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プロローグ

「この浮気者!」


 バチーンと気持ち良い音を立て、脳天まで突き抜ける衝撃。

 頬を打たれたと気付くと、ヒリヒリとした痛みが広がり始めた。


「クズだクズだとは聞いていたけど、こんなどうしようもないクズだとは思わなかった!」


 良くも悪くもない、平均的な見た目の女子大生にボロクソに言われる。

 そんな噂が流れているのは知っていたけど、面と向かって罵倒されると中々にくるものがある。

 まぁ、もう慣れたけど。


「これで何回目の浮気だと思ってるの⁉︎」

「んー、6回目?」

「10回目!」


 全然違った、桁違いだ。


「あたし達が付き合ってからまだ1ヶ月、たった1ヵ月の間に10回の浮気ってどういう事なの?」

「改めて考えると、とんでもねーなー」


 我ながらよく頑張ったと思う。


「それに同じ子ならともかく、全部違う子ってどういう事なの?」

「全部同じ子だったら良かったのか?」


 と、言った瞬間またビンタが飛んできたが今度は躱した。


「ふざけてんの⁉︎」


 夕方のファミレスの片隅で、お食事中の皆さんにリアルな修羅場を強制視聴。

 かれこれ1時間は続いているはずの泥沼恋愛に、視聴者は色んな意味でお腹いっぱいのはずだ。

 というか、そろそろ店員がブチ切れそうだ。


「ねぇ、聞いてるの⁉︎」

「聞いてるよ。それで結局何が言いたいんだ?」


 嘘だ。

 周りの目が気になって全く聞いていなかった。


「はぁ?やっぱり聞いてなかったでしょ。次に浮気したら本当に別れるって言ったの、わかった?」

「お前それ9回目の時にも言ってた気がするぞ。そんなに別れたくないんか、いくらなんでもプライドなさすぎっ⁉︎」


 クリスマスも近い12月のある日、記念すべき10回目の浮気がバレた俺は、ファミレスでビンタの代わりに水をぶっかけられ……


「なら今すぐ別れます」


 フラれた。



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