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1-2 昼は花街、夜は艶街

-これは一体なんの冗談だ?-


少女の手によって籠絡された岡島の理性、もとい意識は目の前で繰り広げられている少女の"悪戯"に抗うことすら出来ずにいた。

少女の細い指先からもたらされる甘い刺激に、ただ身を任せている。

大の大人なのだから、もちろん簡単に少女を押しのけることは出来るのだが、少女の魔性が岡島にそうはさせなかった。


そしてそのまま岡島は、一切の抵抗が出来ず、せり上がってくる快感そのままに放出してしまった。


それを零しながらも手のひらで受け止めて、少女はにっこり岡島にむかって微笑んだ。

「交渉成立ですね。」


快感の余韻に浸る岡島は、投げやり気味に頷くしかなかった。



次の日。



岡島は人の居ない待機室で一人頭を抱えていた。

押し切られたという形にはなったが、NCSCの許可が無いおそらく未成年の少女の入店を認めてしまった自分の不甲斐無さを、やるせなく思っていた。

あの後、少女は何事もなかったかのように身につけていたワンピースを手早く着て、「では、また明日。」と言い残すとスタスタと帰って行ってしまった。


-口約束なんだから、反故にだって出来る。-


そういう考えも浮かんだのだが、彼女の執念というか交渉に対する姿勢を受けて、岡島はそれだけでは済まされないと本能的にわかっていた。


「はぁ…。どうすりゃ良いんだ。」


岡島が深いため息をつき、答えの見えない問いと自らの犯してしまった醜態に追い詰められていると、待機室のドアが開いた。


「おはようございまぁーす。」

間延びした挨拶とともに、待機室に入ってきたのは、「秋桜」の早番の人気嬢ゆりあだった。


「おはよう…ゆりあちゃん、ノックね。」

「あ、ごめんなさぁい。」と苦笑いをしながら頭をかくゆりあに、視線を向けずに挨拶を返す岡島。

その様子から、彼女にとってこういう細かいとこが抜けているのはいつもの事なのだろうことが窺える。


「元気無いじゃないですか!なにかあったんですか?」

ボーイにお茶を頼みながら、ゆりあは心配しているのかどうか疑わしい、にへらぁっとした顔でこちらを窺ってくる。


岡島はゆりあを振り返ると、少し考え、はぁっとひとつため息をついた。

その様子をキョトンとした顔で見つめるゆりあ。

再び岡島が目を合わせるとゆりあは小首をかしげて微笑んでくる。

小動物を思わせる小柄で可愛らしい外見をもつ彼女のその仕草で、岡島はなんだかどうでも良いかという気になった。(実際良くないのもわかっているのだが)

それを知ってか知らずか、うんうん、と頷くゆりあに知らず知らずのうちに岡島も微笑んでしまっていた。


その後は、秋桜の女の子たちが入れ替わり立ち替わり待機室へやってきたが、岡島が立ち直った(?)為か女の子に心配されるというような事はなかった。


ボーイ達が慌ただしく部屋の片付けや客の送迎をする中、岡島も店の営業時間が進むと共に忙しさに考える余裕すらなくなっていった。





『昼は花街、夜は艶街』

そう称されるNC1の街並みは、昼と夜ではまるで違う。

昼にはドレスやコスプレに身を包んだ女の子達が客をもてなす何の変哲もないソープ街。


しかし、日が落ち夜になると街の街灯が華やかに街を照らし、女の子達は華やかな着物に身を包み、ガラスのショーウィンドウの中に腰掛ける。

街を通る客はそのショーウィンドウを見て、入る店、指名する女の子を決めるのだ。

街並みやシステム、夜になると姿を変えるそれらは、現代版吉原遊廓といったところだ。


借金や生活の為に自らの人生を割いて働くのは、決して楽なことではない。

もちろん、楽して騙して金を稼ぐ、と批難する昔然とした考えを持つ者だって居るだろう。


岡島自身もここに配属されるまでは、そういった批難の目で見ていた。


だがしかし、ここNC1に生きる者になってしかわからない苦悩や苦渋を岡島はよく知っていた。

それに反して、彼女達が辛い時こそよく笑うということも知っていた。

辛さや嫌な事を全て自分という殻に押し込んで、花街艶街に生きる女性を数多く見てきたからこそ、岡島は彼女達を愛おしく思えた。


沢山の欲望と苦悩をないまぜにして、今日も吉原の夜は深く帳を降ろしていく。

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