バイト
「毎日毎日毎日毎日嫌になっちゃうなー」
「しょーがないですよ、年末は毎年こんな感じじゃないですか」
「そうなんだけどさー、先々週から俺寝る時間ほとんどないんだけどー」
社長と正社員1名、バイト1名の清掃会社タスキン。
その正社員である山田さんは、文字通り命を削りながら床を削っている。
細長い身体つきで頰がこけているせいか、目の隈が濃くなるとなんか怖い。
「そういや村上君、もうすぐクリスマスだけどなにか予定あるのー?」
「昨日、彼女と別れたんで今のところないですね」
あゆみちゃんと過ごしたいとは思ってるけど。
「あれ、そーなん?てか1ヶ月くらい前にも別れたって言ってなかったっけー?」
「新しい彼女ですよ、もう元カノですけど」
「村上君は月が変わると彼女も変わるんだねー、羨ましい」
端から聞くとマジでクソ野郎なんだな、俺。
でも流石に月替わりって事はない、彼女がいない期間だってある。
「山田さんは奥さんも娘さんもいるじゃないですか、僕の方こそ山田さんが羨ましいですよ」
本当に心の底から羨ましい。
「まぁ、それなりに幸せなんだけどねー、たまーになんとなーく虚しくなるんだよねー」
「そんなもんですかね」
「あー、俺もなにか願いを叶えてもらいたいなー」
「なんですかそれ?」
「あれ、知らないー?LINKで願いを書いてアトラク=ナクアとかいう人に送ると、願いが叶うっていう噂」
LINKはチャット機能付きの通話アプリの事だ。
「知らないです」
「あれー?結構有名だと思うけどなー、社長も知ってたくらいだし」
「あの人は意外と世間の流行に敏感ですよ」
そして既に宝くじの1等当選という願いを送っているだろう、The 俗物。
「山田さんはどんな願いを叶えてもらいたいんですか?」
「んー、考えば沢山出てくるんだろうけどー、やっぱ宝くじの1等と前後賞当選かなー」
俗物が増えた。
「山田さん年末ビッグ買ったんですか?」
「もちろん。買わなきゃ確率は0、買えばどんなに低くても当たる確率はあるんだよ、村上君」
それ社長の受け売りじゃねーか。