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SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
Prologue
14/361

手紙

「ここは俺が食い止めるからお前たちは先に脱出しろ」


 建物が大きく揺れ、崩れていく中、一番最後尾を走っていた隊員が一人だけ足を止めて言った。


「何言ってんだ!お前一人だけ置いていけるか!」


 俺は止まった隊員に気づいて立ち止まりながら叫んだ。先頭である俺に合わせて後ろを走っていた隊員達も同様に足を止めて振り返る。


「このままじゃ追っ手(ヤツ)に追いつかれて足止め食らっちまったら、全員建物の下敷きになっちまう。隊長も分かってんだろ?一人が囮になって追っ手(ヤツ)を足止めする必要があることくらい」


「だからって、それをお前がする必要なんて……だったら俺が……」


 徐々に崩れていく建物、いつ倒壊してもおかしくない一分一秒を争うこの状況で、俺が隊員を説得しようとした途端


 ドーンッ!!


 大きな音を立てながら近くにあった建物の柱が爆発し、辺り一面が火の海と化す。


「あるのさ、副隊長である俺がここで足止めするのが他のヤツより一番時間を稼げるからな……それに」


 崩れた柱が俺たちと副隊長の間に倒れてきて、互いの姿が確認できなくなる。


「この部隊を指揮できるのはあんたしかいねえよ、フォルテ」


 それを最後に柱の向こうから副隊長の声を聞くことはなかった。


「全隊……ここから全速力で離脱する……」


 俺は喉から絞るように声を出し、火の海の中、他の隊員達と共に建物の出口を目指して全速力で走った。

 建物が倒壊したのは俺たちが脱出してから数秒のことだった。



 ピッピッピッピッ

 知らない天井の下でベッドに横たわっていた俺は目を覚ました。

 部屋全体が真っ白で、久々に目を開けた気がする俺には眩しすぎるくらい明るい部屋だった。

 部屋の中には俺以外に誰もおらず、横に置いてあった心電図から俺の心臓の音だけが一定間隔で部屋に響いていた。

「うッ……」

 上半身をベッドから起こそうとすると体中に痛みが走って俺は小さく呻き声を上げた。痛みに耐えながらなんとか身体を起こし、自分の身体の状態を確認する。口には酸素マスク、左腕の義手は外され、右腕には管が通っており、身体の至るところに包帯が巻き付けてあった。

 ここはどこかのICU(集中治療室)だろうか。俺は覚醒したばかりの頭でぼんやりとそう思った。

 だがなぜ、俺はこんなところにいるんだろうか?何をしていたんだっけ?

 俺は自分がどこで何をしていたのか順に思い出そうとする。最初は確か変な部隊に拉致されて、そのあとエリザベス3世に会って、それから……そうだ!ケンブリッジ大学でテロ事件が起きたからそれを解決しに行って、そのあとに黒幕のやつを捕まえに行って……爆破されて……

 記憶を思い出していくたびに、俺は青白くなっていた顔をさらに青白くさせ、自分の身体を改めてもう一度見た。右腕、左腕、右足、左足、そして頭と順番に動かしたり、触ったりして確認していく。

 良かった。左腕と左目が無いだけで他はいつも通りだ……

 五体満足ならぬ、3.5体満足で俺は安堵し、息を吐きながらベッドに倒れこんだ。勢いよく倒れたせいで治りきっていない傷に響いて再び呻き声を上げていると

「気がつきましたか」

 部屋の扉を開けながら誰か入ってきて、ベッドで横になっていた俺に声をかけた。頭だけベッドから起こして俺は部屋に入ってきた人物を確認した。

 オールバックの短髪黒髪に右目に片眼鏡をかけ、執事服を着た全体的にスラッとした男。エリザベス3世の側近を務めているセバスチャンだった。

「具合の方はどうですか?」

 セバスはピシッとした姿勢を崩さずに俺に聞いてきた。

「まあ、全体的にまだ気だるさを感じるが問題は無いと思う。俺はどれくらい寝ていたんだ?」

「ケンブリッジ大学襲撃事件から一週間です」

「一週間……」

 てっきり二日三日くらいだと思っていたが、一週間寝込んでいたというセバスの言葉に俺はゾッとした。

 驚きを隠せず思わず聞き返した俺にセバスは「はい」と肯定し、電子デバイスに目を通しながら、この一週間の間、俺がどんな状態だったかを教えてくれた。

「はい、爆発によって10m~20m程吹っ飛ばされたフォルテさんは、全身強打による肩や肘などを打撲及び、ひびなどの骨折が数カ所。あばら骨3本骨折。両鼓膜の損傷。なかでも特にひどかったのは背中の損傷です。爆風によって背中はレベルⅡ~レベルⅢの火傷や鉄片が多数カ所に深く刺さり大きく損傷していました。そこで、こちらのICU(集中治療室)に運び、我々の医療技術だけでなく、治癒魔術なども同時に使用して最大限の治療はしました。一命は取り留めることができましたが、もしかしたら背中だけは(あと)が残ってしまうかもしれません」

「そうか……」

 最近は、魔術を一般生活で使うのは当たり前になってきてはいるが、それでも使われているのは精々、術式の書かれた紙キレから火を簡単に起こしたり、水を生成したりと、ホントに簡易的な魔術ばかりである。だが、一般生活以外の場所では、もっと高度な魔術を扱っているところはある。例えば軍隊はその一つでもある。元々魔術は一般に知られていなかった軍事技術の1つで、アメリカ、ドイツ、旧ソ連、日本など様々な国でその研究が進められていたのだ。実際に科学と魔術の併用装備や魔術による攻撃部隊など導入されたものも数多くあり、2000年初期には一般人にその技術が公開されたことによって今もなお様々な進化を続けている。そんな魔術の中にはこんなものもあったのだ。

「治癒魔術」これは対象者の免疫力や傷に対する回復力を上げることができる技術なのだが、治癒魔術の魔術使用者、及び治癒魔術用の護符の近くにいる人限定で、尚且つ動いていない相手にしか使えないというデメリットがあり、さらに術の適性を持った人間が極端に少なく、護符一個作るのに莫大な資金がかかるということで戦場にはあまり普及されていなかった。だが、その技術が民間に下ってからは使用条件こそ変わらないものの、技術が進歩したことで護符を作るのに必要な費用の方は金持ちがギリギリ買えるといった具合まで落ち着いた。それによって大型な医療センターなどに治癒魔術の起動できる護符が配備されているのは最近では珍しくなくなってきている。おそらくこの部屋の中のどこかにその治癒魔術の護符のようなものがあるのだろう。

 背中に(あと)が残ってしまうのは少々残念ではあるが、医療技術と治癒魔術のおかげで無理な手術にも耐えることができ、怪我自体もほとんどが治っていたので良しとするか。

 まあ、命あっての物種というもいうし、死ななくて良かった良かった。

 などと呑気に考えていた俺は一番大事なことを思い出した。

「そうだセバスッ!!俺の庇った男の子二人はどうなった!?」

 大事なことだった。俺の怪我とか傷が残るとかマジでそんなことどうでもいいくらい大事なことだった。

 俺は傷に響くことなど気にせずにベッドから勢いよく飛び起きてセバスに聞いた。

「それが……」

 セバスが下を向いて言葉を詰まらせた。眉にしわを寄せ、難しそうな顔をしたセバスを見た俺は愕然とした。

 嘘だろ……こんなに身体を張って、最善の限りを尽くしたのに……俺はあの二人を助けることができなかったのか……

「二人ともぴんぴんしてます」

「へっ?」

 セバスの思いもしない言葉に俺は目が点になった。

「二人の兄弟の男の子達は近距離での爆発に巻き込まれながらもほぼ無傷で救出、そのあと一応精密検査にかけましたが、骨や内臓、脳などに異常個所はありませんでした。次の日には病院を退院しましたよ」

 セバスは俺の傷と同様に淡々と教えてくれた。

「なんだよ……良かった……二人とも無事か……」

 俺は兄弟だった男の子たちの無事に安堵し、起こしていた身体の力が抜けて再びベッドに倒れこんだ。

「はい、フォルテさんが二人の分まで怪我を負ってくれたおかげです」

 セバスはにっこりと笑いながら俺に言ってきた。そんなセバスに俺は首だけベッドから起こして

「つーかセバス、なんで下なんか向いて意味深な発言すんだよ……ビビらせやがって……」

 俺がジト目で睨みながらそう言うと、セバスはわざとらしくキョトンとした顔をする。

「何のことですか?私はただ、このデバイスの文字が読みにくくて顔を近づけていただけですよ?」

 と右手で電子デバイスをヒラヒラとさせながら、俺の反応を見て楽しんでいたのかニヤニヤと笑ってみせた。

 俺は「その片眼鏡は何のためにあるんだよ……」と突っ込みを入れながら起こしていた首をベッドに戻すと、セバスが「そう言えば……」などと呟きながら、ポケットから封筒を取り出すと俺の方にシュッと投げてきた。

「なんだこれ?」

 俺はその封筒を仰向けに寝転んだまま右手でキャッチし、セバスに聞いた。

「開けてみてください」

 セバスに言われて中身を確認してみると、何やら二つの手紙が出てきた。「お兄さんへ」と子供が一生懸命書いた文字に目が留まる。これはまさか……

 俺はセバスの方をちらりと見て「ここで読んでも?」と目配せすると、セバスは無言で頷いてきたので手紙を開く。

『僕と弟を助けてくれてありがとう。』

『お兄さんも早く元気になってね。』

 片方の手紙には、二人の子供の名前と共に不慣れながら一生懸命書いたという気持ちが伝わる子供の字でそう書いてあった。もう片方の手紙は達筆な字で両親と思しき人物からの感謝の言葉が(つづ)られていた。

「フォルテさんが救ってくれた兄弟とその親御さんが、ぜひお礼が言いたいと警察に連絡があったのです。ですが、このよう(意識不明)な状態だったので面会は断らせて頂いたのですが、どうしてもお礼が言いたいと、ご家族で手紙を書いてくださったそうです」

「……」

 俺はセバスの話を聞きながら二つの手紙を見つめていた。スマートフォンのような電子デバイスが当たり前のこの時代で、見ず知らずの俺に手紙を書いてまでお礼を言ってきた家族の思いに感銘を受けていた。

 背中に(あと)が残るのも悪くねえな……

 と、思いながら、しばらく俺は二つの手紙を無言で眺めていた。

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