22:「可愛らしい仕草も、同性からみれば不快でしかないのです」
彼女は、その日も同じ席に座っていた。
雨がしとしとと降り続ける平日の午後。
制服のスカートの裾を湿らせ、足下に置かれたカバンとしずくの付いた傘、その上の小さな丸テーブルで肘をついて顎を乗せている彼女は、蜂蜜をたっぷり入れたカフェオレを一口。
そして笑顔とともに、ほっとため息。彼女は、甘い物が好きなのだ。
ジャズが満たされ、店内に流れるおだやかな時間に、彼女は髪を耳にかける。
ノートに向かう真剣な目、カリカリと走らせるシャーペンの芯、ときどき悩んで見上げる仕草、そしてまた一口。
ほのかに漂う白い湯気、香ばしい香りが閉じ込められたカップの中が空になる頃、彼女は勉強を終える。
足下の荷物にノートやシャーペンを入れた筆箱をしまって、もう一度確かめるようにカップに口を付けて傾ける。
揺れる髪、最後の一滴を飲めたのか飲めなかったのか、ふわりと一人小さく笑う彼女。しとしと降る雨を窓から見上げ、立ち上がると、カバンと傘を大切そうに持ってくる。そして、伝票を渡してきた。
彼女がお財布を持ってじっと見つめる金額の表示は、いつも変わらないはずなのに、真剣な目で一時停止。
そして、金額を確かめ、おずおずとお財布を開く。ここまで雨の音は聞こえない。
片手に持った傘の柄は手にかけられている。落ち着いたジャズが静かに流れていた。レシートを受け取ると、必ずお札の所へしまう彼女。雨の日はいつも傘を忘れそうになる彼女。晴れの日は、足下に置いたカバンを忘れそうになる彼女は、いつもお店に来ると、蜂蜜をたっぷり入れたカフェオレを注文し、同じ席に座り、まずは一口飲む。
そして笑顔とともに、ほっとため息。彼女は、甘い物が好きなのだ。