首輪を繋がれた悪鬼《パストメモリーズ》1
皆さまお久しぶりです!
人生で初めて小説一冊分色々と考えながら書きましたが……まさかこんなに時間がかかってしまうとは思っていませんでした……遅くなってしまいすみません。
世界的にも大変な状況の中、私の書いた小説が誰かの暇つぶしにでもなれば幸いです!
それでは五章お楽しみください。
桜の元に居た俺達に、花時雨が降り注ぐ。
薄い雲から差し込む月明かりが、また美しい。
砕け散った刀の破片と、地に突き刺さった一振りの大太刀が、月夜の光に煌めいている。
そんな、いつ消えてもおかしくない儚い風景と同じで、俺が抱きかかえていた少女の命も、今まさに潰えようとしていた。
少女は────微笑んでいた。
もう開かなくなってしまった宝石のような蒼い瞳を閉じ、いつも見せる笑みを浮かべた少女を、俺の血で真っ赤に染めていく。
切り飛ばされた俺の左腕からは冗談のような大量の血が溢れ、傷ついた蒼い瞳から紅い涙が溢れ出る。
────泣かないで。
少女は頬を伝う紅い涙に手を添える。
白くて艶やかな指は、人形のように冷たい。
────その瞳、とっても良く似合っているよ……
そんなことない。
これはお前にしか似合わない。
悲しみで震える身体から、その言葉が出ない。
────キミが生き残ってくれて、本当に良かった……
頬に寄り添っていた指が、桜の花びらのように崩れ落ちた。
みっともない男の泣きじゃくる声が、夜空に向かって木霊した。
数十年分の涙を、花時雨が洗い流していく。
その日────俺の復讐は終わりを告げた────
あれから────何年経っただろう……
ここは、少し肌寒い四月の風が吹く、どこまでも続く荒野。
アメリカテキサス州────広大なアメリカ南部にある、メキシコとの国境沿い。
タンブルヴィート転がる、都市部を繋ぐハイウェイから外れた何もない場所……そこにポツリと佇む廃墟に俺は一人で寝泊まりしていた。
生きる理由なんて何も無い。
死んでないから生きているだけの堕落しきった日々。
捨てられたボロい家具と剥き出しの内壁。かつては誰かが住んでいたであろうひび割れたコンクリートの二階建て。もちろん電気や水道なんて通ってないが、流れ者である俺には雨さえ凌げれば正直どこでもよかった。
ライフラインなど皆無なこの場所を唯一照らす日光は、割れた窓ガラスから直接差し込んでくる始末。枠組みだけ残った十字影の着いたその場所には、何故か一人の男が立っていた。
「隻腕隻眼……聞いていた情報とだいぶ違うが、君が本当にフォルテ・S・エルフィーか?」
紺色スーツを着た男性。年齢は四十代くらいだろうか……
普段なら都市部から離れたこんな僻地に、人なんて訪れるはずがないのだが……六畳くらいのボロ部屋には所狭しと人、人、人。
さらに────全員が完全武装していた。
そのスーツ姿の男一人を除いて。
浅い眠りについていた俺が襲撃に気づいた時には、既に数十人の兵士がこの廃墟を取り囲んでいた。
かなり手慣れた様子で内部に突入してきたそいつらを、なんとか十人ほど倒したが、結局数には勝てず、今は埃っぽい地面に組み伏せらた俺こと「フォルテ・S・エルフィー」は、武装した男達に半円状に囲まれていた。
手には愛銃と、腰には太刀「勢州桑名住村正」が装備してはいるが、これでは指一本動かすことさえできない。
せめて、もう片腕があれば……!
「何故、その眼を使わなかった?それがあれば、勝負は五分だったと思うが?」
左眼の上、縦に切り裂かれた傷の入った俺の顔をスーツの男が見下ろす。
「そんなことてめぇに関係ねーだろッ!」
あんな魔眼……二度と使ってやるものか……
大切な人達を見殺してきた、あんな力なんか……
「つーかてめぇは誰だ!?なんで俺のことを知っているッ……!」
四人がかりで抑え込まれまま、身動きのとれた右眼だけを動かし、この場で唯一武装していなかったその紺色スーツ姿の初老の男を睨め上げる。
短く刈り込んだ白髪の白人。この場で唯一武装していないにもかかわらず、不思議とここにいる誰よりも威圧感を放っているように感じた。
「君は有名人だからな。確か……月下の鬼人だったか?」
「……」
月下の鬼人。ここ数年間で国問わず噂になっている都市伝説のことだ。
月夜に現れるという悪人を滅する鬼……と言われてはいるものの、人々はその正体を明確には理解していない。
例えるなら、切り裂きジャック的な噂程度の扱いだ。本当に存在するのかすら、怪しい存在だ。
「あれは君なんだろう?」
黙り込む俺の真ん前まで近寄ってきた白人男性。
それに対し、四人がかりで俺のことを抑え込んでいた特殊部隊の内の一人が声を張り上げた。
「危険ですGeneral!!」
ジェネラルと呼ばれた白人男性は、忠告などお構いなしに俺のすぐそばにしゃがみ込んだ。
右腕を前に突き出せば簡単に届く距離────だが四人に抑え込まれた今の状況では、腕どころか髪の毛一本すら動かすことが出来なかった。
「で、どうなのだ?フォルテ・S・エルフィー?」
「世間の評判なんて知ったことかッ……!あと俺の質問に答えろよジジイッ!!」
噛みつくようにそう告げた俺に、スーツの男はムッとした表情を浮かべる。
「わ、私はまだ四十歳だ。数十歳も年上の君に、ジジイ呼ばわれする筋合いはないのだが……」
コイツ……さっきの眼のことと言い、歳のことと言い、何故そこまで俺のことを知っているッ……!
睨み上げた視線にスーツの男は軽く咳ばらいを挟んでから、改まった様子で口を開いた。
「私は、アメリカ合衆国大統領ガブリエル・ベアードだ。フォルテ・S・エルフィー、君に頼みたいことがあってきた」
白人男性はそれにニッコリと笑う。
「大統領だと……?お前が……?」
恐怖、プレッシャーなどを経験したことがないようなその余裕の表情が、逆にこちらを皮肉っているかのように見えて俺の精神を逆撫でする。
「実は、君にある部隊の指揮を取って欲しくて、わざわざ私自ら勧誘に来たのだ……どうか、引き受けてはくれないか?」
俺の眼前に手を差し伸べたベアード。
何言ってるんだ……コイツは……?
「おいおい、頼み方をママに教わらなかったのか?この状況下で、ハイ喜んで……なんて俺が言うと思ってたなら、てめぇの頭の中はお花畑だなベアード。そもそもお前が本物かどうかも確証が無いってのに、素直に頷くわけがねーだろバーカ」
半笑いで吐き捨てた俺は、顔を背ける。
そんな訳の分からん部隊の為だけに、ワシントンから車で一日、チャーター機でも三時間以上かかるこんな片田舎に、わざわざ大統領自ら勧誘に来るとも思えないし、そもそもなんで俺なのか理解ができない。
「……だろうな、君ならそう言うと私は思っていた……だから、言い方を変えよう……」
ベアードがポケットから黒いベルトのような物を取り出し────
一部お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、五章(上)という部分については後々説明させていただきます。
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