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SEVEN TRIGGER  作者: 匿名BB
赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》
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魔術弾《マジックブレット》1

「────あちぃ……」


 コンテナの裏でHK45を構えた俺は、突入するタイミングを伺っていた。

 アメリカで繰り広げた激戦から約一か月、六月の日本は梅雨の時期ということもあってジメジメしてて蒸し暑い。にも関わらず、今の自分の格好は暗闇に溶け込むような真っ黒な長袖長ズボンの戦闘服、その上からロングコート「八咫烏(ヤタガラス)」を羽織るという秋どころか冬でも活動できそうな程に着込んでいた。

 ────夜だったのが唯一の救いだな……

 コンテナ裏とは逆から吹き付けてくる海風、若干べたつきもある気がするが……掻いた汗が蒸発する気化熱のおかげで、多少は涼しいが────

 ────あれ?

 汗臭くないかと鼻を少し(すす)った俺の嗅覚に、海風に乗ったほのかな甘い香りが流れ込んできた。


「ちょっとフォルテ、アンタまた(たる)んでるんじゃない?」


 香りの先、俺の隣でM1911を改造したコルト・カスタムを構えた少女がこちらをキロッと睨み上げていた。

 黄金色の長いポニーテールを腰まで垂らした金髪碧眼の少女。肌はきめ細かな色白で、顔はお人形さんのように可愛く整っている。体型は、178㎝の俺が見下ろすくらい()っちゃく小柄。腕や脚は細く引き締まり、胸も小さいながらも性格と同じでツンッ!と僅かな膨らみを見せていた。


「大丈夫だよセイナ、現にお前に言われた通り、こんなクソ暑い中ちゃんと戦闘服着てきただろ?」


 見上げてきた大きなブルーサファイアの瞳を見下ろしながら俺は肩を(すく)めた。

 セイナ・A・アシュライズ。数か月前から神器捜索と彼女の父、イギリス皇帝陛下の捜索で行動を共にしているパートナーだが、アメリカでの事件以来、やけに俺のことを調教、調教、と言いながら指導しようとしてくる迷惑な奴だ。


「服装が良くても、中身が弛んでいたら同じよ!もうそろそろ連中が来る頃なんだから気を引き締めなさい」


 一応、隠密作戦中なので、命一杯背伸びしたセイナが俺の耳元に顔を近づけて小声でそう呟く。

 今回の作戦は、俺達の今いる東京都港区、そこにある人口島の一つのコンテナ街で行われるという武器密輸の闇取引現場を抑えるといったものだ。以前、新宿のヤクザ狩りの時と同じ、警察からの下請け仕事なのだが……「その程度なら別にこんな重武装する必要ないだろ?」と言うと「もしものことがあったらどうするのよ!!」と鬼の形相で突か掛かってきたセイナのせいで、こんな特殊部隊みたいな恰好をしているのだが……そういうセイナの恰好はというと、小さな赤いリボンのついた白いブラウスに黒いプリーツスカート、その下に黒のハイカットのニーソックスといったいつもの可愛い私服姿。「これは戦闘用だからいいの!」と一言で俺の指摘は片付けられたのだが、ちょっと理不尽すぎませんかね?


「聞いてるの?」


「……ッ!」


 そんなことを考えていたせいで少しボケッとしてた俺の肩を引っ張っぱることで、さらに耳元まで顔を近づいてきたセイナに思わず息を呑む。

 ブラウスの首元、そこに流れる少量の汗で色っぽく張り付いていた髪の生え際部分が目の前まで迫る。

 さっき感じた甘い香水と女性フェロモンの入り混じった匂いが俺の粘膜をさらに刺激した。

 (うなじ)は生物的にも匂いが強い部分、さらに俺は()()()()()()()()()関係で鼻と耳が他の人よりも効く。

 そのおかげで気づいたのだが……セイナ、お前香水変えたのか?

 いつもの水仙(すいせん)のキリッとした香りではなく────これはローズか?

 ローズのフローラルさと甘い香り、大人っぽい感じだが。セイナがつけていると子供が大人の真似をしてちょっぴり背伸びしているような感じが出て、どこか愛くるしく見える。

 普段の俺なら匂いが強すぎて気分が悪くなるところだが、不思議にもセイナから漂うその香りには嫌悪感を全く感じない。いや、寧ろ足りないくらいかも知れない……と、無意識にクンクンやりかけていた俺はハッとした。

 ────こんな時に何考えてんだ俺は!?


「き、聞いてる!てかちけぇよセイナ!」


 一瞬よぎった(よこしま)な思いと一緒に、セイナを優しくも俺は両手で遠ざける。

 顔が赤くなったことがバレないように海の方────お台場の観覧車やその周りの建物が発するレインボーのイルミネーションの方に目を向けた。

 俺のおかしな挙動にセイナが「?」と猫のように首を傾げる。

 ────あーくそ……

 行動の一つ一つがいちいち可愛な奴だな……

 本人自体が可愛いことを自覚してないのか、無意識にやる小動物のような動作、それに加えてセイナは何故か俺に対して距離感が近い。毎回その可愛い顔を近づけられるこっちとしてはどうも落ち着かない……

 性格がキツイのと、体型さえもう少し良ければ完璧だったのに……天は二物を与えずってやつだな。

 と思ったが、いざセイナがボンッキュボンな体型だったとしたら────似合わな過ぎて思わず笑いそうになってしまう。

 口元が一瞬だけ緩んだかもしれないが、俺達を照らしているのはお台場のイルミネーションのみ、バレていないだろう。多分……

 でもなんでいつもの香水じゃなくて、違う香水なんかつけてきたんだろうか────?


『あーあー!聞っこえる?』


 装着していたインカムから元気いっぱいな声が響き、俺とセイナは同時に耳に手を当てた。


『目標のトラックが丁度いまそこのコンテナ街に入っていったよ~!』


「あぁ、こっちも視認したぞ、ロナ」


 インカム越しにしゃべるロナこと「ロナ・バーナード」の情報に耳を傾ける。

 16歳のセイナと同い年で尚且(なおか)つ昔の俺の部下でもあり、色々訳あって一か月前から雇っているロナは、今は別の場所で待機兼得意の情報収集で今回の武器密輸のターゲットである業者の動きをチェックしていた。ちなみにお客の方はもう俺達のすぐ近く、コンテナを挟んだ向こう側にまで来ていた。


 コンテナが周りの視界を遮るようにして()()()に積まれた広場の中央、何人かアサルトライフルで装備したボディーガードを引きつれ、落ち着きなく片足を貧乏ゆすりさせながら煙草(タバコ)()かすスーツ姿の中年男。絵にかいたような日本人サラリーマンみたいな男だった……は、なんかの職員としか聞いてなかったが、まあイライラするのも分かるよ。業者が約束の時刻を三十分以上遅れているからな。俺も正直イライラしてる。

 ロナの情報通り現れた大型トラック一台がコンテナ同士の隙間から広場に入ってきて、先にいた男たちの前に停車してから一人の作業着姿の男が運転席から降りてきた。

 見たところ護衛はついていなかったが、ロナの情報では途中でトラックの内部を赤外線カメラで確認したところ、数人が内部にいることは分かっている。


「お、遅いぞ!こんなことバレたら私の立場が無いということを分かっているのか貴様!」


 降りてきた来た男にスーツの姿の中年男は激怒した。

 ネイティブな英語、普段から使っている感じだな……


「落ち着けって、道がちょっとばかし混んでたんだ」


 敵意は無いとばかりに両手をヒラヒラとふる作業着の男。

 俺達の場所から20mくらい離れていて、さらにスーツの中年男と被っているせいで容姿はハッキリ見えなかったが、こっちも随分ネイティブな英語だった。


「ブツはちゃんとあるのか?」


「もちろん、見るか?」


 作業着の男が親指で大型トラックのアルミ製箱形(バンボディ)の荷台を指すと、スーツの男が一人のボディーガードを指名して作業着の男の後ろにつけさせる。

 銃口を向けられた状態で作業着の男は荷台から一つのアタッシュケースを持ってきた。

 中には、ボディーガードに持たせていたタイプと同じアサルトライフルが入っていた。


「なんでわざわざ密輸してまで同じタイプの銃を欲しがるのかしら……」


 俺の隣で一緒に取引現場をのぞき見していたセイナが呟く。


「日本は一人が持てる銃の数は法律で決められている。多分それ以上の銃が欲しかったんだろう」


 金持ちが銃を大量に持ってテロでも起こされたらたまったもんじゃないしな。

 つーか、わざわざ密輸品なんか買わなくても、他に幾らでも抜け道はあるはずなのに……どうしてコイツはそこまでして大量の銃を欲しがっているのか?俺はそこが気になった。

 ────銃マニアって柄でもなさそうだし、なにか企んでいるのか?


「あれ、でもフォルテ……アンタ色んな銃をたくさん持ってなかったっけ?」


 勘の鋭いセイナが痛いとこをついてきた。


『それはフォルテが射撃場の営業許可を取ってるからだよ!日本で取得するのは結構面倒なんだけど、営業許可さえ取っちゃえば、幾らでも銃が持ち放題ってことなんだよ!』


 ロナの解説にセイナが「ふーん」と相槌を打つ。


『でもでも、ホントは営業許可を取ってても、実際に営業してないとね────』


「無駄話はそれまでだ。そろそろ行くぞ」


 余計なことまで言おうとしたロナを無理やり遮るようにそう言ってから、俺はコンテナ裏を飛び出した。

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