えっ?あんたも出来るの。
「エリック坊や…。」
「お前までそう呼ぶな!」
「いや…なんだか人の姿になるとさ。」
「なんだよ。」
「…幼く見えるのよね。」
「そうでしょう!!」
横から、自称幸福の女神様は力強く叫ぶと
「だから、人の姿より竜の姿のほうが、ぜっ~たいカッコいいのよ。だから人の姿だと…」
「坊や…になるのかよ。」
「そうなのよ。」
「わかるわ。自称幸福の女神様。」
「なぁ…それも」
「それも?」
「あぁ、俺のエリック坊やもだけど、自称幸福の女神ってのは、どうかと思うぞ。見てみろよ、リリアーヌを…。」
俯いて、足元の石を蹴る女神様の姿に…
「ご、ごめんなさい。」
「いいの。本当に私ってヘボな女神なんだから…」
「リ、リリアーヌ様!本当にごめんなさい。これからはリリアーヌ様って呼ぶから!ごめんなさい。」
「千愛姫ちゃん…」
異世界の処刑場なんて所に、飛ばされちゃったのは、考えればそれは私の運命だったんだよね。
当たりしかないはずのスクラッチの中に、処刑場行きがあったのも、それをひいたのも、この女神様のせいじゃないのに…失礼な言い方だったよね。
「リリアーヌ様」
「わ、私、必ず千愛姫ちゃんを幸せにするから、私のスクラッチくじは千愛姫を幸せにするためのものだから、必ず幸せに…」
そう言って、涙ぐむリリアーヌ様の手を握ると、リリアーヌ様も強く握り返して来られ、私たちは微笑みあった、そのとき、水を差すような声が
「じゃぁ俺もエリックと呼べ。」
「…いや…あんたはやっぱりエリック坊や…なんだよね。」
「はぁ~?!」
確かに…この男はいい男だと思う。金色の髪と澄んだ青い瞳は…王子様って感じだ。
まぁこの姿も、竜の姿も何となく憎らしくて癇にさわるのはどちらも同じなんだけど…でも竜の姿を見たからだろうか…獣医としての興味が抑えきれない。
上目づかいで、私をお姫様抱っこするこの男?いや竜を見た。
しかし…綺麗だよね、この人。
もしこの姿を最初に見れば…ときめいたと思う。
「また観察か?それとも…食ってもいいというお誘いか?」
そう言って、私を見た瞳は…竜の瞳だった。
あはは…乾いた私の笑い声に、この男も大きな声で笑うと
「俺はお前が気に入った。だから何れ食う。覚えておけ。」
いいえ…忘れます。
「ダメ!ダメっていってるでしょう!エリックぼう…や」
リリアーヌ様の声は、男の気迫の篭った目に尻つぼみになったが、リリアーヌ様は負けじと両手を握り締めると
「ダメだから、千愛姫ちゃんは幸せになるためにここに来たの。」
「俺に食われたら、幸せになれると思うが。」
「ムシャムシャと食べられて幸せなはずはないでしょう!肉も骨も…ムシャムシャなのよ!そんなことをしたら、この世界を…消しちゃうから!!!」
あぁ…そうだった。リリアーヌ様はまだ【食う】を理解していなかったんだ。まさか女神様に性教育は……ないわ…。
私を見る視線に気が付けば、どうやら男が私に説明しろと言っているようだ。
頭を小刻みに振り拒否すると、男は綺麗な顔を歪め、大きな溜め息をつくと
「なら、どうだ、リリアーヌ。この女が俺に食ってくださいとお願いしてきたら…というのは。」
はっ?なんで私があんたにお願いするの?そんなこと?はぁ~
「いいわ!そんなこと千愛姫ちゃんがお願いするはずないもの。」
…私の貞操をふたりで決められるとは…なんなのよ。一番は本人の気持ちでしょう?!
「大丈夫!千愛姫ちゃん。安心して、エリックぼ…、エリックに約束させたからね。」
「は、はい。」
「はぁ…じゃ、もういいか?ここを出るぞ。」
疲れたような男の声に、リリアーヌ様は突然両腕の袖を捲り上げた、でも男は慌ててその腕を押さえながら
「ま、待て!リリアーヌ!出来るようになったのか?力を加減できるようになったのか?」
硬い笑みを浮かべたリリアーヌ様は
「…もちろん…よ。」
と言われたが、【不安が一杯です。】と聞こえた。男にもそう聞こえたのだろう。
「いや…俺がやる。俺がここからみんなを出す。」
以外だった、この男は竜だというだけでも驚きだったのに、ここから脱出できるような事ができるとは…それって魔法みたいなことなのかなぁ。
「あんたも出来るの…その…力というか魔法みたいなものを?」
「あぁ…お前が封印の槍を抜いてくれたからな。」
そう言って、男は手のひらを広げた。
男の手のひらに、銀色に輝く丸い玉が浮かび…ハッとして男を見ると、男が笑ったような気がした途端、視界は銀色に包まれていった。