表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》
155/361

暁に染まる巨人《ダイド イン ザ ダウン》16

 怒りによって我を忘れたチャップリンにとって、この研究所の存在はもうどうでもいいらしい。


「クソ……戦うしかないのか?」


「でもでも、こんなデカブツどうやって相手するのさ!?ロナちゃんの単発(スラッグ)弾でも傷一つ付かなかったのに……?」


 俺の呟きにロナが即座に異議を唱えた。

 勝算が無い……わけではない。要はグリーズの肩に装備されたガラスケースを叩き割り、内部の神器を取り戻すことさえできれば理論上は戦闘騎兵の動きを封じることができるはず。

 それが()()()()できる方法を俺は持っている……問題は、あくまでそれが()()だけしかできないということだ。両側叩き割ることが出来なきゃ意味がないってのに片側だけじゃあ……


「片側だけでも神器を回収できれば、勝機はあるかもしれないわ……」


「え?」


 突然セイナの発したその言葉に、俺とロナは眼を丸くした。


「あのガラスケース……なんであんな硬いんだろうって思ってずっと視ていたけど、どうやら神器の力を動力とは別に、グリーズ全体の防壁としても使っているみたいなの……」


「どうしてそんなことが分かるんだ……?」


「上手く説明できないけど……何となく、何となく神器の力がグリーズの外部を覆っているように感じるの……絶対、とはアタシも断言することができないけど……」


 あくまでそう感じたらしいセイナは、若干自信無さげに呟いて顔を伏せる。

 確信が無い以上、もし間違っていればここにいる誰かが死ぬ可能性は十分あり得る。ましてや科学的根拠のないオカルトチックな話しだ。そういう態度になるのも無理はないが……


「どうせ戦うしかないなら……」


「セイナの言う通り、まずは片側だけの破壊に専念しよう……神器については天才のロナちゃんよりも、セイナの方が信用できるしね!」


 俺とロナは特に反論することも無く、俯いたセイナにそう告げた。


「……あ、ありがとう……」


 もっと反論されるとでも思っていたのか、大きな瞳をパチパチ瞬かせながら、少しだけ照れくさそうにセイナはそう告げた。その態度……なんかこっちまで恥ずかしくなっちまうな……

 ともあれ勝機がゼロに等しい以上、勘のようなものとはいえ、藁にもすがりたい気持ちの俺達にとってその言葉は十分すぎる希望だった。

 迎撃に備える俺達の前、両脚を拘束されていた隕石の糸(ミーティアスレッド)を引き千切り、敵味方関係無しに破壊のみをもたらす暴風雨(サイクロン)と化したグリーズが、再びの四足歩行の跳躍姿勢に入る。


「来るぞ!!」


 突っ込んできたグリーズを俺とセイナがそれぞれ左右に躱す。

 戦うと決めたとはいえ、流石に真っ向勝負をする気はサラサラない。トレーラーを薙ぎ払った攻撃の正体も判別できていない以上、迂闊に近づくことのできない俺達を執拗(しつよう)に追いかけてくるチャップリン。


「うわ~!!こっち来たぁ!!」


 背中のロナが大声で叫んだ。左に避けたセイナには目もくれず、右に避けた俺達に狙いを絞ったグリーズが肉薄してくる。アメリカ二人組のヘイト値の方が圧倒的にセイナよりも勝っていることは、まあ分からなくもないんだが……


「お前はアイツになにしたんだぁ!?」


 地下でチャップリンが話していたロナへの恨み節を思い出し、脱兎のごとく走り回る俺は声を上擦らせてロナに訊ねた。


「別に!!アイツいっつも脂汗で臭いからホワイトハウスで会っても軽蔑の眼差しを向けたり、会議も仕事で忙しくてすっぽしかしたり、別に大したことは────」


「もういい聞いた俺が間違ってた!!」


 FBIと色々あったとはいえ、ロナは役職の関係から顔を合わせなければならず、ストレスが溜まるのはよく分かる。連中を酷く恨んでいることも。

 まあそれはさておき、じゃあなんで俺のベットや下着類に関しては「汗の匂い……クンカクンカ」とか言いながらよだれ垂らして嗅いだり、どんなに面倒な仕事があっても、電車や飛行機の交通機関、ガス電気のライフラインの一部を止めてでも俺との約束は絶対守ろうとするんだよ……俺の汗の臭いも決していい香りとは言えないと思うし……仕事が忙しいなら遅れるって言ってくれればいいのに……

 平らで塀に囲われたフィールド内をジグザグに逃げながら、グリーズが繰り出す腕を振り回す攻撃を何とか躱していく俺は、こんな大きな怪物に追いかけまわされるのは生まれて初めで、トムとジェリーにでもなった気分だった。コメディ感は皆無だけどな。


 バァァァァン!!バァァァァン!!


 二発の銃声が響き、グリーズの背中に着弾する。左から背後に回っていたセイナの銃弾だ。

 鋼鉄の巨人にとっては小石が当たった程度のダメージだったが、衝撃センサーに反応したグリーズが僅かながら動きを止めた。


「ダーリン!!あとは大丈夫!!」


「お、おい!?」


 その隙にロナが俺の背から空中に跳躍し、羽織っていたICコートの内側から取り出したクナイ式ナイフを、グリーズの左腕関節部分の引っかかりに放り投げた。


「フッ!!」


 突き立てられたナイフに繋がっていた隕石の糸(ミーティアスレッド)で、空中に躍り出た野戦服姿のロナは、両手に持っていたベネリM4を連射させる。

 単発(スラッグ)弾がグリーズの左肩のガラスケース、ロナがさっき当てた位置目掛けて強烈な衝撃を浴びせていく。


『このッ!!』


 ガラスに傷が入らないとはいえ、流石のチャップリンも嫌がるような声を上げながら、グリーズの腕を振り回した。


「よっと……!」


 一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)で素早くロナは銀髪ツインテを羽根のようにはためかせながら、さっきとは別の軍用トレーラーの陰へと転がり込んだ。

 なるほど……さっきの閉所空間と違ってこれだけ広ければ、例え走ることはできないロナでも逃げることはそう難しくないらしい。そしてこの配置……正面は俺、左にはロナ、背後はセイナと上手く三点に散る配置になっている。グリーズは図体がでかいが決して素早いわけではない、これなら多少隙が生まれるはずだ。

 両手がようやく空いた俺がハンドガンと小太刀を構えた先────グリーズは四足歩行の姿勢のまま、ロナの逃げたトレーラーの方向を凝視していた。その、カメラにもなっているらしい黄色い一つ目が、暗がりの中で瞬きのような点滅を開始する。


『ちょこまかとウザいハエ共がぁ……!!』


 外部スピーカーの音声を切り忘れているらしいチャップリンが苛立ちを露わにそう告げる間も、その点滅は止まらない……それどころか光の瞬く間隔がどんどん短くなっていく────まさか……あれは!?


「ロナ!!避けろ!!」


 俺の直感が危険信号を発し、つけていたインカム越しではなく直接トレーラーの死角にいるはずのロナに向けて叫んだ。


『吹き飛べぇぇぇぇ!!』


 一つ目の煌めきが頂点に達した瞬間、トレーラーに一本の光の矢が放たれる。

 銃弾よりも速いスピードで軍用トレーラーに光が差し、濃緑色(のうりょくしょく)のボディを赤黒く焼け溶かした。グリーズが一つ目から放ったのはさっきのレーザービームだった。その熱量に焼かれた軍用トレーラーは、ガソリンタンクに引火して大爆発を起こす。


ドガァァァァァァン!!


「ロナ!?ロナ!!クソッ……!!」


 夜闇に昇る火柱と凄まじい爆風の中、耳に付けたインカムに呼びかけたが応答はない。あれくらいの爆発で死ぬとは思えないが……怪我を負っていたせいで逃げ遅れたのかもしれない……


『この!!』


 セイナの声と銃声がインカムとグリーズの背後から同時に聞こえた。


「セイナ待て!!」


 俺の制止を振り切って突進するセイナに、グリーズが腕を振り落とす。

 大地が揺れる程の衝撃で土の地面にめり込む右腕を、セイナはくるりと身体を捻って躱してグリーズの足元へと滑り込んだ。そのまま巨大な両脚の間を潜り抜けながら、さらに銃弾を叩き込んでいく。デカい図体で中~遠距離は攻撃範囲が広い分、近距離は攻撃しずらいグリーズの弱点……槍使いであるセイナが熟知している嫌な距離を保ちつつ、しつこく右腕上のガラスケースを攻撃していく。


『小賢しい!!』


 右往左往(うおうさおう)していたグリーズが右手を真下に着いて両脚をY(ワイ)字に跳ね上げた。その左脚を上から下に斜めに振り落とし、その遠心力と腰の回転を利用しながら右脚の蹴りへとスイッチしていく……これは、ブレイクダンスのトーマスフレア……!獣のような野性的動きからの突然繰り出された曲芸的(アクロバティック)な範囲攻撃に、不意を突かれたセイナは堪らず空中へと逃げてしまう。


「……はっ!?」


 グリーズが空中に逃れたセイナに向けて横なぎの蹴りを放つ!

 勢いの乗った(おぞ)ましい一撃を前に、セイナは持っていたグングニルを構えるが、グリーズにとってそんな抵抗は無に等しい……


「……グッ!!」


 俺は右眼を発動させて駆け出し、グリーズの蹴りとセイナの間に割って入った。構えた小太刀の上から全身の骨が軋む、電車に追突されたような衝撃が襲い掛かる。


「……フォルテッ!」


「早く行けッ!!」


「ッ……!」


 数瞬だけ勢いを殺した隙にセイナが急いで安全な場所まで距離を取ったが、地に足を突いていない状態ではどれだけ身体を強化したところで、鋼鉄の巨人の攻撃を防ぎきることはできない……


『邪魔をするなァァァァ!!!!』


 チャップリンの咆哮と共に薙ぎ払われた蹴りに、俺は身体は真横に吹っ飛ばされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ