて……信じろと言っても無理な話で、そういう反応になるが必然だ。


「隊長の……フォルテの言うその眼の呪いというのは、一体なんなの……?」


 ベルが真面目な口調で訊ねてくる。

 やはり、年齢に関して特殊で魔術にも精通している彼女には、俺の話しが嘘でないと理解してくれているらしい。


「簡単に言えば、代償と引き換えに力を得る。そして、所持している間は歳を取ることができなくなる。この魔眼を所持した瞬間から細胞の劣化は止まり、この世界の理から外れた存在……不老になる。聞こえは良いがその実、肉体を寄生虫のように蝕んで苦しみを永遠と与え続ける。だから、俺自身はこんな見た目ではあるが、人ではないんだ……」


 鬼人……鬼に堕ちた人。

 俺の異名もあながち間違っていない。

 最初は手の内を隠しているつもりだったが、本当はこいつらに俺の本性を知られることが嫌だったのかもしれない。


「どうして……そんな力を……?」


 ずっと瞳に戸惑いを見せていたロナが、不思議そうな表情を浮かべる。


「……復讐のためだ……」


 初夏だってのに、俺のその一言で自室は酷く冷たい空気が立ち込める。


「第二次世界大戦、俺の部隊はある島の上陸作戦に参加していた……その時偶然、俺の家族を殺した敵と遭遇したんだ……だが、結果は惨敗。俺は結局仲間を逃がすことしかできず、俺自身は死の淵を彷徨っていた。そんな俺の前に現れたのが師匠だった。重傷で死にかけていた俺に、師匠はこの瞳を授けてくれた。たとえ呪われたこの力に溺れ、人外となり果てんとも、必ずや奴の首を取る……俺はその強い意志と共にこの瞳を手に入れ、そして……見事復讐を果たした……」


 張り詰めていた空気の中────俺は自嘲めいた笑みを浮かべる。


「でも、同時に大切な人達をたくさん失った……俺一人の身勝手で、関係のない大勢の人達まで巻き込んで……そのことに俺は、復讐を果たすまで気づくことができなかったんだ……」


 重苦しい空気の中、腕を組んで話しを聞いていたシャドーが小さく俯く。


「だからよ、そんな俺に比べたら、お前は────」


「俺だって……アンタが思うほどまともな人間じゃない……っ」


 遮るようにアキラが声を上げた。

 軋むほど食いしばった歯の間から零すように。

 普段クールに振る舞う彼の見せたことのない姿に、流石の俺も言葉を失う。


「あの時の俺は……別にロナを守るため行動をしていたんじゃない……自分の力に過信して、俺の力ならこれくらい一人でやれると……いや、やれなくてはならないと……シャドーにあんな負け方したくせに……きっと……自惚(うぬぼ)れていたんだ……」


 あの一戦以来、一言もそのことに触れていなかったアキラが、初めて敗北を認めた。

 それはプライドの高い彼にとって、並々ならぬ覚悟のいる言葉だっただろう。


「……核弾頭回収作戦の前、輸送機で話していた内容を覚えているか……?」


「輸送機で……?」


 藪から棒の言葉に眼を眇める。

 なんか変わった話なんてしていただろうか……?


「アキラ……それは……ッ!」


 心当たりがあるらしいロナが焦ったように声を上げるが、アキラは片手でそれを制す。


「いいんだ、フォルテの話しを聞いて俺も決心がついた……」


 ロナの思案顔を背に、アキラは深呼吸を挟み、何かの決意を固めた表情を見せた。


「……アメリカ大使館爆破未遂テロ事件……あの時話していた日本人ってのは俺のことなんだ……フォルテ」


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