異世界って…侮れない。
食う…。
これがイケメンから言われたら…腰砕けになる可能性は大かもしれない。
でも相手は竜だよ。
いくら人間の男性にモ…モテなくても…竜はないわ!
「千愛姫ちゃんを食べたりしたら、わ、私が許さないんだから!」
自称幸福の女神様が言ってくれてる。そうよ。言って!言って!ないない…ありえないっつの!
「千愛姫ちゃんは、ほんの少し前に彼氏を男にとられちゃって、凄く傷ついてるのよ。そんな千愛姫ちゃんを食べたりしたら、エリック坊やだって許さないんだから!」
いや…そこまで言わなくても…
なんか…今…深~く傷ついたような気がする。
はぁ~
私の溜息が聞こえたのだろうか、竜は洞窟の奥の私をちらりと見て…。
そして、自分の足元で、顔を真っ赤にして叫ぶ自称幸運の女神を見て…。
竜は大きな声で笑いだし、洞窟の奥で不貞腐れて、胡座を組んでいた私に向かって言った。
《お前、惚れた男を取られたのか、それも男に…まぁお前のような逞しい女を手なづける男は、そうはいないだろうな。》
「・・・。」
ムカついていたけど、ムキになって言えばより虚しくなりそうで、だから、思い切り、竜に向かって下まぶたを引き下げ、赤い部分を出して侮蔑の意をあらわす身体表現をしてやった。要するに……あっかんべー…を。
だが、その行為は竜により一層笑いをもたらした。
「エリック坊や…?」
自称幸運の女神の訝しげな声に、竜はようやく、笑いを堪え
《チアキという異世界の女は…あそこにいるぞ。》
竜はそう言って、頭を洞窟の奥へと動かし、私を見てニヤリと笑ったように見えた。人間くさいその仕草は、より私をイラつかせ「千愛姫ちゃん?!いるの?そこにいるの~?」と心配する自称幸福の女神様の呼びかけに、返事をする気にもならなくて、その場で大の字なりながら、心の中で叫んでいた。
(は~い。男を男にとられた28歳の千愛姫はここにいますよ。)
虚しい。
どこが当たりしかないスクラッチなの。
はぁ~これなら公園のベンチで寝ていたほうが良かったよ。
目を瞑って、次に目を開けたら…あの公園だったらいいな。
目を開けたら、めちゃくちゃいい男が…
(良かった、ここにいたんですね。あなたを捜していたんです。)
なんて、言われて…
(どうして私を…捜していらしたの?)と、しおらしくいった私に、そのいい男は言うの。
(病院で働くあなたを見てから、忘れられなくて…いつか、お話してみたいと思っていたんです。そうしたら偶然…見てしまったんです。あの男があなたにあんなヒドイ事を言っているのを…)
(いいんです。私は人間としても、女としても、魅力がなかっただけのことです。)
(なにを!あなたほど素敵な女性はいない!)
そうして…そのいい男が私を抱きかかえて…もち、お姫様抱っこ!
(私と付き合ってください。)
うっとりとしていたところ、突然体が浮いた。
えっ、えええっ~!なんで…!
慌てて眼を開けると…逞しい腕にお姫様抱っこされている…あれっ?なに?この状態は…だって私は異世界の…処刑場で竜と…
「おまえ…あの状況下で寝るとは…すげぇ神経してんな。」
逞しい腕の持ち主は呆れたように、私に言った。
はっ?…逞しい腕を見つめていた視線を上にあげ、その腕と声の持ち主へと視線を動かすと
金色の髪に、澄んだ青い瞳の男性は、私を見てニヤリと笑った。
えっ?その笑いって…いやあり得ない。
あはは…と取り合えず笑った私の耳に、自称幸福の女神が
「エリックはその姿より、やっぱり竜の姿のほうがいいな。」
嘘…このいい男が…竜?!さっきの竜?!
異世界って…侮れない。