6話
・・・俺は生きているのか・・・?
ぼやける視界と脳に残る激痛の残滓と共になんとか覚醒する。
酷い目にあったよホント・・・。
この世界の説明文は致命的に説明が不足している!
スキルを取得するだけであんなに酷い激痛を味わうなんて聞いて無いぞ!!
ステータスだってカンストしてる状態でこの激痛なんだから、
何か一つ間違えたら脳ミソが弾け飛んで即死していたのか・・・?
恐ろしい世界だな・・・。
しかしあれからどれ位たったのだろうか・・・。
時計も無いし分からないな・・・。
額に乗っている布は冷たく保たれているから、
誰かが俺の看病をしてくれているようだけど。
部屋には誰もいないな・・・。
ファル・・・かな?
とりあえず手足が動く事を確認する為に、
体を起こし手足の感覚を確かめ始めた。
脳をやられて手足が動かないなんて良く聞くしな。
残りの人生寝たきりなんて真っ平御免だ!
若干の痺れはあるみたいだけど、支障は無さそうだな・・・。
これならその内回復しそうだな・・・。
かなり真剣に確認していた為、
水を汲みに出かけていたファルが戻った事に気が付かなかった。
ガシャン
ファルは手に持っていた水の瓶を取り落とし、俺に抱きついてくる。
「・・・良かった本当に良かった。
・・・もう目を覚まさないかと思った・・・」
「お、おぅ・・・もう大丈夫だからさ」
そう言ってもファルは離してくれなかった。
順調にシャツが冷たくなっていく事から彼女が泣いている事は分かる。
俺は心配させて申し訳ない気持ちから、
彼女が落ち着くまで頭を優しく撫でていた。
暫くすると、安心し切ってしまったのか安らかな寝息が聞こえ始めたので、
優しく抱擁を解きファルをベッドに寝かせると、俺もベッドに横になった。
「ありがとな・・・」
聞こえてないだろうけど、言っておきたかった。
そして今回の出来事を改めて考える。
確かにHPもMPも自動で回復する事は間違いないが、
それを上回るダメージを受ければ、痛いし死ぬよな。
魔法を使えない状況になったら回復すら出来ない。
外的要因ならオートカウンターでどうにかなるっぽいけどな・・・。
アイテムでどうにかするか・・・?
薬草作成とかポーション作成とかだろうな・・・。
どっちにしても材料が無いと何も出来ないな。
早いうちにどうにかしよう。
あとは状態異常には全く耐性がないんだよな・・・。
そう思うと、スキルリストから状態異常無効を取得しLv99まで上げた。
隣で涙の痕を残して安らかに眠るファルを見て、
絶対に死んでたまるかと思いながら眠りについた。
眠っている彼女と手を繋ぎながら。
朝、目が覚めると彼女は隣に居なかった。
昨日までの出来事が嘘の様に普通に朝ごはんを作っていた。
「逞しいな・・・」と思わず呟いちゃったけど、多分聞かれてないよな?
ただ、スキンシップが今までの1.5倍程度に増えているような気がする・・・。
しかも俺の分のカトラリー類が無かったのでファルに聞いたら、
料理を一口サイズに切って口元まで持ってきて「・・・あーん」してくれた。
至れり尽くせりだけど、これは恥ずかしい・・・!
ファルも顔が赤いぞ!?
無理しなくてもいいなだけどな!?
そう思いつつも、
わざわざ言葉に出して止めさせるような野暮な事はせずに朝食は美味しく完食した。
・・・まあ新婚って事になるし、いいって事にしとこう、うん。
そういえば結婚式ってしてないな。
ここではそういう風習はないのかな?
ボロが出そうだしあまり俺から言わない方がいいな。
・・・それに切実な問題として俺がお金を持っていないからな!!
この世界で流通しているのはゴールドらしいけど、
一度も手に入れたことがないしな・・・。
ヒモだしな!ハハッ!
はぁ・・・。
ファルは食器の片付けを手早くすまして、俺にマーキングしている。
・・・誰にも取られないって。
そう思いながら無言でファルの頭を撫でていた。
ファルにはまだ聞けて無いことがあるんだよな、
何日くらいぶっ倒れていたのか、
この世界の人間の寿命はどれ位か、意識を失う時に飲ませてくれたのは何か。
どう切り出したもんかな・・・。
何かを察知したのか、
ファルから「・・・どうしたの?」と尋ねてきた。
「あぁ、ちょっと聞きたい事があってさ」
「何?」
「えっと俺は何日位倒れていたんだ?」
「7日」
「そ、そうか」
1週間って所か、結構寝込んでたんだな。
「あと、人間の寿命ってどれ位なんだ?」
「・・・凄く短い」
まあ、ドラゴン族と比べたらなぁ・・・
前世でもどう頑張っても120歳が限界だったしな。
こんなスリリングな世界じゃ良くてその半分・・・
50,60まで生けれればいい所かなぁ。
「でも大丈夫。もうリョウは死なない」
「へ?」
死なないってどういう事だ・・・?
「リョウが死にそうな時に薬を飲ませたから」
「不老不死の薬!?」
そんなものがあるんだなぁ・・・。
流石ファンタジー・・・。
「・・・副作用があるみたいだけど、リョウは元気だよね」
「副作用・・・?」
俺は慌てて自分のステータスを確認してみた。
名前:ミタ リョウ
年齢:18〔固定〕
身長:178
体重:70
種族:人間
職業:ヒモ
レベル:99
HP:9999
MP:9999
STR:9999
VIT:9999
DEX:9999
AGI:9999
INT:9999
スキル
オールレンジオートカウンターLv99
HP常時回復Lv99
MP常時回復Lv99
ステータス鑑定Lv99
遠視Lv99
転移魔法Lv99
ディバッグ
状態異常無効Lv99
称号
転生者
鬼畜
外道
悪逆非道
脱獄者
大量殺人鬼
世界に混沌をもたらす者
人類の敵
人類の希望を絶つ者
聖剣を砕き者
イレギュラー
不老不死(NEW)
種無し(NEW)
年齢の横に固定って書いてあるし、
不老不死の称号も手に入ったみたいだ。
不老不死:
あらゆる状況で死なない、老いない。
わざわざ鑑定しないでも分かってたけど、
完全に不老不死だなこりゃ・・・。
しかし、種無しってなんだよコレ・・・。
種無し:
子孫を残す事が出来ない。
・・・・・・マジか。
コレをファルに伝えたらヤバイよなぁ・・・。
だが、隠し事はしなく無いしな・・・。
「・・・どうしたの?」
難しい顔をしていた俺に心配そうに声をかけてくる。
「あ、あぁ・・・副作用で種無しになったみたいだ・・・はは」
「そう・・・」
今にも泣きそうな位、滅茶苦茶落ち込んでるよどうしよう。
や、やっぱり黙っておくべきだったか・・・?
「・・・・・」
「・・・・・」
沈黙が痛い・・・。
完全にやらかしたな・・・。
余りにも痛々しい沈黙に耐えられなかかった俺は、
自虐っぽい冗談を言ってみた。
「種無しになっちまったし、これなら浮気しほうだいだなー・・・はは・・・」
しかし、彼女はそう捉えなかったようで、
牙だけドラゴン化させると全力で俺に噛み付いてきた。
彼女だって自分より格上の者に傷を付ける事なんて出来ないだろう事、
寧ろ自身を傷付けてしまう事を十二分に知っているはずである。
「な、なにしてるんだよ!?」
だが、彼女は自身の牙がへし折れ、
血を流しながらも噛み付く事を辞めようとしない。
「・・・撤回して」
そう言うとおびただしい血を流しながら殺気を込めた涙目で訴える。
「わ、分かった」
「・・・そんな事、許さない。リョウは何があっても私の旦那さま」
「あ、ああ・・・ごめん。そんな事はしないって・・・」
今までの人生でここまで本気で想われていた事が無かったから少し戸惑いはあるけれど、だからこそか余計に嬉しかった。
・・・尚更、絶対に裏切れないな。
その後へし折れた牙を綺麗に治し、全力でベッドの上で仲良くした。
・・・当然、彼女が満足するまで。