8話
作業に集中していたらもう日が暮れてきたな。
昼飯さえ食べる事を忘れていたぞ・・・。
うんうん、集中力も半端無いな~。
そういえばファルはまだ帰ってこないのかな?
仕事ってなにやっているんだろうな・・・。
仕事から帰ってきて夜ご飯を作るってのも大変だよなぁ。
よし!俺が作ってみるか!
材料はあるっぽいな・・・。
冷蔵庫・・・とまではいかないが、
魔石を利用した物の中に肉が沢山収納されていた。
しかし、肉か・・・
肉料理って焼肉かハンバーグ位しか作れないぞ・・・。
うーむ・・・。
ん?ちょっと待てよ・・・。
俺は肉にシステム解析した。
案の定肉にもステータスが割り振られている事が分かる。
なるほどな~・・・。
それじゃ数値を弄ってみるか!!
面白くなってきたぞ!
*****
「・・・ただいま」
「おかえり~ご飯できてるぞ~」
何故かその一言にファルは硬直し、顔が青ざめているような気がする。
「ど、どうした!?」
「・・・私のご飯美味しくない?」
搾り出すような声で呟くファル。
「へ?そんな訳無いだろう?」
「・・・本当に?」
「勿論!」
キッパリと言い切るとファルはやっとホッとした表情に戻る。
「・・・ごめんね。ありがとう。」
「あ、ああ!早く食べようぜ!俺の故郷の料理を再現してみたんだ」
「・・・うん」
そういうと俺と手を繋ぎながら食卓へ向かった。
「これは俺の故郷でハンバーグって言われてるものなんだ。
簡単に説明すると肉をミンチにして混ぜて焼くだけなんだけどさ」
「・・・美味しそう」
「はは!口に合うといいんだけどな」
「・・・!」
一口食べた瞬間クワッっと目を開き、凄い勢いで食べ始めた。
「う、うまいか?(味見したけど、滅茶苦茶旨かったもんな~・・・
素材がチート過ぎるしな。材料に使ったもの全ての鮮度、旨味をカンストまで上げて作ったからな~・・・)」
「ん~♪」
満面の笑みで答えてくれた。
くっ・・・可愛過ぎる。
反則だろそんな笑顔・・・!
そのあと、ファルは10kg程食べてやっと落ち着いた。
苦労してウスターソースまで作った甲斐があったな・・・!!
ん?もしかしてこれ商売に出来ないか・・・?
ハンバーグ屋・・・食品加工屋・・・調味料専門店・・・うーん・・・。
なんとか俺の能力がばれないで仕事って出来るもんかな?
いつまでもヒモでいたくないしなぁ・・・。
そんな事を考えていたら、ファルはお風呂に入りベッドで寝ていた。
あ、あれ?
今日は何にもないのか・・・?
仕事で疲れたんだよな、きっと・・・。
ホッとしたようなガッカリしたような複雑な気持ちを抱きつつ、
する事をして俺も寝ることにした。
朝。
俺が目を覚ました時には既にファルの姿が無かった。
朝食はしっかり用意されており、
俺へのメモが置いてあるだけだった。
その内容も、ご飯はしっかり食べる事と、
浮気をしないでとの非常に簡素な二言だけだった。
なんだろうファルの対応が急に変わったぞ・・・。
俺、何かやらかしたか・・・?
とりあえず用意された朝飯をモソモソと食べはじめた。
旨かったと思う、多分。
何かやらかしたんだろうな・・・。
・・・
・・
・
駄目だ!心当たりが多過ぎて分からない!!
むしろ全部か!?
はぁ・・・。
家に引き篭もってると精神的に落ち込む一方だな。
村の中でも散歩しよ・・・。
*****
町の中心にはコロシアムっぽい建物はあるけど、
その他の場所はTHE・田舎って感じだな。
木々がや田畑も多いし。
村の中を川が通っていたり、本当にのどかだな・・・。
とても住民がドラゴンだなんて信じられないな。
田畑があるって事は何かが育つんだよな。
肉もいいけど、野菜も食べたいな。
せっかく庭付きの家なんだから、何か育ててみるか!?
ここからだと何を育てているか分からないから、
もうちょっと近くで見てみるか。
畑に近づくと作業をしている女性の人と目があった。
グリーンの髪を束ねてポニーテイル、ファルと比べると少し小柄ではあるが、
溌剌とした印象を受け、外見だけ見るとファルの4、5歳上に見える。
しかし・・・ドラゴン族ってみんなでかいのか・・・?
「こ、こんにちは」
「キミがリョウ君だね」
「え!?なんで俺の名前を?」
「おかしなことを言う人なんだね~
貴方を知らない人なんて村には居ないよ?」
そういうとカラカラと笑い出した。
「そ、そうですか」
「ねえ、キミ愛人はいるの?」
「はぁ!?」
思わず声が裏返って不思議な声で答えてしまう。
「あはは、面白いねキミ」
「いきなり変な事を聞くからだろ・・・」
「・・・変?変かな~?子孫は沢山残さないとだし、普通だと思うけどなー人間は違うのかな?」
「あ、ああ・・・」
そういやこの世界の文化ってまだ調べてないな。
後で調べておこう。
「ねーねーそんな事よりあたしとか愛人にどう?」
そう言いながらジリジリと距離を詰めてくる。
しかも汗が服にシットリと染み込み、
体のラインが強調され非常に艶かしい。
「な、名前も知らないし、
どこの誰とも分からない奴とそういう関係になる訳にはいかないな!」
「あたしはライア!これでもう知り合いだね~折角だしうちでお茶でもしていこうよ!」
俺の腕にわざと胸を密着させる様に抱きついて来る。
「い、いや遠慮しておく」
そう言うと器用に抜け出し、急いで逃げ出した。
はは・・・ファルが言っていたのはこの事か・・・。
しかし、凄いな・・・本当に肉食系だな。
グイグイくるなぁ・・・。
ホントこんな俺のどこがいいんだかな?
・・・そしてここは何処だ・・・?
逃げるのに必死で帰り道が分からなくなったぞ・・・。
仕方が無い自宅へ帰れるスキルでも作るか・・・。
*****
結局家に着いたのは日が沈んでからだった。
どうやらファルはもう帰ってきているようだ。
・・・気まずい。
「た、ただいま~・・・」
「・・・おかえり」
「道に迷っちゃってさ・・はは」
「ふぅん・・・でも女の匂いがするね」
そういうと丁度ライアに抱きつかれた辺りの匂いを嗅ぎだした。
「!?」
暫くすると俯きながら俺でも驚く位の殺意を放ち始めた。
「・・・始末・・・しないと・・・」
そう呟きながら、物置から厳ついバトルアックスを取り出し、
ふらふらと何処かへ行こうとする。
「ファル!ちょっと落ち着こう?な?」
「・・・すぐに済むから、待ってて」
そう言いながらハイライトの消えた瞳の笑顔で答える。
「ファル!!」
余りにも痛々しい様子に思わず抱きしめる。
「どうしたの?」
「何も無かったから!たまたま話しかけられて、抱き疲れただけだからさ!」
「ほんとう?」
ハイライトの消えた瞳でジッと見つめる。
「ああ、本当だ」
視線を逸らさず、ジッと見つめていると、ファルの瞳に光が戻ってきた。
「・・・お風呂入ろう?」
そういうと有無を言わさず風呂場に連行され、仲良く二人で風呂に入った。
・・・抱き付かれた場所だけ執拗に洗われたのは言うまでもない・・・。
*****
ああ・・・朝か・・・。
・・・俺、いつ寝たっけ・・・?
“仲良く“お風呂に入って搾り取られて、
ベッドでも“仲良く”して搾り取られたからその時か・・・?
そういや、ベッド以外はノーカンなんだってさーハハッ!
1日3回って言っていたけどマジか・・・。
おかしいなベッドで7回された気がするんだけど?
ま、まあ、いいか・・・。
俺にたっぷりとマーキングと大量の痕を残して仕事に出かけていった。
全然聞いて無かったけど、ファルはどんな仕事してるんだろうな。
職業欄は村長の娘だったけど、
具体的なイメージが全然沸かないな。
こっそり覗きにいってみよう。
首筋を隠してからな・・・。
・・・よし行くか!
見晴らしもいいし久しく出番が無かった遠視でも使ってファルを見つけよう。
お、いたいた。
村の中心部にあるコロシアムの方に向かって歩いてるな。
場所さえ分かればどうにでもなる!
問題は村の女性に遭遇しないか心配だな・・・。
まさか全員が全員昨日みたいな肉食系じゃないとは思うけどさ・・・。
ファルにはこんなのどかな村で殺戮を繰り広げてもらいたくないぞ。
こんな時の為に隠密行動系のスキルも作るかなぁ・・・。
そんな事を思い、アルゴリズムを考えながらだらだら目的地に向かっていった。
勿論、周囲の警戒はしたまま。
完成したけど到着しちゃったな・・・帰り道に使うかな~。
さて、肝心のファルは何処にいるのかな?
お、いたいた。
戦士の風貌をした大勢の前で戦闘指導をしているのか?
ここからじゃ遠くて声は聞こえないのは残念だけど、
身振り手振りでなんとなく分かる。
ここの人達はさながらこの村の自警団・・・のようなものなのか?
それにしちゃ士気が低すぎる様な気がするけどな・・・?
欠伸している奴らがチラホラいるし、器用に立ちながら寝てる奴もいるわ
キョロキョロしている奴もいる。
話を聴いているのは前方の人達だけだな・・・。
やる気ないなーこいつら・・・。
確かにドラゴンってだけで強いから慢心するだろうとは思うけどさぁ・・・
これじゃあファルが報われないよな・・・。
そんな事を思いながら眺めていると俺の隠れている所に近くの人が話し始めた。
「おい、そろそろ抜けださねぇか?」
「zzzz・・・っっもうそんな時間か?」
「おめえまた寝てたのかよ!相変わらず器用だな」
「へへっまあな!」
「ほめてねぇよ!ほらさっさと消えるぞ!」
「おぅよ!」
そういうと二人組みは一目散に何処かへ行ってしまった。
そんなやり取りが随所で頻発したのだろう。
気が付くと全体の人数は1/3程度居なくなっているようだ。
戦闘指南が終わって組み手の段階になると、たらたらやる気無さそうに
適当にそれっぽい動きをしている連中だらけだった。
非常に散々な戦闘指導になってしまっている。
当然ファルも泣き出す一歩手前の涙目だった。
気丈に振舞っている姿は痛々しくもある。
なんでこんな事してるんだ・・・?
こんな無駄な事する意味無いだろう・・・。
そう思うと今夜は旨い物でも食べさせてあげよう
と思いながらこっそり帰路についた。