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SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
月下の鬼人(ワールドエネミー)上
197/361

Disassembly《ブレット・トゥゲザァ》16

 五方手裏剣……!

 あんな飛び道具使う奴なんて久々に見たぞ……ッ!

 どうやら「ニンジャ」というのはあながち間違っていないらしいな。

 現代では絶滅危惧種の武器……というのが良くなかった。

 黒ずくめが数個投げた五方手裏剣を、命中率の低いチープな飛び道具とでも思ったのか、ロアはろくに避けようとしていない。


「バカッ!!避けろッ!!」


 咄嗟に警告した俺の声が、突然の乱入者でヒートアップしきった兵士達の声に掻き消されていく。

 俺はあの武器の脅威を知っている。

 速度、威力は銃弾よりも劣るかもしれない……だが一つだけ凌駕している部分がある。


 ギュインッ……!


 飛来していた手裏剣が、運動方向を無視した有り得ない動きで軌道変えた。

 空気抵抗を受けやすい手裏剣は、使い手の腕次第で上下左右に曲げることができる。それこそ、野球の変化球のように。


「まじかよッ……!?」


 予想外の攻撃に、驚き半分、嬉しさ半分といった様子のロアに手裏剣が襲いかかる。

 もう避けれないと判断したのか、多少の負傷は(いと)わない様子で突貫しようとした瞬間────ロアの態勢が綺麗に崩れた。

 背後で片膝を付いていたアキラがロアに足払いを掛けていたのだ


「うおッ!?」


 ちょっと間の抜けた声と共に倒れたおかげで、ギリギリ手裏剣を躱せたロアと、それを抱えるアキラ。

 アイツ……手裏剣の脅威に気づいてたってのか?

 俺は大昔、実際に見たことがあって知っていたが、よく分ったな、あれが曲がることを。


「何してんだボケッ!俺を助けるなんざ十年早えよガキがぁ!!」


「っせえな!俺が助けなきゃ、今頃てめぇはそんなこと口走れねえほど串刺しになっていたよ!!それにお前、俺と大して年齢変わらねえだろ!」


 顔をカブトムシのように突き合わせ、低次元のケンカを始めた二人。

 おいおい……

 敵前でケンカは()めてくれ……

 二人の姿に、黒ずくめも気まずそうな様子で『あ、あのー』と呼びかけるように右手を前に出している。


「敵前でケンカとは……規律がなってないんじゃないか?」


「……そういえば、あいつらどこの部隊の奴なんだ……?基地で見たことねーぞ?」


「そもそも本当に軍の関係者なのか?あんな女の子が軍に入ったなんて聞いてないぞ……?」


 この場にいた全員が二人を白い目で見る中、熱の冷めた脳筋バカ達が、冷静に事を分析し始める。

 うわぁ……あの二人がうちの部隊だって口が裂けても言いたくねぇ……


「い、一体どこの部隊の人間なんだにゃッ……!?」


 鶴の一声のように、一瞬にして声が消えた。

 そして、再びざわざわとし始める群衆。


「おい?今の誰の声だ?」


「女の声だったな?」


「『にゃ』て言わなかったか?」


 空気を読もうとして余計なことを口走ったベルを、レクスとリズが二人掛かりで抑え込む。

 存在自体が違法なベルが、軍の人間にバレるのは色々とマズい。一応フードやスカートの中に特徴的な耳や尻尾を隠してはいるが、それも百パーセントではない。

 普段からもっと注意して生活しろとあれほど言っているのに……何やってんだよお前は!?

 ついでに、たまたまリズの手を触れてしまったレクスが、眼で捉えられない速度のアッパーを鳩尾(みぞおち)に食らい、その場で悶えている。

 もうヤダ、この部隊。


「とにかく……アイツはタダもんじゃねぇ、てめぇは引っ込んでろ」


 冷静な口調でそう告げたアキラが立ち上がる。


「うるせぇ……ボロボロのてめぇが俺様に指図すんじゃねーよ」


 それに対抗するかのように立ち上がったロアが、背中からショットガンを抜く。

 兵士達から歓声や口笛が響いた。

 ついに、銃を抜いたぞ……

 それも散弾銃。

 相手を殺すことだけに特化した銃を見せられた黒ずくめは、相変わらず機械のように何の反応も見せない。

 銃を脅威だと思っていないのか……?


「俺の邪魔だけはすんなよッ!」


「てめぇこそ!!」


 いがみ合っていた二人が左右同時に分かれ、黒ずくめを中心に円状に走る。

 圧倒的不利な状況、突然の乱入者に対して黒ずくめは何も言わない。

 このまま二人まとめて迎え撃つつもりらしい。


 ダァァァァァン!!!!


 牽制のために放ったロアのショットガンを、黒ずくめは軽いステップで躱す。


「はぁッ!!」


 その着地点目掛けてアキラがオートクレールで斬りかかるも、大剣の腹を片腕で払われる。

 逸れた大剣が地面を砕き、破片を周囲に巻き散らす隙に、背後に回り込んだロアがショットガンを構えると────


「……うわっ!?」


 百八十度身体を入れ替えられたアキラが蹴り飛ばされ────


「……ちょっ!?」


 ショットガンを構えていたロアと交錯する。

 絡みついた二人に、やれやれと(かぶり)を振る黒ずくめ。


「この野郎ッ!」


 抱きついてきたアキラをロアが蹴り飛ばし、腰だめにショットガンを構える。

 黒ずくめはロアが引き金を絞る前に肉薄し、ショットガンの銃口を片手で逸らしつつ、片腕の関節を決めて抱き寄せた。


「グッ……!」


 背後から上段に斬りかかっていたアキラが、ロアを盾にされて攻撃が止まる。

 腕を締め上げられて苦悶の表情を浮かべていたロアは、片手で持っていたショットガンを黒ずくめに向けようとするも、銃を簡単に抑えられてしまう。

 だが、ロアはそこまで読んでいたのか、瞬時に銃から手を離してピアノ線を使おうとする。

 上手い。

 連携はなってないが、俺もくらったあの攻撃なら、黒ずくめも躱せないはず……

 と、思っていたが。


「……」


 黒ずくめはあろうことかロアの拘束を解いて────


「な……!?」


「はぁ!?」


 ロアの両肩に両手を置き、頭の頂点同士をくっつける形で逆立ちして見せた。

 二人の眼が同時に見開かれた。


「うッ……」


 拘束する相手を失くし、収縮した糸がロア自身を縛り上げる。

 不安定になったロアの肩を突き飛ばした黒ずくめが、あざ笑うかのようにアキラの頭上を越えていく。

 追撃しようにも大剣は重く。悠々と攻撃範囲から逃れていってしまう。


「クソッ!!」


 二人掛かりでも手も足も出ないことに、アキラは悔しさを滲ませつつ、背後に手を回した。

 オートクレールを捨てた手が代わりに持っていたのは、黒いサブマシンガン。

 アキラが愛用しているMP7だ。


「止めろ!!アキラッ!!」


 レクスが叫ぶ。

 もう誰の目に見ても、アイツが冷静でないことは分かっていた。

 血走った眼で、片腕水平という雑な構えで照準する。

 幾ら逃げ足が速かろうと、秒間約15発の鉄の雨を躱すことなんて不可能……誰もがそう思っていた。

 ────いや、一つだけある……

 引き金に力を入れた銃口から、眩い閃光が連続して走る────!

 マガジンに装填された銃弾を、僅か2秒で撃ち切ったその先には……


「うそ……だろ?」


 黒ずくめが佇んでいた。

 何事もなかったかのように仁王立ちしていたその手には、ロアがさっき捨てた奴の忍者刀が握られていた。

 訓練場にいた全員が言葉を失う。

 誰一人として、その現象が現実であることを飲み込めずにいた。

 俺一人を除いて。

 やはり……できたのか……

 唯一銃弾を躱さなくていい方法。簡単だ。全部弾いてしまえばいいのだ。

 奴は捨てられた忍者刀の位置に着地、回収したのちに、飛来してきた銃弾全てを斬り伏せて見せたのだ。

 かつて、俺の師匠が日本刀でやって見せたように……

 何者なんだ……アイツは……


「……クッ!」


 正気に戻ったアキラが再装填しようと試みたが────


 ドゥンッ!!!


「ぁっ……!」


 サブマシンガンが弾き飛ばされてしまう。

 S&W M29。 グレーウッドのストックと、マッドブラック仕様の.44マグナムを、電光石火で抜いた黒ずくめの銃弾が命中したのだ。

 もうずっと見てなかった銃のはずなのに、何故かその銃声は記憶に新しい……

 ────あの銃声どこかで……?

 不審に思う俺の眼前では、簀巻(すまき)き状態のロアと、手を痛めて(ひざまづ)くアキラの哀れな姿が映っていた。

 完敗。

 それ以外の言葉が……見つからない。

 息が詰まるような張り詰めた空気を前に、黒ずくめはあろうことか武器をしまってしまう。

 それを合図に、パッと殺気は消え去り、のそのそとしたトロイ動きでこっちを見た。


「────あれほどつまみ食いをするなと言っただろ……シャドー」


 しゃがれた男の声。

 忘れるはずがない。俺がいま最も恨みを持つ男。


「ベアード……!?なんでてめえがここに?それに『シャドー』って……」


 数名の護衛を引き連れた、スーツ姿のアメリカ大統領に気づき、俺が片眉を顰める。

 他の兵士達も大統領に気づき、注目が一気に集まる。


「────遊びは終わりだ。本来、決闘及びそれを傍観することは処罰対象だが、今回は眼を瞑ってやる。各自解散ッ!」


 大統領の鶴の一声に、兵士達がばらけていく。

 あれだけ騒がしかった訓練場が、わずか数秒で静寂に包まれた。


「さて……フォルテ、君達に紹介したい人物がいる……」


 唯一その場に残っていた俺達に、改めて視線を向け直した大統領がそう切り出した。

 その言葉に、訓練場の周辺に生えていた樹木が、風で大きくざわついた。

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