表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

和風乙女ゲーで悪役やってます

 気づくとそこは真っ暗だった。


 最後の記憶は春の山。

友人数人とハイキングに行ったのだ。

歩くのが遅い友人を茶化しながら、調子に乗って先へと進んだ。

早くしないと置いていくよー! って手を振る。


 そこで友人の悲鳴を聞いた。


 左手の山から大きな岩が落ちてきて……。

それに当たって――。


「たぶん、死んだよね?」


 岩は二メートルはあった。

それがかなり上からスピードをつけて直撃したのだから、生きているはずがない。

だけど、どういうことだろう?

声を発する事ができた。

痛みもない。

真っ暗な中からふと光が漏れ、瞼を開く。

不思議に思いながらも傷の具合を見ようと思って、自分の両手に目を落とした。


「……なにこれ!?」


 そこには手はなかった。

うん、手じゃない。

これは前足だね。


「ありえない。」


 なんで動物になっちゃったのさ。





 あまりの展開にびっくりして、色々と確認してみた結果。


 どうやら犬っぽい物になってしまったらしい。

未だに自分の顔を見る事は出来ていないが、四足歩行のしっぽがワッサワサした生き物になったと思われる。


 なんでこんなことに……。


 途方にくれて座り込んでいると、後ろから声がかかった。


「おお、これは珍しい妖じゃの。」


 しゃがれた少し高めの声が響く。

その声に驚き、勢いよく立ち上がった。

そして、声のする方へ向き直り警戒する。


「だれ?」


 そこには一メートルぐらいの小さな老人がにっこりとこちらを見ていた。

顔には白い髭を蓄えており、その手は驚くほど筋張っている。まるで枯れ枝のようだ。

老人は毛を逆立てた姿を見ても動じる事なく、ふぉっふぉっと笑う。


「わしは木魂じゃよ。木の妖じゃ。」

「こだま? あやかし?」


 なんだその単語は。

わかるけど、わからない。

だって、そんなの見た事ない。


 警戒を続けながら、その木魂と名乗った老人を睨みつける。

老人は相変わらず笑っていた。


「そうじゃよ。お前も妖じゃろうが。」

「え!? あやかし!?」


 びっくりして、耳がピクッとなってしまう。

そして、じっと老人を見た。


「この姿って妖なの?」

「そうじゃろう。それも生まれたてじゃな。」

「でも……ええ!?」

「ここは黒い瘴気の渦のようなものが長年溜まっていてな。そして、ついにお前さんが生まれたんじゃ。珍しいぞい。依代を持たぬ妖は滅多におらんからの。」


 こんなに混乱しているのに、老人はそれを構うことなく、ふぉっふぉっと笑った。


 ちょっと待って。

ちょっと考えてみよう。


 自分はハイキングの途中で落石に当たった。

それは間違いない。

そして、たぶん死んだ。

うん。きっとそうなんだと思う。

それで……その後……。


「そういえば、何かに引っ張られるような感じで、黒い渦に飲み込まれたような……。」

「うむ。それが瘴気の渦じゃったのじゃろう。普通ならお前さんも取り込まれて終わりじゃったんじゃろうが、ちょうどお前さんの意志とその瘴気の力の均衡が取れて、その体に集約されたのじゃろうな。」

「……つまり、黒い瘴気の渦を体に意志が宿った、という事ですか?」

「そうじゃろう。今のお前さんの姿は……ワシには子供の狼のように見えるが、本来お前さんに形はない。望めば好きな形を取れるじゃろう。」


 そうなのか。

死んでしまって、そんなよくわからないものになってしまったのか。


 考えると悲しくなって、耳は力なく折れ、しっぽもしょんぼりと下がってしまった。

すると、老人がこちらへやってきて、その枯れ木のような手でそっと頭を撫でてくれる。

筋張った手が櫛のようで気持ちがいい。

しょんぼりとしていたのに、その手の気持ちよさにうっとりと目を細めてしまった。


「お前さんは生まれたばかりじゃ。妖の理も知らぬであろう?」

「……妖がいるっていうのも初めて知りました。」

「わしと来るか? わしはこの山の桜の木じゃ。ずっと一人じゃったからの。お前さんに話し相手になってもらえると嬉しいんじゃが。」


 老人がほとんど白目がない、くすんだ茶色の目でこちらを見る。

これから先どうしたらいいかもわからない。

それなら、と、そのありがたい提案に乗る事にした。





 こうして始まった二度目の人生、いや妖生だが、なかなかに快適に過ごしていた。

山は楽しいアミューズメント施設のようだったし、狼の姿は野山を駆け回るのに最適だった。

シカを追いかけて走り回ったり、川に飛び込んで魚を捕ったり。

人間の時も自然の中にいるのが好きだったので、すぐに馴染んだ。


 人間だった頃の家族に会いに行こうかとも思ったが、それはできなかった。

そもそも、妖として生まれたこの山が、ハイキングに行った山とは違ったのだ。

少し町の方にも下りて確認したのだが、そこはまったく知らない町だった。

地名などもさっぱりわからず、ここは自分がいた世界ではないんじゃないか、と結論づけた。

きっとあの黒い瘴気の渦に巻き込まれた時に、違う世界に入ってしまったんだ。


 そして、木魂の老人の事はじーちゃんと呼んで、色々と教えてもらっている。

適当に世間話をしながらも、妖の事を聞いた。

妖っていうのは基本的には食べたり飲んだりはしなくていいらしい。趣味みたいなものだ。


 そして、時折、人を襲う。

元が人間だった手前、なんだか申し訳ないけれど、妖なのだから仕方ない。

殺す必要はないらしいが、痛がってもらったり、苦しんでもらったりすると、お肌がツヤツヤになるんだって。


「じーちゃーん! これって食べられるやつ?」


 秋の山は木の実がいっぱいだ。

偶然に見つけた赤い実のなった枝を口に咥えて、じーちゃんの元へ急ぐ。

じーちゃんはふぉっふぉっと笑って迎えてくれた。


「それはサンザシの実じゃな。食べれんことはないぞ。」

「んー、すごいおいしいって事もないの? ちょっと食べてみる。」


 赤い実はとてもおいしそうに見えたんだけど、じーちゃんの口振りからはあまり期待できないかもしれない。

おそるおそる、赤い実を一つ食べてみた。


「……なんか薄い。」


 まずくはない。

けど、なんか見た目と違う。

これじゃない感がハンパない。


「そうじゃろう。人間はな、それを干してから砂糖と混ぜて棒状にして食べるそうじゃよ。」

「そうなんだ。このままじゃなんか味がないね。」


 せっかく久しぶりに甘酸っぱい果物が食べられると思ったのに、肩透かしをくらってしまった。

しょんぼりとしっぽを垂らすと、じーちゃんが頭をよしよしと撫でてくれる。

気持ちよくて目を細めると、じーちゃんは優しい声でふぉっふぉっと笑った。





 そうして妖という割には平和な時を謳歌して、季節が一巡り。もう一度春が来た。

やはり元が人間だったせいか、あまり人間を襲うのが好きではない。

ただただ山で遊び暮らしている。

じーちゃんは力が弱るのを心配したが、どうやらあまり人間を襲わなくても大丈夫なようだった。

依代を持たず、黒い瘴気の渦から生まれたという特殊な体のおかげだろうとじーちゃんは言っていた。


 山を駆け、じーちゃんと笑い、時々人間を驚かす。

そんな日々がずっと続くと思っていた。


 けれど、それは壊される。


 人間が来た。

ただの人間じゃない。

陰陽師だ。


 じーちゃんはずっと言っていた。

妖にとって一番恐ろしいのは人間の陰陽師だと。

人間を襲いすぎると、ヤツらが出てくる。

だから、決してやりすぎてはいけない、と教えてくれていたのだ。


 人間を襲う事もできなかった自分が殺しなどしているわけがない。

じーちゃんだって人間を殺していない。


 でも、アイツは来た。

そして、今、じーちゃんを苦しめている。


「やめろ!」


 叫びながら、じーちゃんを縛っているお札の一つに噛みついた。

その途端に口の中が燃えるように熱くなり、口の中が切れたのがわかる。

ドロリと赤黒い血がしたたり落ちた。


「ハハッ、まさか結界の札を破るなんて。」


 札を一枚噛み切ったおかげで、じーちゃんの束縛が解かれる。

しかし、じーちゃんは逃げる力はもう残っていなくて、その場に崩れ落ちてしまった。

笑うアイツを前にしながら、急いでじーちゃんを庇い、精いっぱい唸り声をあげる。


「いいねぇ。退屈な木魂退治かと思ったら、楽しい事もあるもんだね。」


 アイツは笑いながら手に黒い鞭を握ると、こちらに向かって振った。


 避けなきゃっ


 咄嗟に飛び下がって避けようと思ったが、後ろにはじーちゃんがいる。

避ければじーちゃんに当たってしまうだろう。


 どうする!?


 その一瞬の迷いが仇となり、鞭を避けることができなかった。

右から来た鞭が右前足を払いのけながら、腰へと強かに打たれる。


 ギャンッ


 思わず声が出た。

そして、体が弾き飛ばされ、地面に転がる。


「ね、君は人狼かなにか?」


 アイツがこちらに歩いてくるのがわかった。

慌てて起き上がろうと体に力を入れる。


「……っ。」


 痛い。

右前足に力が入らない。


 もしかして、さっきので折れてしまったのだろうか。

妖なのだから、こんな事で死なないだろうが、痛い物は痛い。


 痛みに耐えながら体を起こし、三本足で立ち上がる。

それをアイツは楽しそうに見て、ゆっくりと近づいてきた。


 ダメ。

ダメだ。

逃げなきゃ。


 これが生存本能というヤツだろうか。

怖い。逃げ出してしまいたい。


 けれど、じーちゃんはどうする?


 ここから逃げ出せば、きっと滅せられてしまう。

妖だって、陰陽師に滅せられてしまえば、二度とこの世に生まれる事はできない。


 ずっとじーちゃんに世話になった。

こんなとこでアイツに滅せられるわけにはいかない。


 何か。

何か方法があるはず。


 逃げ出したい体を必死でその場に留め、懸命にじーちゃんを救う方法を考える。

そこで、ふとじーちゃんが言っていたことを思い出した。


『お前さんに形はない。望めば好きな形を取れるじゃろう。』


 そうだ。

この体は黒い瘴気の渦だ。


 小さな狼の姿を取る必要などない。


 まずは折れたと思われる右前足の構築。

そして、体全体を構築した。


「ハハッ! 本当に面白いね!」


 太い脚に鋭い牙。

巨体に纏う毛はすべてが鋭利な針のように。

脚には凶悪な鉤爪が生え、いつでも命を刈り取れる。


 その構築した姿でアイツに襲い掛かった。

アイツは攻撃を札や鞭で防ぎながらも、少しずつ後退していく。


 もうちょっとだ。

もうちょっとでコイツを倒せる。


 ようやく来た勝機に心が躍った。

アイツからの鞭や札で体が傷ついていったが、それを無視して、攻勢を強める。

そして、アイツは――


「はい、チェックメイト。」


 どこから取り出したのか、じーちゃんの体に黒々とした刃を突き刺した。

アイツは攻撃に押されるフリをしながら、じーちゃんへ攻撃するタイミングを見計らっていたのだ。


「っじーちゃん!」

「動くと滅しちゃうよ?」


 すぐにじーちゃんの元へかけよろうとする私をその一言で押しとどめる。


「まずは元の小さい狼に戻ってもらおうか。」


 アイツはその手にじーちゃんを突き刺している剣を握ったまま、こちらを見てニッコリ笑った。


 その瞳に戸惑いはない。

命令を聞かなければ、本当にじーちゃんは滅せられてしまうだろう。


 しばし逡巡するが、いい案は浮かばない。


 仕方ない……か。


 小さく嘆息し、アイツの言う事に従う。

ゆっくりと構築しなおし、元の小さい狼へと戻った。


「へぇ、すごいね。ねえ、どんなものにもなれるの?」

「……まあ。」

「じゃあ、一六ぐらいの人間の女の子になってみて。」


 アイツが何が目的でそんな事をさせるのかはわからない。

ただ、逆らうという選択肢はなく、ギュッと目を閉じ、構築した。


 茶色の肩までの髪に大きな金色の瞳。

白い肌にふんわりとピンク色の頬。

一六〇センチほどの身長にひきしまった身体。


 構築した二本の足で立ち上がるとギッとアイツを睨む。

アイツは体の変化を面白そうに見つめていた。


「ハハッ、なかなかいいね。よし、じゃあ、君は私の式神になってくれるかな?」

「しきがみ?」


 よくわからない言葉に思わず聞き返してしまう。

アイツはにっこり笑って、そうだよ、と肯定した。


「だ、メ……じゃ。」

「じーちゃん!」


 剣で体を貫かれたまま、じーちゃんが言葉を話す。


「ダメ、……っ。」


 しかし、じーちゃんが言い終わらないうちにアイツはその剣をより深く突き刺した。

じーちゃんの体がビクリと震える。


 ダメだ。

このままでは本当に滅されてしまう。


「わかった、その式神とやらになる。だからじーちゃんを滅さないで。」

「物わかりのいい子は好きだよ。大丈夫、簡単な事さ。私の血をちょっと飲んで、契約するだけだから。私の言う事を聞いてくれればそれでいい。わかったね?」

「……はい。」

「跪いて。」


 アイツの言葉のままに跪く。


「そのままこっちへ。」


 跪いたまま、アイツの傍へ行く。

ずりずりと膝を動かして、その足元へとにじり寄った。


「口をあけて? 」


 アイツに見下ろされながら口を開く。

するとアイツはじーちゃんを突き刺している剣で右の人差し指をスッと切ると、開いていた口へとその指を入れた。


「舐めて。」


 嫌悪を覚えながらもその指をチロリと舐めた。


 甘い。

体が沸騰するようだ。


 アイツは満足気に指を引き抜き、言葉を続ける。


「私の後に続いて言って。」

「……はい。」

「わが命尽きぬ限り。」

「……わ、が命尽きぬ………限り。」


 言葉がうまく出ない。


「彼の命尽きぬ限り。」

「か、の……いのち、尽きぬか、ぎり。」


 苦しい、

苦しいよ。


「彼の方のしもべとなる事を」

「かのか……たの、しもべ……となる、事を。」


 胸が痛い。

ギュッと何かに縛られ、潰されそうだ。


「誓う。」


 言いたくない。


「ち」


 言っちゃダメだ。


「か」


 ダメだ。

ダメ。

ダメ。


「う。」


 すべてを言い終わった途端、一度世界がグラリと揺れた。

その後、全身を痛みが走る。


「あ、あ、あ……うぅ……。」


 思わず蹲り、体をギュッと丸めた。


「よく言えました。じゃ、ご褒美に。」


 そう言うとアイツはじーちゃんに刺していた剣をより深く刺して、一気に引き抜いた。

じーちゃんは苦悶の悲鳴をあげながら消えていく。


「……っ! 滅しないって、言ったのに!」

「ああ。だから約束は守っただろう? 滅してはいないよ。力を最小限まで削ったけどね。次に元の形が取れるようになるのは二〇〇年後かな? 」


 それまで桜の木が枯れないといいね? と言ってアイツは笑った。

銀色の満月が照らす中、アイツの褐色の髪がキラキラと光る。

そして、紺色の瞳が楽しそうに細まった。


 ……この時、初めて気づいた。


 ここは乙女ゲームの世界だ。

この陰陽師は攻略対象の一人であると。


 これが悪夢の始まりだった。





 この世界には妖が住んでおり、人間と共存しながら生きている。

そして、力のある者はある一定の年齢になると学校へと通うのだ。

その学校の名は私立小夜さよ学園。

妖や陰陽師が一同に会し、それぞれの思惑を抱きながらも、交流をして、危うい均衡を保っているらしい。


 この学園が乙女ゲームの舞台だ。


 学園が危険な場所とは知らないヒロインが入学してくる。

そして、妖と陰陽師の策略に翻弄されながらも、見目麗しい男性と恋をしていくという少しサスペンス要素の入った人気のゲームだった。

私は友人に借りてやったのだが、結局一人のルートしか攻略していない。

なにせ、飽き性の私。

それなりに楽しかったが、話の本筋を知ってしまった後、あれもこれもと個別ルートを攻略するほどの情熱はなかった。


 そして、私を式神にした男、賀茂友孝かもともたかは春にこの学園に入学したばかりだった。

現在は一年生であり、生徒会長はしていないが、これから二年になると学園の実力者として成績トップを収めながら、生徒会長をするという完璧キャラだ。

もちろん、攻略していない。

だって趣味じゃないから。


「集中してないね。もっと厳しくしないといけないのかな? 」


 男のくせにキレイな凛とした声が響いた。


「申し訳ありません。友孝様。」


 私は即座に謝ると、意識を目の前の妖へと集中させる。

数は二〇ぐらいか。

一メートルぐらいの身長、一つの目、大きく膨らんだ腹。

餓鬼のようなものだろう。

個々の力は強くない。

それに、知能もあまり高くなさそうだ。

連携を取られて困るということもないだろう。


 私はそれを確認して、妖の集団へと身を躍らせた。

いきなりゼロ距離まで近づいた私に、その一つしかない目を大きく見開く。

そして、次の瞬間にソイツの腹を右手で薙いだ。

右手に分厚い肉を切ったような感触が残った後、ソイツは二つになり地面へと転がる。

どす黒い血を流しながら、あっけなく地面に溶けていった。


 体が熱い。


 もっと、

もっと。


 そこからはいつも通りに手を振るった。

私の鉤爪がおもしろいようにソイツらを滅していく。

そして、一匹滅するごとに体がズクンと熱くなるのだ。


 もっと。

もっと……!


 ようやく、最後の一匹だ。

コイツを滅すれば、もっと気持ちいいはず。

私はこの体の熱を持て余しながら、飛ぶ。


「最後のは残す、って言ったよね? 」


 私の手が最後の一匹に届く前に、友孝様の鞭が私の体を払った。


「……っ」


 右のわき腹に痛みが走る。

最後の一匹はその隙に森へと身を翻し、闇へと溶けていった。


 ああ……。

逃げてしまった。

私のごはん。


 うーうーと小さな声を出しながら、その森の闇をじっと見つめた。

後ろからはやれやれと声が聞こえる。


「本当に、すぐに欲望に負けるね。」

「……申し訳ありません。」


 友孝様の方を振り向かず、未練がましく森の闇を見つめてしまう。

あそこに私のごはんが。


「一匹残らず滅してしまうと、もうここにアイツらが出てくる事がなくなるだろう? 一匹残しとけば勝手に増えていくんだから。」

「はい。」


 そう、全部倒したらそれまでだが、一匹残せばまた滅しに来れる。

でも、私はどうしても我慢ができなかった。

未だ満たされぬ飢えを抱え、森の奥にじっと目を凝らした。

友孝様ははぁと溜息をつくと、そのきれいな声を響かす。


「ほら、そんなにお腹が空いているなら舐めるかい? 」


 欲しい。


 餓鬼なんか目じゃない。

思いがけない魅力的な言葉にパッと身を翻した。

あっという間に友孝様の所まで来ると、ザッと跪く。

そして、懇願の目で見上げた。


「おねがいします。」

「本当に堪え性がないね。」

「おねがいします。」


 じっと友孝様を見上げる。

しかし、友孝様は私をおかしそうに見ると、サッと身を引いてしまった。


「ここじゃダメだよ。さ、家に帰ろう。」


 そう言って、跪いている私をそのままに山を下りて行ってしまう。

私は叶わなかった事にギュッと目を閉じ、歯を食いしばって耐えた。

そして、友孝様の後を追う。


 私はどうやら普通の妖とは違ったらしい。

妖は人間の生気を吸い、力を保つ。

だが、私は妖から妖気を奪う事によって力を保つ事ができるようだった。

妖気は生気をギュッと凝縮したようなものだ。

わざわざ人間から少しの生気を奪うよりも、妖から妖気を奪う方が格段に満たされた。


 本来、妖は妖を食わない。

妖が妖を食うとお互いの意思が絡み合い、自分とは違う何かに変わって行ってしまうからだ。

しかし、私は黒い瘴気の渦から生まれたためか、他の意思に飲み込まれる事もなく、自我を保っていられた。

妖を倒すごとに、自分の力が高まるのを感じるのだ。

それを知った友孝様は、積極的に私に妖を滅する事を命じた。

基本的には人間に害のある妖であったが、それでも気は進まない。


 私は奪いたくなかった。


 私が妖として生きていくのに、こんなに多大な妖気は必要ないのだ。

妖だって意思がある。

滅せられて二度とこの世に現れる事がないなんて、あんまりだ。


 だけど、一度、滅すると、私は高揚感に囚われてしまうんだ。

もっと欲しい、もっと欲しいと心が叫び、止まらなくなる。


「何やってるんだろうな……。」


 自由になりたい。

もう、何も奪いたくない。


 そんな虚しい願いを抱えながらも友孝様の後を追い、自宅であるマンションについた。

友孝様は立派な家の跡取りらしいのだが、小夜学園に通うためにこのマンションで一人暮らしをしているのだ。

基本的な事は昼間に通っているお手伝いさんがやってくれている。

私は式神になった当初からここに暮らし、友孝様の傍にいた。

友孝様は基本的に私に人間の姿を取らせている。

さきほどの妖との戦闘も人間の姿に手だけ鉤爪が出ているという姿だった。


 友孝様がリビングの三人掛けのソファへ座る。

私は次に来る瞬間に心を沸かせながらも、必死にそれを押えて、少し離れたところに立っていた。


「おいで。」


 友孝様が甘い声で呼ぶ。

私はすぐさま友孝様の所まで行き、跪いた。

フフッと笑い、私の頭を撫でる。


「いい? 優しくするんだよ? 」

「はい、はい、もちろん。」


 ようやくの瞬間に目が潤んでしまう。

友孝様はその右手を私の前に差し出すと、私は恭しくその手を取った。

手に鉤爪を出現させ、痛みが最小限で済むように気を遣いながら、その人差し指に傷をつける。


 ツプ


 その右手から赤い水滴が膨れ上がった。

私は我慢できずにその人差し指にペロリと舌を這わせる。


 甘い。


 舐めるだけでは気がすまず、その人差し指を口に含むとゆっくりと吸い上げた。

チュッチュッと濡れた音が静かな部屋に響き渡る。


 ああ。

おいしい。


 もっと、

もっと

もっと欲しい。


 少ししか傷をつけていないため、あっという間に血が止まりそうになる。

これで私の至福の時間は終わりだ。


 ……いやだ。

もっと

もっと。


 舌先で傷口を広げようと上下に動かした。


 ……もういっそ、指を食いちぎってやろうか。

きっといっぱい血が出る。

おいしいに違いない。


 それはとても甘美なことに思える。


 そうだ。

友孝様を食ってしまおう。


 牙で友孝様の指に噛みつこうとした瞬間、指が引き抜かれた。


「ほら、白目が無くなってるよ? 今日はこれで終わりだね。」

「……っ、あ、……申し訳ありません。」


 突然の終わりに口をだらしなく開けたまま、友孝様を見上げてしまった。

そして、左の人差し指で目を辿られる。


 私は欲望に負けると、白目が無くなってしまうらしい。

狼の時のような金色だけの目になってしまうのだ。

なので、友孝様にはすぐに私が暴走しそうになるのがばれてしまう。

今回も私が欲望に負けたので、これで終わりだ。


 もっと、もっと欲しかったのに。


 目をギュッと瞑り、欲望を抑える。

そうしてゆっくりと目を開く。

きっと、白目が戻っているだろう。


「じゃあ、傷を治して。」

「はい。」


 友孝様の指先に妖気を込めた息をそっと吹きかける。

すると、その切り口がスッと消えていった。

どうやら私の妖気はなかなか便利なモノのようで、これぐらいの傷なら瞬く間に塞ぐことができるのだ。


「それじゃ、私は寝るよ。おやすみ。」

「おやすみなさい。」


 リビングから友孝様が出ていく。

私はそれを見届けると、自分の部屋へと戻り、ドサッとベッドの上へ寝ころんだ。


 ……足りない。


「お腹すいた。」


 ……もっと。


 満たされる事のない飢えを感じながら、それに耐えるように体を丸めて寝た。





 私が知っている乙女ゲームが始まるまで、あともう少し。

友孝様が進級し、二年生になってから始まる。

友孝様はヒロインから見ると先輩キャラになるのだ。


 ヒロインはその身に不思議な力を持っている。

妖に強い力を授ける事ができるのだ。

ゲームではその力を持つヒロインは『妖雲の巫女』と呼ばれていた。

妖はその匂いに誘われ、ヒロインに群がり、陰陽師はその力を妖に与えないために守り切らなくてはならない。

妖雲の巫女を妖が手に入れるのか、それとも陰陽師が守りきるのか。

そんな裏の攻防を知らぬままにヒロインは攻略対象に恋をして、運命が決まるのだ。


 攻略対象は妖が三人。

陰陽師が三人。


 そして、私の役割は……。


「いいかい、君は妖雲の巫女を妖の手から守るんだよ。」

「はい。」


 入学式を前にして、友孝様が私への最終の確認を取っていた。

私はいつもと違う姿になっている。


 黒くて長いストレートの髪。

その目は切れ長で青く輝いている。

身長は一七〇センチほど、すらりとした痩せ型の体系だ。


「妖雲の巫女は春に入学してくる。その際、君も入学してもらう。クラスは同じになるようにしているから。」

「はい。」

「妖雲の巫女が平和に過ごせるよう、雑魚は滅して構わない。そのために一年間も力を蓄えてきたのだからね。」

「はい。」


 この姿はゲームで何度も見た。

思い起こせば、すぐに構築することができる。


 友孝様はそのきれいな声を途切れさせて、こちらをじっと見た。


「学校にいる強い妖が、もし妖雲の巫女を手に入れようとしたら……わかるね? 」

「はい。私に目を向けさせ、妖雲の巫女と通じ合わないようにします。もし、それが叶わなかったら……。」

「滅して構わないよ。」

「はい。」

「妖雲の巫女を妖に奪わせるわけにはいかない。」


 この姿はゲームの悪役の姿。


 妖雲の巫女のボディーガード。

そして、恋を邪魔するライバルである。


「君の名前は友永茶子ともながちゃこ。いいね。」

「チャコ。 」

「そ。獣臭い君にぴったりの名前だろ。チャコ? 」


 きれいな声でハハッと笑ってこちらを見た。

妖になってから私には名前が無かった。

ようやくついた名前がこれかぁ。


「……ありがとうございます。」


 それでも、友孝様が名前を呼べば、体が熱くなった。





 私が悪役の姿を取ってから数日。今日が入学式だ。


 ヒロインの名前は名波唯ななみゆい

出席番号は私の後ろ。

そして、入学式では右隣に座っている彼女だ。


 柔らかそうな薄い金色の髪。

くるくると愛くるしく動く深い緑色の瞳。

頬はふんわりと色づいており、思わずギュッと抱きしめたくなるような、そんな魅力を持っている。


 かわいいなー……。

さすがヒロインだなー……。


 私は彼女をうっとりと見つめた。

私が妖だからだろう。

どこか甘いような匂いもして、目が離せなくなる。


「あの、お名前は? 」


 そんな私の熱い視線に気づいたのか、ヒロインがこっそりと話しかけてくる。

私はふわりと笑いながら、名乗った。


「友永茶子だよ。あのね、友永って苗字、あまり気に入ってないから、できればチャコって名前で呼んでほしいなー。」

「うん、わかった。私はね、名波唯。あの、私も名前で呼んでもらえれば……。」

「唯ちゃんだね。わかったー。ごめんね、あんまり知り合いいないから、ちょっとキョドっちゃって。」

「あ、私も。」

「唯ちゃんも? 良かった、一人で友達できなかったらどうしようかと思ったー。」


 えへへと笑うと、唯ちゃんもえへへと笑ってくれた。


 そうして、私たち二人が仲良くなるのに時間はかからなかった。


 なんせ、私は唯ちゃんと友人になるためにこの学園に来たのだ。

苗字も出席番号順で唯ちゃんの隣になるために無理やりつけたのだから。


 唯ちゃんと清く正しいクラスメートをしながら、日々を過ごす。

今日は放課後に唯ちゃんとアイスを食べに行くことにした。

アイス屋さんはいつもの道じゃなく、少し遠回りをしないといけない。

なので、近道をしようと空き地へ足を入れたのだけど――


「でた。」

「また出ちゃったねー。」


 目の前には二メートルぐらいの妖。

体全体からトゲのような物が出ており、その腕は異様に大きく、体と同じぐらいある。

その妖は唯ちゃんを見つけると、その目のない顔で口だけニタリと笑うと、その大きな腕を振るった。

 

「唯ちゃん危ない! 」


 私は隣で動けなくなっている唯ちゃんを抱えて後ろへ飛んだ。

私と唯ちゃんがいた場所にゴツゴツしたおろし金のような腕が地面を抉る。


 友人になってわかったのは、唯ちゃんの妖遭遇率の高さだ。

こうして空き地に寄っただけでこの様である。


「チャコ、ごめん! 」

「いいよー、任せといてー。」


 私は唯ちゃんを下ろしてて、ザッと地面を蹴った。

おろし金の腕を持った妖がこちらに向かってそれを振り上げてきたけど、無視して突き進む。


 遅い。


 その腕の質量のせいだとは思うが、振り上げるのもそれを振り下ろすのも、まったくもって遅い。

そんなのに当たると思ってるのかな?

真剣に聞いてみたいが、そんな機会は訪れないだろう。

私はあっという間に妖の懐に入り込むと、ザシュッと右手をその腹へとめり込ませた。

素早く引き抜き、その大きな腕に潰されないように後ろへと飛ぶ。


 ブォグォオオ


 変な声を上げて、腹からどす黒い血を流した。

そして、グシャッと地面へ倒れ、溶けていく。


「チャコ、大丈夫だった? 」

「うん、余裕。動きが遅すぎるよー。」


 軽口を叩きながらも、ズクンと熱くなる体に、息が乱れそうになった。


 もっと。

もっと欲しい。


「きっと、チャコが強すぎるんだね。」


 必死で欲望を抑えている私を知らず、唯ちゃんが純粋にすごいすごい、と私を褒めてくれる。

唯ちゃんが褒めてくれると嬉しくて、ニコッと笑った。

そうして無理やり笑っていれば、胸に湧く『もっと欲しい』という欲望を少しだけ抑えることができる。


「まあね、私ってば唯ちゃんを守るために生まれたのかもしれないからねー。」

「もー、チャコは冗談ばっかり! 」


 あははと二人で笑った。




 そうして、唯ちゃんを守りながらも学校生活は楽しく過ぎていく。

今日は高校に入って初めての一大イベント。

クラス対抗、球技大会の日だ。


「勝つぞ! とにかく一年二組には! 」

「おー! 」


 クラスの中で男女入り乱れて円陣を組む。

そして、クラスの中心である男の子が声をかけ、みんなが後に続いた。

皆で気合を入れて、お揃いのTシャツでそれぞれの戦地へ赴く。

私はバスケットボール!

この高身長でポイントを入れまくってやるのだ。


「おい、友永! 」

「んー、なにー? 」


 先ほど、円陣でみなに先駆けて言葉を発した男の子が私に声をかけた。

九尾鋼介くおこうすけ

名前の通りの狐の妖だ。

輝くようなオレンジ色の短い髪に琥珀色の瞳が印象的な攻略対象の一人。


「お前、絶対勝てよ。」

「わかってるよー、九尾くん。それにこっちには唯ちゃんがいるらね。」

「え!? 私!? 」


 いきなり、私に話を振られて唯ちゃんが焦る。

それはそうだ。

妖が大量に混ざっているこの学校でただの人間が運動で勝てる事はないのだから。


「名波に何させるつもりだよ。」

「そりゃ、もちろん、こう、Tシャツを胸の下あたりで縛ってもらってー、色気を出してー。」

「ちょっとチャコ! 」

「なるほど。向こうの妖が名波に惹きつけられてまともに動けなくなるってことか。」

「うん。」


 九尾鋼介は唯ちゃんが『妖雲の巫女』である事を知っている。

その上で妖からも陰陽師の策略からも唯ちゃんを守ってくれる貴重な存在なのだ。


「……そうだな。もし、負けそうになったら――やれ。」

「わかった。」

「いや、やらないからね!? 絶対やらないからね!? 」


 唯ちゃんがいやだ、いやだ! と私たちを非難がましい目で見ている。

いい案だと思うけどなー。


「いいか、名波。俺たちはどうしても二組には勝つ必要があるんだ。」

「何よそれ! そんなの九尾君がお兄ちゃんに勝ちたいだけでしょ! 」

「そうだよ! 大事な事なんだよ! 」


 唯ちゃんと九尾鋼介がじゃれている。

二人の黄色っぽい髪がキラキラと輝いて、私には眩しいくらいだ。


 九尾鋼介の兄、九尾鉄平くおてっぺいは隣の一年二組の担任をしている。

二人はライバルで、何かにつけて争っているのだ。

今回の球技大会も二人の争いの場になっているのだろう。


「とにかく、学年に関わらず、全部勝て。友永のいるバスケットでポイントを稼ぎたいからな。」

「らじゃー、キャプテン。」


 九尾君はそう言いながら、自分の戦地であるグラウンドへと走っていく。

唯ちゃんはその背中に、がんばれー! と声援を送った。


 結果。


 私と唯ちゃんのいる女子バスケットボールは二位だった。

この学校は一学年に三クラスしかないので、九クラス中の二位だ。

九尾君は、一位獲れよ! と怒っていたが、まあ、無難な所だと思う。

ちなみに球技大会では一位から五ポイントが与えられ、二位が三ポイント。そこからは順番に一ポイントずつ減りながら与えられる。

つまり真ん中より上にいかなくてはポイントがもらえないのだ。


 九尾君のいる男子サッカーは三位。男子バスケットは五位とポイント圏外。

女子はバレーが四位で、リレーが六位だった。

球技大会なのにある女子リレー。これは妖は出場禁止なのだ。

普通の人間が普通に走るという、この学園においてはあり得ないほど平和な競技で、唯ちゃんはバスケットと掛け持ちをして出ていた。


「くそっ、たった六点か……。」

「まあまあ、一年にしてはがんばった方だと思うよー。」


 すべての競技が終わり、集計が始まる。

一度クラスへと集合した私たちは体育館で閉会式を待ちながら、ダラダラとダベっていた。

九尾君としてはもっと点を取り、あわよくば表彰台を狙っていたのだろう。

しかし、一年にしてはがんばったとは思うが、表彰台は難しそうだ。


「私はね、表彰台よりも、唯ちゃんのリレーの方が意味があったと思うよ。癒されたー。」

「もう、やめて……言わないで……。」


 唯ちゃんの中では黒歴史になったらしい。

思い出したくない、と顔を顰めた。


「まあな、人間っぽくて良かったな。」

「うん。かわいかったー。」


 妖二人でほのぼのと笑い合う。

唯ちゃんはそれを見て、はぁーと溜息をついた。


「九尾君、もう忘れちゃって! 」


 夕方の気だるい時間。

教室が夕焼けに染まっている。


 ふと、九尾君が何かに気づいたように顔を曇らせた。


「なあ、その『九尾君』って言い方、あんまり好きじゃないんだけど。」

「そうなの? 」

「まあここにはもう一人『九尾』がいるからな。」


 複雑そうに笑う。

オレンジの髪がサラッと揺れて、琥珀色の瞳が夕日を反射して輝いた。


「名前で呼んでくれ。」


 ああ。

懐かしいな。

イベントだ。


「名前? 鋼介君? 」

「ああ、その方がずっといい。」


 そのやんちゃそうな顔をクシャッとして笑った。

唯ちゃんがその顔をみて、ほんのり頬を染める。


 かわいいなー。


 二人は一枚の絵のようなそんな雰囲気を醸し出している。

このままそっと身を引いて、ぼんやりと眺めていたい。


 でも、そんな二人を見てるだけじゃダメなんだ。

友孝様の言葉が蘇る。


『学校にいる強い妖が、もし妖雲の巫女を手に入れようとしたら……わかるね?』


 はい。

わかってます。


「なあ、友永にも言ってるんだけど。」

「あ、ホント? 良かったー。いきなり二人の空気感満載だったから。」

「チャコー。 」


 唯ちゃんがほっぺが赤いまま、私を恨めしそうな顔で見た。


「じゃあ、私は鋼ちゃん、って呼ぶよー。」

「高校生にちゃんづけか……。」

「まあまあ。あ、それから、私も『友永』って苗字嫌いだから、名前で呼んでほしいな。」

「名前? 」

「うん。」


 鋼ちゃんは一瞬、目を瞠った後、照れくさそうにボソリと呼んでくれた。


「……チャコ。」

「なーに? 鋼ちゃん。」

「べ、別に、今は試しで呼んだだけだよ! 」

「やーねぇー、この子ったら照れてますよー。」


 私は顔が赤くなってしまった鋼ちゃんをからかって、イヒヒと笑う。

唯ちゃんも一緒になって困ったように笑っていた。


 優しくってかわいい唯ちゃん。

恋をしたのなら、それを叶えてあげたい。

でも、私は妖との恋は応援できない。


 お願いだから、唯ちゃん。

鋼ちゃんを選ばないで。





 球技大会の結果は四位だった。表彰台には立てなかったが、一年生のなかではトップだ。

そして、球技大会が終わると、夏休みに入った。

私は相変わらず、唯ちゃんと清く正しいクラスメートをしながら、暮らしている。

海に行ったり、図書館の自習室で一緒に勉強してみたり。

時折、鋼ちゃんもやってきて、私たちはどんどん親しくなっていった。

のんびりと過ごした夏休みも終わり、秋が来る。

そうするとやってくるあのイベント! 文化祭が始まるのだ!


 またしても登場したお揃いのクラスTシャツを着て、張り切って校内を巡った。

なんと今日は鋼ちゃんと二人っきりである。

なにやら唯ちゃんは待ち合わせがあるらしくて、どこかへ行ってしまったのだ。


「ねね、鋼ちゃん。なんか二人で文化祭を巡るとか、付き合ってるっぽくない? 」

「はぁ? 」

「いや、はぁ? じゃないでしょ。ドキッ! でしょ。」

「ああ、はいはい、そうだな。」


 そう言いながら二年の先輩が作っていた、焼きそばを食べる。

合計九クラスしかないこの学校の文化祭はこじんまりとしたものだ。

だけど、妖である私たちにとっては、こういう日常がなんともありがたい。


「おいしーねー。」

「そうだな。」


 二人で空き教室の机に座って食べる。

鋼ちゃんが前向きに座って、私が後ろ向き。一つの机の上に二つのやきそば。


「ああー、なんで唯ちゃんいないんだろー。」

「さあ。」

「ね、次はさ、軽音楽部? を見に行きたいんだけど。」

「そんなものに興味あったのか……。」

「いや、なんか、かっこよさそうじゃない? 」


 私がウキウキと話すと、鋼ちゃんは嫌そうに顔を顰めた。

なるほど。音楽が嫌いなのかもしれない。


 そんな事を考えながら、焼きそばを食べていると、すぐ近くから何かが倒れる音が響いた。

かなりの音で、なんだか大変な事が起こったのだとわかる。


「鋼ちゃん!? 」

「ああ、隣の部屋か? 」


 私たちは慌てて教室の外へ出て、隣のドアを開けた。

そこには唯ちゃんを庇い、その右手で材木を受け止めている友孝様がいる。


 唯ちゃん!? なんでこんなところに!?


 この教室は材木置き場として使われていたようだ。

どこかに立て掛けてあったと思われる、材木が友孝様と唯ちゃんの上に覆いかぶさっている。

鋼ちゃんは小さく舌打ちをすると、急いで二人の元へ駆け寄り、その材木を撤去し始めた。


「おい、チャコも手伝え! 」


 鋼ちゃんはこちらを見ることなく、必死で材木をどけている。

轟音を聞いた生徒や先生たちも集まってきて、みんなが助けるために走り寄っていった。

だけど、私はそこに行くことができない。


 血だ。

友孝様の右手から血が出ている。


 こんなに遠くからでもわかる。

材木を受け止めた右手の甲から血が出ているのだ。


 欲しい。

欲しいよ。


 突然現れたご褒美に胸が焼けた。

必死で必死でそれを抑える。


 ダメ。

ダメ。

ダメ!

ずっと我慢してきたんだから。


 学校に通い出してから、友孝様とは違う場所で暮らしていた。

時折、学校で見かける事はあってもずっと素知らぬフリを続けていたのだ。

なのに、こんな事で私の努力を終わりそうになる。

たった一滴。

あの人が血を流すだけで、私はすべてを捨てて、あの人の元へと飛びつきたくなるんだ。


 いやだ。

いやだ!


 私は事件の喧騒に紛れて、脱兎のごとく走り出した。

階段を降り、グラウンドを走る。

そして、クラブ棟の裏へと隠れると、体育座りをしてギュッと目を抑えた。

白目を作れている自信がなかったのだ。

そうして、しばらく一人でいれば落ち着くと思っていたのに、背中から声がかかった。


「チャコ、どうした? 」


 二人を助けていたはずの鋼ちゃんだ。

私がいない事に気づいて追いかけて来たのだろうか?


 鋼ちゃんはしばらく何か考えていたようだったが、ゆっくりと言葉を次げた。


「賀茂先輩が好きなのか? 」


 鋼ちゃんの声が震えている。

思っても見なかった鋼ちゃんの言葉にびっくりした。


 友孝様を好きかだって?


「別にー。」


 努めて平静を装ったつもりだけど、未だに白目を作れている自信がなく、顔を上げることができない。

この恰好で言ってしまったので怪しかったかもしれない。


「アイツは陰陽師だぞ、わかってるのか? 」

「……うん。」


 わかってるよ。

あの人は陰陽師で私はその式神だ。

この身に染みてわかってる。


「どうするんだ? 」


 鋼ちゃんが不機嫌な声で聞いてくる。

なんでこんなに苛立ってるんだろ。


「……わかんない。」


 そんなにイライラされたってわかんないよ。

誰かが教えてくれるんなら、教えてほしい。

私だって自分をどうしていいかわかんないんだ。


 私の曖昧な答えに鋼ちゃんはムッツリと黙り込む。

しばらく、そのままでいたようだが、何かを決意した声で言った。


「俺と勝負しろ。」

「は? 」


 思わず口が悪くなってしまった。

いきなり何言ってるのさ、鋼ちゃん。


 でも――


「いいよ。勝負しよう。」


 そうだ。どうせ白目は作れていないし、飢えもなかなか収まりそうもない。

だったら、鋼ちゃんと戦って、すっきりするのもいいかもしれない。

ここは第二グラウンドのクラブ棟。

文化祭の行事も行われていないし、主会場から離れているため、人もほとんどいないだろう。


「行くよ。鋼ちゃん! 」


 言うや否や、手から鉤爪を伸ばし、鋼ちゃんへと切りかかる。

鋼ちゃんは後ろへ飛び退き、グラウンドの広い場所まで出ると、首をコキリと回した。


「女だからって手加減しねーぞ。」


 そういうと鋼ちゃんはグッと目に力を入れて、妖の姿に変化する。

四メートルぐらいの巨体に九つの尾。

そのオレンジの体毛はキラキラと太陽に輝き、琥珀色の目がギロリとこちらを睨んだ。


「さすが、鋼ちゃん。強そう! 私もなる! 」


 私も体を構築する。

友孝様に式神にされたあの夜の姿。

巨大な狼の姿だ。


 そこからはお互いに譲らず、牽制しあった。

鋼ちゃんが右脚で払ってくれば、右に避け、左脚で反撃する。

お互いに、何度か身をかする攻撃はあったが、どれも決定打にはならなかった。


 楽しい。


 私はこの戦いにウキウキと心が躍っていた。

そんな私に焦れた鋼ちゃんが、その目のあたりまで裂けている口を開き、私に噛みつこうとする。

私はそんな鋼ちゃんを避けることはせず、その口に私の右脚を突っ込んだ。

鋼ちゃんは躊躇なくその右脚を牙で砕く。


 だけど、甘い。


 私はすぐにその右脚を構築しなおして、鋼ちゃんの牙をその肉に取り込んだ。

そして、一気に引き抜く。

ビチッという嫌な音が響いたかと思うと、鋼ちゃんの口が赤黒く染まって行った。


 私の右脚に鋼ちゃんの右上の牙。


 その牙が刺さったまま、痛みにうめいていた鋼ちゃんのその九つの尾のうちの一つを咥え、思いっきり放り投げた。

盛大に土煙をあげながら、鋼ちゃんの体が横たわる。

そして、鋼ちゃんが体勢を立て直さないうちにその体にのしかかり、首筋に噛みついた。


「私の勝ちだねー。」


 ギュッと噛むと、口の中に鋼ちゃんの味が広がる。


 おいしい。


 そのまま噛み千切りたい衝動を抑えながら、ゆっくりと口を離す。

ついでに右手に刺さった牙を抜くために、右脚を構築しなおした。

そして悪役の姿へと戻る。


「鋼ちゃん、ちょっとそのままでいてね、傷を治すから。」


 未だ口と首から血を流す鋼ちゃんの元へ行き、傷口へそっと息を吹きかける。

すると、傷は塞がり、抜けた牙も新たに生えた。

鋼ちゃんはそれを確認すると、ゆっくりと人間の姿に戻った。


「……すごいな。」

「まあね。私って強いからねー。」


 ふふんと笑う。


「そういえば鋼ちゃん、なんで勝負することになったの? 」


 私は楽しかったし、鋼ちゃんをちょっと味わえてうれしかったけど、鋼ちゃんはフラストレーションが溜まっただけだろう。


「どちらが強いか、知りたかったんだよ。」

「ふーん? 」


 なんだかよくわからないけれど、鋼ちゃんも考える物があったのだろう。


「あ、そうだ、鋼ちゃん、これに息を吹きかけてよ。」

「これは?」

「鋼ちゃんの牙。」


 私は掌に乗っている白い塊を鋼ちゃんに見せた。

それは先ほど、私が折り取ったもので、私が人間になるのと同時にこの掌サイズになったのだ。


「こんなん、どうするんだよ。」 

「戦利品? 鋼ちゃんに勝った証拠に残しとこうかなと思って。」

「……悪趣味だな。」


 鋼ちゃんはすごく嫌な顔をしたが、フッと息を吹きかけてくれた。

これで、鋼ちゃんの妖気がこの牙に入ったことだろう。


「とんだ文化祭だったねー。」

「……まったくだ。」


 鋼ちゃんは疲れたように深いため息をついた。




 文化祭が終わってから、鋼ちゃんは私によそよそしくなった。

代わりに唯ちゃんと急接近しており、私は二人の仲を裂くこともできず、ぼんやりとする日が多くなった。


 いや、私は鋼ちゃんに好きになってもらおうと努力したと思う。

でも、文化祭のあの日に終わってしまったんだ。


 まあ、それもそうだろう。

私が鋼ちゃんより強いと証明してしまったのだから。

やっぱり妖だって自分より強い女はいやだ、とそういう事なのだろう。


 そんなわけで友孝様に言われていた、『私に目を向けさせ、妖雲の巫女と通じ合わないようにする』という作戦は諦めた。

だって鋼ちゃんはどう見ても唯ちゃん一筋だったから。


 そんな唯ちゃんだけど、私が見たところ、鋼ちゃんルートと友孝様ルートの二つを辿っているように見える。

文化祭の材木倒壊事件は友孝様ルートのイベントだったようだ。

友孝様とは接触していないので、本気なのか、ただ妖と通じ合わないようにするために唯ちゃんを落としてるのかはわからない。

私としては本気だったらおもしろいと思う。

あの友孝様が唯ちゃんにメロメロだったら笑える。

指差して笑ってやる。


 今日はバレンタインデー。

ついに唯ちゃんが相手を決める日だ。

和風乙女ゲームのくせになんで最終日がバレンタインデーなのか、甚だ疑問だが、今日、唯ちゃんが意中の相手に告白して、何かしらのエンディングを迎える事になる。


 バレンタインデーの夜。

誰もいない空き教室。


 唯ちゃんはどっちを選ぶのだろう。


 友孝様だったらいい。

そうすれば、私は何もせず、唯ちゃんを祝ってあげられる。


でも、鋼ちゃんを選んだら……。


 私はその先の事を考えて、はぁと息を吐いた。

グラウンドに一人たたずんでいると、否が応にも寒さに身が震える。


 空には銀色の月がかかっている。


 それを見上げて、もう一度息を吐こうとしたところで、ガラスの割れる音がした。

そして、聞こえた声は――


「鋼介君!! 」


 私が聞きたくなかった名前を叫ぶ唯ちゃんの声だった。


「あーあ。友孝様振られちゃった。」


 最悪の展開だけど、それを思うと少し笑えた。


 グラウンドに現れたのは巨大な狐。

オレンジの毛並に琥珀色の瞳。

一度見た事のあるそれが、今は倍ほどの大きさになっており、その瞳に正気はなかった。


「よし。がんばろ。」


 一人決心して、巨大な狼の姿を構築する。

そして、その暴れ狂う狐へと右脚を振り下ろした。


 バカじゃないの、鋼ちゃん。

妖雲の巫女の力で強くなったって、そんなのただの災厄だよ。


 一度戦った時と同じように鋼ちゃんと戦う。

もちろん、一度目のように簡単にはいかない。

けれど、私と鋼ちゃんでは元々戦っている土俵が違うんだ。


 鋼ちゃんは実体がある。

私には実体がない。


 だから、時が経てば経つだけ、私が有利になっていく。

私は即座に傷を癒し、再構築することができるが、鋼ちゃんはどんどん傷が増えていった。


 バレンタインデーの告白の後。

唯ちゃんと鋼ちゃんはキスをしたのだと思う。

妖にとって唯ちゃんは毒だ。

触れれば触れるほど力が流れ込み、そのあまりの力に自我が崩壊してしまう。

鋼ちゃんだって知ってたはずなのに。

それでも、強い力を求めてしまったんだ。


『妖雲の巫女を妖に奪わせるわけにはいかない。』


 友孝様はきっとどこかで見てる。

私がやりとげるかどうか。


『滅して構わないよ。』


 はい。

わかってます。


「鋼ちゃん、そろそろ終わりだね。」


 私の左脚から繰り出した攻撃が、鋼ちゃんの右脚に当たった。

多分、折れたのだろう。

鋼ちゃんはその脚に体重を乗せないようにしながらゆっくりと後ずさっている。


 私は鋼ちゃんとの距離を一気に詰めると、その右脚を咥えた。

そして、その勢いのまま突進し、鋼ちゃんの上にのしかかる。


 首元ががらあきだ。


 脚から口を離すと、その首にガブリと噛みついた。

口の中にまた、鋼ちゃんの味が広がる。


「ばいばい。」


 そっと喉の奥で呟くと、そのままギリギリと力を入れた。

何度か咥え直し、奥へ奥へと進める。


「鋼介君……っ!!」


 どこかで唯ちゃんの悲鳴が聞こえたけど、私は止まらずに、鋼ちゃんの首を噛み千切った。

鋼ちゃんの体が地面に溶けていくのを見つめながら、私は体の熱さに咆哮をあげる。


 熱い。

熱い。


 鋼ちゃんの力と妖雲の巫女の力が同時に入って来る。


 鋼ちゃんって本当にバカだ。


 私だってこんなの耐えられないよ。 


 そう思った所で、意識が途絶えた。




 私が意識を失っている間。

自我を失っている時に何があったのかはわからない。

だけど、きっと、妖雲の巫女である唯ちゃんがなんとかしてくれたんだろう。


「チャコ……! チャコ……! 」


 どこか遠くでしていた声がようやく耳元で聞こえた。


「唯ちゃん……。」


 小さな声が出た。

唯ちゃんがその愛くるしい瞳からポタポタと涙を流している。


「唯ちゃん、コレ……。」


 ポケットに入っていた物を渡そうと手を動かす。

だけど、思ったよりも手が器用に動かず、不思議に思い、チラリと自分の姿を見た。


 ああ。

妖になった最初の姿になってるのか。


 私は小さい狼になっていた。


「唯ちゃん、その辺に掌サイズの白い物落ちてない? 」


 うまく体が動かせないので、唯ちゃんに探してもらう、少しすると唯ちゃんが急いで戻ってきた。


「これ!? 」

「うん、それ……。」


 唯ちゃんがゆっくりと私を抱き起してくれる。

温かくて気持ちいい。


「それ、鋼ちゃんの牙……依代だから。妖気がちょびっと残ってるはず。」

「鋼介君の!? 」

「うん……ちょっとだけでもあれば、唯ちゃんな、……らなんとかできると思う。」


 私が自我をなくした時。

唯ちゃんなら、私をすぐに消すことができた。

でも、唯ちゃんはその力で私の自我を覆っていた力だけを消し去ってくれたのだ。

私に残されている力はほとんどないけれど、こうして、少しだけ話しをすることができる。


「唯ちゃん、やったね。……トゥルーエンドだよ。」


 攻略対象者との好感度がマックスで、悪役である友永茶子との友好度がマックスだった場合に訪れるエンディング。

妖である九尾鋼介が暴走し、友永茶子に倒され、それを食った友永茶子も暴走してしまう。

約束を交わしたばかりの九尾鋼介を殺されたにも関わらず、友永茶子を許し、救おうとその力を使った時にだけ起こるエンディングだ。


 消えゆく友永茶子に九尾鋼介を復活させる方法を聞くことができる。


 九尾鋼介は一度力を失うが、依代である牙があれば『妖雲の巫女』の力で元の姿に戻れるのだ。

友永茶子を救う事と九尾鋼介を復活させる事で『妖雲の巫女』の力はほとんど失われ、ただの人になる。

そうすれば、九尾鋼介とヒロインの間を裂く物は何もなくなり、二人は結ばれるのだ。


 これが、私が唯一攻略した九尾鋼介のトゥルーエンド。


「あ、唯ちゃん……わたしは、依代とか、ない……からね。」


 復活しないからね。

ちゃんと鋼ちゃんを復活させてよ。


 唯ちゃんが何かを言っているけど、もうあまり聞こえない。


 ああ……。

せめて、友孝様を一発殴りたかったな……。


 私を悪役に引っ張り込んで、めでたく唯ちゃんの妖雲の巫女の力を失わせて。

なにもかもあの人の思い通りだ。


 ムカツクな……。


 意識が薄くなっていく。


 これで私の役目は終わり。

ゲームじゃわからなかったけど、茶子さんも大変だったんだな。



 妖に生まれ変わりとかあるのかなー……。



 もし生まれ変われるのなら、



 もう悪役はやりたくないなー。

続きは『和風乙女ゲーでヒロインやってます』にて。

(http://ncode.syosetu.com/n8719cq/)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >チャコの隣にいるのは……私がいい キマシ……違うか [一言] いよいよクライマックスでしょうか? 楽しみに待ってます
[良い点] とても楽しく拝読させて頂きました‼ じ~ちゃんが‼ じ~ちゃんが~(´;ω;`) チャコが意識無くした後に、無意識でもじ~ちゃんとこに帰れたら良いなぁ… 自分がもし死ぬなら、絶対に思い入…
[一言] 賀茂友孝、どういうキャラクターか分かんないから絶対じゃないけど、同情できない、ちょっと悪役主人公に救い無さすぎて可愛いそう、でも彼の視点や主人公に視点も見てみたいです。。。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ