猫。
誰もいない公園で猫をみつけた。
不吉な程に真っ黒な猫だが、片耳だけが白い。
「おー、可愛い猫さんだー」
猫とは逆に、髪から服から、何もかも真っ白な少女が猫に駆け寄って行く。
彼女は僕のクライアント、黒崎月乃。
自称オカルト専門の探偵である(ただのオカルトオタクである)。
…が、僕は別に探偵助手で雇われたのではない。まあ、その話はおいおい。
「あっ」
彼女が伸ばした手をするりと避け、猫は逃げていく。近くにあるよくわからないオブジェを、ポンポンと身軽に登って行ってしまった。
「…むむ」
「嫌われましたね」
「うるさい」
むくれながらも、未練がましい目で彼女は黒猫を見つめる。
見つめられている猫はそんなのお構いなしにツンとそっぽを向く。
「いじわる…」
月乃は肩を落とし、コンビニで煮干しでも買ってこようか、と呟く。
と。
ぱく、ぱく。
空気を噛む音がした。
何の事はない、猫が何もないところで口をパクパクしているだけだ。
しかし、どうやら隣で見ていた月乃には、別の光景に見えてたようだ。
にやにやと、はたからみたらただの変態のように、突然笑い出す。
「ちょっとそこのベンチで語ろうか」
「…」
返事も待たずにさっさとかけていって座ってしまったので、渋々ついていって隣に腰掛ける。オカルトトークの時の月乃は性格が変わる。口調は特に顕著だ。
「君は猫が何を食べていると思う?」
質問が唐突すぎる。何が聞きたいのか。この娘は、要点しかしゃべらなすぎてたまにわからない。
「彼らはよく、見えない誰かを見ているでしょう?その延長。彼らは、そこに何もないのに、何かを食べている」
いや、それをオカルトとこじつけるのはどうなのだろうか。
っていうか、猫が何かを見ていることをさも常識かのように。あれは壁の向こうのねずみやら虫やらの気配云々、なんていったらすねそうなので、黙っておく。
「つまりなんですか、お化け煮干しでも食べてるっていうんです?」
「半分、いや八割正解」
マジか。彼女にはお化け煮干しが見えているのか。
「煮干しのお化けじゃなくて、お化けの煮干し、ね」
…?
「魂はエネルギーだ。死後に解き放たれた21gの質量は、吸収や合体を繰り返して増減しながら、いつか燃え尽きる」
燃え尽きたら、おしまい。それが彼女の持論。何度か聞いたような気がする。
「そのエネルギーがつきたら、そのカスはどうなると思う?」
なんとなく、わかったような。
「死にかけの干物みたいになった魂は、ああやって食べられるのよ」
猫に限らず、そういえば実家の犬もやってたような気がする。
しかし、なによりも、もっと身近に、それをやる生き物がいるじゃないか。
「そうね、あなたも、よく居眠りしながら何か食べてるわよ」
鳥肌が立った。




