くだもの王国の女王様
名前から浮かんだネタ。
何もかもがイヤになった男は、異世界への扉を開けた。すると、ピンクがかった金髪のゴージャスな美少女が、ゴージャスな大広間のゴージャスな椅子に座っているところに出た。
「また異世界からの旅人か」
「す、すいません」
エラそうな少女だったので、つい謝ってしまった。
「全くじゃ。そのほうの世界では異世界旅行が流行っておるようじゃが、来られる方は大迷惑じゃ」
「・・・すいません」
「流行か何だか知らぬが、各地に異世界人が出没しすぎる上、マナーが激悪で各地から苦情がきておる。異世界人どもを我輩の執務室に転送するようにフルーツポンチに指示を出したほどじゃぞ」
「すいません―――フルーツポンチ?」
果物が沢山入ったあのデザートのことだろうか?
「フルーツポンチは、くだもの王国一の魔法使いで、我輩の宰相じゃ」
くだもの王国の、フルーツポンチ宰相。
どうやら随分かわいらしい名前を持つ国に来たようだ。
「・・・・・・その方、名を申せ」
「ジュ、ジュリアンです」
「その名に意味はあるのか?」
「・・・・・・・『光り輝く者』です」
「ほう、素晴らしい呪じゃ」
本人にしてみれば、名前負けで、全然素晴らしくない
「にしては、全然輝いておらんが、その方の世界では、名に呪はないのか?」
「聞いたことがありません」
「それは二重に素晴らしい。よし、その方を我輩の夫と定めよう」
「・・・・・・え?」
「フルーツポンチにこの転送魔方陣を作らせる代償に、早急に結婚するように言われたのじゃ。
相手が居なかったらフルーツポンチと結婚することになってしまう。そんなのはゴメンじゃ」
「ひどい言いぐさでございますね、陛下。ですが、それがイイ。ソフトな言葉攻めもいいですが、もっと私を罵ってください!」
いつの間にか、虹色というとんでもない髪の色の、ものすごい美形が部屋に入ってきていた。
美少女の話ぶりからするに、この美形がフルーツポンチ宰相なのだろう。
「フルーツポンチという呪持ちの上、変態とは救いようがないの」
確かにキテレツな名前だが、呪?
「陛下。このウスラトンカチは我らの世界のことを良く知らぬようでございますよ。
まあ、それだからこそ、危険度も解らぬ異世界にホイホイ来るんでしょうけどねぇ」
「ジュリアンよ、フルーツポンチは我輩にはドMじゃが、その他にはドSじゃ」
そして美少女は世界の説明をしてくれた。
名前には出産の呪があるらしい。
フルーツポンチ = 色々なくだものが入ったデザート = 色々な腹に沢山子供を産ませる = 浮気性もしくは一夫多妻
「我輩はオンリーワンに輝きたいのじゃ」
「しかし、ご婚約者よりマシですよ」
「グレープ王子か・・・」
グレープ = ひと房に果実がいっぱい = 沢山子供を産まないといけない
「大体、陛下がじゃんけんが弱いからこうなるのでございますよ。ご自身の名前が有利になれば、2人で済みますものを・・・実はドMですか? 私は陛下のお望みの性癖にいつでも染まりますよ?」
「我輩は生まれながらのドSじゃ!!」
それもイヤだな、とジュリアンは思った。
「陛下のお名前はチェリー様と申します。要するにオコサマは双子、という呪が掛かっております」
呪、というかまあ妥当な人数ではないだろうか?
「男女は初対面のときにじゃんけんをするのが、この世界の慣わしです。で、勝ったほうの呪が有効になります。
チェリー様は、生まれてこの方、じゃんけんに勝ったことがございません」
「ぬおぉ~。この世界の男共は他にもマスカットやらコーンやらオレンジやら・・・!」
「オレンジは大丈夫なのではありませんか?」
「馬鹿者! オレンジ伯爵の子は少なくとも8つ子の呪じゃぞ!」
我輩は犬ではない! そんなに一気に産めるか! ヤツとの結婚=産褥での死じゃ! とチェリーは叫んだ。
「じゃが、その方の子なら生まれたとて金ぴかに光っている程度じゃろう。よって、妥協する」
「よしたほうが宜しいですよ、陛下。この男、ヘタレです」
「我輩がドSじゃから、ヘタレのほうが釣り合いが取れるじゃろう」
「・・・・・あの、申し訳ないのですが結婚は無理です」
男はおずおずと言った。
「なんじゃと? まさかヘタレのくせに妻帯者か?」
「いえ、独身です」
「ならば、問題はなかろう」
「・・・・・・実は、私は王なのです」
部下を纏められず、国が次第に荒れていく様に耐えられず、異世界に逃げてきたのだ。と、説明するとチェリーは「ほんに、ヘタレじゃの」とあざ笑った。
「安心するがよい。我輩はとんでもなく有能じゃ。異世界の国の一つや二つ、復興させることなど、この国を治めつつ片手間で行える」
くだもの王国の女王業は気ままなのだろうか?と考えていると、フルーツポンチが軽蔑したような口調で言った。
「国が荒廃して逃げ出す王のほうが気ままでしょう。・・・こんなウスラトンカチに治められているよりチェリー様が君臨したほうが、これの国民にとっても幸せでございましょう」
「私の心を読んでっ!?」
「当然であろう。フルーツポンチはくだもの王国一の魔法使いぞ。読心術くらいお手の物じゃ」
「私が心を読めぬのはチェリー様くらいでございます」
「フン、その方に読ませるほど気安くない」
チェリーはすっくと立ち上がった。
「フルーツポンチよ! すぐに祝言の支度をせい! 終わり次第、ささっと夫の国を立て直してこようぞ」
「かしこまりました」
こうして、ヘタレ国王は異世界で有能な妻を迎え、彼の国は見事復興を果たしたのでした。
オレンジは皮むいたあとの房でカウントしています。少なくとも8房はあると思う。
気が向いたら、ヘタレ夫の国の話を書くかも。